
執筆者:辻 光明
代表税理士
銀行融資審査の財務指標|中小企業の決算書改善を税理士が解説

銀行融資の審査で見られる財務指標とは
銀行融資の審査は、「返せるか(返済能力)」と「返し続けられるか(持続性)」を、決算書から定量評価する作業です。中小企業の場合、担保・保証だけでなく、資金繰りと利益体質の説明が弱いと、金利条件や融資額に跳ね返りやすくなります。
結論としては、審査で重視されるのは「利益が出ている」だけではなく、キャッシュが残る構造と、貸借対照表の健全性です。赤字でも通るケース、黒字でも落ちるケースの差は、指標そのものより「指標の背景を言語化できるか」にあります。
税理士法人 辻総合会計では、金融機関面談を前提に、決算書の見せ方(科目・注記・別表・補足資料)まで含めて融資設計を支援してきました。以下では、銀行が見ている代表指標と、通過率を上げる決算書の作り方を体系的に整理します。
銀行融資審査の定番「6つの財務指標」
金融機関は、企業の状況を短時間で把握するために、一定のセット指標でスクリーニングします。実務で使いやすい枠組みとして、経済産業省の「ローカルベンチマーク(ロカベン)」の財務6指標が参考になります。
- 売上増加率(成長性)
- 営業利益率(収益性)
- 労働生産性(生産性)
- EBITDA有利子負債倍率(健全性・返済余力)
- 営業運転資本回転期間(効率性・資金繰り)
- 自己資本比率(安全性)
ここで重要なのは、「良い数字に見せる」ことではなく、前年差・3期推移で語れる状態に整えることです。単年度で良くても、翌期に崩れる構造だと審査は厳しくなります。
財務指標ごとの見られ方と「決算書での改善ポイント」
自己資本比率(安全性)—「借入依存の度合い」を見る
自己資本比率が低いと、外部ショック(売上減・原価高騰)で資金繰りが崩れる懸念が強まります。中小企業では極端な水準を求められないこともありますが、債務超過(純資産マイナス)は大きな減点要素です。
改善の基本は次の3つです。
- 役員借入金(会社→役員への貸付、役員→会社への借入)の整理と注記
- 不要資産・遊休在庫の圧縮(資産の質の改善)
- 利益の社内留保(役員報酬の最適化、節税と自己資本のバランス)
EBITDA有利子負債倍率(返済余力)—「何年で返せるか」の直感指標
銀行は「借入を何年分の稼ぐ力で返せるか」を見ます。EBITDA(概念的には営業利益+減価償却費)を基準に、有利子負債が過大だと、追加融資に慎重になります。
決算書で効く改善は次の通りです。
- 減価償却の方針(設備投資のタイミングと耐用年数の妥当性)
- 特別損失・一過性費用(移転費、立上げ費)の分離と説明資料化
- 借入の一本化・返済年数の見直し(短期偏重の是正)
営業運転資本回転期間(資金繰り)—「売上はあるのに苦しい」の原因特定
売上債権(売掛金)+棚卸資産−仕入債務(買掛金)で構成される運転資本は、資金繰りの詰まりを可視化します。ここが悪化していると、黒字でも資金ショートリスクが高いと評価されます。
改善の打ち手はシンプルです。
- 売掛金の回収条件の見直し(締日・回収サイト短縮)
- 在庫の滞留削減(廃棄・値下げ・発注ロット見直し)
- 支払条件の交渉(買掛サイト延長、分割条件)
営業利益率(収益性)—「値付けと原価管理ができているか」
営業利益率は、金融機関にとって「経営管理の基本ができているか」の確認です。特に人件費比率が高い業種では、粗利構造と固定費の説明が求められます。
決算書上の工夫としては、次が効きます。
- 原価と販管費の科目整理(外注費・支払手数料・雑費の雑多化を解消)
- 部門別損益(主力商品・顧客層別)の補足資料
- 値上げ・価格改定の履歴と効果(売上総利益の改善根拠)
労働生産性(生産性)—「人を増やしても儲かるか」
採用難の時代、銀行は「人員増で売上が伸びても、利益が残るか」を見ています。労働生産性の改善は、採用計画と設備投資計画の説得力につながります。
- 1人当たり付加価値(概念)を意識したKPI(稼働率、単価、回転数)
- 残業・外注の最適化(固定費化のリスク説明)
- IT投資の投資対効果(削減工数、処理件数の増加)
売上増加率(成長性)—「伸び方の質」をチェック
成長していても、粗利が落ちている・運転資本が膨らんでいる成長は、資金繰り悪化と紙一重です。銀行は「成長に必要な資金の手当ができているか」を見ます。
- 増収の要因分解(単価×数量×顧客数)
- 伸びた取引先の与信・回収条件の整理
- 成長資金(運転+設備)の資金計画表
指標別の「目安」と審査での読み替え(比較表)
指標には業種差が大きいため、絶対値だけで判断されるわけではありません。ただし、面談で説明の起点になる目安を持つことは有効です。
| 財務指標 | 何を示すか | 銀行の見方(読み替え) | 決算書で効く改善 |
|---|---|---|---|
| 自己資本比率 | 安全性 | 債務超過は強い懸念、低いほど条件悪化 | 利益留保、資産の質改善、役員勘定整理 |
| EBITDA有利子負債倍率 | 返済余力 | 「何年で返せるか」の直感評価 | 一過性費用の分離、投資計画の整合、返済設計 |
| 営業運転資本回転期間 | 資金繰り | 黒字倒産リスクの有無 | 回収・在庫・支払条件の改善、サイト管理 |
| 営業利益率 | 収益性 | 管理体制の成熟度 | 科目の整理、原価管理、部門別損益 |
| 労働生産性 | 生産性 | 採用・拡大の持続性 | KPI設計、IT投資の根拠化 |
| 売上増加率 | 成長性 | 成長資金の必要額と回収可能性 | 要因分解、資金計画、取引条件の整備 |
ポイント:銀行は「数字」よりも「数字が示す経営の癖(資金が残らない原因)」を知りたがります。説明できる資料があるほど、審査は前に進みます。
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銀行融資の通過率を上げる「決算書の作り方」5ステップ
ここからは、融資審査で評価が上がりやすい決算書の整え方を、実務手順に落とします。単なる会計処理ではなく、金融機関が読みやすい形にする作業です。
Step 1: 3期比較できる形に「科目を固定」する
毎期、雑費・支払手数料・外注費などの振替が多いと、銀行側で前年差分析ができず、保守的評価になりがちです。
- 科目体系を固定し、前年差の説明が必要な項目だけ注記する
- 特別損失・一過性費用は可能な範囲で分離し、補足資料を付ける
Step 2: 役員勘定と関連当事者取引を透明化する
中小企業の審査で頻出の論点が、役員借入金・役員貸付金・私的流用疑義です。ここが曖昧だと、数字が良くても不信要因になります。
- 役員借入金の発生理由(資金繰り補填、立替等)を整理
- 返済・相殺方針を明示し、資金移動の証憑を揃える
Step 3: 運転資本(売掛・在庫)を圧縮して資金繰りを良くする
銀行は「返済原資=キャッシュ」を見ます。運転資本が膨らむほど、追加融資が必要になり、審査も厳しくなります。
- 売掛金年齢表(滞留の可視化)を作る
- 在庫回転の目標を置き、滞留在庫の処分方針を決める
Step 4: 見せる利益と税務の最適化を両立させる
融資局面では、利益を落とし過ぎる節税が逆効果になることがあります。特に、返済能力評価(利益+減価償却)を下げてしまうと、融資枠が縮みます。
- 役員報酬は「生活+税務+金融」の3点で設計する
- 減価償却は投資計画と一体で説明する(なぜ今、なぜこの規模か)
Step 5: 決算書に面談用の別紙を添える(これが最後の差になる)
通過率を上げる決め手は、決算書そのものより、補足資料で「不安を先回りして潰す」ことです。
- 資金繰り表(12か月)と返済計画表
- 設備投資の見積・稟議(投資対効果)
- 売上の内訳(主要取引先、単価×数量)
- 借入一覧(金融機関別、返済条件、担保・保証)
銀行融資 審査 決算書 通過 コツは、「説明資料の精度」と言い換えてもよいでしょう。
ケーススタディ:黒字なのに否決→翌期で通過した中小企業の共通点
よくある相談として、「黒字決算なのに融資が通らない」というケースがあります。原因は黒字赤字ではなく、次のどれかに集約されることが多いです。
- 売掛金が増え続け、営業CFがマイナス(資金繰り悪化)
- 在庫が増え、実質的に資金が寝ている(資産の質が悪い)
- 役員貸付金が膨らみ、私的流用疑義がある(信頼性低下)
- 利益が特殊要因で出ている(継続性が弱い)
改善した企業は、決算書の数字を動かす前に、運転資本と説明資料の整備から着手しました。結果として、金利条件が改善し、必要資金を一括で調達できた、という流れです。
よくある質問
Q: 赤字でも銀行融資は通りますか?
Q: 自己資本比率が低いと必ず不利ですか?
Q: 節税で利益を落としている場合、どうすべきですか?
Q: ローカルベンチマーク(ロカベン)は融資に使えますか?
まとめ
- 銀行融資審査は「利益」だけでなく、キャッシュが残る構造と貸借対照表の健全性を見ている
- 実務で有効な枠組みとして、ロカベンの6指標(自己資本比率、EBITDA倍率、運転資本回転期間など)を押さえる
- 通過率を上げるには、科目の固定、役員勘定の透明化、運転資本の圧縮が効く
- 節税と融資は最適解がズレることがあるため、融資期は見せる利益の設計が必要
- 決算書に資金繰り表・返済計画・投資根拠を添付し、面談で説明できる状態にする
参照ソース
- 経済産業省「ローカルベンチマーク(ロカベン)シート」: https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/sheet.html
- 経済産業省「財務指標の評価付与方法について(PDF)」: https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/pdf/hyotei2022r.pdf
- 金融庁「中小企業等に対する金融円滑化対策について」: https://www.fsa.go.jp/policy/chusho/enkatu.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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