
執筆者:辻 光明
代表税理士
2026税制改正 青色申告とインボイス|税理士が解説

2026年の税制改正(令和8年度税制改正大綱)で、フリーランスの確定申告は「控除を増やすチャンス」と「インボイスの経過措置が変わる注意点」が同時に来ます。結論から言うと、電子申告と帳簿のデジタル保存を整えるほど青色申告が有利になり、インボイスは「終わる特例」と「続く(別の)軽減措置」があるため、制度の切替タイミングで損得が分かれます。
この記事では、税理士法人 辻総合会計の実務目線で、改正点の整理と「何をいつやるべきか」を具体化します。なお、制度は法令化で細部が確定するため、最終判断は適用時期・要件の確定後に行ってください。
青色申告控除65万円→75万円はいつから?条件と手続き
75万円控除の位置づけ(結論:令和9年分から)
令和8年度税制改正大綱では、青色申告特別控除を段階的に見直し、最終的に最大75万円へ引き上げる方針が示されています。適用時期は、令和9年分以後の所得税とされています。
ポイントは「いきなり全員が75万円」ではなく、要件を満たすほど控除が上がる設計になっている点です。
75万円にするための要件(実務でやること)
大綱の書きぶりを実務に落とすと、75万円に近づくための要件は大きく2系統です。
- 申告書・決算書類等を期限内にe-Taxで提出(電子申告)
- 仕訳帳・総勘定元帳を中心に、電子帳簿保存法系の「一定要件を満たす電磁的記録保存」等を行う
つまり、「電子申告」+「帳簿のデジタル運用」が前提条件になります。
手続きのステップ(この順で整えると早い)
Step 1: 青色申告の前提(複式簿記+決算書類)を固定する
65万円・55万円の青色申告特別控除は、複式簿記で記帳し、貸借対照表・損益計算書等を添付して期限内申告するのが原則です。まずここを崩さないことが重要です。
Step 2: e-Tax提出を毎年の運用にする
スポットで電子申告するのではなく、確定申告の提出を毎年e-Taxで回す運用にします。提出期限に遅れると効果が落ちます。
Step 3: 帳簿保存の設定(会計ソフト+保存要件)を詰める
仕訳帳・総勘定元帳の保存方法、電子取引データの保存など、「保存のルール」を決めます。ここが75万円の分かれ目です。
インボイス特例の「落とし穴」:どのケースで損が出るか
まず整理:2割特例は期限がある
国税庁の案内では、2割特例を適用できる期間は「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」です。個人事業者(原則:暦年課税)だと、適用できる申告回数にも限りが出ます。
一方で、令和8年度税制改正大綱では、2割特例終了後も、個人事業者について「売上税額の3割」を納税額にできる措置を2年に限り講ずる(令和9年分・令和10年分)とされています。つまり「2割→(条件次第で)3割」へ、軽減の形が変わる局面が来ます。
「改悪点」と言われやすいポイント(実務で困るのはここ)
制度としての評価は立場で変わりますが、損益が動きやすいのは次の3つです。
- 2割特例の適用期限があるため、同じ売上でも年度の切替で納税額が増え得る
- 取引先から「インボイス登録してほしい」と言われ、免税→課税へ移行するとキャッシュフローが変わる
- 仕入・外注比率が高い人は、簡便(2割/3割)より本則計算の方が有利になる場合がある(逆もある)
損失シミュレーション(概算)
ここでは考え方を掴むために、あえて単純化した概算例を示します(実際は非課税取引・軽減税率・経費の税区分等で変動します)。
前提(例)
- 課税売上:800万円(すべて10%対象と仮定)
- 売上に係る消費税(売上税額):80万円
- 課税仕入れに係る消費税(仕入税額控除の素材):30万円相当(外注・広告・仕入等の合計に対応すると仮定)
このときの概算:
| 計算方式 | 納税イメージ(概算) | どんな人に向きやすい |
|---|---|---|
| 2割特例(売上税額×20%) | 80万円×20%=16万円 | 仕入税額控除が少ない(経費の消費税が少ない) |
| 3割措置(売上税額×30%) | 80万円×30%=24万円 | 2割終了後の移行期で簡便にしたい |
| 本則(売上税額−仕入税額控除) | 80万円−30万円=50万円 | 仕入・外注・仕入れが多い(控除が厚い) |
この例だと、2割→3割に変わるだけで「16万円→24万円」と納税が増えるため、切替年度に「増えた」と感じやすくなります。一方、仕入控除が大きい人は、簡便措置より本則の方が不利になる(=納税が増える)場合があり、ここが一番の分岐点です。
少額減価償却 30万円→40万円の使い方(いつから?も含む)
何が変わる?(大綱:40万円未満へ)
令和8年度税制改正大綱では、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」について、対象となる取得価額を40万円未満(現行:30万円未満)に引き上げる(所得税も同様)とされています。
「いつから?」の考え方(現行期限から逆算する)
国税庁の現行制度では、30万円未満の少額減価償却資産の特例は「令和8年3月31日まで」に取得等して事業供用した場合が対象とされています。したがって、引上げが法令化されるなら、令和8年4月1日以後の取得分を起点に設計される可能性が高い、という読みになります(最終確定は改正法の施行規定で判断)。
実務での使い分け(40万円になっても万能ではない)
少額減価償却は便利ですが、全てをここに寄せると逆に不利になることがあります。
- 利益が大きい年:当期費用化を厚くして所得を圧縮しやすい
- 利益が小さい年:無理に当期費用化せず、通常償却で将来に費用配分した方が平準化できる
- 融資を予定:利益を落としすぎると資金調達の見え方に影響することがある
「40万円未満で買えば全部正解」ではなく、利益計画と資金繰りに合わせて選択するのがコツです。
「改正を知っているだけで変わる」節税アクションリスト
- e-Taxを毎年の運用にする(電子申告の習慣化)
- 帳簿(仕訳帳・総勘定元帳)と電子取引データの保存ルールを整備する
- インボイスは「簡便(2割/3割)」「本則」「簡易課税」のどれが有利か、売上・経費構造で年1回は見直す
- 高額な備品購入は、利益の山谷と投資計画を見て「当期費用化」と「通常償却」を選ぶ
- 取引先要請(登録の要否)と値付け(消費税分の価格転嫁)をセットで交渉する
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税理士に相談すべきボーダーライン(年収・事業規模)
税理士に相談する基準は「不安だから」でももちろん良いのですが、コスト対効果が出やすいボーダーを置くなら次の通りです。
- 課税売上が1,000万円近辺で、免税/課税の判定や選択が絡む
- インボイス登録を求められており、簡便措置・本則・簡易課税の比較が必要
- 外注・広告など課税仕入が大きく、消費税の計算方式で納税が大きく変わる
- 設備投資(PC、撮影機材、医療系なら検査機器等)が毎年発生し、償却設計が必要
- 売上が伸びて「法人化」も視野に入り、所得税・消費税・社会保険まで通しで最適化したい
当法人でも、フリーランス・小規模事業者の申告支援では「売上が増えた年ほど、制度選択の差がそのままキャッシュに出る」ケースがよくあります。迷いどころが見えた時点で、早めに一度、試算だけでも行うのが安全です。
よくある質問
Q: 青色申告75万円控除はいつから使えますか?
Q: e-Taxだけやれば75万円控除になりますか?
Q: インボイスの2割特例が終わると、必ず損しますか?
Q: 30万円→40万円の少額減価償却は、個人事業主も対象ですか?
まとめ
- 2026年改正では、青色申告控除を最大75万円へ引き上げる方向が示されている(令和9年分以後の適用とされる)
- 75万円は「電子申告」だけでなく「帳簿のデジタル保存」要件がカギ
- インボイスは2割特例に期限があり、終了後の軽減措置(3割)など切替で損得が動く
- 少額減価償却は40万円未満への引上げ方針だが、適用時期は施行規定で最終確認が必要
- 売上規模・仕入構造・投資計画の3点セットで、年1回は試算して制度選択を行うのが安全
参照ソース
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱(PDF)」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要(PDF)」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.pdf
- 国税庁「No.2072 青色申告特別控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除等)」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm
- 国税庁「No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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