
執筆者:辻 光明
代表税理士
キャッシュフロー計算書の見方と資金繰り表の作り方|税理士が解説

キャッシュフロー計算書とは?まず結論
キャッシュフロー計算書は「一定期間にお金(現金・預金等)がどう増減したか」を、営業・投資・財務の3区分で説明する資料です。一方、資金繰り表は「将来の入出金予定を月次・週次で並べ、資金ショートの兆候を早期に発見する」ための管理表です。黒字でも倒産が起きるのは、利益と入出金のタイミングがズレるためであり、両者をセットで運用することが資金繰り改善の近道になります。
税理士法人 辻総合会計では、30年以上にわたり中小企業・クリニックの月次監査と資金繰り支援に携わってきました。よくある相談は「決算書は読めるが、来月の資金が不安」「設備投資や借入返済が重なり、手元資金の最低ラインが見えない」というものです。本記事では、キャッシュフロー計算書の読み方と、資金繰り表の作り方を実務に落とせる形で整理します。
キャッシュフロー計算書の見方:3区分で「体質」を読む
営業・投資・財務の基本(どこで増減したか)
キャッシュフロー計算書は「営業活動」「投資活動」「財務活動」に区分して表示するルールが示されています。実務ではまず、この3区分の増減方向を見て、会社の資金体質を掴みます。
- 営業活動によるCF:本業が生む(消費する)資金。ここが継続的にプラスかが最重要です(営業CF)。
- 投資活動によるCF:設備投資・有価証券等による資金の増減。通常は投資でマイナスになりやすい領域です。
- 財務活動によるCF:借入・返済・増資・配当等による資金の増減。短期的に資金を補う手段ですが、依存しすぎると返済負担が増えます。
読み方の鉄板パターン(よくある3つの型)
-
「営業CFプラス × 投資CFマイナス × 財務CFマイナス」
本業で稼ぎ、投資し、借入返済も進む理想型。手元資金の厚みを確認しつつ、投資計画の持続性を点検します。 -
「営業CFプラス × 投資CFマイナス × 財務CFプラス」
成長・拡大局面で多い型。投資資金を借入で賄っている状態です。投資後に営業CFが増える見込み(採算性)と、返済が回るかを同時に検証します。 -
「営業CFマイナス × 財務CFプラス」
資金繰りの警戒サイン。本業でお金が出ていき、借入等で穴埋めしている状態です。原因を「回収条件」「仕入・在庫」「固定費」「単価・粗利」などに分解して手当てします。
重要指標:フリーキャッシュフローを簡易に掴む
意思決定で便利なのが、概念としてのフリーキャッシュフロー(営業CF+投資CF)です。ここが継続的にプラスなら、借入返済・配当・追加投資に回せる余力があると言えます。マイナスでも直ちに悪いわけではありませんが、「一時的な投資か」「本業の稼ぐ力が追いつくか」を資金繰り表で検証する必要があります。
資金繰り表とは:黒字倒産を防ぐ“未来表”
キャッシュフロー計算書との違い(過去 vs 未来)
キャッシュフロー計算書は「過去の実績」。資金繰り表は「将来の予定(見込み)」。両者は役割が異なります。
| 項目 | キャッシュフロー計算書 | 資金繰り表 |
|---|---|---|
| 目的 | 実績の資金増減要因を分析 | 未来の資金不足を予測し手当て |
| 期間 | 原則:会計期間(年・四半期) | 月次・週次・日次も可能 |
| 作り方 | 財務諸表から組み替え | 入金予定・支払予定を並べる |
| 強み | 会社の資金体質が見える | 「いつ足りないか」が見える |
| 弱み | 予測には使いにくい | 入出金予定の精度が要 |
結論として、資金管理は「CFで体質を把握 → 資金繰り表で不足時期を先読み → 手当て(回収・支払・借入)」の順が最もブレません。
資金繰り表の作り方:テンプレで迷わない手順
事前準備:必要データは3つだけ
- 期首(または当月初)の預金残高(現金同等物の範囲を揃える)
- 入金予定(売掛金回収、保険請求入金、補助金入金、借入実行 等)
- 支払予定(仕入・外注、給与、家賃、リース、税金、借入返済 等)
入出金の粒度:月次か週次かを決める
- 月次:安定期の基本形。まずは12か月分を作り、資金の山谷を掴む
- 週次:資金ショート懸念がある、または入金が偏る業態(医療・建設等)に有効
- 日次:資金が厳しい局面の短期管理。担当者の運用負荷に注意
作成手順(エクセルでそのまま再現)
Step 1: 列(期間)と行(項目)を固定する
列:当月〜12か月(週次なら週番号)
行:前月繰越、入金(内訳)、支払(内訳)、差引、翌月繰越
Step 2: 「前月繰越(期首残高)」を入力する
ここがズレると全て崩れます。銀行残高(複数口座は合算)を基準にします。
Step 3: 入金予定を「確度順」に積む
売掛金は請求書ベースで回収月に配置します。融資実行や補助金は「予定日が確定したもの」から入れます。
Step 4: 支払予定を「固定費→変動費→臨時」の順に積む
給与・家賃・リース・返済など毎月の固定支出を先に。次に仕入・外注等の変動費。最後に税金・設備投資など臨時支出を別行で明示します。
Step 5: 月末(週末)残高を計算し、最低残高ラインを設定する
差引=入金合計−支払合計、翌月繰越=前月繰越+差引。
ここで最低資金残高(例:1〜2か月分の固定費、または借入返済3か月分など)を社内ルール化すると、意思決定が速くなります。
Step 6: 不足が出た月の「打ち手」を同じ表にメモする
不足月が見えたら、(1)回収前倒し、(2)支払条件交渉、(3)投資延期、(4)短期借入・当座貸越、(5)資本性資金の検討、の順で優先度を付けます。資金繰り表は「作って終わり」ではなく、打ち手の管理表として使うのがポイントです。
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失敗しやすい注意点:資金繰りが崩れる原因トップ3
1) 売上が増えたのに資金が減る(運転資金の罠)
売上増で売掛金・在庫が増えると、入金より先に支払が増え、手元資金が細ります。成長期ほど資金繰り表を週次で更新し、回収条件の見直しを検討します。
2) 設備投資と返済が重なる(投資CFの山)
投資は将来の収益源ですが、支出は先行します。「投資額」「投資時期」「返済開始時期」を資金繰り表上で重ねて確認し、資金ショートを未然に防ぎます。
3) 税金・賞与・社会保険料を後回しにする
資金繰りが厳しい局面ほど、納税や社会保険料が遅れ、信用不安につながります。資金繰り表の時点で「確定支出」として先に確保してください。
よくある質問
Q: キャッシュフロー計算書がなくても資金繰り表だけで十分ですか?
A:
短期の資金管理だけなら資金繰り表で回りますが、原因分析(体質改善)にはキャッシュフロー計算書が有効です。営業CFが弱い理由を分解し、回収・在庫・固定費などの改善策に落とし込めます。Q: 資金繰り表は何か月先まで作るべきですか?
A:
まずは12か月を推奨します。税金・賞与・更新料など年1回の支出が見える化され、資金の山谷が読みやすくなります。資金が厳しい場合は、直近8〜12週間を週次で併用すると実務的です。Q: 最低いくら手元資金を残すべきですか?
A:
一律の正解はありませんが、「固定費の1〜2か月分」または「借入返済+人件費の3か月分」など、事業継続に必要な安全域を基準にします。業種・入金サイト・借入条件で変わるため、個別に設計してください。まとめ
- キャッシュフロー計算書は実績を営業・投資・財務に分け、資金体質を把握する資料
- 資金繰り表は将来の入出金予定を並べ、資金ショート時期と打ち手を見える化する管理表
- 読み方の要は「営業CFが継続的にプラスか」「投資と返済が回るか」
- 作り方の要は「期首残高の正確性」「税金・賞与など季節要因の先入れ」「最低資金残高のルール化」
- 不足が見えたら、回収前倒し→支払調整→投資延期→資金調達の順で対策を組み立てる
参照ソース
- 金融庁「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」: https://www.fsa.go.jp/p_mof/singikai/kaikei/tosin/1a909b2.htm
- 中小企業庁「資金繰り表の様式例(会計ツール集)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/tools/2009/52.html
- J-Net21(中小機構)「キャッシュフロー計算書の見方と活用方法」: https://j-net21.smrj.go.jp/qa/financial/Q0238.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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