
執筆者:辻 勝
会長税理士
ベースアップ評価料2026×賃上げ促進税制|税理士が解説

結論:ベースアップ評価料は「賃上げ原資」を作り、税制で「手取り」を増やせます
ベースアップ評価料は、診療報酬で賃上げ原資を確保し、職員の給与改善に使うための仕組みです。2026年(令和8年)改定では、賃上げの実効性を高める観点から評価の考え方が整理され、継続的に賃上げしている医療機関とそれ以外で評価を分ける方向が示されています。あわせて「賃上げ促進税制(給与等増加の税額控除)」を使えば、賃上げで増えた人件費の一部を法人税(または所得税)から控除でき、結果として「もらって(診療報酬)・使って(賃上げ)・節税(税額控除)」が一本線でつながります。ポイントは、(1)原資見込みの算定、(2)賃上げ配分の設計、(3)税制要件を満たす証憑づくり、の3点です。
ベースアップ評価料とは:何に使える原資で、何が「2026対応」なのか
ベースアップ評価料の位置づけ(外来・在宅/入院)
厚労省の整理では、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)(Ⅱ)等は、医療提供体制を支える幅広い職員の賃上げを確実に進めるための評価です。2026改定の資料では、(Ⅰ)(Ⅱ)について「継続的に賃上げを実施している保険医療機関」と「それ以外」で異なる評価を行う方針が明示されています(考え方の整理)。また、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)の点数例として、初診(または訪問診療)時240点、再診時等30点など、区分別の点数が示されています(点数表の改定案の一部)。
この「評価がある=原資がある」状態を作ったうえで、次の「使い方(賃上げの設計)」が実務の核心です。
「賃上げの実効性」を担保する設計が鍵
賃上げ原資は、単に一時金として配るだけではなく、継続性や説明可能性が問われやすくなります。税務の観点でも、賃上げ促進税制の適用には、前年と比べて雇用者給与等支給額が増加していること等の要件充足が必要です。つまり、診療報酬側と税務側の両方で「賃上げの事実」と「計算根拠」を残すことが重要になります。
「もらって・使って・節税」全体像:診療報酬→賃上げ→税額控除のつなぎ方
まず「もらって」:原資の見込みを作る(ざっくり試算の考え方)
外来中心のクリニックでは、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)(Ⅱ)の算定が主戦場になりやすいです。試算はシンプルに、
- 対象となる算定回数(初診・再診等の回数)
- 1回あたり点数
- 1点=10円(医療保険の点数換算) で月次の原資レンジを作ります。ここで大切なのは「過去実績ベースで保守的に置く」ことです。原資を過大に見込むと、賃上げを先行させたのに算定が伸びず、資金繰りが苦しくなるパターンが起きます。
次に「使って」:賃上げ配分を設計する(基本給・手当・評価軸)
賃上げの配分は、次のいずれか(または組合せ)で設計します。
- 基本給のベースアップ(ベア)
- 毎月固定の手当(職務手当・調整手当など)
- 賃上げの対象範囲(常勤・非常勤、職種別、勤続別)
税制の要件充足を考えるなら、単年度の賞与で終わらせるより、継続的に給与総額が増える形(ベアや固定手当)で設計した方が、翌期以降も判定がしやすくなります。ここが「継続的な賃上げ」と整合しやすい運用です。
そして「節税」:賃上げ促進税制で税額控除を取りに行く
賃上げ促進税制(給与等増加の税額控除)は、雇用者給与等支給額が前年度から増えた場合に、一定割合を法人税額(または所得税額)から控除できる制度です。中小企業者等については、適用事業年度や増加率などの要件を満たすと、控除対象雇用者給与等支給増加額の15%(上乗せ要件で最大45%)相当額の税額控除が可能とされています。
つまり、賃上げはコスト増ですが、税額控除が入ると「実質負担」が軽くなり、賃上げを継続する体力が作りやすくなります。
実務の手順:院内で「確実に回す」ためのステップ
Step 1: 算定可否と点数影響を確認する(施設基準・算定要件)
2026改定の資料(総-1、点数表・施設基準案)で、自院が算定対象となる評価料の区分、施設基準、届出要否を確認します。外来中心か、入院ありかで確認ポイントが変わるため、まずは算定の「入口」を固めます。
Step 2: 原資レンジを月次で作る(過去実績×点数)
初診・再診等の回数を過去3~6か月で集計し、保守的なレンジ(下限・上限)を作ります。ここで資金繰りも併せて見ます。賃上げは「毎月出ていく」ため、月次で回せる設計にします。
Step 3: 賃上げ設計(誰に、いくら、いつから)を決め、規程化する
賃金規程(または内規)に、対象者・改定日・計算方法を落とし込みます。職種別配分や評価軸(スキル、夜勤、兼務など)も、説明可能な形にします。
Step 4: 月次で「賃上げの事実」と「算定の原資」を突合する
ベースアップ評価料の算定額(レセ実績)と、給与支給総額の増加(給与台帳)を毎月突合します。これが税制判定の基礎データになります。
Step 5: 申告対応(賃上げ促進税制の判定・控除計算・別表整理)
税理士法人としては、雇用者給与等支給額・比較雇用者給与等支給額、増加率、控除対象額、控除上限などを制度区分に沿って判定し、申告書の税額控除へ反映します。ここは制度区分(中小企業向け・中堅企業向け・全企業向け)で要件が異なるため、ガイド資料を参照しつつ適用可否を詰めます。
比較表:ベースアップ評価料と賃上げ促進税制の設計思想の違い
| 観点 | ベースアップ評価料(診療報酬) | 賃上げ促進税制(税額控除) |
|---|---|---|
| 目的 | 医療機関の賃上げ原資を診療報酬で手当 | 賃上げ増加額の一部を税額控除で支援 |
| 入口の要件 | 施設基準・届出・算定区分(外来/入院等) | 雇用者給与等支給額の増加率など |
| 効くタイミング | 算定した月から収入に反映 | 申告時に税額控除として反映 |
| 管理の要点 | 算定実績の月次管理、対象職員への配分 | 前年比較の集計、判定根拠と証憑 |
| 失敗しやすい点 | 原資を過大見積もりして賃上げ先行 | 対象外給与の混入、増加率の未達 |
この表のとおり、両制度は同じ「賃上げ」を支援しますが、見ている指標とタイミングが異なります。だからこそ、院内の月次管理(算定×給与)を整えるほど、両取りがしやすくなります。
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数値例:外来中心クリニックの考え方(イメージ)
前提(例)
- 外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)を算定
- 月の初診(または訪問診療)相当:200回
- 月の再診時等:2,000回
- 点数例:初診等240点、再診時等30点(資料に示されている点数例)
- 1点=10円
月次原資イメージ(概算)
- 初診等:200回×240点×10円=480,000円
- 再診等:2,000回×30点×10円=600,000円
- 合計:約1,080,000円/月
この約108万円/月を「賃上げに充当」し、結果として年間で給与総額が前年より増加していれば、賃上げ促進税制の判定対象になります(増加率・上乗せ要件等は別途判定)。重要なのは、原資の範囲内で無理なく設計し、増加額の集計ができる形(給与台帳・規程・支給決定書類)で運用することです。
注意点とリスク:制度を安全に使うために
- 診療報酬は「算定できていること」が前提です。施設基準未達や届出漏れがあると、原資が想定より減る可能性があります。
- 税制は「前年比較」で判定されます。賃上げの開始月、非常勤の増減、賞与支給のタイミングで増加率が変動します。
- クリニックの形態(個人/医療法人)や規模により、税制区分や適用要件が変わります。必ず該当する区分で判定してください。
- 本稿は一般論であり、個別の状況(雇用形態、会計処理、賃金規程、過年度の給与水準等)により結論が異なります。
よくある質問
Q: ベースアップ評価料の原資は、賞与で配っても税制上は有利ですか?
Q: 賃上げ促進税制は赤字でも使えますか?
Q: 2026改定で「継続的に賃上げしている医療機関」とは何を指しますか?
まとめ
- ベースアップ評価料は賃上げ原資を診療報酬で作る仕組み
- 2026改定では「継続的な賃上げ」の実効性を高める観点が明示されている
- 賃上げ促進税制は、賃上げ増加額の一定割合を税額控除できる制度
- 両制度をつなぐ鍵は、月次の「算定実績×給与台帳」の突合と規程整備
- 原資見込みは保守的に置き、資金繰りと税務判定を同時に設計する
参照ソース
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70414.html
- 厚生労働省「総-1 個別改定項目について(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
- 厚生労働省「ベースアップ評価料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
- 国税庁「No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5927-2.htm
- 経済産業省「『賃上げ促進税制』御利用ガイドブック(PDF)」: https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/r6_chinagesokushinzeisei/r6chinagesokushinzeisei_gb_20251202.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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