
執筆者:辻 光明
代表税理士
消費税確定申告を自分でやる手順|税理士が解説

消費税の確定申告を自分でやるには、まず「課税売上」と「仕入税額控除」を押さえる
消費税の確定申告は、結論から言うと「課税売上に係る消費税」から「仕入税額控除」を差し引いて納付(または還付)を計算します。初めて課税事業者になった個人事業主の方にとっては、所得税の申告よりも集計の考え方が違う点が混乱しがちです。特に「課税売上の範囲」と「インボイス保存の有無」で税額が大きく変わります。この記事では、税理士法人 辻総合会計での実務相談で多い誤りを踏まえ、期限(個人事業主は3月31日)から逆算して、迷わない手順をまとめます。
消費税の申告義務が生じる条件と、個人事業主の申告期限(いつまで)
申告が必要になりやすい代表パターン
個人事業主で消費税申告が必要になる典型は次のとおりです。
- 基準期間(原則「前々年」)の課税売上高が1,000万円超となり課税事業者になった
- インボイス発行事業者として登録し、課税事業者を選択した(売上規模にかかわらず申告が必要になり得ます)
- 課税事業者選択届出書を提出して免税事業者から課税事業者へ切り替えた
申告期限:個人事業主は3月31日(所得税とズレる)
個人事業者の消費税・地方消費税の申告・納付期限は、原則として翌年の3月31日です。所得税の確定申告期限(通常3月15日)と差があるため、「所得税が終わって安心していたら消費税が残っていた」という相談が毎年増えます。期限ギリギリは入力ミスも増えるので、2月末〜3月中旬には集計を終えるのが安全です。
課税売上の基本:1,000万円判定で間違えやすい「含める売上・除く売上」
消費税の計算は、所得税の収入と似ていても一致しません。まずは課税売上(消費税がかかる売上)の範囲を固めましょう。
課税売上に「含める」ことが多いもの
- 国内取引で、事業として対価を得て行う資産の譲渡・貸付け、役務の提供
- 事業用資産(建物、機械、車両など)の譲渡収入(事業で使っていたものの売却)
「本業の売上だけ見ていたら、年末に事業用資産を売って1,000万円判定を超えた」というケースは珍しくありません。
課税売上から「除く」代表例(非課税・不課税の論点)
- 給与・賃金(雇用契約に基づくもの)など事業者の売上ではないもの
- 非課税取引に該当するもの(例:一定の家賃、保険料などは個別判断が必要)
ここは取引内容で結論が変わるため、迷った場合は国税庁の区分や税理士への確認が安全です。
「簡易課税」vs「本則課税」どっち?選び方の実務ポイント
消費税の申告は大きく「本則課税(原則)」と「簡易課税」に分かれます。簡易課税は、実際の仕入税額控除を積み上げずに、業種ごとのみなし仕入率で仕入税額控除相当を計算します。
比較表:初めての人が判断するための早見
| 比較項目 | 本則課税(一般) | 簡易課税 |
|---|---|---|
| 計算の考え方 | 売上税額 − 実額の仕入税額控除 | 売上税額 −(売上税額×みなし仕入率) |
| 必要な証憑管理 | インボイス等の保存が重要(控除の根拠) | 取引区分は必要だが、実額控除ほど積上げ負担は軽い |
| 向いているケース | 仕入・外注・設備投資が多く、控除額が大きい | 仕入が少なく、事務負担を下げたい |
| 注意点 | インボイス不備で控除否認リスク | 事業区分の判定ミスで税額がズレる |
みなし仕入率(代表的な区分)
簡易課税の事業区分は複数あります。代表的なみなし仕入率は次のとおりです(実際は取引内容で区分判断が必要)。
| 事業区分(例) | みなし仕入率 |
|---|---|
| 第1種(卸売業) | 90% |
| 第2種(小売業) | 80% |
| 第3種(製造業・建設業等) | 70% |
| 第4種(飲食店業など) | 60% |
| 第5種(サービス業など) | 50% |
| 第6種(不動産業) | 40% |
仕入税額控除で間違えやすいポイント:按分・インボイス・経過措置
本則課税で最もミスが出るのが仕入税額控除です。税額が大きく動くため、ここだけは丁寧に確認しましょう。
インボイス(適格請求書)を保存していない
仕入税額控除は、原則として帳簿と請求書等の保存が要件です。インボイス制度開始後は、適格請求書(または適格簡易請求書)等の保存が基本線になります。保存が弱いと、税務調査で控除否認されるリスクが上がります。
- 受領した請求書が適格請求書か(登録番号、税率ごとの消費税額等)
- 電子データで受領した場合は、保存要件(電帳法)の観点も含めた管理
- 例外的に帳簿保存のみで認められる取引や、一定の経過措置の対象か
プライベート混在(家事関連費)の按分が雑
個人事業主は「自宅家賃」「スマホ通信費」「車両費」など、事業と私用が混在しやすいです。按分が合理的でないと、控除額が過大になりやすいです。
- 面積按分(自宅家賃・光熱費)
- 通信明細や利用実態に基づく按分(スマホ・ネット)
- 走行距離や利用記録に基づく按分(車両費)
「所得税では概算で処理していたが、消費税では同じ感覚で進めてしまった」というミスが典型です。
免税事業者等からの仕入れを全部控除してしまう
相手先がインボイス発行事業者でない場合、仕入税額控除の可否・範囲は制度上の整理が必要です。取引先の区分(登録の有無)を把握しないまま集計すると、控除漏れ・控除過大の両方が起きます。
中小企業の税務・経営相談
創業から成長期まで、企業のフェーズに合わせた税務・経営サポートを提供しています。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
消費税が還付になるケースと、手続きで必要になりやすい書類
「消費税は納付だけ」と思われがちですが、条件によっては還付になることがあります。
還付になりやすい典型
- 輸出取引など、売上側がゼロ税率で仕入税額控除が大きい
- 設備投資が多く、課税仕入れに係る税額が売上税額を上回る年
- 開業初期で売上がまだ小さく、仕入・外注が先行している
還付申告では、通常の申告より根拠資料の整備が重要になります。実務では、還付の明細書の添付や、投資内容の説明が求められやすいため、期限直前に作ろうとせず早めに準備しましょう。
消費税申告を自分でやる手順(e-Tax前提の実務フロー)
ここからは、初めての方が迷いにくい手順に落とします。作業は「集計→判定→作成→提出→納付」の順が王道です。
Step 1: 今年の立ち位置を確定する(課税事業者か/方式はどれか)
- 基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円超か
- インボイス登録の有無、課税事業者選択届出の有無
- 方式が本則課税か、簡易課税か(届出の提出状況も確認)
Step 2: 課税売上を集計する(税率区分も忘れず)
- 10%対象、8%(軽減)対象を区分
- 事業用資産の売却など、漏れやすい売上を洗い出す
- 非課税・不課税の取引が混ざる場合は別管理する
Step 3: 仕入税額控除の対象を集計する(インボイス保存をチェック)
- 取引先がインボイス発行事業者か、請求書が要件を満たすか
- 家事按分が必要なものを分け、合理的な基準で按分する
- 例外・経過措置の対象になり得る取引を識別する
Step 4: 確定申告書等作成コーナーで申告書を作る(一般用/簡易課税用を選択)
- 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で金額を入力し、税額計算を自動化
- 付表(売上・仕入の内訳等)を作成し、整合性を確認する
- マイナンバー等の入力・本人確認要件にも注意する
Step 5: e-Taxで送信し、納付方法を確定する(振替・ダイレクト納付等)
- 送信後、納付額が出たら納期限までに納付手段を選ぶ
- 口座振替を使う場合は、提出期限や振替日も含めて段取りする
- 還付の場合は、明細書等の添付・保存を強化する
よくある質問
Q: 消費税の申告期限はいつまでですか?所得税と同じですか?
Q: 簡易課税と本則課税は、どちらが得ですか?
Q: インボイスがない領収書でも、仕入税額控除はできますか?
Q: 自宅家賃やスマホ代の消費税は全部控除できますか?
まとめ
- 消費税申告は「課税売上の税額 − 仕入税額控除」が基本で、まず課税関係(いつから課税事業者か)を確定する
- 個人事業主の申告・納付期限は原則3月31日で、所得税より遅い点が落とし穴
- 「簡易課税」か「本則課税」かで必要な集計と税額が大きく変わるため、投資計画も踏まえて選ぶ
- 仕入税額控除はインボイス保存、家事按分、取引先区分のミスで税額がズレやすい
- 還付が出る年は明細や根拠資料が重要なので、期限直前ではなく早めに準備する
参照ソース
- 国税庁「消費税・地方消費税(個人事業者)の確定申告と納税は正しくお早めに」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/campaign/r8/Mar/01.htm
- 国税庁「No.6497 仕入税額控除のために保存する帳簿および請求書等の範囲」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6497.htm
- 国税庁「No.6505 簡易課税制度」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
- 国税電子申告・納税システム(e-Tax)「作成コーナーで消費税申告書を作成したい」: https://www.e-tax.nta.go.jp/toiawase/faq/gaiyo/10.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。