
執筆者:辻 光明
代表税理士
内部留保と役員報酬・配当のバランス|税理士が解説

会社の利益配分は「役員報酬で取り切る」「配当で還元する」「内部留保で貯める」の三択ではなく、税務と資金繰りと出口戦略の三点セットで最適化するのが実務です。経営者にとっての問題は、税率だけで判断すると会社に現金が残らない役員給与が損金にならない配当の税負担が想定より重いなど、後から修正が難しいミスが起きる点にあります。税理士法人 辻総合会計の現場でよくある設計図をもとに、利益の使い方を分解して解説します。
内部留保・役員報酬・配当バランスとは(全体像)
まず「内部留保」は現金を金庫に積むことと混同されがちですが、会計上は主に利益剰余金(税引後利益の蓄積)として表現され、実態は現預金・在庫・売掛金・投資などに姿を変えます。一方で、役員報酬と配当は「会社から個人へ資金が移る」点は同じでも、税務上の扱いが大きく異なります。
- 役員報酬:要件を満たすと法人の損金(経費)になり、法人税の課税所得を圧縮しやすい。ただし要件を外すと損金不算入リスクがある。
- 配当:原則として法人側は損金にならず、利益(税引後)から支払われる。個人側は配当課税(総合課税・申告分離など選択肢がある場合も)。
- 内部留保:将来投資・借入返済・運転資金・リスク耐性(キャッシュバッファ)の源泉になる。
結論:税率の低い方に寄せるのではなく、会社の必要現金を確保したうえで、役員報酬と配当を組み合わせるのが再現性の高い設計です。
役員報酬を増やすときの税務ルール(損金算入の要件)
役員報酬は「払えば経費」ではありません。国税庁の整理では、役員給与のうち損金に算入できるのは主に、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与などに該当するものです。これらに該当しない役員給与は原則として損金算入できません(不相当に高額な部分も別途否認リスクがあります)。
そのため、役員報酬の設計は税率より先に形式要件が最重要になります。
定期同額給与のポイント(実務で事故が多いところ)
- 月額を期中に頻繁に変えると、定期同額給与の要件を満たさないリスクが高まります。
- 変更するなら「いつ・なぜ・どの機関決議で」を含めた手続きを、期首設計と合わせて行うのが安全です。
役員賞与(ボーナス)を使うなら「事前確定届出給与」
役員に賞与を出して損金にするには、事前確定届出給与としての届出・手続が必要です。届出には期限・提出先・記載要件があるため、「業績が良かったから年末に出す」は損金化が難しいパターンになりがちです。
配当で受け取ると何が違う?(配当課税と配当控除)
配当は「株主への還元」なので、法人側は基本的に損金になりません。つまり、法人で課税された後の利益(税引後)から配当する構図になり、税負担は法人→個人にまたがります。
一方で個人側は、配当控除の適用があるケースもあります(配当控除の対象・計算方法は所得状況や配当の種類で変わります)。また上場株式等の配当では申告分離課税(税率20.315%など)を選択できる枠組みが整理されています(配当控除との関係にも注意が必要です)。
ここで重要なのは、「配当=一律で得/損」ではなく、所得構成・社会保険・他所得との合算で結論が変わるという点です。
同族会社オーナーの配当は制度選択より資本政策が効く
オーナー経営では「役員報酬で取るか、配当で取るか」は、税率だけでなく以下の論点が絡みます。
- 株主構成(配当を誰に配るか、分散させるか)
- 将来の事業承継(株式評価・後継者への移転計画)
- 金融機関評価(自己資本厚み、利益剰余金の積み上げ)
内部留保を厚くするメリット・デメリット(最適の考え方)
内部留保は「課税の繰延」になりやすい一方、現金が社内に残ることで、投資機会を逃しにくく、資金繰りの安定性も上がります。特に次の局面では内部留保が効きます。
- 設備投資・採用強化・新規拠点など、前払い資金が必要な局面
- 取引先の与信変化、売掛回収遅延などのショック対応
- 退職金・事業売却・M&Aなど、出口設計の原資確保
一方、内部留保を過度に積むと「株主(家計)に資金が回らない」「投資を先送りにする」「資本効率が下がる」などの弊害もあります。よくある失敗は、税金が怖いだけで内部留保を積み上げ、結果として成長投資が遅れることです。
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比較:役員報酬・配当・内部留保の使い分け(比較表)
| 観点 | 役員報酬 | 配当 | 内部留保 |
|---|---|---|---|
| 法人税への影響 | 要件を満たせば損金で課税所得を圧縮しやすい | 原則損金にならず、税引後利益から支払 | 税引後利益として残る |
| 個人側の課税 | 給与課税(所得税・住民税等) | 配当課税(配当控除や申告分離の論点あり) | 個人課税なし(会社に留まる) |
| キャッシュ残高 | 個人へ移りやすく、会社資金は減る | 同上(会社資金は減る) | 会社に残りやすい |
| 手続・要件 | 定期同額/事前確定届出等の要件管理が重要 | 株主総会決議等の会社法手続が必要 | 追加手続は少ないが資金用途の設計が必要 |
| 向いている場面 | 生活費確保、個人側の資金需要が大きい | 株主還元、家計への資金移転、資本政策 | 投資・借入返済・リスク耐性の強化 |
最適配分の決め方(税理士が使う手順)
ここからは実務の手順です。ポイントは「税率比較」ではなく、意思決定の順番を固定することです。
Step 1: 会社に残すべき最低キャッシュを決める
運転資金(固定費数か月分など)、投資予定、借入返済、季節変動を加味して、期末現預金の下限ラインを設定します。
Step 2: 役員報酬の損金化できる枠を確定する
定期同額給与としての月額、役員賞与を使うなら事前確定届出給与の要否・期限を確認し、手続を先に固めます。
Step 3: 家計側の資金需要と税負担を棚卸しする
住宅・教育・資産形成・納税予定など、個人側の資金需要を整理します。配当を使う場合は配当控除・課税方式の選択余地も含めて検討します。
Step 4: 残余を配当 or 内部留保に配分する
投資機会が多い成長局面なら内部留保寄り、家計や株主還元の優先度が高いなら配当寄り、というように目的で決めます。
Step 5: 退職金・事業承継まで含めた出口を点検する
将来の退職金支給(損金算入時期の論点)、株式移転、相続・贈与、金融機関評価まで含めて再調整します。
利益配分は毎期の作業ではなく設計です。設計ができると、毎年ブレずに運用できます。
よくある質問
Q: 利益が出た年は、役員報酬を増やして取り切るのが正解ですか?
Q: 配当の方が税金が安いと聞きましたが本当ですか?
Q: 内部留保を増やすと、何かペナルティはありますか?
Q: 退職金を使った利益調整は有効ですか?
まとめ
- 会社利益の配分は、税率比較だけでなく資金繰り・投資・出口戦略をセットで最適化する
- 役員報酬は損金算入要件(定期同額・事前確定届出など)の管理が最優先
- 配当は法人で原則損金にならず、個人側は配当課税・配当控除などで結論が変わる
- 内部留保はリスク耐性と投資余力を高めるが、目的なく積むと資本効率が落ちる
- 実務は「最低キャッシュ→役員報酬枠→家計需要→配当/留保→出口点検」の順で決める
参照ソース
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 国税庁「C1-23 事前確定届出給与に関する届出」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/5104.htm
- 国税庁「No.1250 配当所得があるとき(配当控除)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1250.htm
- 国税庁「No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1331.htm
- 国税庁「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm
- 国税庁「剰余金の配当(PDF)」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/060707/haito.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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