
執筆者:辻 光明
代表税理士
資金繰り表の作り方|3か月先を見通す方法を税理士が解説

資金繰り表とは?倒産を防ぐための「現金の予定表」
資金繰り表とは、将来の入金と支払を時系列で並べ、月末(または週末)に現預金がいくら残るかを見通す表です。利益が出ていても、入金より支払が先に来れば資金ショートは起こります。資金繰りが不安で先が読めない経営者にとって、資金繰り表は「倒産を防ぐための財務管理の基礎ツール」です。
結論として、3か月先を見通すコツは「当月は日次〜週次で実績管理、翌月〜3か月は月次で予測、毎月ローリング更新(先送り)する」運用にあります。
資金繰り表が必要な中小企業の典型パターン
資金繰り表が真価を発揮するのは、次のような「利益と現金がズレる」局面です。
- 売上は伸びているのに、売掛金の回収が遅い(入金サイトが長い)
- 仕入・外注・人件費の支払が先行する(支払サイトが短い)
- 納税(法人税・消費税)や賞与が年数回に集中する
- 借入返済が固定で毎月発生し、繁閑差が大きい
- 追加融資の可否が読めず、金融機関への説明材料が必要
資金繰り表の作り方(3か月版)|テンプレートで最短作成
資金繰り表は「難しいモデル」を作るより、まずは3か月先までの実務運用に耐える形で作るのが近道です。基本構造は次の3つです。
- 期首現預金(当月のスタート残高)
- 収入(入金予定)
- 支出(支払予定)
→ これらから「翌月繰越(期末残高)」を計算します。
Step 1: 期首残高(現金・預金)を確定する
最初に、当月初の現金・普通預金・当座預金の残高を記入します。会計帳簿の残高ではなく、通帳・ネットバンクで実残高を合わせるのが基本です。
ここがズレると、資金繰り表全体が信用できなくなります。
Step 2: 入金予定(売上回収)を「請求書ベース」で積み上げる
入金の柱は売掛金回収です。推奨は次の順序です。
- すでに発行済みの請求書:入金予定日で計上
- 未請求だが受注済み・継続課金:過去実績から予測
- それ以外:保守的に見積もる(希望的観測を排除)
ポイントは、売上高ではなく入金日で置くことです(資金繰り表は「発生」ではなく「着金」を管理します)。
Step 3: 支払予定を「固定費→変動費→臨時支出」の順に埋める
支出は漏れが命取りです。次の順で入力すると漏れにくくなります。
- 固定費:家賃、人件費、社保、リース、通信費、顧問料
- 変動費:仕入、外注、販売手数料、広告費(発注・請求書ベース)
- 財務支出:借入返済、利息
- 税金・賞与:納付月を必ず固定して入力
- 臨時支出:設備投資、更新費、修繕、退職金など
Step 4: 3か月先の「最低必要現金(安全残高)」を決める
資金繰り表は、月末残高がプラスでも安心ではありません。運転資金として「下回りたくない残高(安全残高)」を設定します。目安は業種で異なりますが、まずは次のいずれかで設定すると運用しやすいです。
- 毎月固定費の1〜2か月分(人件費+家賃+主要固定費)
- 直近3か月の最大支払月の7〜10割
Step 5: 不足が出る月に「手当て(資金調達・支払調整)」を入れる
翌月繰越が安全残高を割る月が見えたら、その時点で手当てを入れます。代表例は次の通りです。
- 早期回収:請求前倒し、分割請求、入金条件の見直し
- 支払調整:支払サイト交渉、分割、発注時期の調整
- 資金調達:当座貸越、短期借入、追加融資、補助金・助成金の入金時期確認
- 固定費削減:サブスク、外注、広告の費用対効果見直し
3か月先を見通す運用ルール|「ローリング」と「粒度」が9割
資金繰り表は作った瞬間より、運用で価値が決まります。3か月先を見通すための定番運用は次のセットです。
- 当月:日次〜週次で実績反映(入出金のズレを吸収)
- 翌月:請求書・支払予定確定分を中心に精度高く
- 2〜3か月先:保守的な予測(受注確度と季節性で調整)
- 毎月更新:常に「当月+3か月」の窓を維持(ローリング)
よくある失敗:売上予測だけ精緻で、支払・税金が抜ける
資金不足の主因は「支払の見落とし」に寄りがちです。特に抜けやすいのは以下です。
- 消費税・法人税・予定納税
- 社会保険料(改定月)
- 賞与・退職給付
- 期中の設備更新(PC、車両、医療機器、厨房設備など)
- 借入の元本返済(利息だけ入力している)
資金繰り表と試算表(損益)の違いを整理する
損益(利益)と現金(資金繰り)は別物です。混同すると判断を誤ります。
| 項目 | 試算表(損益) | 資金繰り表 |
|---|---|---|
| 管理対象 | 売上・費用・利益 | 入金・支払・現預金 |
| 基準 | 発生主義(計上) | 現金主義(着金・支払) |
| 強み | 収益性の把握、原価・販管費の分析 | 資金ショートの予防、調達判断 |
| 弱み | 現金の不足が見えにくい | 収益性改善の原因分析は弱い |
| 使いどころ | 値付け・採算管理・予算 | 借入・納税・投資タイミング |
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ケーススタディ:黒字でも資金不足が出る3つの典型
ここでは実務で多いパターンを匿名化して整理します。
1) 売上急増で回収が遅れ、仕入支払が先行
月商が伸びた一方、回収が翌々月で、仕入は翌月払い。表にすると、売上増加局面ほど資金が減る「成長痛」が見えます。
対策は、入金条件の見直し(前受・中間金)、仕入条件交渉、短期資金の確保(当座貸越など)です。
2) 納税月・賞与月に安全残高を割り込む
普段は回っているが、年1〜2回の支出で一気に不足するパターンです。資金繰り表で「山(大口支出)」を先に置くと、普段の運用が整います。
対策は、納税・賞与の積立(別口座管理)と、支払の分散設計です。
3) 借入返済が固定で、閑散期に赤字転落
繁忙期の利益で返済を回していたが、閑散期に入金が細り返済が重くなるケースです。
対策は、返済条件の見直し(期間延長等)を含め、金融機関へ「資金繰り表+改善策」で説明できる状態を作ることです。
よくある質問
Q: 資金繰り表は月次で十分ですか?週次も必要ですか?
Q: 3か月先の予測精度が上がりません。何から直すべきですか?
Q: 資金繰り表のテンプレートはどこから入手できますか?
Q: 資金不足が見えたら、最初に打つべき手は何ですか?
まとめ
- 資金繰り表は、入金と支払の時系列で現預金残高を見通し、資金ショートを防ぐ表
- 3か月先の見通しは「当月は実績管理、翌月〜3か月は予測、毎月ローリング更新」が基本
- 支払(税金・返済・賞与・社保)の漏れが最大リスク。固定支出を先に入れる
- 安全残高(最低必要現金)を決め、割り込む月は早期回収・支払調整・資金調達で手当て
- 試算表(損益)と資金繰り表(現金)は別物。両輪で管理して倒産予防につなげる
参照ソース
- 日本政策金融公庫「資金繰り表(簡易版)様式」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/data1_170501.xls
- 日本政策金融公庫「資金繰り表(簡易版)作成手順及び記載例」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/data3_170501.xls
- 中小企業庁「早期経営改善計画策定支援」: https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/04.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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