
執筆者:安田 駆流
社会保険労務士
診療報酬改定後の月次試算|院長が見るべき数字

診療報酬改定の個別相談
この記事の内容を、自院の算定・収支に落とし込む相談をする
疑義解釈、届出期限、レセプト運用、収入見込みへの反映を税務・経営面から整理します。
改定後は月次試算の見方を変える必要があります
診療報酬改定後のクリニック経営では、単月の売上だけを見ても実態を把握できません。点数の変更、施設基準の届出時期、返戻、査定、患者数の変化、人件費増が同時に起きるためです。施行後の初期運用を把握するため、経営管理上の目安として3か月から6か月は月次試算を通常より細かく見ることが重要です。
院長にとって問題になるのは、売上が増えたか減ったかだけではありません。増収に見えても人件費や材料費が増えて利益が残らないことがあります。逆に一時的な返戻で売上が下がっても、運用修正で回復できる場合があります。辻総合会計グループでは、改定後の月次会計を診療報酬の運用確認とセットで見ています。

月次で見るべき5つの数字
改定後に見るべき数字は、売上総額だけではありません。少なくとも次の5つを分けて管理します。
| 指標 | 見る理由 | 注意点 |
|---|---|---|
| 保険診療収入 | 改定の収益影響を見る | 患者数変動と分ける |
| 返戻・査定額 | 運用ミスを早期発見する | 月遅れで表れる |
| 人件費率 | 賃上げ・採用影響を見る | ベースアップ評価料と混同しない |
| 医療材料・外注費 | 増収の裏側のコストを見る | 診療内容の変化を反映する |
| 入金ズレ | 資金繰りを守る | 請求月と入金月を分ける |
点数改定の影響は、レセプト請求額、入金額、利益、資金残高に分けて追うと見落としが減ります。
月次試算の進め方
Step 1: 改定前3か月の基準値を置く
まず、改定前の患者数、保険診療収入、保険外収入、人件費率、材料費率を基準値にします。前年同月だけでなく、直近3か月平均も使うと季節要因をならしやすくなります。
Step 2: 改定後の差額を項目別に分ける
売上差額を、患者数による差、単価による差、算定項目による差に分けます。ここを分けないと、改定で増えたのか、患者数で増えたのかが判断できません。
Step 3: 返戻・査定を翌月以降に反映する
改定直後は、入力ルールや院内記録の変更により返戻が出やすくなります。返戻は発生月と修正月がずれるため、月次会議では別枠で管理します。
Step 4: 資金繰り表に落とす
会計上の売上と実際の入金は一致しません。給与支払、賞与、設備投資、借入返済がある場合、損益では黒字でも資金繰りが苦しいことがあります。
税理士と共有すべき資料
税理士へ相談する際は、試算表だけでなく、レセプト総括、返戻一覧、施設基準届出の状況、給与台帳、材料費の増減資料を共有すると分析しやすくなります。辻総合会計グループでは、月次試算に診療報酬の論点を重ね、院長が次に打つべき施策を整理します。
医療機関の会計は、通常の小売業やサービス業と異なり、保険請求から入金まで時間差があります。改定直後はこの時間差が判断を難しくします。数字を見る順番を決めておくことが、早期の経営判断につながります。
改定前後の比較で誤解しやすい点
改定後の月次試算では、前年同月比較だけでは判断を誤ることがあります。季節性、診療日数、連休、感染症の流行、スタッフ欠員、広告施策などが同時に影響するためです。診療報酬改定の影響を見たい場合は、患者数、診療日数、患者単価を分けて確認します。
例えば、売上が前年同月比で増えていても、診療日数が多かっただけかもしれません。反対に売上が減っていても、患者単価は上がっていて、患者数減少が主因ということもあります。改定影響は、売上総額ではなく単価と件数に分解して見ることが重要です。
月次会議で使う資料
月次会議では、試算表、レセプト請求額、入金予定表、返戻一覧、給与台帳、材料費一覧を並べます。これらを別々に見るのではなく、同じ月の動きとして確認します。返戻が増えている月に医療事務の残業が増えていれば、運用変更の負荷が数字に表れている可能性があります。
院長が見るダッシュボードの作り方
院長向けの管理資料は、細かすぎると使われません。毎月見るダッシュボードは、保険診療収入、患者数、患者単価、返戻・査定、入金予定、人件費率、材料費率、資金残高の8項目程度に絞ると運用しやすくなります。
辻総合会計グループでは、診療報酬改定後の月次報告を行う際、院長がその場で判断できる粒度に整えることを重視しています。会計処理の正確性だけでなく、「来月何を変えるか」まで決まる資料でなければ、月次試算の価値は下がります。
異常値が出たときの見方
患者単価が急に上がった場合は、算定項目の増加、検査比率の変化、患者構成の変化を確認します。返戻が急に増えた場合は、改定項目の入力ミス、記録不足、院内ルールの未統一を疑います。人件費率が上がった場合は、賃上げ、残業、採用、賞与引当のどれが原因かを分けます。
資金繰りへの接続
月次試算で利益が出ていても、資金繰りが安定するとは限りません。保険診療収入は請求から入金まで時間差があり、賞与、納税、社会保険料、借入返済は待ってくれません。改定後に新しい算定項目を増やす場合でも、最初の数か月は入金より先に人件費や準備費用が出ることがあります。
そのため、月次試算では損益だけでなく、翌3か月から6か月の資金繰り表を更新します。特に設備投資や採用を予定しているクリニックでは、改定による増収見込みを保守的に置くことが大切です。
3か月後に見直すべき判断
改定後3か月が経過したら、初期対応の結果を見直します。算定開始できた項目、想定より件数が少ない項目、返戻が出た項目、人件費や残業が増えた項目を分けます。初月だけでは一時的なブレが大きいため、3か月平均で見ると判断しやすくなります。
この時点で、院長が決めるべきことは主に3つです。第一に、継続して強化する算定項目。第二に、運用負荷が高く見直す項目。第三に、給与、賞与、採用、設備投資に反映する金額です。改定後の月次試算は、次の投資判断に使って初めて意味があると考えます。
月次報告で避けたい表現
月次報告では「売上が増えました」「利益が減りました」だけでは不十分です。なぜ増えたのか、どの診療内容が影響したのか、返戻や未収はないか、翌月以降も続くのかを説明する必要があります。辻総合会計グループでは、数字の増減理由を院長が説明できる状態にすることを重視しています。
改定後は、会計処理の正確性だけでなく、意思決定に使える月次資料が求められます。
実務で迷ったときの判断基準
実務で迷ったときは、制度上の可否、院内での再現性、経営数字への影響を分けて確認します。制度上できることでも、記録や説明が追いつかない場合は、すぐに全件へ広げない方がよいことがあります。反対に、収益影響が小さく見える項目でも、返戻や個別指導リスクを下げる意味で優先すべき場合があります。
院長が最終判断をする際は、医師、医療事務、看護師、経理、税理士がそれぞれ見ている論点を1枚にまとめます。辻総合会計グループでは、こうした論点整理を通じて、制度対応を単なる事務作業ではなく、収支改善とリスク管理の両方につながる取り組みとして扱います。
院内共有時に残しておきたい資料
この記事の内容を院内で使う場合は、判断の根拠を後から確認できるようにします。参照した公式資料、院内で決めた運用、担当者、確認日、次回見直し予定を残しておくと、担当者が変わっても同じ前提で確認できます。特に診療報酬改定直後は、追加資料や訂正が出ることがあるため、資料の版管理が重要です。
また、院内共有では専門用語を減らし、受付、医療事務、看護師、医師、経理がそれぞれ何をするかに分けて伝えます。制度説明だけでなく、月次数字へどう影響するかまで共有すると、改定対応が現場任せになりにくくなります。
よくある質問
Q: 改定後は何か月分を見れば判断できますか?
Q: レセプト請求額と会計売上はどちらを見るべきですか?
Q: 月次会議では何を決めればよいですか?
まとめ
- 改定後は売上総額だけでなく、返戻、人件費、材料費、入金ズレを分ける
- 改定前3か月の基準値と比較する
- 返戻・査定は翌月以降に遅れて出るため別管理する
- 月次試算を資金繰り表へつなげる
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省「個別改定項目について(令和8年2月13日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
- 厚生労働省「疑義解釈資料の送付について(その1)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001678310.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
この記事を書いた人

安田 駆流
社会保険労務士
社会保険労務士
税理士法人 辻総合会計グループの社会保険労務士。就業規則、雇用契約、勤怠・給与計算まわりの労務実務を担当し、クリニック・中小企業の職場ルール整備を支援する。
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