
執筆者:辻 光明
代表税理士
個人事業主と法人の社会保険の違い|起業前の負担を税理士が解説

結論:最大の違いは「加入義務」と「負担の分かれ方」
起業前に押さえるべきポイントは、個人事業主は原則として「国民健康保険(国保)+国民年金(第1号)」中心、法人は原則として「健康保険+厚生年金(いわゆる社会保険)」が強制適用になりやすい、という点です。法人にすると保険料が必ず安くなる/高くなるではなく、誰が・どの制度に・どんな基準で加入するかが変わるため、手取り・会社負担・将来給付(年金)までセットで比較する必要があります。適用の可否を誤ると、後から遡って加入・追徴となるリスクもあります。出典として、日本年金機構は「法人の事業所(事業主のみの場合を含む)は強制適用」と明示しています。
社会保険とは:起業後に関係する制度の全体像
「社会保険」という言葉は、文脈により範囲がブレます。起業の実務では、まず次の2層に分けると整理しやすいです。
- 狭義の社会保険(ここが主戦場)
- 健康保険(医療保険)
- 厚生年金保険
- 労働保険(従業員を雇うと重要度が上がる)
- 雇用保険
- 労災保険
本記事の主題である「個人事業主と法人の社会保険の違い」は、主に健康保険と年金の加入先・加入義務・負担構造(誰がどれだけ負担するか)に集中します。
個人事業主の社会保険:原則は国保+国民年金(第1号)
国民年金(第1号被保険者)が基本
個人事業主は、原則として国民年金の第1号被保険者に該当します。日本年金機構は、第1号被保険者を「自営業者、農業者、学生、無職など(第2号・第3号でない方)」と整理しています。
健康保険は国民健康保険(または国保組合)
健康保険は、会社の被用者保険に入っていない人が国保(市町村国保または国保組合)に加入するのが基本です。
保険料(税)は自治体や所得状況で変動するため、「起業後の所得見込み」を前提にシミュレーションするのが重要です。
例外:個人事業でも「厚生年金・健康保険」の適用になるケースがある
個人事業でも、一定条件で厚生年金・健康保険の適用事業所(強制適用)になり得ます。日本年金機構は、従業員が常時5人以上の個人事業所(一定の業種を除く)は適用事業所になる旨を示しています。
また、令和4年10月から士業(法律・会計にかかる業務等)で一定要件を満たす場合の取り扱いにも触れています。
法人の社会保険:原則として健康保険+厚生年金が強制適用
役員1人会社でも「原則、強制適用」
法人(株式会社など)は、原則として適用事業所になります。日本年金機構は「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」が強制適用と明記しています。
つまり、起業時に「従業員ゼロ・役員1人」でも、原則は健康保険・厚生年金の加入手続きが必要です。
法人化で変わるのは「負担の見え方」
法人の社会保険料は、設計上「会社負担」と「本人負担」に分かれて見えます(労使折半が典型)。一方、個人事業主の国保・国民年金は「本人(世帯)負担」として一体で見えることが多く、同じコストでも心理的・資金繰り的なインパクトが変わります。
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個人事業主 vs 法人:加入・負担・実務の違いを比較
| 比較項目 | 個人事業主 | 法人(会社) |
|---|---|---|
| 健康保険 | 国民健康保険(国保)中心(被用者保険に未加入の住民が対象) | 健康保険(被用者保険)中心(法人は原則、適用事業所) |
| 年金 | 国民年金(第1号が基本) | 厚生年金(法人は原則、適用事業所) |
| 加入義務 | 原則は国保・国民年金。ただし常時5人以上等で適用になる場合あり | 原則として強制適用(事業主のみの場合を含む) |
| 負担の見え方 | 原則「本人(世帯)」で負担(国保+国民年金) | 原則「会社負担+本人負担」に分かれて見える(キャッシュフロー設計が重要) |
| 手続きの起点 | 住所地の自治体(国保)+年金の手続き | 年金事務所等への加入手続き、給与計算・標準報酬管理が必要 |
| リスク | 所得見込みで国保負担がブレやすい | 未加入・手続き漏れがあると遡及加入・追徴のリスクが大きい |
現場の実感:起業直後は「資金繰り」と「手取り設計」が論点になりやすい
税理士法人 辻総合会計としての現場感では、起業前相談で多いのは「役員報酬をいくらに設定すべきか」「扶養に入れられるのか」「会社負担はいくら見ておくべきか」です。社会保険料は固定費として効いてくるため、起業初年度ほど意思決定の精度が重要になります(個別事情で最適解は変わります)。
起業前にやるべき「社会保険コスト」の試算手順
Step 1: 起業形態を仮決めする(個人→法人の可能性も含める)
「当面は個人」「最初から法人」「売上が立ったら法人化」など、シナリオを2〜3本作ります。
Step 2: 人員計画を確定する(従業員数・雇用形態)
個人事業でも常時5人以上等で適用事業所になる可能性があるため、採用計画を起点にします。
Step 3: 報酬・給与のレンジを置く(役員報酬・月給)
法人の場合は標準報酬の考え方がコストに直結します。起業初年度は「最低限の生活費+資金繰り余力」でレンジを置くのが定石です。
Step 4: 扶養・世帯の前提を整理する
配偶者や子の扶養、別収入の有無で負担・手取りが変わります(特に医療保険側)。
Step 5: 会社負担も含めた損益計画に落とす
法人では社会保険料の会社負担が販管費として乗るため、PL・資金繰り表に必ず反映します。
よくある質問
Q: 法人を作っても、役員1人で社会保険に入らなくてもいいですか?
Q: 個人事業主なら、社会保険(厚生年金・健康保険)に入らずに済みますか?
Q: 国保はどんな人が対象ですか?
Q: 起業前に、最低限どこまで試算しておくべきですか?
まとめ
- 個人事業主は原則「国保+国民年金(第1号)」、法人は原則「健康保険+厚生年金」が強制適用になりやすい
- 法人は「事業主のみの場合を含む」強制適用が原則で、役員1人でも加入が論点になる
- 個人事業でも常時5人以上等で適用事業所になり得るため、人員計画があるなら早期確認が必須
- 比較は保険料の多寡ではなく、加入義務・負担構造・資金繰り・将来給付まで含めて行う
- 起業前は複数シナリオで試算し、損益計画と資金繰り表に会社負担も織り込む
参照ソース
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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