
執筆者:辻 光明
代表税理士
月次試算表の見方と活用法|税理士が解説

月次試算表とは、毎月の経営状態を「数字で早期に把握し、手を打つ」ための社内レポートです。問題は、試算表が手元にあっても「どこを見て、何を決めればいいか」が分からず、決算のための資料で止まってしまう点ではないでしょうか。結論として、月次試算表は利益の構造と資金繰りの先読みに使うのが最も効果的です。本記事では、税理士の実務目線で「毎月チェックすべき数字」と「経営判断への落とし込み方」を整理します。
月次試算表とは|見方が分からない原因を先に潰す
月次試算表は、会計ソフトの仕訳から集計した「月次の損益計算書(P/L)」「貸借対照表(B/S)」を中心に、補助資料(部門別、推移表など)を添えて作るのが一般的です。決算書と違い、監査済みでも確定申告書でもありませんが、タイムリーに経営の温度感を映します。
見方が分からなくなる典型は次の3つです。
- ① そもそも月次が遅い(翌月末に前月分が出る等)ため、判断材料にならない
- ② 「勘定科目の増減」ばかり見て、KPI(粗利率・固定費・損益分岐点)に変換できていない
- ③ P/Lだけで判断し、B/S(現預金・借入・売掛買掛)を見ないため資金ショートの予兆を見逃す
月次試算表で毎月チェックすべき数字|経営管理の核心KPI
月次試算表の読み方は、「科目を眺める」から「意思決定に必要な数字へ翻訳する」に切り替えるのがポイントです。毎月の定点観測は、次の5つに絞ると運用が回ります。
1) 売上高と前年差・前月差(まずは異常検知)
- 売上高:前年差・前月差(%)でトレンド把握
- 件数×単価に分解:売上変動の原因が「客数」「単価」「ミックス(商品・診療内容)」のどれかを見極める
数字は「増えた/減った」だけでなく、要因を分解できる形にしておくと、翌月の打ち手が決まります。
2) 売上総利益(粗利)と売上総利益率(粗利率)
経営判断で最重要のひとつが粗利率です。粗利率が下がっているのに売上だけ追うと、忙しいのにお金が残らない状態になります。
- 粗利=売上−変動費(売上原価・材料費・外注費など)
- 粗利率=粗利÷売上
粗利率は「価格」「原価」「外注」「商品ミックス」の変化を敏感に反映します。
3) 固定費の総額と内訳(人件費・家賃・広告など)
固定費は、増えると戻りにくいコストです。月次では「固定費合計」と「増減要因」を分けて見ます。
- 人件費:採用・残業・賞与引当の影響
- 家賃・リース:契約の固定化
- 広告宣伝費:短期施策か、継続投資か
固定費は「必要経費」ではなく、粗利で賄うべき「投資枠」と捉えると管理しやすくなります。
4) 営業利益と損益分岐点(黒字の条件を数式化)
毎月のゴールは「黒字かどうか」ではなく、「どの条件で黒字になるか」を把握することです。
- 営業利益=粗利−固定費
- 損益分岐点売上=固定費÷粗利率
損益分岐点を出せば、「売上が足りない」のか「粗利率が低い」のか「固定費が重い」のか、原因が一発で整理できます。
5) 現預金・売掛金・買掛金・借入金(資金繰りの予兆)
P/Lが黒字でも倒産するのは、資金繰りが先に詰まるからです。B/Sから以下を毎月見ます。
- 現預金:月末残高の推移(最低運転資金の目安を設定)
- 売掛金:回収サイトの伸び(未回収の増加は要注意)
- 買掛金:支払サイトと支払集中月
- 借入金:返済予定と金利負担
中小企業庁のツール集でも、月次試算表を入力してキャッシュ・フロー計算書や資金繰り表を作る活用が紹介されています。
見方のコツ|P/LとB/Sをセットで読む(チェック数字を経営判断へ)
ここでは「数字を見たあと、何を判断するか」を型にします。月次試算表は、次の順番で読むとブレません。
Step 1: 月次が締まっている前提を確認する
- 仕訳計上漏れ(売上・仕入・外注・給与・家賃)
- 請求・未払の計上(発生主義)
- 減価償却の月次計上(可能なら)
月次が遅い場合は、まず「締め日+〇営業日で出す」ルールを優先します。
Step 2: 粗利率→固定費→利益の順で構造を見る
- 粗利率が落ちた:価格改定、原価上昇、外注増、ミックス悪化の仮説
- 固定費が増えた:採用・広告・家賃などの継続性を判定
- 利益が減った:粗利率要因か固定費要因かを切り分ける
Step 3: B/Sで「利益が現金になる速度」を確認する
- 売掛金が増える:回収遅延、請求漏れ、与信悪化の可能性
- 在庫が増える:過剰在庫・滞留の可能性
- 借入返済が重い:返済スケジュール再設計の検討
Step 4: 次月の打ち手を数字の目標に落とす
- 粗利率を+1.0pt改善
- 固定費を月△○万円削減(または投資の回収条件を設定)
- 売掛金回収を○日短縮
この「1〜3個の数字目標」が、月次試算表を経営会議の道具に変えます。
月次試算表の活用例|経営管理の現場で効く使い方
税理士法人 辻総合会計でも、月次試算表を「報告書」ではなく「意思決定の議事録」に近い形で使うケースが多いです。匿名化した典型例を紹介します。
ケース1:売上は伸びているのに利益が残らない
- 発見:売上増に対して粗利率が2pt低下
- 原因仮説:外注比率上昇/値引き増/原価上昇
- 打ち手:価格改定・仕入交渉・外注内製化の優先順位付け
- 目標:粗利率を元の水準へ回復(損益分岐点売上を引き下げ)
ケース2:黒字なのに資金繰りが苦しい
- 発見:売掛金が増え、現預金が減少
- 原因仮説:回収サイト延長、請求の遅れ、入金消込の混乱
- 打ち手:請求締めの前倒し、入金管理の責任者明確化、督促ルール化
- 目標:売掛金回転日数を○日短縮
ケース3:固定費が増えたが、成長投資として妥当か判断できない
- 発見:広告費と人件費が増加
- 判断軸:投資の回収条件(粗利で何か月で回収するか)
- 打ち手:広告はCPA/LTV、人件費は生産性KPI(粗利/人)で管理
- 目標:固定費増に見合う粗利の増加を数値で設定
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どこを見るか迷ったら|チェック数字の優先度比較表
「全部は見られない」前提で、優先順位をつけます。
| 優先度 | チェック項目 | 見る目的 | 異常が出たらまずすること |
|---|---|---|---|
| 高 | 粗利率(売上総利益率) | 利益構造の健全性 | 価格・原価・外注・ミックスの要因分解 |
| 高 | 固定費合計 | 損益分岐点の増減 | 増えた科目の継続性判断(単発/恒常) |
| 高 | 現預金・売掛金 | 資金繰りの予兆 | 回収サイト、請求タイミング、未回収の棚卸し |
| 中 | 営業利益 | 成果の総合点 | 粗利率要因か固定費要因か切り分け |
| 中 | 借入金返済・利息 | キャッシュ流出の固定化 | 返済計画と資金繰り表の更新 |
| 低 | 科目別の細かな増減 | 原因の深掘り | 重要科目に絞ってドリルダウン |
よくある質問
Q: 月次試算表はいつまでに完成していれば実務的に使えますか?
Q: 月次試算表が赤字でも、すぐに危険と判断すべきですか?
Q: クリニックや小規模事業でも、資金繰り表は必要ですか?
まとめ
- 月次試算表は「決算のため」ではなく、毎月の意思決定に使う資料
- 毎月見る数字は「売上」「粗利率」「固定費」「損益分岐点」「資金繰り(現預金・売掛金)」に絞る
- 読み方は「P/Lで利益構造」→「B/Sで現金化の速度」→「次月の数値目標」の順で回す
- 異常が出たら、科目の増減ではなく要因分解(価格・原価・外注・ミックス、回収サイト)で対策を決める
- 早く出して、仮説検証を回す運用が成果につながる
参照ソース
- 中小企業庁「中小企業の会計 31問31答(問26)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/tools/2008/41.html
- 中小企業庁「『中小企業の会計』ツール集」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/tools/2009.html
- 中小企業庁「中小企業の会計(PDF)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/pamphlet/2010/download/Kaikei.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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