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クリニック向けコラム
作成日:2026.04.06
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

開業医の相続税はいくら?資産評価を税理士が解説

9分で読めます
開業医の相続税はいくら?資産評価を税理士が解説

開業医の相続税は「自宅資産」と「クリニック資産」を合算して考えます

開業医の相続税はいくらか、という問いに対する結論は、自宅の財産だけでなく、クリニックで使っている事業用資産も含めて評価し、相続税の基礎控除を超えるかで決まるということです。勤務医より相続税が複雑になりやすいのは、預金や自宅不動産に加えて、診療所の土地・建物、医療機器、未収金、薬品在庫など、評価対象が多いからです。

特に院長個人が事業主であるケースでは、法人の株価評価ではなく、個々の資産を相続税評価額で積み上げる必要があります。誰にとって何が問題かといえば、開業医のご家族にとっては、死亡直後に事業継続の判断と並行して相続税の申告期限である10か月以内に財産を洗い出さなければならない点が大きな負担です。

当法人でも、クリニックの相続相談では「土地はある程度わかるが、医療機器や売掛金をどう見るのか分からない」という声が多くあります。まずは総額の出し方を押さえ、その後に資産ごとの評価方法を確認するのが実務的です。

開業医の相続税計算とは

相続税は、遺産総額にそのまま税率を掛けるわけではありません。国税庁の考え方では、まず相続財産の総額を出し、そこから基礎控除を差し引き、法定相続分で按分して税率を当てはめます。

相続税の基礎控除

基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数です。たとえば配偶者と子2人なら、3,000万円+600万円×3人で4,800万円が基礎控除になります。この金額を超えなければ、原則として相続税の申告・納税は不要です。

税率は10%から55%の累進課税

課税遺産総額を法定相続分で分けたうえで、各人ごとに速算表を当てはめます。1,000万円以下は10%、6億円超は55%という累進税率です。したがって、開業医の相続税は「資産が多いから即高税率」ではなく、誰がいくら取得するかでも負担が変わります。

簡易イメージ

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項目例
法定相続人配偶者・子2人
基礎控除4,800万円
正味遺産額1億2,000万円
課税遺産総額7,200万円

この場合、7,200万円を法定相続分で分けて税率計算を行います。配偶者には税額軽減があり、実際に取得した正味遺産額が1億6,000万円または法定相続分相当額までなら、配偶者本人の相続税は原則としてかかりません。ただし、最終的な税額は遺産分割や他の特例適用で変わります。

ここがポイント
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。評価資料の収集に時間がかかるため、クリニックの相続では早めの着手が重要です。

クリニック相続評価の対象になる主な資産

個人開業のクリニックでは、院長名義の事業用資産がそのまま相続財産になることが多くあります。ここで見落としが起きやすいので、資産区分ごとに整理しておく必要があります。

土地・建物

診療所の土地は、一般に路線価方式または倍率方式で評価します。自院の敷地として使っていた土地は、一定要件を満たせば小規模宅地等の特例により、特定事業用宅地等として400平方メートルまで80%減額できる可能性があります。クリニックの相続税を大きく左右しやすいのはこの部分です。

建物は固定資産税評価額をベースに相続税評価を行うのが基本です。自宅兼診療所の場合は、居住部分と事業部分を分けて整理しておくと、その後の特例判定がしやすくなります。

医療機器・備品

レントゲン、超音波診断装置、内視鏡、電子カルテ用サーバー、待合室設備などは、一般動産や減価償却資産として評価対象になります。相続税の実務では、帳簿価額をそのまま使うのではなく、時価や見積価額、同種同等品の取引事例などを踏まえて評価する考え方が基本です。

古い機器は帳簿上の残高があっても実勢価値が低いことがありますし、逆に高額機器は中古流通価格の確認が必要な場合もあります。現場では、固定資産台帳だけでなく、購入時期、型番、稼働状況、保守契約の有無まで確認しておくと精度が上がります。

売掛金・未収金・預貯金

社会保険診療報酬の未収入金、自費診療の未収金、普通預金・定期預金も当然に相続財産です。診療所では、死亡時点ではまだ入金されていないレセプト請求分があるため、月末締め資料やレセコンデータの確認が欠かせません。

預貯金は死亡日時点の残高、売掛金や貸付金債権は回収可能性も踏まえた評価が問題になります。名義預金や家族口座への資金移動がある場合は、別途実質帰属の検討も必要です。

薬品・消耗品・その他

院内在庫の薬品、衛生材料、診療材料などは棚卸資産として対象になります。金額が小さくても、継続的に在庫を持つ診療科では無視できません。また、敷金、保証金、リース契約の精算見込み、保険解約返戻金なども見落としやすい論点です。

医院相続税計算で迷いやすい評価方法の実務

「医院の相続税計算」は、財産の種類ごとに評価方法が違うため、総額だけ先に見ても誤差が出やすい分野です。特に迷いやすいのは、土地の特例、事業資産の時価、事業継続を前提にするかどうかの3点です。

小規模宅地等の特例を使えるか

開業医の相続では、土地評価が最重要です。診療所敷地が特定事業用宅地等に該当すれば、限度面積400平方メートルまで80%減額できるため、相続税額が大きく変わります。ただし、相続人が事業を引き継ぐか、保有継続要件を満たすかなど、要件確認が必要です。

のれんや営業価値の扱い

個人クリニックでは、「患者がついているから高く売れるはずだ」という相談を受けることがあります。しかし、相続税評価はM&Aの売却価格と同じではありません。帳簿にない期待収益を単純に上乗せするのではなく、権利性の有無や具体的な評価根拠を検討する必要があります。ここは売却交渉の価格感覚と相続税評価がズレやすい部分です。

借入金や未払金も忘れない

相続税は資産だけでなく、債務を差し引いた正味遺産額で考えます。医療機器ローン、運転資金借入、買掛金、未払費用などがあれば、相続財産から控除できる場合があります。資産評価ばかりに目が向くと、負債の整理が漏れて税額を多く見積もってしまいます。

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クリニック資産評価を進める手順

評価作業は、感覚ではなく資料ベースで進めることが重要です。相続発生後は、次の流れで整理すると実務が安定します。

Step 1: 財産一覧を作る

預金、不動産、医療機器、未収金、在庫、保険、借入金を一覧化します。個人資産とクリニック事業資産を分けて並べるのがコツです。

Step 2: 評価資料を集める

固定資産税課税明細、路線価、固定資産台帳、レセプト未収一覧、預金残高証明、借入返済予定表などを回収します。

Step 3: 特例適用の可否を判定する

小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減など、税額に大きく影響する特例を先に確認します。特例は後から修正できても、期限や添付書類の管理が重要です。

Step 4: 申告スケジュールを逆算する

申告期限は10か月です。遺産分割協議、事業継続の判断、金融機関対応を並行するため、税務だけを後回しにしないことが大切です。

ここがポイント
個人版事業承継税制は個人事業の承継で重要な制度ですが、適用可否には事前計画や青色申告など複数の要件があります。制度の利用余地があるかは、相続発生前から確認しておくべき論点です。

よくある質問

Q: 開業医の相続税は必ず高くなりますか? ▼
必ず高くなるわけではありません。基礎控除以下なら申告不要ですし、診療所敷地に小規模宅地等の特例が使えると課税価格が大きく下がることがあります。反対に、都心の土地や高額医療機器があると税額が重くなりやすいです。
Q: 医療機器は帳簿価額でそのまま評価できますか? ▼
そのままとは限りません。相続税評価では、一般動産や減価償却資産として時価や見積価額、同種同等品の取引価格などを基に検討します。固定資産台帳は出発点ですが、最終評価額とは一致しないことがあります。
Q: 配偶者が全部相続すれば相続税はゼロですか? ▼
配偶者の税額軽減により、配偶者が取得した正味遺産額が1億6,000万円または法定相続分相当額までなら、配偶者本人の相続税は原則ゼロです。ただし、二次相続まで含めた全体設計をしないと、将来の税負担が増えることがあります。

まとめ

  • 開業医の相続税は、個人資産とクリニック事業資産を合算して判断する
  • 基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算する
  • クリニックの土地は小規模宅地等の特例で大きく減額できる可能性がある
  • 医療機器、売掛金、在庫、預金、借入金まで含めて正味遺産額を把握することが重要
  • 個別の評価や特例判定で税額が大きく変わるため、早い段階で税理士に確認するのが安全

参照ソース

  • 国税庁「No.4152 相続税の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
  • 国税庁「No.4155 相続税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
  • 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
  • 国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm
  • 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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