
執筆者:辻 勝
会長税理士
個別指導の自主返還はいくら?目安と計算方法|税理士解説

個別指導の自主返還はいくらになるのか
個別指導での自主返還額は、全国一律の定額ではありません。指摘された算定誤りの内容、件数、1件当たりの点数、自己点検で同様誤りが見つかった期間によって変わります。クリニックにとっての問題は、「返還があるかどうか」よりも、どの範囲まで遡って何件返すのかが読みにくい点ではないでしょうか。
厚生労働省の指導の取扱いでは、個別指導で不当な請求が確認された場合、まず自主点検が求められ、その結果、同様の誤りが見つかれば指摘分と合わせて自主返還を求める建て付けです。さらに、自主返還の期間は原則として指導月前の1年以上とされています。そのため、返還額は「当日の指摘数」ではなく、自主点検で広がった件数で大きく変わります。
当法人でも、通知直後に「数万円で済みますか」「100万円を超えますか」と聞かれることがありますが、実務ではレセプト1件の誤りより、同じ誤りが何か月分・何人分あるかが金額差を生みます。まずは返還額の仕組みを整理し、慌てずに見積もることが重要です。
個別指導の自主返還とは
自主返還とは何か
自主返還とは、個別指導で診療内容や診療報酬請求に不当な事項が確認されたときに、医療機関側が自主点検を行い、同様の誤りがあった分を保険者等へ返還する手続きです。単なる「当日指摘された数件の返金」ではなく、同種誤りの横展開確認を前提にしています。
つまり、個別指導で1件だけ査定的に誤りを指摘されたとしても、その算定ルールの理解不足が院内で継続していれば、過去分まで返還対象が広がります。ここを誤解すると、想定より大きな返還額になりやすいです。
集団的個別指導との違い
個別指導と似た言葉に集団的個別指導がありますが、厚労省通知では、経済上の措置としての自主返還の取扱いは個別指導に関するものとして整理されています。したがって、検索キーワードが「個別指導 自主返還」である場合、読者が気にしているのは通常、実地の個別指導後に返還が発生するケースです。
自主返還の対象になりやすい例
医科クリニックで多いのは、次のようなケースです。
- 算定要件を満たさないまま管理料等を継続算定していた
- カルテ記載や必要書類が不足していた
- 同日算定や算定間隔の要件を誤っていた
- 実施していない処置や指導料を請求していたと疑われる状態があった
- 施設基準や届出内容と実運用がずれていた
単発ミスより、毎月同じ運用で算定していたケースの方が返還額は大きくなります。
個別指導の返還金額の目安
返還金額はいくらが多いのか
結論からいうと、数万円で終わるケースもあれば、数十万円から100万円超になるケースもあります。金額差が大きいため、相場だけで判断するのは危険です。
参考として、厚生労働省が公表した令和6年度の指導・監査等の実施状況では、指導による返還分は約17億3千万円、個別指導は2,494件でした。この2つを単純に割ると1件当たり約69万円ですが、これはあくまで全国集計を機械的に割った参考値です。新規個別指導や案件ごとの差、返還確定年度のずれもあるため、各クリニックの目安としてそのまま使うことはできません。
金額差が出る要因
返還額は主に次の4要素で決まります。
| 要因 | 少額で済みやすいケース | 高額になりやすいケース |
|---|---|---|
| 誤りの内容 | 単発の算定漏れ・誤算定 | 管理料や加算の継続的誤算定 |
| 対象人数 | 数名程度 | 多数の患者に横断 |
| 対象期間 | 数か月 | 1年以上に拡大 |
| 証拠資料 | 早期に整理できる | カルテ・運用説明が不十分 |
たとえば、月1回算定していた管理料の算定要件を満たしていなかった場合、1人当たり数百点から数千点でも、患者数と月数が重なると返還額は膨らみます。一方、単月の入力誤りが数件であれば、返還額は比較的小さく収まることがあります。
自主返還の計算方法
自主返還 計算の基本式
自主返還の概算は、次の考え方で整理できます。
返還概算額 = 返還対象レセプトの点数合計 × 1点単価相当
ただし実務では、保険者別、公費併用、一部負担金過払いの有無などで整理が必要です。
厳密には、単純な「点数×10円」で終わるわけではありません。返還手続きは保険者別返還金額一覧表や返還内訳書で整理し、一部負担金の過払い分は被保険者等へ返還する扱いになります。したがって、院内での初期試算と、提出用書類の数字は一致させる必要があります。
個別指導 返還 いくらかを試算する流れ
Step 1: 指摘事項を論点ごとに分解する
当日の指摘を「管理料」「在宅」「検査」「処置」など論点別に整理します。ここで論点を混ぜると、後の自己点検が雑になります。
Step 2: 同種算定を抽出する
レセコンや電子カルテから、同じ算定コード・同じ運用の患者一覧を出します。対象患者数が返還額を左右します。
Step 3: 期間を設定する
原則として指導月前の1年以上が自主返還期間の目安です。実際には担当部門の指示に沿って整理します。
Step 4: 算定可否を再判定する
カルテ記載、同意書、実施記録、施設基準、算定間隔などを見直し、返還対象件数を確定させます。
Step 5: 金額を集計する
保険者別、公費併用別に返還額を集計します。患者への返還が必要な一部負担金過払いも切り分けます。
試算イメージ
たとえば、ある管理料について1回500点、対象患者が20人、返還対象月数が6か月だった場合の単純試算は次のとおりです。
- 500点 × 20人 × 6か月 = 60,000点
- 60,000点 × 10円 = 600,000円相当
もちろん実際には、全患者が毎月対象とは限りませんし、一部は要件充足が確認できて返還不要になることもあります。反対に、別の関連加算まで見直しが広がる場合もあります。実務では、初期試算はやや広め、提出額は根拠を固めて確定という進め方が安全です。
個別指導で返還額が膨らみやすいケースと注意点
1年以上の自己点検で広がるケース
厚労省通知では、自主返還の期間は原則として指導月前の1年以上です。つまり、当月だけの是正では済まず、過去分の自己点検が前提になります。月額は小さくても、件数が積み上がるとまとまった額になります。
施設基準・届出とのずれ
施設基準や届出上は満たしている前提で請求していたものの、実運用が届出内容と一致していない場合、関連する請求をまとめて見直す必要が出ます。これは返還額が大きくなりやすい典型です。
一部負担金の返還も忘れやすい
地方厚生局の返還手続き案内では、一部負担金の過払い分は被保険者等へ返還するよう示されています。保険者への返還だけ見ていると、患者対応が漏れやすい点に注意が必要です。
個別指導の通知後に行う対応
返還額を早く把握するための実務
通知後は、感覚で「大したことはない」と判断しないことが重要です。次の順で動くと、返還額の概算が見えやすくなります。
Step 1: 指摘候補の算定項目を一覧化する
事前提出資料や想定論点、直近の査定傾向を整理します。
Step 2: 院内責任者を決める
院長、事務長、レセプト担当、必要に応じて顧問税理士や社労士、医療事務会社の役割分担を決めます。
Step 3: 試算表を作る
算定コード、患者数、対象月数、1件点数、概算額の一覧表を作ります。
Step 4: 根拠資料を集める
カルテ、同意書、説明書、指示簿、勤務表、施設基準関係書類などを揃えます。
Step 5: 返還書類を作成する
地方厚生局の返還同意書等作成支援ツールや所定様式を使い、保険者別返還金額一覧表、返還内訳書などを準備します。
返還方法にも注意する
地方厚生局では、返還は今後支払われる診療報酬からの控除で処理されることがあります。ただし、返還額が月々の診療報酬額を上回る場合は、書類を分割して処理する案内も示されています。資金繰りへの影響もあるため、返還額の試算は経営管理の観点でも重要です。
よくある質問
Q: 個別指導の自主返還はいくらくらいを見ておけばよいですか?
Q: 自主返還の期間は何年分ですか?
Q: 自主返還の計算は点数×10円でよいですか?
Q: 自主返還になったらすぐに監査ですか?
まとめ
- 個別指導の自主返還額は定額ではなく、誤りの内容・件数・対象期間で決まる
- 厚労省通知では、個別指導で不当事項が確認された場合、自主点検のうえ同様事例の自主返還を求める建て付けになっている
- 自主返還の期間は原則として指導月前の1年以上であり、ここが返還額を左右しやすい
- 概算は「対象点数の合計」で把握できるが、実務では保険者別整理や患者返金まで必要になる
- 通知後は、指摘論点の分解、対象患者抽出、試算表作成、根拠資料整理を早めに進めることが重要
参照ソース
- 厚生労働省「指導大綱における保険医療機関等に対する指導の取扱いについて」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb0366&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000188884_00004.html
- 関東信越厚生局「返還金同意書等作成支援ツールについて」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/henkankin.html
- 中国四国厚生局「診療(調剤)報酬の返還手続きについて」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/chugokushikoku/info/200911/05_00001.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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