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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

眼科・耳鼻科の承継相場と機器評価|税理士が解説

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眼科・耳鼻科の承継相場と機器評価|税理士が解説

眼科・耳鼻科クリニックの承継価格(譲渡価格)の決まり方は、「利益の見込み(のれん)」と「資産・負債(純資産)」の二本立てです。高額医療機器がある診療科では、機器の評価(時価・残存価値)と負債(リース残債等)が価格に直結し、同じ売上規模でも金額差が出ます。

眼科・耳鼻科クリニックの承継相場は何で決まるか

承継相場は「相場表で一律」ではなく、概ね次の要素の掛け合わせでレンジが形成されます。

  • 収益力:院長の役員報酬(オーナー給与)を差し引いた後の利益、将来の維持可能性
  • 患者基盤:来院数、継続率、紹介・地域連携、季節変動
  • 立地と競合:診療圏、競合密度、移転可否
  • 人材と運営:スタッフ定着、診療体制、予約・検査フロー
  • 設備:検査機器・処置機器のラインナップ、更新年、保守状況

税理士実務では、まず「事業として残る利益(キャッシュ)」を評価し、その上で高額機器が利益を生む設備として機能しているか(稼働率・算定状況・更新余地)を確認します。機器が高額でも、稼働していなければ価格には乗りにくい点が重要です。

医療機器評価の基本:簿価ではなく「時価」を意識する

高額医療機器は帳簿上「固定資産」に計上され、減価償却で簿価が下がっていきます。しかし承継交渉では、次の3つを区別して整理します。

  • 簿価(帳簿価額):会計上の残高
  • 税務上の残存価額:耐用年数・償却方法に基づく残り
  • 時価(市場価値):中古市場・再調達コスト・利用可能性から見た価値

ポイントは、譲渡価格の交渉で重いのは「時価」であり、簿価は「参考値」にとどまることが多い点です。

耐用年数・償却年数は評価の土台になる

医療機器の評価では、税務上の耐用年数表(減価償却資産の耐用年数)を土台に「あと何年使えるか」を言語化します。耐用年数は、機器の更新計画・融資審査・買手の投資判断にも影響します。
(例:機器区分により年数は異なります。耐用年数表は国税庁資料を参照)

リース(所有権留保・ファイナンス/オペレーティング)の扱い

高額機器はリース契約が多く、ここが価格調整の最大論点になりがちです。

  • リース資産が「譲渡対象に含められるか」(契約上の譲渡可否・名義変更要件)
  • リース残債を誰が負担するか(売手が一括精算するのか、買手が引き継ぐのか)
  • 保守契約・ソフト更新・校正履歴が揃っているか(買手のリスク評価に直結)
ここがポイント
「機器がある=プラス評価」とは限りません。更新間近の機器や、稼働率が低い機器は、買手にとって将来の追加投資となり、価格交渉ではマイナス調整(またはのれんの圧縮)要因になり得ます。

事業譲渡(資産譲渡)と持分譲渡(株式譲渡)の違い:機器の効き方

承継スキームによって、機器の評価と引継ぎの実務が変わります。眼科・耳鼻科のように設備比重が高い場合は、スキーム選定が価格に直結します。

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観点事業譲渡(資産譲渡)持分譲渡(株式譲渡等)
機器の扱い機器を個別に「時価」で売買しやすい法人内に残るため個別売買はしない(実質は企業価値に内包)
価格調整機器の時価・在庫・リース残債を論点にしやすい簿外債務・偶発債務が論点になりやすい
手続き資産移転・契約再締結が多く煩雑契約は原則継続だがDD(調査)が重要
税務譲渡益課税・消費税論点(資産の種類で異なる)譲渡対価課税の整理(法人/個人で異なる)

中小M&Aの実務では、支援機関の関与や手数料体系、重要事項説明などの留意点がガイドラインとして整理されています。医療分野でも「情報の非対称性」を減らすという意味で、買手・売手双方に有用です。

機器が承継価格に与える影響を「3つの箱」で整理する

設備比重が高い診療科では、価格の内訳を次の3要素に分解して説明できると交渉が安定します。

  1. 純資産(ネットアセット)
  • 現預金+売掛金+在庫+固定資産(時価)−借入金−未払金−リース残債 など
  1. のれん(営業権)
  • 将来利益の見込み(院長交代後も継続する利益の期待値)
  1. 設備プレミアム(またはディスカウント)
  • 機器が収益を押し上げているならプレミアム
  • 更新負担が重いならディスカウント

税理士法人 辻総合会計の実務感覚では、眼科・耳鼻科の承継では「設備プレミアム」を過大に見積もらず、稼働データ(検査件数・算定状況)と更新年・保守履歴で説明できる価格に落とし込むことが成功確率を上げます。

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医療機器評価の進め方(実務ステップ)

Step 1: 機器台帳を整備する

メーカー、型式、導入年、取得価額、簿価、保守契約、稼働状況、付属品の有無を一覧化します。リースは契約書と支払予定表もセットで準備します。

Step 2: 「時価」の根拠を作る

中古市場の取引事例、メーカー下取り、同等機の再調達コスト、残存耐用年数を踏まえてレンジを設定します。耐用年数表の確認は基礎資料になります。

Step 3: 収益とのつながりを可視化する

検査・処置の件数推移、単価、算定要件、スタッフ体制を整理し、機器が利益にどう寄与しているかを示します。これが「のれん」評価の説得力になります。

Step 4: スキーム別に論点を確定する

事業譲渡か持分譲渡かで、契約移転・許認可・届出の負荷が変わります。保険医療機関の届出事項変更など、行政手続きの発生も織り込みます。

Step 5: 価格調整条項で後出しを防ぐ

在庫の実地棚卸、未収金の回収、偶発債務(未払残業、クレーム等)の扱いを合意し、最終譲渡価額の調整ルールを契約で明確化します。

よくある質問

Q: 高額機器があると、必ず承継価格は上がりますか? ▼
必ずしも上がりません。価格に乗りやすいのは「稼働して利益に寄与している機器」です。更新間近・稼働低下・保守不十分の場合は、買手の追加投資として見られ、のれんが圧縮されることがあります。
Q: 簿価がほぼゼロの機器でも、価格に反映できますか? ▼
可能です。簿価は会計上の残高で、交渉で重いのは時価です。中古市場、再調達コスト、残存耐用年数(国税庁の耐用年数表等)を根拠にレンジ提示します。
Q: リース機器は譲渡できないのでしょうか? ▼
契約次第です。譲渡・名義変更の可否、残債の負担者、保守契約の引継ぎ条件を確認し、売手精算か買手引継ぎかを価格調整で整理します。
Q: 承継時に行政手続きは何が発生しますか? ▼
スキームにより異なりますが、保険医療機関の指定関連の変更届など、変更事項が生じた場合は所定の手続きが必要になります。具体は管轄の地方厚生(支)局等の案内に従って進めます。

まとめ

  • 眼科・耳鼻科の承継相場は「利益(のれん)+純資産」を軸に、機器の稼働と更新負担で上下する
  • 医療機器は簿価より時価(市場価値)が交渉で重く、根拠づけが重要
  • リース残債・保守契約は価格調整の核心で、誰が負担するかを契約で明確化する
  • 事業譲渡か持分譲渡かで機器の扱いと手続き負荷が変わるため、早期に論点整理する
  • 機器台帳・稼働データ・耐用年数を揃えると、買手の不安が減り交渉が安定する

参照ソース

  • 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表(PDF)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
  • 厚生労働省(地方厚生局)「保険医療機関・保険薬局の届出事項変更の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_todoke_henko.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

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