
執筆者:辻 勝
会長税理士
新規指定個別指導とは?開業1年目の注意点|税理士が解説

新規指定の個別指導(概ね指導)とは
新規指定の個別指導とは、保険医療機関として新たに指定を受けた後、保険診療や診療報酬請求が適切に行われているかを確認するための指導です。開業1年目の院長にとっての問題は、売上拡大や人員採用に気を取られる一方で、カルテ記載や算定根拠、請求事務の内部管理が後回しになりやすい点にあります。
実務では「概ね指導」と呼ばれることがありますが、制度上のポイントは、新規指定の保険医療機関等について概ね1年以内に指導対象とされる運用があることです。これは直ちに不正を疑われているという意味ではなく、早い段階で保険診療のルールを確認し、誤りを是正する趣旨が中心です。
当法人でも、開業初年度の医科診療所から「通知が来たが何を出せばよいか分からない」「個別指導と監査は何が違うのか不安」という相談をよく受けます。新規指定の個別指導は、準備の質で負担感が大きく変わるため、制度の位置づけと事前対応を整理しておくことが重要です。
新規指定個別指導と通常の個別指導の違い
新規開業の院長がまず押さえたいのは、「新規指定の個別指導」と「通常の個別指導」は同じではないという点です。特に、個別指導という言葉だけで過度に身構える必要はありません。
| 項目 | 新規指定の個別指導 | 通常の個別指導 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 新たに指定を受けた保険医療機関等 | 高点数、情報提供、再指導後など一定基準に該当する医療機関等 |
| 時期の目安 | 指定後概ね1年以内 | 選定基準に応じて実施 |
| 主な目的 | 開業初期の保険診療・請求体制の確認 | 請求内容や診療体制の適正化確認 |
| 受け止め方 | 初年度確認の色合いが強い | 個別事情に応じた是正確認の色合いが強い |
この違いを理解していないと、新規指定の段階で必要以上に恐れてしまいます。もっとも、初年度だから軽く見てよいわけではありません。診療録、同意書、算定要件の確認資料、院内掲示、届出事項と実態の一致など、基本事項の整備不足は開業1年目でもそのまま指摘につながります。
概ね指導とは何か
「概ね指導」という表現は、制度上の正式名称というより、指定後おおむね1年以内に行われる新規指定向けの指導を指して使われることがあります。読者が検索する言葉としては一般的ですが、記事内では正式な制度枠組みで理解しておくほうが安全です。
監査との違い
監査は不正請求や重大な疑義がある場合の対応であり、通常の新規指定個別指導とは性質が異なります。通知を受けた段階で過度に「処分前提」と考える必要はありませんが、説明資料の不足や請求根拠の不明確さは不要な疑念を招くため、丁寧な準備が必要です。
開業1年で個別指導を受ける理由と選ばれやすい背景
開業1年で個別指導を受ける最大の理由は、制度上、新規指定の保険医療機関等が一定期間内に指導対象となるからです。つまり、通知が来たこと自体は珍しいことではありません。
一方で、同じ新規開業でも準備負担に差が出る背景があります。たとえば、開業直後から外来数が多い診療所、在宅やリハビリなど算定論点が多い診療所、スタッフ増員で受付・請求フローが変わった診療所は、院内ルールと請求実務のズレが起きやすい傾向があります。
よくある相談例としては、次のようなものがあります。
- 院長は診療に集中し、算定判断を事務任せにしている
- 電子カルテのテンプレートが実態に合っていない
- 届出済み施設基準の要件管理が曖昧
- 自費診療と保険診療の区分整理が不十分
- 返戻や査定の分析がされていない
開業初年度は、患者数の増減、採用、導線変更、システム設定の見直しが重なるため、請求の正確性が揺れやすい時期です。新規開業の個別指導は、その弱点が表面化しやすいタイミングで来ると考えておくとよいでしょう。
新規指定個別指導の流れと事前準備
通知が届いたら、まず「慌てて資料を集める」のではなく、提出期限と提出物を確認し、院内で役割分担を決めることが先です。近年の地方厚生局の案内では、保険医療機関の現況、連絡票、さらに診療業務や請求事務の流れ図などの提出が求められる例があります。
Step 1: 通知書の確認
実施日、場所、提出期限、提出方法、対象期間、持参資料を確認します。ここで期限を誤認すると、その後の準備がすべて後手になります。
Step 2: 提出書類の作成
保険医療機関の現況、連絡票、業務フロー図などを作成します。名目上の体制ではなく、現場の実態どおりに書くことが重要です。
Step 3: カルテと請求の突合
抽出対象になりそうな診療について、診療録、レセプト、同意書、計画書、指示書、検査結果、院内掲示、施設基準届出との整合性を確認します。
Step 4: 当日説明の準備
誰がどの資料を説明するか決めます。院長だけでなく、事務長や請求担当者が同席する場合は、役割を明確にしておくと回答がぶれにくくなります。
Step 5: 指摘後の改善対応
口頭指摘や文書指摘があれば、改善策、担当者、期限を決めて再発防止まで落とし込みます。
新規指定個別指導で見られやすい注意点
開業1年目で特に見られやすいのは、難しい加算テクニックよりも、基本ルールの積み上げです。厚生労働省の確認事項リストや指摘事項を踏まえると、まず診療録の記載充実が重要です。
診療録の記載不足
診療録は請求の根拠資料です。症状、所見、判断、実施内容、説明事項の記載が薄いと、算定が正しくても根拠不十分と見られます。テンプレートの定型文だけで完結している場合は要注意です。
届出事項と実態の不一致
施設基準を届け出ていても、勤務実態、掲示内容、必要書類の保存状況が合っていなければ問題になります。開業後にシフトや人員配置が変わったのに、届出後の運用見直しが止まっている例は少なくありません。
初診・再診、検査、管理料の算定根拠
初再診の判断、医学管理等の算定要件、検査の必要性や結果説明の記録は、開業初年度でも確認対象になりやすい論点です。査定が少ないから大丈夫、という考え方は危険です。
自費と保険の線引き
美容、健診、予防接種、文書料など、自費診療が混在するクリニックでは、保険診療との区分整理が不可欠です。会計区分だけでなく、説明と記録の整合性まで確認しておく必要があります。
開業1年目のクリニックが今からできる対策
新規指定個別指導は、通知が来てから準備するものではなく、開業直後から備えるものです。特に、月次で次の確認を回すだけでも負担はかなり下がります。
- レセプト返戻・査定の理由を毎月共有する
- カルテ記載の不足パターンを院内で統一修正する
- 施設基準の届出一覧と実態を定期照合する
- 同意書、計画書、説明記録の保管場所を統一する
- 受付から請求までのフローを文書化する
当法人では、指導対策は「特別な裏技」ではなく、日常管理の精度を上げる作業だとお伝えしています。開業1年目ほど、院長の頭の中にあるルールとスタッフの実務がずれやすいため、文書化と定期確認が有効です。個別の状況により必要な対応は異なりますが、少なくとも通知後にゼロから体制を作るより、平時の整備のほうが負担は軽くなります。
よくある質問
Q: 新規指定個別指導は、必ず開業1年ちょうどで来ますか?
Q: 新規指定個別指導を受けると、今後も不利になりますか?
Q: 事前提出書類には何が含まれますか?
Q: 税理士に相談する意味はありますか?
まとめ
- 新規指定個別指導は、開業1年目のクリニックでも珍しくない制度上の確認手続です
- 「概ね指導」は指定後概ね1年以内の指導を指して使われることがあります
- 通常の個別指導や監査とは目的と位置づけが異なります
- 重要なのはカルテ記載、算定根拠、届出事項と実態の一致、業務フローの整備です
- 通知後対応だけでなく、開業直後から月次で内部管理を回すことが有効です
参照ソース
- 厚生労働省「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/dl/shidou_kansa_11.pdf
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 関東信越厚生局「個別指導・新規個別指導に係る事前提出書類について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/kobetsu.html
- 近畿厚生局「新規個別指導・個別指導に係る事前提出資料について」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iryo_shido/zizenteisyutusiryou.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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