
執筆者:辻 光明
代表税理士
予実管理と事業計画書の作り方|税理士が解説

予実管理とは?事業計画書を「経営改善」に変える仕組み
予実管理とは、予算(計画)と実績を定期的に比較し、ズレ(差異)の原因を特定して次の打ち手に落とし込む管理手法です。中小企業にとっての核心は、「当期黒字かどうか」より先に「ズレを早期発見して手を打てるか」にあります。
一方で「事業計画書は作ったが、見返していない」「月次試算表はあるが、原因分析まで行っていない」という相談は非常に多いです。税理士法人 辻総合会計でも、予算と実績の比較を会計の作業で終わらせず、経営改善の会議体に落とし込む支援を行ってきました。
この記事では、予実管理と事業計画書の関係、作り方(手順)、ズレの読み解き方、そして中小企業で回る運用設計をまとめます。
予実管理と事業計画書の違い:目的と粒度を揃える
まず押さえたいのは、「事業計画書」と「予実管理」は別物だが、数字の整合性で接続されるという点です。J-Net21(中小機構)でも、計画書は言葉と数字の整合性(例:販促強化と言いながら広告費が増えていない等)が重要だと整理されています。
| 項目 | 事業計画書 | 予実管理 |
|---|---|---|
| 主目的 | 将来像の提示・資金調達・社内合意形成 | 月次での軌道修正・経営改善 |
| 期間 | 1〜3年(場合により5年) | 月次(最低でも四半期) |
| 粒度 | 事業モデル全体(市場・施策・投資) | 売上/粗利/固定費/人件費などの管理科目 |
| 成功の定義 | 計画の説得力と実行可能性 | 差異の原因が説明でき、打ち手が決まる |
| ありがちな失敗 | 文章と数値が矛盾する | 実績集計で止まり、改善に結びつかない |
中小企業の現場では、事業計画書は「年次」、予実管理は「月次」を担当します。両者をつなぐコツは、事業計画書の数値計画を月次化して、予実の会議で使える形に落とすことです。
予実管理の作り方:中小企業でも回る最小構成
「本格的な管理会計は難しい」という場合でも、最小構成で十分に効果が出ます。ポイントは、KPIを絞り、差異分析の型を固定することです。
1)管理する指標(KPI)を3〜7個に絞る
いきなり全勘定科目を管理しようとすると運用が破綻します。まずは以下のように、経営ドライバーに直結する項目から開始します。
- 売上高(できれば数量×単価に分解)
- 粗利(売上総利益)または粗利率
- 人件費(固定・変動の切り分けができると強い)
- 販促費(広告費)
- 営業利益(または限界利益)
- 現預金残高/資金繰り(借入返済込み)
業種ベンチマークが欲しい場合は、日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査」等を参照し、粗利率や人件費比率の違和感検知に使うと有効です(業種差が大きい点には留意)。
2)予算の作り方:トップダウンより「ドライバー型」を採用する
中小企業で回しやすいのは、売上を数量×単価、原価を仕入単価×数量のように分解するドライバー型です。これにより、差異分析が一気に楽になります。
- 売上予算:来客数(受注数)×客単価
- 粗利予算:売上−変動費(仕入・外注など)
- 固定費予算:人件費・家賃・リース・通信費 等
「売上が未達」ではなく「数量が未達なのか、単価が未達なのか」が分かるだけで、打ち手(集客・単価改定・成約率改善)が決まりやすくなります。
予算と実績のズレを経営改善につなげる手順(差異分析の型)
ここからが本題です。ズレを改善に変えるには、会議のアジェンダを固定し、毎月同じ型で差異を裁く必要があります。
Step 1: 月次の締め日とデータ確定日を決める
- 例:翌月10日までに月次試算表を確定、翌月15日に予実会議
- 期限が曖昧だと、会議が感想戦になります
Step 2: 予算・実績・前年差を同じフォーマットで並べる
最低限、以下を並べます。
- 当月:予算/実績/差異(前年差もあると望ましい)
- 累計:予算/実績/差異
- 着地見込み:当期見込み(フォーキャスト)
Step 3: 差異を「数量差」「単価差」「ミックス差」「タイミング差」に分ける
差異の代表的な分解観点です。
- 数量差:来客数・受注数・稼働率の変動
- 単価差:値引き、価格改定、客単価の変動
- ミックス差:高粗利商品の比率が下がった等
- タイミング差:売上計上月、仕入計上月のズレ
Step 4: 打ち手を数字に落として担当と期限を決める
差異分析のゴールは、改善アクションです。
- 例:来月の来店数+50件を狙う → 広告予算+10万円/LP改善/紹介施策
- 例:単価を+3% → 値上げ告知、セット販売、オプション導入
Step 5: 次月の予算(または見込み)へ反映してループを回す
差異を放置すると、予算は当初計画のままで形骸化します。少なくとも四半期ごとに、着地見込みを更新しましょう。これが予実管理を「経営改善のPDCA」にする最後の一手です。
中小企業の税務・経営相談
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予実管理を数字が回る会社にする運用設計(中小企業向け)
月次会議の型(60分で終える)
中小企業で継続するには、会議を短く、論点を固定します。
- 10分:当月の結論(着地見込みと資金残高の見通し)
- 20分:売上・粗利の差異(数量×単価で説明)
- 15分:人件費・販促費など固定費の差異
- 15分:アクション決定(担当・期限・数値)
資金繰りまで繋ぐ:PLだけで終わらせない
利益が出ているのに資金が足りない、という事態は珍しくありません。日本政策金融公庫が公開する「資金繰り表(簡易版)」などの様式を使い、月次で「現金の増減」を見える化すると、予実管理が一段強くなります。
- 売上(請求)と入金のズレ
- 仕入(計上)と支払のズレ
- 借入返済の固定支出
- 消費税・法人税などの納税資金
「利益」ではなく「現金」が尽きると経営は止まるため、資金繰りの予実(予定と実績)もセットで運用するのが安全です。
よくある失敗と対策(現場で多いパターン)
- 失敗:予算が気合いで作られており、ズレても原因が説明できない
- 対策:数量×単価、稼働率×単価などドライバーに戻す
- 失敗:実績集計が遅く、打ち手が翌々月になる
- 対策:締め日・確定日・会議日を固定する
- 失敗:差異が多すぎて議論が散らかる
- 対策:重要科目(売上・粗利・人件費・販促費)に絞る
- 失敗:会議が反省会になり、行動が決まらない
- 対策:アクションに必ず「担当・期限・数値」を付ける
よくある質問
Q: 予実管理は月次と四半期、どちらが良いですか?
Q: 事業計画書の数字をそのまま予算にしても問題ありませんか?
Q: 資金繰りまで予実管理に入れるべきですか?
まとめ
- 予実管理は、予算と実績のズレを分析し、打ち手に変える仕組み
- 事業計画書は年次、予実管理は月次。数字を月次化して接続すると機能する
- 差異は「数量差・単価差・ミックス差・タイミング差」で分解すると改善が決まる
- 会議は型を固定し、アクションに担当・期限・数値を付ける
- PLだけで終わらせず、資金繰りの予実も併用すると安全性が上がる
参照ソース
- J-Net21(中小機構)「事業計画書の作成手順」: https://j-net21.smrj.go.jp/startup/manual/list5/5-1-2.html
- 日本政策金融公庫「資金繰り表(簡易版)作成手順及び記載例(XLS)」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/data3_170501.xls
- 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」: https://www.jfc.go.jp/n/findings/shihyou_kekka_m_index.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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