
執筆者:辻 勝
会長税理士
小規模企業共済は医師にお得?|節税と受取方法を解説

小規模企業共済は医師にお得なのか
小規模企業共済は、開業医や小規模な医療法人役員が自分で退職金を準備しながら節税できる制度です。勤務医のように勤務先の退職金制度がない、あるいは個人開業で老後資金を自分で積み立てたい医師にとって、「今の所得税・住民税を抑えつつ将来資金を作れるか」が重要な論点ではないでしょうか。
結論として、個人開業の医師や一定規模以下の医療法人役員であれば、小規模企業共済は有力な選択肢です。掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除となり、受取時も一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得として扱われるため、出口まで含めて税務上のメリットがあります。ただし、医院の人員規模や、将来の受取方法、資金繰りとの相性は必ず確認が必要です。
当法人でも、開業後しばらくして利益が安定してきた院長から「個人で退職金準備をしたい」「iDeCoとどちらを優先すべきか」といった相談をよく受けます。小規模企業共済は仕組み自体はシンプルですが、医師は所得水準が高く節税効果が大きい反面、加入資格や受取設計を誤ると期待値がずれるため、制度の骨格を押さえて判断することが大切です。
小規模企業共済とは?開業医・医療法人役員の加入条件
小規模企業共済は、中小機構が運営する経営者のための退職金準備制度です。個人事業主、共同経営者、会社等役員が加入対象で、法人を設立していない個人医院も対象例として示されています。
開業医は原則として加入対象
個人で診療所を経営している医師は、法人化していない個人医院として加入対象になり得ます。もっとも、誰でも入れるわけではなく、主たる事業の業種と常時使用する従業員数の要件を満たす必要があります。サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は、加入時点で常時使用する従業員が5人以下という基準です。
クリニックは通常この「サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)」に整理して考えるのが実務上の基本です。そのため、常勤スタッフ数が多い診療所では、そもそも加入資格を満たさない可能性があります。
医療法人の役員も人数要件に注意
医療法人の理事長や役員についても、会社等役員に準じて検討します。こちらも、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)であれば常時使用する従業員数5人以下が基準になります。役員本人、家族従業員、パート従業員、アルバイトなどはカウントの考え方が異なるため、申込前に実数を確認したいところです。
小規模企業共済の掛金上限と節税効果
小規模企業共済の掛金は、月額1,000円から70,000円まで、500円単位で設定できます。つまり、年間の掛金上限は84万円です。月払いだけでなく、年払い・半年払いも選べます。
掛金上限は年間84万円
上限いっぱいまで掛けると、年間84万円がその年の所得控除になります。ここが最大の魅力です。生命保険料控除のように控除上限が小さい制度とは異なり、払った掛金の全額が所得控除になるため、所得が高い開業医ほど節税効果が出やすくなります。
小規模企業共済の節税シミュレーション
節税額は「掛金額 × 限界税率」で概算できます。医師は所得税率が20%、23%、33%、40%あたりに入ることも多く、住民税の所得割も通常は合計10%前後です。そこで、年間84万円を拠出した場合の概算を整理すると次のとおりです。
| 課税所得の目安 | 想定税率の目安 | 年間掛金 | 年間の税負担軽減額の目安 |
|---|---|---|---|
| 約500万円 | 所得税20%+住民税10% | 84万円 | 約25.2万円 |
| 約800万円 | 所得税23%+住民税10% | 84万円 | 約27.7万円 |
| 約1,500万円 | 所得税33%+住民税10% | 84万円 | 約36.1万円 |
| 約2,000万円超 | 所得税40%+住民税10% | 84万円 | 約42.0万円 |
あくまで概算ですが、利益の出ている開業医にとっては無視できない水準です。特に「勤務医から開業して初年度は忙しく、貯蓄はできているが税金が重い」という時期には、制度の使い勝手がよいケースがあります。
必要経費ではなく所得控除である点に注意
小規模企業共済の掛金は、医院の必要経費ではありません。事業所得の計算上で経費になるのではなく、確定申告で所得控除として差し引く扱いです。この点は経営セーフティ共済などと混同しやすいので注意が必要です。
小規模企業共済の受取方法と税金
小規模企業共済の受取方法は、一括、分割、一括と分割の併用があります。税務上の扱いが大きく異なるため、加入時よりもむしろ受取時の設計が重要です。
一括受取は退職所得扱い
一括で受け取る共済金は、原則として退職所得扱いです。退職所得は、一般に「収入金額-退職所得控除額」の2分の1を課税対象とする仕組みで、税負担が抑えられやすいのが特徴です。長く加入してから受け取るほど、退職所得控除も取りやすくなります。
たとえば20年加入なら退職所得控除額は800万円、30年加入なら1,500万円です。出口で退職所得になることが、小規模企業共済の強い魅力といえます。
分割受取は公的年金等の雑所得扱い
分割受取の場合は、公的年金等の雑所得として扱われます。年金収入や他の公的年金等との合算で課税関係が変わるため、国民年金、厚生年金、企業年金などの受給見込みがある医師は、全体で見て有利かどうかを確認すべきです。
併用受取は一括と分割の中間案
一定の条件を満たす場合、一括と分割の併用も可能です。まとまった資金を一部確保しつつ、残りを年金形式にする設計ができるため、医院の閉院後の生活資金や借入返済計画との調整に向いています。
医師が小規模企業共済を使うときの判断ポイント
制度自体は優れていますが、医師であれば誰にでも最適とは限りません。判断の軸を整理しておきましょう。
向いている医師
- 個人開業で利益が安定し、毎年の所得税・住民税負担が重い医師
- 将来自分の退職金原資を計画的に作りたい医師
- 法人の役員退職金だけに依存せず、個人でも出口資金を持ちたい医師
- 受取時に一括受取を想定し、退職所得のメリットを活かしたい医師
向いていない、または慎重判断が必要な医師
- 加入資格の人数要件を満たしていないクリニック
- 資金繰りに余裕がなく、掛金固定が負担になりやすいケース
- 近い将来に大きな設備投資や借入返済を控えているケース
- 老後に公的年金や他制度の年金受給が多く、分割受取だと雑所得が膨らみやすいケース
iDeCoや法人の役員退職金との違い
小規模企業共済は「経営者個人の退職金準備」です。iDeCoは老後資産形成として優れますが、受取年齢や投資商品の価格変動という別の論点があります。法人の役員退職金は法人側で損金算入を狙える反面、支給時期や金額設定に法人事情が絡みます。制度ごとの役割は別物なので、競合ではなく分担で考えるのが実務的です。
小規模企業共済の始め方と受取設計の進め方
実務では、加入そのものより「いくら掛けるか」「いつどう受け取るか」を先に決めるほうが失敗が少なくなります。
Step 1: 加入資格を確認する
まず、個人開業か法人役員かを整理し、常時使用する従業員数の要件を確認します。開業医はここを外すと手戻りが大きくなります。
Step 2: 無理のない掛金月額を決める
上限の月7万円にこだわる必要はありません。節税だけでなく、毎月のキャッシュフロー、借入返済、設備更新計画を見て決めます。利益の変動が大きい時期は、まず月2万円や3万円から始める方法もあります。
Step 3: 受取時期と受取方法を先に想定する
閉院予定年齢、法人解散の見込み、他の退職金や年金の受取予定を踏まえ、一括・分割・併用のどれがよいかを考えます。加入時点で出口を仮置きしておくと、途中の制度見直しもしやすくなります。
Step 4: 毎年の申告で控除漏れを防ぐ
掛金は小規模企業共済等掛金控除として申告します。年末調整では完結しないケースもあるため、確定申告時に証明書の添付漏れがないかを確認しましょう。
よくある質問
Q: 小規模企業共済は勤務医でも入れますか?
Q: 小規模企業共済の掛金はどこまで増やせますか?
Q: 小規模企業共済の受取時の税金は必ず有利ですか?
Q: 医療法人の院長でも加入できますか?
まとめ
- 小規模企業共済は、開業医や一定規模以下の医療法人役員が使える退職金準備制度
- 掛金は月1,000円から7万円、年間84万円までで、全額が所得控除になる
- 開業医は加入資格、とくに常時使用する従業員数の要件を最初に確認すべき
- 受取方法は一括・分割・併用があり、一括は退職所得、分割は公的年金等の雑所得になる
- 医師は節税効果が大きい一方、受取時の税金や他制度との兼ね合いまで見て設計することが重要
参照ソース
- 中小機構「小規模企業共済の掛金」: https://kyosai-web.smrj.go.jp/customer/skyosai/installment/
- 中小機構「加入資格」: https://kyosai-web.smrj.go.jp/skyosai/entry/index_02.html
- 中小機構「加入をご検討中の方へ 小規模企業共済とは」: https://kyosai-web.smrj.go.jp/skyosai/entry/index.html
- 中小機構「共済金等請求・解約」: https://kyosai-web.smrj.go.jp/customer/skyosai/claim/
- 国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
- 横浜市「個人の市民税・県民税について」: https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/zeikin/y-shizei/kojin-shiminzei-kenminzei/kojin-shiminzei-shosai/kojin.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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