
執筆者:辻 勝
会長税理士
個別指導のカルテ記載ポイント|税理士が解説

個別指導のカルテ記載とは何か
個別指導のカルテ記載で重要なのは、保険請求の根拠が診療録で説明できる状態を日常的に維持することです。院長や事務長にとっての問題は、診療行為自体に大きな問題がなくても、記載不足だけで「算定根拠が不明」と判断されやすい点にあります。
個別指導では、単に「カルテがあるか」ではなく、診察内容、傷病名、治療計画、算定要件に対応した記載がそろっているかを見られます。特に診療録は、請求と整合しているか、医師が診療の都度記載しているか、後から見て第三者が読めるかが重要です。
当法人でも、個別指導の相談で多いのは「診療自体はしているのに、カルテの書き方が足りない」というケースです。個別指導対策は通知が届いてから始めるものではなく、平時の記載ルール整備が中心と考えるべきでしょう。
個別指導で指摘されやすいカルテ記載不備
診察した事実が読み取れない記載
もっとも典型的なのは、診察の事実や内容が十分に残っていないケースです。たとえば「do」「いつもどおり」「投薬のみ」といった簡略記載だけでは、当日の症状、所見、判断、処方理由が読み取れません。
個別指導では、診療録に医師による日々の診療内容の記載が乏しいこと、医師の診察に関する記載がないまま投薬等が行われていることが、繰り返し指摘事項として示されています。診察の経過が見えないカルテは、無診察治療と誤解される余地を生みます。
傷病名の付け方が不適切
傷病名の問題も非常に多い論点です。医学的根拠が乏しい傷病名、疑い病名なのに確定病名として記載している例、左右・部位・急性慢性の区別がない例、転帰が未記載の例は、個別指導で見られやすいポイントです。
レセプト上の請求内容に合わせるためだけの、いわゆるレセプト病名は避ける必要があります。診療録の傷病名とレセプトの傷病名が一致しているかは、院内で定期的に確認したい項目です。
算定要件の記載が足りない
外来管理加算、各種医学管理、在宅医療、指導管理料などは、算定要件そのものに「診療録への記載」が含まれるものが少なくありません。この場合、算定した事実だけでは足りず、説明内容、管理内容、指示事項、患者の状態などの要点まで残す必要があります。
つまり、カルテ記載不備は「記録の問題」にとどまらず、返還や自主点検につながる請求根拠の問題でもあります。
診療録 個別指導で押さえるべき記載項目
最低限そろえるべき基本項目
診療録には、少なくとも次の流れが分かるように記載しておくのが安全です。
- 来院時の主訴
- 症状の経過
- 診察所見
- 判断した傷病名または疑い病名
- 実施した検査・処置・投薬
- 今後の方針、治療計画、指導内容
この6点がつながっていると、第三者が見ても「なぜその診療行為を行い、なぜその請求になるのか」を説明しやすくなります。特に慢性疾患では、前回からの変化が乏しくても、安定していること自体が医学的評価ですので、漫然投薬に見えない記載が必要です。
傷病名欄の管理ポイント
傷病名は単に並べるのではなく、診療の実態に合わせて更新する必要があります。開始日、終了日、転帰、主病の整理、疑い病名の見直しが不十分だと、カルテとレセプトがずれやすくなります。
算定と一体で書く意識
カルテは診療の記録であると同時に、保険請求の根拠資料でもあります。そのため、算定した項目に応じて必要な記載が漏れていないかを、医師と事務で共通認識にしておくことが重要です。
たとえば管理料を算定するなら「何を管理したか」、指導料を算定するなら「何を説明し、どう指導したか」、在宅医療なら「計画、指示、訪問時の要点」が分かるようにしておきます。
カルテ 書き方 指導対策としての日頃の運用
書き方の基準を院内で統一する
個別指導対策として有効なのは、名医の経験則ではなく、誰が書いても最低基準を満たす運用を作ることです。医師ごとに書き方が違いすぎると、記載の濃淡が大きくなり、指摘される患者とされない患者が混在します。
そこで、院内では「再診時は主訴・所見・評価・方針を一行ずつでも残す」「慢性疾患は前回からの変化と継続理由を書く」「管理料算定時は説明・指導内容の要点を入れる」といったルール化が有効です。
事務ができる事前チェック
事務職員は診断内容そのものを修正できませんが、記載漏れの発見には大きく関与できます。レセプト請求前に、算定項目とカルテ記載の対応を確認するチェック表を回すだけでも効果があります。
| 確認項目 | よくある不備 | 日常対策 |
|---|---|---|
| 診察記録 | 「投薬のみ」「do」で内容不明 | 主訴・所見・判断・方針を残す |
| 傷病名 | 疑い病名の長期放置、転帰漏れ | 月次で傷病名整理を実施 |
| 管理料等 | 算定要件の記載不足 | 算定項目別テンプレートを用意 |
| 電子カルテ | 印刷時に文字欠け・省略 | 定期的に紙出力を確認 |
コピー記載に頼りすぎない
電子カルテでは前回記載の複写が便利ですが、そのまま流用すると、当日の患者状態が反映されないまま請求だけが積み上がる原因になります。コピーを使う場合でも、当日の変化、所見、評価、処方理由を必ず追記しましょう。
個別指導に備えるカルテ記載のチェック手順
日常的な見直しは、次の順序で行うと実務に落とし込みやすくなります。
Step 1: 算定頻度の高い項目を絞る
まずは再診料、外来管理加算、特定疾患療養管理料、在宅系、生活習慣病管理料など、自院で件数の多い項目から確認対象を決めます。
Step 2: レセプトとカルテを突合する
算定した項目ごとに、カルテ上の記載があるかを見ます。請求できているかではなく、後から説明できるかで判定するのがポイントです。
Step 3: 傷病名を棚卸しする
開始日、転帰、主病、疑い病名、左右差、部位の記載を確認します。長期化した急性病名や、診療実態と合わない病名は整理が必要です。
Step 4: 医師ごとの差を見える化する
個人攻撃ではなく、院内ルール整備のために、記載量や漏れやすい項目を比較します。個別指導では「一部の医師だけの癖」がそのまま露出しやすいためです。
Step 5: 月1回の内部点検を継続する
通知が届いてから慌てて過去分を見直すより、毎月5件から10件でもランダム点検した方が実効性があります。
個別指導 カルテ記載で意識したい考え方
個別指導対策というと、通知後の資料集めをイメージされがちです。しかし実際には、普段のカルテが整っていれば準備の大半は終わっています。逆に、記載が薄いままでは、あとから説明文書を作っても限界があります。
重要なのは、カルテを「診療メモ」ではなく「医療行為と保険請求の説明資料」と捉えることです。税理士法人 辻総合会計としても、返還や自主点検の相談では、診療そのものより記録の整合性に課題があるケースを多く見ています。個別の事情や診療科特性により必要な記載は異なるため、最終的には自院の算定項目に応じて運用を調整する必要があります。
よくある質問
Q: 個別指導ではカルテのどこを一番見られますか?
Q: 電子カルテなら個別指導に強いですか?
Q: 疑い病名はずっと残しても問題ありませんか?
Q: 事務職員がカルテ記載を手伝ってもよいですか?
まとめ
- 個別指導のカルテ記載では、診察内容と請求根拠が第三者に説明できることが重要
- 指摘されやすいのは、診察記録の不足、傷病名の不整合、算定要件の記載漏れ
- 日頃の対策として、院内ルール、月次点検、算定項目別テンプレートが有効
- 電子カルテでも、複写記載や印刷時の見読性不足はリスクになる
- 個別の診療科や算定状況で必要な記載は異なるため、自院仕様の運用整備が必要
参照ソース
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 厚生労働省「保険医療機関及び保険医療養担当規則」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84035000&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省「保険診療確認事項リスト(医科)」: https://www.mhlw.go.jp/content/001563227.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
