
執筆者:辻 光明
代表税理士
起業前の税金基礎5ポイント|2026年版 税理士が解説

起業前に知っておくべき税金の本質は、「いくら儲かったら、いつ、何の税金を、どう納めるか」を先に設計することです。とくに起業初年度は、手続の遅れや記帳の未整備が、納税額だけでなく資金繰り・融資・税務調査リスクに直結します。ここでは、起業準備中の方が最低限押さえるべき基礎知識を5つのポイントで整理します。
ポイント1:起業で関わる税金を「種類」と「タイミング」で把握する
起業で関わる税金は、ざっくり「利益にかかる税」「売上にかかる税」「人を雇うと増える税務」の3系統です。
- 利益にかかる税:所得税(個人)/法人税(法人)、住民税、事業税(所得割・法人事業税等)
- 売上にかかる税:消費税(インボイス制度を含む)
- 人を雇うと増える税務:源泉所得税(給与・士業報酬など)、年末調整、法定調書
起業直後は「利益が出たら税金」と考えがちですが、実務では先に源泉徴収や消費税(インボイス)の論点が出やすい点が重要です。
ポイント2:個人事業と法人で「税率・経費・手続」が変わる
起業形態は税金だけでなく、社会保険や資金調達にも影響します。まずは違いを俯瞰してください。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 利益にかかる税 | 所得税(累進)+住民税+事業税 | 法人税等(一定の税率体系)+法人住民税+法人事業税 |
| お金の出し入れ | 生活費と事業が混ざりやすい | 役員報酬・配当等の設計が必要 |
| 経費の考え方 | 家事按分などで説明力が重要 | 役員社宅・退職金等、制度設計の幅が広い |
| 手続の負荷 | 比較的軽い | 設立後の届出・決算申告が重い |
| 対外信用 | 業種による | 取引・採用・融資で有利なことも |
当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、起業初年度の相談で多いのは「法人化のタイミング」と「役員報酬の決め方」です。税金は年1回ですが、資金繰りは毎月起きるため、キャッシュの見通しを優先して設計するケースが多い印象です。
ポイント3:開業後すぐの「届出期限」を落とすと不利になる
起業直後は手続が集中します。最低限、以下の期限感だけは先に押さえてください。
開業届(個人事業)
個人で事業を開始した場合、原則として「事業開始等の日から1か月以内」に開業届を提出します。提出はe-Taxまたは書面で可能です。起業日=提出期限の起算点になるため、準備中から日付の整理が必要です。
青色申告(個人事業)
青色申告の承認申請は、原則「その年の3月15日まで」。年の途中(1月16日以後)に開業した場合は「事業開始日から2か月以内」が目安です。青色申告は、控除や赤字繰越など実務上のメリットが大きく、起業初年度ほど影響が出やすい論点です。
インボイス(適格請求書発行事業者)
BtoB取引が中心の場合、「取引先から登録を求められる」ことが先に起きます。登録の効力は原則として税務署長が登録した日から生じるため、商談・契約のタイミングから逆算して検討します。
ポイント4:節税の前に「経費のルール」と「証憑」を固める
起業初年度で差がつくのは、節税テクニックよりも経費の説明可能性です。税務調査で問われやすいのは「事業関連性」と「金額の妥当性」で、レシートがあっても説明できなければ否認リスクがあります。
- 事業専用口座・専用カードを分ける(混在を減らす)
- 家事按分(自宅家賃・通信費等)は、根拠(面積・時間・使用実態)を残す
- 交際費・会議費・広告宣伝費は、相手先・目的・日時が分かるメモを残す
- 仕入や外注は、契約書・発注書・納品物(成果物)まで揃える
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ポイント5:資金繰りを壊すのは「納税のズレ」と「消費税」の誤算
黒字でも倒産する典型が「納税資金の取り分がない」状態です。起業初年度は利益が不安定なうえ、設備投資や広告費が先行します。
- 利益が出た月から、税金見込み分を別口座に避難(目安を決めて積立)
- 消費税は「預り金」の性格が強く、利益と別に資金が必要になりやすい
- 人を雇うと源泉所得税・年末調整など、事務負荷とキャッシュの動きが増える
特にインボイス登録後は、免税から課税に変わる影響が読みにくく、価格交渉・請求書運用・経理フローを一体で見直す必要があります。売上=手元資金ではない点を、起業前から前提にしてください。
起業直後にやる税務手続きの進め方(実務の型)
Step 1: 事業形態と開始日を確定する
個人事業か法人か、開始日(開業日)を決めます。開業日は届出期限の起算点になり、補助金・融資・契約にも影響します。
Step 2: 開業届(個人)/設立後の届出(法人)を提出する
個人事業は開業届、法人は設立届出などを提出します。電子申請(e-Tax)を使う場合は、利用環境やアカウント準備も同時に進めます。
Step 3: 青色申告・インボイスの要否を判断する
青色申告は起業初年度から恩恵が大きい制度です。インボイスは取引先要請と事業モデル(BtoB/BtoC)から判断します。
Step 4: 記帳の運用ルールを決め、証憑を揃える
科目のルール、経費精算の手順、保存方法を決めます。月次で数字を締める運用にすると、納税見込みと資金繰りが安定します。
よくある質問
Q: 起業した年は、いつ確定申告が必要ですか?
A:
個人事業の場合、原則として翌年に確定申告を行います。事業所得が出る見込みがあるなら、起業年の早い段階で記帳体制を作り、必要なら青色申告の承認申請を期限内に行うのが安全です。Q: インボイス登録は、起業したら必ず必要ですか?
A:
必ずではありません。主な判断軸は「取引先が仕入税額控除を必要とするBtoBか」「価格転嫁が可能か」「課税事業者化による納税資金を確保できるか」です。契約・見積・請求書運用まで含めて検討します。Q: 経費にできるか不安な支出は、どう管理すべきですか?
A:
まずは事業関連性が説明できるよう、レシートに目的・相手先・内容のメモを残してください。家事按分が絡むものは、按分根拠(面積、時間、使用頻度など)を固定し、毎年同じ基準で運用すると説明力が上がります。まとめ
- 起業の税金は「利益」「売上(消費税)」「雇用(源泉)」の3系統で整理すると迷いにくい
- 個人事業と法人は、税率だけでなくお金の出し入れ・手続負担が大きく変わる
- 開業届・青色申告・インボイスは期限とタイミングが重要で、遅れると不利になりやすい
- 起業初年度は節税より、経費の根拠と証憑整備がリスク低減に直結する
- 資金繰り対策として、納税見込みの積立と消費税の誤算防止を優先する
参照ソース
- 国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
- 国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm
- 国税庁「適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/invoice_01.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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