
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療機関の入金ズレ対策|保険請求と未収金を税理士が徹底解説

結論:入金ズレは「発生主義+未収金管理」で解消できます
医療機関の「入金ズレ」とは、保険請求入金(支払基金・国保連等)のタイミングや金額が、会計上の売上(収益)と一致しない状態です。
このズレは、会計が悪いというより「保険請求の構造」と「月次締めの運用不足」で起きます。
対策の要点はシンプルで、売上は発生(診療提供)で計上し、差額は未収金(保険請求未収)として台帳管理、入金時に入金消込することです。
税理士法人 辻総合会計では、30年以上にわたりクリニック・医療法人の月次体制整備を支援してきましたが、入金ズレは「台帳と消込の型」を作るだけで再発率が大きく下がります。
入金ズレとは何か:保険請求入金と売上が合わない理由
レセプトは「診療月」と「入金月」が一致しない
保険診療は、診療の提供(診療月)と請求・審査・支払(入金月)がズレます。
そのため、現預金の動きだけで売上を作ると、月次の利益が上下に振れ、資金繰り判断も誤りやすくなります。
ズレの主な原因(実務で多い順)
- 返戻(不備で差し戻し)・保留(確認待ち)による入金遅延
- 査定(請求の一部が認められない)による入金減
- 過誤(請求誤り)→再請求による入金月のずれ込み
- 公費・労災・自賠責など支払ルートの違い
- 窓口現金・キャッシュレス・振込の「入金経路の混在」
- 自由診療の返金・キャンセルが保険分と同じ入金口座で動く
売上計上の考え方:入金基準ではなく「権利確定(発生)」で捉える
税務の基本は「入金の有無ではなく、収入すべき権利」で判定する
事業の収入は、実際に入金していなくても、原則として「収入すべき権利が確定した時点」で計上する考え方が基礎になります。
医療でも同様で、診療行為を提供し、請求できる状態になっている部分は、会計上は売上(収益)として捉え、未収として管理するのが整合的です。
「現金主義」で処理してしまうと何が起きるか(比較表)
| 観点 | 入金基準(現金主義的運用) | 発生基準(未収金管理あり) |
|---|---|---|
| 月次利益 | 入金月に偏り、ブレやすい | 診療月に帰属し、比較しやすい |
| 資金繰り | 一見わかりやすいが誤判定が起きやすい | 現預金と未収金を分けて見られる |
| 返戻・査定 | 原因追跡が難しくなりやすい | 差額を台帳で追える |
| 経営KPI | 患者数・単価との整合が崩れやすい | 診療実態と整合しやすい |
対策の実務手順:月次締めを「台帳→消込→差額分析」の順に型化する
ここからが実務の要です。入金ズレ対策は、毎月の作業順を固定すると定着します。
Step 1: 診療月の売上と未収を「区分ごと」に分けて計上する
- 社保(支払基金)分、国保分、公費、労災、自賠責、自由診療など、支払ルート別に売上・未収を分けます。
- 会計ソフト側の科目や補助科目(または部門)で、後追いできる粒度にします。
Step 2: 「未収金台帳」を作り、診療月ごとに残高を積み上げる
- 台帳は難しくする必要はありません。最低限「診療月」「請求額」「入金額」「差額」「差額理由(返戻・査定・過誤・保留)」があれば機能します。
- 返戻・再請求は診療月の未収として残し、入金がズレても追える形にします。
Step 3: 入金時に消込し、差額を理由別に分類する
- 入金消込は「合っているか」だけでなく、「合わない理由」を残す作業です。
- 差額理由が毎月同じパターンで出るなら、請求オペレーション側の改善点が見えます。
Step 4: 差額の上位要因を月次でレビューし、翌月の作業を減らす
- 返戻の主因(記載不備、資格確認、算定ルール誤り等)を潰すと、翌月以降の台帳作業が軽くなります。
- 「差額の合計」ではなく、「差額理由別の件数・金額」で見るのがコツです。
現場でよくあるケーススタディ(匿名化)
例えば、月商2,000万円規模のAクリニックでは、「入金額=売上」として記帳していたため、12月は入金が増えて黒字に見え、1月は入金が減って赤字に見える状態でした。
未収金台帳を導入し、診療月売上と入金を分離したところ、実際は毎月ほぼ横ばいの利益率で、問題は返戻の再請求が翌々月にずれ込む運用にありました。
返戻理由の定型化と、再請求の締切日を決めたことで、月次締めが安定し、金融機関向け試算表の説明も容易になりました。
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平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
ズレ原因別のチェックリスト:差額を「処理すべきズレ」と「放置NG」に分ける
返戻・保留が多い
- 請求前チェック(資格、病名、コメント、算定要件)を「人」ではなく「手順」で担保できているか
- 再請求の締切日が決まっているか(担当者不在で滞ると未収が伸びます)
査定が多い
- 査定はゼロにするではなく、傾向分析が重要です
- 科目・医師別・診療行為別に偏りが出ていないかを確認します
患者負担(窓口)と保険入金が混在している
- 窓口入金(現金・カード・QR)を日計表で締め、売上との突合を日次で回す
- 保険請求分は月次で未収→入金消込の流れに乗せる
自由診療がある(返金・キャンセルが発生する)
- 自由診療は「前受」「売上」「返金」の運用が曖昧だと、保険入金と混ざって差額が読めなくなります
- 入口でルールを決め、帳票(同意書・請求書・返金書)と会計処理を連動させます
よくある質問
Q: 売上は診療月で立てたいですが、請求額が確定するのが後になります。どう扱いますか?
Q: 返戻・査定の差額は、いつ損失(減収)として処理すべきですか?
Q: 月次締めが遅く、入金消込まで手が回りません。最低限の優先順位は?
まとめ
- 医療機関の入金ズレは、保険請求の構造上「起きる前提」で設計すべきです
- 売上は診療提供(発生)で捉え、入金との差は未収金台帳で追跡します
- 月次は「台帳→消込→差額理由別分析」の順に型化すると定着します
- 返戻・査定・過誤は、差額の理由を残すことで再発防止につながります
- 自由診療や複数入金経路がある場合は、区分設計が入金ズレ対策の核心です
参照ソース
- 国税庁「No.2200 収入金額とその計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2200.htm
- 厚生労働省「社会保険診療報酬支払基金の説明概要(資料PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002c04q-att/2r9852000002c0ng.pdf
- 国税庁「法人税関係通達(措置法第67条 関係・資料PDF)」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/130627/pdf/14.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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