
執筆者:辻 光明
代表税理士
損益分岐点の計算|中小企業の経営判断を税理士が解説

損益分岐点とは「利益がゼロになる売上(または販売数量)」です。中小企業の経営判断で重要なのは、何件売れば黒字になるかを感覚ではなく式で把握し、価格改定・原価・固定費のどれを動かせば最短で改善するかを選べる状態にすることです。この記事では、損益分岐点の計算方法と、経営判断への落とし込み方を実践ガイドとしてまとめます。税理士法人 辻総合会計では、月次の試算表を「意思決定用に作り換える」支援を多数行っており、現場でつまずきやすいポイント(費用の分解、複数商品の扱い等)も織り込みます。
損益分岐点とは?(定義と「黒字化ライン」の意味)
損益分岐点(Break-Even Point)は、売上高=総費用となり、営業利益が0になる水準です。経営判断での価値は次の2つに集約されます。
- 目標売上の妥当性:今の体制(人員・家賃・広告費など)で、その売上は現実的か
- 打ち手の選別:値上げ、原価低減、固定費削減、販促強化のどれが最も効くか
損益分岐点分析は、費用を「売上に比例して増減する変動費」と「売上に関係なく発生する固定費」に分けて考えるのが基本です。費用の固定費・変動費の分解の考え方や、直接原価方式(変動費と固定費を分けた損益計算)については、中小企業庁の資料でも整理されています。
損益分岐点の計算方法(売上・数量の2パターン)
損益分岐点売上高の基本式
損益分岐点売上高は、次の式が実務で最も使われます。
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
- 限界利益率 =(売上高-変動費)÷ 売上高 = 1-変動費率
この関係(損益分岐点を上回れば限界利益率に応じて利益、下回れば損失になる)は、経営管理の解説資料でも説明されています。
損益分岐点販売数量(「何件・何個」)の式
単一商品(または単一サービス)で単価が明確な場合は数量でも計算できます。
- 損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷(販売単価-変動費単価)
- (販売単価-変動費単価)= 1件あたり限界利益
ここでいう「変動費単価」は、材料費・仕入・外注費・決済手数料など、売上(件数)に比例しやすい費用を1件あたりに割り戻したものです。
計算例:何件売れば黒字?を3分で試算する
前提(1か月):
- 固定費:150万円(家賃、人件費、減価償却、通信費など)
- 変動費率:60%(仕入・材料・外注など)
- 平均客単価(売上単価):1万円/件
-
限界利益率=1-変動費率=1-0.60=0.40(40%)
-
損益分岐点売上高=固定費 ÷ 限界利益率
=150万円 ÷ 0.40=375万円 -
損益分岐点販売数量=損益分岐点売上高 ÷ 平均客単価
=375万円 ÷ 1万円=375件
つまり「月375件」が黒字化ラインです。ここまで出れば利益は0、上回った分は限界利益率40%で利益が増えます。たとえば売上が450万円なら、(450-375)×0.40=30万円が概算の利益になります。
損益分岐点の活用:経営判断を数字で早くする
損益分岐点は「計算して終わり」ではなく、打ち手の優先順位付けに使うのが本質です。中小企業庁の白書でも、損益分岐点(比率)を通じた収益構造の見直しが示唆されています。
よくある打ち手と、損益分岐点への効き方
| 打ち手 | 変わる要素 | 損益分岐点への効き方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 値上げ・単価改善 | 限界利益率↑ | すぐ下がる(強い) | 需要減・競合反応を試算 |
| 仕入・外注の見直し | 変動費率↓ | 下がる(強い) | 品質低下・納期悪化に注意 |
| 固定費削減(家賃・人員・サブスク) | 固定費↓ | 直線的に下がる | 一度下げると戻しにくい |
| 販売件数増(集客) | 売上↑ | 超えた分が利益 | 集客費が固定費/変動費を押し上げる |
ポイントは、同じ「利益+30万円」を狙うにも、どのレバーが最短かは会社によって違うことです。限界利益率が低い業態ほど、件数増より先に「単価・原価」を触った方が改善が速い傾向があります。
中小企業の税務・経営相談
創業から成長期まで、企業のフェーズに合わせた税務・経営サポートを提供しています。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
ステップ:月次試算表から損益分岐点を作る手順(中小企業向け)
Step 1: 直近3〜6か月のPLを用意する
月次の変動が大きい業種ほど、単月ではなく複数月平均が有効です。
Step 2: 費用を固定費・変動費に分ける
仕入・材料・外注・決済手数料などは変動費側。人件費・家賃・減価償却・リース等は固定費側に寄りやすいです。迷う費目は固定費寄せで安全側に。
Step 3: 限界利益率を出す
限界利益=売上-変動費、限界利益率=限界利益÷売上。
Step 4: 損益分岐点売上高を計算する
固定費÷限界利益率。
Step 5: 「何件・何人・何時間」に落とす
平均単価、客数、稼働時間、席数回転など、管理できるKPIに変換して、現場で追える形にします。
よくある失敗と注意点(計算は合っているのに意思決定がズレる)
- 固定費が増える投資(採用、移転、広告)を、損益分岐点に反映していない
- 変動費率が季節・仕入相場で動くのに、固定の率で置いてしまう
- 値上げの影響を「客数不変」で置いてしまう(感度分析がない)
- 利益ゼロで安心してしまい、安全余裕(売上が落ちても赤字にならない幅)を見ていない
- 複数商品の平均単価で置き、商品構成の変化を無視する
税理士としての実務感覚では、「損益分岐点を月1回更新し、次の一手(値上げ・原価・固定費・集客)を決める」運用が最も効果が出やすいです。
よくある質問
Q: 固定費と変動費の分け方が難しいです。どうすれば良いですか?
Q: 目標利益がある場合、必要売上はどう計算しますか?
Q: 変動費率が月によって変わります。損益分岐点は意味がありますか?
Q: 損益分岐点比率とは何ですか?
まとめ
- 損益分岐点は「利益ゼロになる売上(数量)」で、黒字化ラインを数式で可視化する手法
- 基本式は「損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率(=1-変動費率)」
- まずは費用を固定費・変動費に分け、迷う費用は固定費寄せで安全側に置く
- 活用の核心は、値上げ・原価低減・固定費削減・集客のどれが最短で効くかを比較すること
- 複数商品は商品別限界利益と構成比まで見ないと、平均値では判断を誤りやすい
参照ソース
- 中小企業庁「損益計算書の内訳の作り換え」: https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_c/bcpgl_05c_4_3.html
- 中小企業庁「地域金融人材育成システム開発事業(財務管理資料)」: https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/kenkyu/2005/zaimukanri/05620keieizyogen.text.pdf
- 中小企業庁「2024年版 小規模企業白書(損益分岐点比率に関する記述)」: https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2024/shokibo/b2_1_2.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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