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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

内科クリニック承継相場と収益評価の実務|税理士が解説

9分で読めます
内科クリニック承継相場と収益評価の実務|税理士が解説

内科クリニックの承継相場は、「患者基盤×収益力(再現性)×リスク」の掛け算で決まります。結論から言うと、売却価格は相場表で一律に決まるのではなく、将来利益(のれん)と資産・負債をどう評価し、誰がどのリスクを負担するかでレンジが動きます。特に内科は、院長依存度(診療の属人性)と慢性疾患の継続通院が評価に直結しやすい一方、スタッフ・立地・競合で収益が変動しやすい点が論点です。

内科クリニック承継相場とは何で決まるか

「内科クリニック 承継 相場」で検索すると、売上倍率や利益倍率が語られがちです。しかし実務では、次の3要素に分解して考えるとブレが減ります。

1) 患者基盤の質(数より継続性)

内科の強みは、慢性疾患管理などで来院が継続しやすい点です。評価では「月次の新患/再診の構成」「主病名の偏り」「紹介・逆紹介」「近隣競合の増減」を見ます。

  • 再診比率が高く、医師交代後も通院継続が見込めるほどプラス
  • 院長の評判・診療スタイルに依存しているほどディスカウント(引継ぎリスク)

2) 収益力(利益の再現性)

評価の中核は収益評価です。ここでいう収益は「税務上の利益」ではなく、買い手が引き継いだ後も再現できるキャッシュフローを指します。

  • 人件費・外注費・家賃が適正水準か(過不足の調整)
  • 院長報酬が高すぎ/低すぎないか(買い手の働き方で変動)
  • 診療報酬の算定体制(施設基準・加算)に継続性があるか

3) リスク(見えない負債の洗い出し)

買い手は「引継ぎ後に想定外の支出が出ないか」を最も嫌います。典型は以下です。

  • 機器の更新時期(心電計、エコー、レセコン等)と保守契約
  • スタッフの退職リスク、賃金・就業規則の未整備
  • 賃貸借契約の名義変更可否、原状回復条項
  • 行政対応・個人情報・診療録管理の運用
ここがポイント
医療法人の場合、非営利性(剰余金配当の禁止等)の前提があり、スキーム設計は「誰がどこで対価を受け取るか」を丁寧に整理する必要があります。制度の概観は厚生労働省の医療法人関連ページも参照してください。

内科クリニックの評価方法(EBITDA・DCF・資産価値)

内科クリニックの評価は、通常「収益(のれん)+純資産(資産−負債)」で組み立てます。ポイントは、どの手法を主に置くかです。

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手法何を評価するか向いているケース注意点
収益倍率(EBITDA等)利益の再現性(簡便)小規模〜中規模の診療所M&AEBITDAの定義(院長報酬・家賃調整)でブレる
DCF法将来キャッシュフロー(理論的)2院目展開・設備投資が大きい案件前提の置き方で価格が大きく変わる
純資産法(簿価/時価)資産・負債の実体赤字/利益が不安定、資産が厚いのれん(患者基盤)を反映しにくい

EBITDA(簡便法)の実務的な作り方

EBITDAは「利払い・税金・償却前利益」という整理が多いですが、診療所では次の調整が重要です。

  • 院長報酬(または事業主所得)を、買い手想定の勤務形態に置き換える
  • 家賃が親族所有で相場より高い/低い場合は補正する
  • 一過性の費用(採用費、改装費、訴訟対応など)を除外して平準化する

結果として「調整後EBITDA」をベースに倍率をかけ、そこに運転資金や設備更新を反映させて最終価格を詰めます。

DCF(理論法)で論点になりやすい前提

DCFは理屈として正しい一方、交渉では前提の合意が難しい手法です。内科で揉めやすいのは以下です。

  • 引継ぎ後の患者減少率(院長交代・競合出店)
  • 診療報酬改定の影響(点数・算定要件)
  • 看護師・医療事務の採用コスト上昇
  • 設備更新と内装リニューアルの時期

資産価値:建物・設備・在庫・債権と負債

スキームにより「何を譲渡するか」が変わります。個人診療所の事業譲渡では、資産の譲渡・取得費・減価償却の考え方も価格交渉に影響します(建物の取得費計算などの基本は国税庁の解説参照)。また譲渡所得の対象資産の範囲も確認が必要です。

医療法人か個人かで売却価格の受け取り方が変わる

同じ「内科クリニック」でも、法人形態で出口が変わります。

個人診療所(事業譲渡)の典型

  • 譲渡対象:医療機器、内装、什器、在庫、営業権(のれん)など
  • 不動産:所有なら売買、賃借なら賃貸借の承継交渉
  • 税務:譲渡所得・事業所得など論点が分かれる(資産区分が重要)

医療法人(持分あり/なし等)の典型

  • 何を売るか:出資持分(ある場合)、理事長交代、事業譲渡など複数スキーム
  • 制度前提:医療法人は非営利性が要請され、剰余金の配当が禁止される等の枠組みがある
  • 持分のある医療法人の取扱い・移行論点は国税庁資料でも整理されています
ここがポイント
「価格(対価)」だけに目が行くと、スキーム(持分・退職金・役員報酬・賃料・事業譲渡範囲)で税負担と手取りが逆転することがあります。最初に出口の地図を描いてから交渉に入るのが安全です。

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内科クリニックM&Aの進め方(売却価格を固める手順)

価格交渉に入る前に、評価の土台を固めます。以下は実務での標準的な流れです。

Step 1: 現状の収益構造を可視化する(3年分)

  • 月次の患者数、保険/自費、主な算定項目、キャンセル率
  • 人件費・外注費・家賃・リース・保守の固定費一覧
  • 設備台帳(取得価額・耐用年数・更新予定)

Step 2: 調整後利益を作り、論点を先に潰す

  • 院長報酬・家賃・一過性費用を調整
  • 将来の設備更新・内装改修を織り込む
  • スタッフ体制の維持可能性(採用計画)を整理

Step 3: スキームを選ぶ(個人/法人、何を譲るか)

  • 事業譲渡か、持分/理事交代か
  • 賃貸借の名義・保証金・原状回復の承継条件
  • 取引先(検査会社、薬局、リース等)の契約承継可否

Step 4: 買い手探索とDD(デューデリジェンス)に備える

  • 財務DD:実態利益、未払・簿外債務、保険請求の安定性
  • 労務DD:雇用契約、残業、社保、就業規則
  • 法務/運用:個人情報・診療録・クレーム対応フロー

※仲介やFAを使う場合は、国の補助制度の対象になる「登録M&A支援機関」の枠組みも確認すると整理が進みます。

よくある質問

Q: 内科クリニックの承継相場は「年商の何倍」ですか? ▼
実務では一律の倍率で決まりません。年商は規模の指標に過ぎず、価格は「調整後利益(再現性)」「患者基盤の継続性」「設備更新などのリスク」で大きく変動します。まずは3年分の月次データから調整後利益を作り、収益倍率・DCF・純資産の3点でレンジを出すのが現実的です。
Q: 赤字の内科でも売却できますか? ▼
可能性はあります。赤字でも「立地が強い」「患者数が増加基調」「人件費や家賃が過大で、引継ぎ後に改善できる」など、調整後に黒字化が見込める場合は評価がつきます。一方で設備更新が集中している場合は価格が出にくく、条件(アーンアウト、分割等)で調整することが多いです。
Q: 医療法人だとのれんは受け取れないのですか? ▼
非営利性の枠組みの中で、対価の設計は慎重さが必要です。持分の有無、役員退職金、事業譲渡の範囲、賃料設定などで整理の仕方が変わり、税務の影響も出ます。制度上の前提(医療法人手続、持分の取扱い等)を踏まえ、スキームごとに手取りを比較して決めるのが安全です。
Q: 相談先はどこが良いですか? ▼
価格だけでなく、税務・労務・契約・行政対応まで横断で見られる体制が重要です。仲介/FAを使う場合は、国の制度で整理されている「M&A支援機関登録制度」も参考になります(補助金対象の実務上の要件にも関係します)。

まとめ

  • 内科クリニックの承継相場は、患者基盤・収益の再現性・リスクでレンジが決まる
  • 評価は「収益(のれん)+純資産」の二階建てで考えると整理しやすい
  • EBITDA・DCF・純資産法の3手法でレンジを作り、前提の合意で価格を固める
  • 個人か医療法人かでスキームが変わり、税負担と手取りが大きく変わる
  • DDに備えて、月次データ・契約・設備更新・労務を先に整えると交渉が強くなる

参照ソース

  • 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
  • 国税庁「事業承継税制特集」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm
  • 中小企業庁「M&A支援機関に係る登録制度(令和7年度公募)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2025/250530m_and_a.html
  • 国税庁「No.3261 建物の取得費の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3261.htm
  • 国税庁「持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等…」: https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/hyoka/040616/01.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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