
執筆者:辻 勝
会長税理士
個別指導で指摘されやすい算定ミス10選

個別指導でまず確認すべき結論
個別指導で指摘されやすい算定ミスは、算定要件そのものの誤りよりも、診療録・傷病名・説明記録・施設基準管理の不備として現れることが多いです。とくに院長と事務長にとっての問題は、「診療はしているのに、記録と請求が一致していない」ために返還や是正対応が必要になる点ではないでしょうか。
厚生労働省が公表している令和6年度の主な指摘事項でも、診療録記載、傷病名整理、外来管理加算、医学管理、在宅医療、検査、投薬、説明文書、掲示・届出など、日常業務の延長線上にある項目が多く並んでいます。当法人でも、個別指導対策のご相談では「特殊な加算」より先に、基本動作の見直しで改善するケースが少なくありません。
個別指導とは何か|クリニックが押さえるべき前提
個別指導は、保険診療と診療報酬請求がルールどおり行われているかを確認するための指導です。厚生労働省は、診療報酬請求等に関する情報提供があった場合、過去の指導で改善が見られない場合、集団的個別指導後も高点数傾向が続く場合などを対象に、個別面談方式で実施すると示しています。
また、指摘事項の公表資料には「個別の症例等について確認した結果として行った指摘」である旨の注記があります。つまり、単純に一覧を暗記するのではなく、自院の算定フローに落とし込んで予防することが重要です。
個別指導でよくある指摘事項|算定ミス10選
1. 診療録の記載不足
医師による日々の診療内容の記載がない日がある、又は内容が極めて乏しいケースです。個別指導では、診療行為の事実よりも「診療録で確認できるか」が問われます。記載の薄い日が続くと、他の加算や管理料の根拠も弱くなります。
2. 傷病名の転帰漏れ・整理不足
転帰の記載がない、長期の「疑い病名」が残っている、急性疾患名が長期間整理されていない、重複傷病名が放置されていると指摘されやすくなります。いわゆるレセプト病名と見られる状態は特に注意が必要です。
3. 外来管理加算の根拠不足
患者からの聴取事項や診察所見の要点が診療録にない、又は不十分なまま算定しているケースです。外来管理加算は日常的に算定されやすい一方、記録が薄いと返還対象になりやすい典型項目です。
4. 医学管理等の必要記載事項漏れ
治療計画、指導内容の要点、文書交付の事実など、管理料ごとの必要事項が診療録に残っていないケースです。特定薬剤治療管理料、難病外来指導管理料、診療情報提供料などは、書類を出しただけでは足りず、記録との対応が必要です。
5. 在宅医療の指示内容未記載
在宅自己注射、在宅酸素、CPAPなどの在宅療養指導管理料で、指示した根拠や指示事項、指導内容の要点が診療録に記載されていないケースです。在宅は継続算定が多いため、初回だけでなく毎回の記録の質が問われます。
6. 検査・画像診断の必要性や所見の不足
必要以上に回数の多い検査、段階を踏まない検査、結果が診療に反映されていない検査は指摘対象です。超音波検査で主な所見の記載がないケースも公表されています。検査をした事実だけでなく、結果をどう診療に結び付けたかまで残す必要があります。
7. 投薬・注射の適応外・記録不足
適応外投与、用法外投与、ビタミン剤投与の必要性が診療録やレセプトに具体的に記載されていないケースです。漫然投与に見える請求は、査定だけでなく個別指導でも確認されやすい論点です。
8. リハビリや精神科系での計画書・時間記録漏れ
リハビリ実施計画書の説明不足、3か月ごとの説明未実施、総合計画評価料の評価時期不適切、精神療法の所要時間未記載などが代表例です。算定要件が細かいため、様式・説明・時間の3点をセットで点検する必要があります。
9. 手術・輸血・説明文書の添付漏れ
手術内容や合併症、予後などの説明を文書で行っていない、又は交付文書を診療録に添付していないケースです。説明したつもりでも、証跡が残っていなければ算定根拠として弱くなります。
10. 掲示・届出・一部負担金対応の管理ミス
施設基準の掲示がない、内容が誤っている、保険医の異動など届出変更が遅れている、一部負担金の差額徴収・返金を適切にしていない、といった管理面の不備です。院内掲示や届出は事務部門の守備範囲と思われがちですが、個別指導では重要な確認項目です。
算定ミスを防ぐチェックリスト|個別指導前の事前確認
| 点検項目 | よくある不備 | 事前対応 |
|---|---|---|
| 診療録 | 所見・指導内容が薄い | 医師記載の最低項目を統一 |
| 傷病名 | 転帰漏れ、疑い病名放置 | 月次で病名整理を実施 |
| 加算・管理料 | 算定要件の記録不足 | 算定対象ごとのテンプレート化 |
| 文書交付 | 交付記録や添付漏れ | 控えの保存場所を固定 |
| 施設基準 | 掲示・届出の更新漏れ | 異動時の届出フロー整備 |
当法人では、個別指導対策として「レセプト点検」だけで終わらせず、診療録、様式、掲示、届出まで含めた横断チェックをお勧めしています。請求だけを見ても、指摘の半分は防げません。
個別指導チェックリストの作り方|実務で回る手順
Step 1: 指摘されやすい項目を自院の算定上位10項目に絞る
全項目を一度に整備すると現場が止まります。まずは外来管理加算、医学管理、在宅、検査、投薬など、自院で件数の多い項目から優先順位を付けます。
Step 2: 診療録テンプレートと事務確認欄を分ける
医師が書く所見・判断・指導内容と、事務が確認する文書添付・届出・掲示管理を分けると、責任範囲が明確になります。
Step 3: 月1回の自己点検を行う
5件から10件のサンプル抽出でも十分効果があります。返戻や査定のあった症例だけでなく、通常請求分も混ぜて確認するのが実務的です。
Step 4: 指摘が出たら再発防止策まで記録する
「今後注意します」で終わらせず、テンプレート修正、様式変更、朝礼共有など、仕組みに落とし込むことが大切です。
よくある質問
Q: 個別指導で指摘されると、必ず返還になりますか?
Q: 個別指導は高点数のクリニックだけが対象ですか?
Q: まず何から手を付ければよいですか?
まとめ
- 個別指導で多い指摘は、特殊な算定より診療録・傷病名・説明記録・届出管理に集中しやすい
- 外来管理加算、医学管理、在宅、検査、投薬は日常件数が多く、算定ミスが表面化しやすい
- レセプトだけでなく、診療録、文書控え、掲示、届出を一体で点検することが重要
- 自院の算定上位項目から月次チェックリストを作ると実務に乗せやすい
- 個別の症例や施設基準により判断は異なるため、最終判断は最新通知と専門家確認が必要
参照ソース
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 厚生労働省「令和6年度 特定共同指導・共同指導(医科)における主な指摘事項」: https://www.mhlw.go.jp/content/001519367.pdf
- 厚生労働省「保険診療の理解のために【医科】(令和7年度)」: https://www.mhlw.go.jp/content/001521412.pdf
- 厚生労働省「集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について」: https://www.mhlw.go.jp/content/001685603.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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