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中小企業向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士

個人事業主と法人の社会保険の違い|起業前の負担を税理士が解説

10分で読めます
個人事業主と法人の社会保険の違い|起業前の負担を税理士が解説

結論:最大の違いは「加入義務」と「負担の分かれ方」

起業前に押さえるべきポイントは、個人事業主は原則として「国民健康保険(国保)+国民年金(第1号)」中心、法人は原則として「健康保険+厚生年金(いわゆる社会保険)」が強制適用になりやすい、という点です。法人にすると保険料が必ず安くなる/高くなるではなく、誰が・どの制度に・どんな基準で加入するかが変わるため、手取り・会社負担・将来給付(年金)までセットで比較する必要があります。適用の可否を誤ると、後から遡って加入・追徴となるリスクもあります。出典として、日本年金機構は「法人の事業所(事業主のみの場合を含む)は強制適用」と明示しています。

社会保険とは:起業後に関係する制度の全体像

「社会保険」という言葉は、文脈により範囲がブレます。起業の実務では、まず次の2層に分けると整理しやすいです。

  • 狭義の社会保険(ここが主戦場)
    • 健康保険(医療保険)
    • 厚生年金保険
  • 労働保険(従業員を雇うと重要度が上がる)
    • 雇用保険
    • 労災保険

本記事の主題である「個人事業主と法人の社会保険の違い」は、主に健康保険と年金の加入先・加入義務・負担構造(誰がどれだけ負担するか)に集中します。

ここがポイント
国保は「被用者保険(会社の健康保険など)」に加入していない住民を対象とする医療保険制度、と厚労省が説明しています。つまり、法人化して被用者保険(健康保険)側に入ると、国保から外れるのが基本線です。

個人事業主の社会保険:原則は国保+国民年金(第1号)

国民年金(第1号被保険者)が基本

個人事業主は、原則として国民年金の第1号被保険者に該当します。日本年金機構は、第1号被保険者を「自営業者、農業者、学生、無職など(第2号・第3号でない方)」と整理しています。

健康保険は国民健康保険(または国保組合)

健康保険は、会社の被用者保険に入っていない人が国保(市町村国保または国保組合)に加入するのが基本です。
保険料(税)は自治体や所得状況で変動するため、「起業後の所得見込み」を前提にシミュレーションするのが重要です。

例外:個人事業でも「厚生年金・健康保険」の適用になるケースがある

個人事業でも、一定条件で厚生年金・健康保険の適用事業所(強制適用)になり得ます。日本年金機構は、従業員が常時5人以上の個人事業所(一定の業種を除く)は適用事業所になる旨を示しています。
また、令和4年10月から士業(法律・会計にかかる業務等)で一定要件を満たす場合の取り扱いにも触れています。

法人の社会保険:原則として健康保険+厚生年金が強制適用

役員1人会社でも「原則、強制適用」

法人(株式会社など)は、原則として適用事業所になります。日本年金機構は「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」が強制適用と明記しています。
つまり、起業時に「従業員ゼロ・役員1人」でも、原則は健康保険・厚生年金の加入手続きが必要です。

法人化で変わるのは「負担の見え方」

法人の社会保険料は、設計上「会社負担」と「本人負担」に分かれて見えます(労使折半が典型)。一方、個人事業主の国保・国民年金は「本人(世帯)負担」として一体で見えることが多く、同じコストでも心理的・資金繰り的なインパクトが変わります。

ここがポイント
「法人化すれば社会保険が安くなる」といった単純比較は危険です。保険料は、標準報酬(役員報酬・給与)、家族構成(扶養)、自治体の国保料率、加入する健康保険(協会けんぽ・健保組合等)で変わります。比較は制度の違いと自社の条件をセットで行ってください。

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個人事業主 vs 法人:加入・負担・実務の違いを比較

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比較項目個人事業主法人(会社)
健康保険国民健康保険(国保)中心(被用者保険に未加入の住民が対象)健康保険(被用者保険)中心(法人は原則、適用事業所)
年金国民年金(第1号が基本)厚生年金(法人は原則、適用事業所)
加入義務原則は国保・国民年金。ただし常時5人以上等で適用になる場合あり原則として強制適用(事業主のみの場合を含む)
負担の見え方原則「本人(世帯)」で負担(国保+国民年金)原則「会社負担+本人負担」に分かれて見える(キャッシュフロー設計が重要)
手続きの起点住所地の自治体(国保)+年金の手続き年金事務所等への加入手続き、給与計算・標準報酬管理が必要
リスク所得見込みで国保負担がブレやすい未加入・手続き漏れがあると遡及加入・追徴のリスクが大きい

現場の実感:起業直後は「資金繰り」と「手取り設計」が論点になりやすい

税理士法人 辻総合会計としての現場感では、起業前相談で多いのは「役員報酬をいくらに設定すべきか」「扶養に入れられるのか」「会社負担はいくら見ておくべきか」です。社会保険料は固定費として効いてくるため、起業初年度ほど意思決定の精度が重要になります(個別事情で最適解は変わります)。

起業前にやるべき「社会保険コスト」の試算手順

Step 1: 起業形態を仮決めする(個人→法人の可能性も含める)
「当面は個人」「最初から法人」「売上が立ったら法人化」など、シナリオを2〜3本作ります。

Step 2: 人員計画を確定する(従業員数・雇用形態)
個人事業でも常時5人以上等で適用事業所になる可能性があるため、採用計画を起点にします。

Step 3: 報酬・給与のレンジを置く(役員報酬・月給)
法人の場合は標準報酬の考え方がコストに直結します。起業初年度は「最低限の生活費+資金繰り余力」でレンジを置くのが定石です。

Step 4: 扶養・世帯の前提を整理する
配偶者や子の扶養、別収入の有無で負担・手取りが変わります(特に医療保険側)。

Step 5: 会社負担も含めた損益計画に落とす
法人では社会保険料の会社負担が販管費として乗るため、PL・資金繰り表に必ず反映します。

ここがポイント
「法人なのに未加入で走り出した」「個人で5人以上になったのに手続きしていない」などは、後からの修正コストが大きくなります。起業前の段階で、適用(強制/任意)を制度根拠で確認しておくのが安全です。

よくある質問

Q: 法人を作っても、役員1人で社会保険に入らなくてもいいですか? ▼
原則として難しいです。日本年金機構は、株式会社などの法人の事業所は「事業主のみの場合を含む」強制適用と整理しています。未加入は遡及加入・追徴などのリスクがあるため、設立時点で加入手続きを前提に計画してください。
Q: 個人事業主なら、社会保険(厚生年金・健康保険)に入らずに済みますか? ▼
原則は国保・国民年金ですが、個人事業でも常時5人以上など一定条件で適用事業所になり得ます(業種の例外等もあります)。人員計画がある場合は、起業前に適用可否を確認するのが安全です。
Q: 国保はどんな人が対象ですか? ▼
厚労省は、国民健康保険制度を「他の医療保険制度(被用者保険、後期高齢者医療制度)に加入していない全ての住民」を対象とする制度と説明しています。
Q: 起業前に、最低限どこまで試算しておくべきですか? ▼
少なくとも「起業形態(個人/法人)」「従業員数」「役員報酬・給与のレンジ」「扶養の前提」を置き、会社負担も含めて資金繰りに落とすところまで行うのがお勧めです。個別事情(業種・地域・家族構成等)で結論が変わるため、試算は複数シナリオで行ってください。

まとめ

  • 個人事業主は原則「国保+国民年金(第1号)」、法人は原則「健康保険+厚生年金」が強制適用になりやすい
  • 法人は「事業主のみの場合を含む」強制適用が原則で、役員1人でも加入が論点になる
  • 個人事業でも常時5人以上等で適用事業所になり得るため、人員計画があるなら早期確認が必須
  • 比較は保険料の多寡ではなく、加入義務・負担構造・資金繰り・将来給付まで含めて行う
  • 起業前は複数シナリオで試算し、損益計画と資金繰り表に会社負担も織り込む

参照ソース

  • 日本年金機構「適用事業所と被保険者」: https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
  • 厚生労働省「国民健康保険制度」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/koukikourei/index_00002.html
  • 日本年金機構「第1号被保険者」: https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/tagyo/dai1hihokensha.html

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士

税理士 / 認定経営革新等支援機関

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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