
執筆者:辻 光明
代表税理士
税理士不要は本当?クラウド会計確定申告の限界|税理士が解説

クラウド会計(freee・マネーフォワード等)だけで確定申告を「提出まで」完結できる人はいます。ただし結論として、税理士が不要かどうかは「入力の手間」ではなく「税務判断の有無」で決まります。
特に、売上規模が大きい・消費税やインボイスが絡む・設備投資が多い・複数所得がある場合は、クラウド会計でも誤りやすく、結果的に税額・資金繰り・リスクが変わります。この記事では「自分でできる範囲」と「限界ライン」を、実務目線で整理します。
税理士不要で確定申告できる範囲(クラウド会計で自己完結)
「税理士不要」に寄りやすいのは、税務判断が少ないシンプルな事業です。たとえば次の条件がそろう場合、クラウド会計+国税庁の作成機能で自己完結しやすいです。
- 取引が単純(現金・振込中心、仕入が少ない、外注や給与がない)
- 収入源がほぼ事業所得のみ(不動産・株式譲渡・暗号資産などがない)
- 経費科目の迷いが少ない(交際費、家事按分が小さい)
- 減価償却が少ない(高額設備や車両が少ない)
- 消費税の納税義務が原則免除の範囲で運用(後述の例外なし)
なお、申告書の作成自体は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で、案内に沿って入力し、青色申告決算書等も作成・e-Tax送信が可能です。クラウド会計は「帳簿づくり」、国税庁ツールは「申告書づくり」と役割を分けるとミスが減ります。
freee・マネーフォワードで「自分でできる」の限界ライン
クラウド会計は強力ですが、限界はソフトではなく「論点の発生」です。ここから先は、入力が正しくても、そもそもの処理方針で税額が変わります。
限界1:消費税・インボイスが絡む(判定と選択が必要)
消費税は、原則として基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら納税義務が免除されます。一方で、条件により免除されないケースがあります。たとえば、適格請求書発行事業者(インボイス)として登録している場合は、基準期間の売上が1,000万円以下でも原則免税にはなりません。
このあたりは「登録する/しない」「簡易課税を選ぶ/原則課税でいく」など、経営判断とセットです。クラウド会計は計算を手伝いますが、最適な制度選択までは自動で決められません。
限界2:減価償却・設備投資(資金繰りに直結)
開業初年度に多いのが、医療機器・内装・PC・車両などの投資です。
「10万円未満」「一括償却資産」「少額減価償却資産の特例」「固定資産計上して耐用年数で償却」など処理が複数あり、利益・税金・翌年以降の計画が変わります。クラウド会計は選択肢を提示しても、どれが妥当かはケースで違います。
限界3:家事按分(自宅兼事務所・スマホ・車)
家事按分は、税務調査で説明を求められやすい論点のひとつです。
「何%で按分したか」だけではなく、根拠(面積、利用時間、走行記録等)が必要になります。按分率は入力ではなく説明可能性で決めるのが実務です。
限界4:電子帳簿保存法・スキャナ保存(要件を満たさないと危険)
領収書をスマホで撮って保存する運用は一般的になりましたが、要件を外すと「紙を捨ててよいのか」「その保存で税務上の証憑として通るのか」が問題になります。国税庁の一問一答でも、スキャナ保存の論点(読み取り後の紙の扱い等)が整理されています。
クラウド会計の「保存機能」がある=要件クリア、ではない点に注意が必要です。
限界5:複数所得・特殊取引(申告書側が難しくなる)
以下に該当すると、会計ソフトの外側(申告書作成・税務判断)が難易度を上げます。
- 不動産所得(減価償却、青色専従者、修繕費 vs 資本的支出)
- 株式・投資信託の譲渡、配当(特定口座でも例外あり)
- 退職・転職が絡む、年末調整未了
- 補助金・助成金の収入計上時期
- 役員報酬、源泉徴収、給与支払報告書など「申告以外の税務」
比較:クラウド会計だけ vs 税理士を入れる(何が変わる?)
| 項目 | クラウド会計だけで自力 | 税理士を入れる |
|---|---|---|
| 入力・記帳 | 自分で完結しやすい | 代行またはチェックで工数減 |
| 税務判断(消費税、償却、按分) | 迷いやすく誤りが残る | 論点整理と根拠設計が可能 |
| 税額の最適化 | 気づけない控除・特例が出る | 適用可否を検討しやすい |
| 税務調査リスク | 説明資料が不足しがち | 想定問答・証憑整備を支援 |
| 経営への反映 | 申告がゴールになりがち | 予実・資金繰りまで接続 |
当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、freee・マネーフォワードで自計されている方の相談は多いです。よくあるのは「申告自体は出せたが、消費税の選択で数十万円単位の差が出た」「固定資産処理が翌年以降の利益を圧迫した」といったケースです。
自分で確定申告する手順(freee・マネフォ×国税庁ツール)
Step 1: 取引入力を締める(期ズレをなくす)
入金日・決済日・請求日が混在しやすいので、売上・経費の計上基準を統一し、未払・前払・未収を整理します。
Step 2: 固定資産・家事按分・棚卸を確定する
ここが最重要です。税額が動くポイントは「例外処理」に集中します。迷う項目はメモで根拠を残します。
Step 3: 試算表(損益・貸借)を見て異常値チェック
旅費交通費・交際費・通信費が突出していないか、売上の入金漏れがないかを確認します。
Step 4: 申告書を作成してe-Tax提出する
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で申告書・青色申告決算書等を作成し、e-Taxで送信します。案内に沿って入力でき、自動計算もされます。
Step 5: 添付・保存(証憑と電子保存要件)を整える
提出後が本番です。領収書・請求書・契約書の保存ルール(電子帳簿保存法の要件含む)を、翌年も継続できる形で固定します。
中小企業の税務・経営相談
創業から成長期まで、企業のフェーズに合わせた税務・経営サポートを提供しています。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
税理士に相談した方がよいチェックリスト(判断の目安)
次のうち2つ以上に当てはまるなら、申告直前だけでも税理士のレビューを入れる価値があります。
- 消費税の納税義務が発生しそう、またはインボイス登録をしている
- 30万円超の設備・内装など、固定資産が複数ある
- 自宅兼事務所で家事按分が大きい
- 役員報酬・給与・外注費・源泉徴収がある
- 不動産・株式・副業など所得が複数ある
- 税務署から問い合わせが来た経験がある、または調査が不安
よくある質問
Q: freee・マネーフォワードの「確定申告機能」だけで提出までできますか?
Q: 税理士に頼むのは「全部丸投げ」だけですか?
Q: 電子保存(領収書のスマホ保存)をしていれば紙は捨てて大丈夫ですか?
まとめ
- 税理士が不要かどうかは、クラウド会計の性能ではなく「税務判断が発生するか」で決まる
- 消費税・インボイス、固定資産、家事按分、電子帳簿保存法はクラウド会計でもミスが出やすい
- 自分でやるなら「入力の締め」より「例外処理(償却・按分・制度選択)」に時間を使う
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーで申告書作成・e-Tax送信まで可能
- 不安がある場合は、丸投げではなくスポットレビューや申告のみ依頼も現実的
参照ソース
- 国税庁「確定申告書等の作成|令和7年分 確定申告特集」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/kakushin-sakusei/
- 国税庁「所得税の確定申告」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kakutei.htm
- 国税庁「No.6501 納税義務の免除(消費税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07scan/index.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。