
執筆者:辻 光明
代表税理士
年またぎ経費の計上ルール|確定申告で迷わない税理士解説

結論:年またぎは「原則発生主義」で年を決めます
年をまたぐ支払い・売上が出たときの結論はシンプルです。原則として、個人事業主の所得計算は「その年に権利・義務(売上なら収入すべき権利、経費なら債務)が確定したか」で判定します。つまり、支払日や入金日だけで年を決めないのが基本です。
確定申告の直前は、12月の請求書を1月に払った、12月に納品したが入金は翌年、クレジットカードの引落が翌月…といった「年またぎ」が一気に噴出します。処理を誤ると、所得がズレて税額が変わるだけでなく、帳簿の整合性も崩れがちです。
税理士法人 辻総合会計では、開業1〜3年目の個人事業主・フリーランスから「この支払いはどっちの年?」の相談が毎年集中します。本記事では、確定申告直前に迷いがちなパターンを、ルール→判断手順→具体例の順で整理します。
「発生主義」と「現金主義」の違い(青色申告の基本ルール)
まず、年を決める物差しを揃えます。国税庁の考え方は、収入は「収入すべき権利が確定した年」、経費は「債務が確定した年」が基本です。支払や入金が年をまたいでも、それだけでは年は動きません。
| 観点 | 発生主義(原則) | 現金主義(特例) |
|---|---|---|
| 年の決め方 | 権利・義務が確定した時点 | 現金の出し入れ(受領・支払) |
| 売上の例 | 12/20に販売・納品→12月の売上 | 入金が1月なら翌年の売上になり得る |
| 経費の例 | 12月に役務提供完了→12月の経費 | 支払が1月なら翌年の経費になり得る |
| 向いている人 | 取引が増えてきた人、月締め管理したい人 | 小規模で記帳負担を抑えたい人(要件あり) |
青色申告だから発生主義、白色だから現金主義という単純な区分ではありませんが、実務上は「原則は発生主義」で組み立てるのが安全です(現金主義は一定の届出と要件が必要)。
12月に届いた請求書・1月に払った経費はどちらの年?
ここからが本題です。年またぎ経費の判断は、次の順番で考えるとブレません。
Step 1: 12/31までに役務提供・納品が完了しているか確認する
- 役務提供:外注作業が完了、広告配信が完了、12月分の家賃が発生、など
- 納品:商品・材料が納品され検収済み、など
Step 2: 12/31までに債務が確定しているか確認する
国税庁は必要経費の算入時期について、「その年において債務の確定した金額」とし、債務確定の要件(成立・原因事実の発生・合理的算定)を示しています。これに当てはめると判断が明確になります。
Step 3: 前払に該当しないか確認する(翌年分のサービスを含むか)
翌年分の家賃、保険料、サブスク年払いなどは、支払が12月でも「翌年に対応する部分」は原則として翌年の費用です(前払費用)。
ケース別:どちらの年に入れるか早見表
| ケース | 12月の経費にできる? | 理由(ポイント) |
|---|---|---|
| 12月に外注が完了、請求書は12月、支払は1月 | できる | 12月に役務提供が完了し、債務が確定 |
| 12月に広告を配信、請求は1月、支払は2月 | できることが多い | 12月配信分が確定していれば未払計上の発想 |
| 12月に年払い保険料を支払(契約期間は翌年を含む) | 原則できない(全額は不可) | 翌年分は前払費用(期間按分) |
| 12月に材料を発注、納品は1月 | 原則できない | 12月末までに納品・検収が完了していない |
ポイントは、請求書の日付や支払日より「提供・納品の完了」です。
匿名ケース:12月請求書を翌年に入れてしまった例
- 12/28にデザイン外注が納品完了、請求書も12月発行
- 支払は1/10
- 申告時に「支払日ベース」で翌年経費にしてしまった
この場合、当年の利益が過大になり、翌年の利益が過小になります。2年分が連動してズレるため、帳簿の整合性を取り戻すのに余計な時間がかかります。修正は可能ですが、申告直前ほど手間が増えがちです。
前払費用・未払費用・売掛金・買掛金の処理例(個人事業主向け)
ここでは、簿記用語を「確定申告で迷わないレベル」に落として整理します。
未払費用(払ってないけど当年の経費)
例:12月分の外注費・通信費が1月請求、2月支払
- 実態:12月にサービス提供が完了している
- 考え方:当年の経費(未払)として計上する発想
国税庁は、必要経費は「債務が確定」していれば、支払っていなくても当年の必要経費になり得ると示しています。
前払費用(払ったけど翌年の経費)
例:サブスクを12月に年払い(1月〜12月分)
- 実態:翌年にサービスを受ける期間が含まれる
- 考え方:原則、期間対応で翌年に費用化(当年は資産的に管理)
法人税の考え方としても、前払費用は「役務の提供を受けた時に費用化」が原則で、一定の短期前払費用の例外が整理されています。個人でも、期間対応の発想は同じ方向感で運用すると帳簿がきれいになります。
売掛金(入金前でも当年の売上)
例:12/20に納品・検収完了、請求12/25、入金1/10
- 実態:12月に「収入すべき権利」が確定
- 考え方:当年売上(売掛)にする
国税庁は、収入金額は「年末までに現実に受領していなくても、収入すべき権利の確定した金額」とし、12月に販売した代金が1月入金でも当年収入になる例を示しています。ここが年またぎ売上の核心です。
買掛金(仕入が当年、支払が翌年)
例:12/27に仕入入荷、請求は1月、支払は2月
- 実態:12月に仕入が成立している(納品・検収が完了)
- 考え方:当年の仕入(買掛)として把握する発想
個人事業の帳簿でも、仕入は売上原価や棚卸と結びつくため、年末の在庫確認とセットで整合させるのが重要です。
やりがちなミス:クレカ引き落とし月で計上してしまう
申告直前の「あるある」トップクラスがクレジットカードです。
- 12/10に決済(実際の取引・サービス提供は12月)
- 引落は翌年1/27
- 「引落月=経費」として翌年経費にしてしまう
クレカは、現金が動くのは引落日ですが、取引の実態(購入日・提供完了日)は決済日側にあります。つまり、引落日は支払手段の都合であって、費用の発生時点とは一致しません。
実務では次のように整理するとブレません。
- 原則:利用日(取引が成立した日)ベースで年を判定
- 例外:年払いサービスなど、翌年分を含むなら前払費用の検討
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「現金主義の特例」を使えるケース(前々年300万円以下)
「発生主義が難しいので、現金の出入りで申告したい」というニーズは確かにあります。国税庁には、青色申告者のうち小規模事業者に認められる「現金主義による所得計算の特例」があり、要件の一つとして前々年分の不動産所得・事業所得の合計が300万円以下であること等が示されています。
ただし、ここは注意が必要です。
- 届出が必要(原則として適用を受けようとする年の3月15日まで等)
- 「現金主義なら常に楽」とは限らず、売上・経費のズレが翌年に持ち越される
- 事業が伸びて取引が増えると、現金主義の方が管理しにくくなる場面もある
Step 1: 前々年の事業所得・不動産所得の合計が300万円以下か確認
Step 2: 青色申告である(または青色申告承認申請をする)ことを確認
Step 3: 届出の提出時期を確認し、間に合うか判断
現金主義は「制度としての選択肢」ですが、年またぎの論点を根本解決するものではありません。申告直前での切替は特にミスが出やすいので、現状の記帳体制・来期以降の売上見込みも踏まえて検討するのが現実的です。
申告直前のチェックリスト(年またぎだけ潰す手順)
最後に、ミスが起きやすい箇所だけを短時間で点検する手順です。
Step 1: 12月のクレカ利用明細を一覧化する
- 「利用日が12月」のものを抽出
- 年払い・長期契約が混ざっていないか確認
Step 2: 12月末時点で未払の請求(外注・広告・通信など)を洗い出す
- 役務提供が12月で完了しているか
- 金額が合理的に確定できるか(見積のまま計上しない)
Step 3: 12月納品・検収の売上を洗い出す(入金が翌年でも)
- 納品書・検収メール・作業完了報告などの証跡を確認
- 入金日ベースで集計していないか見直す
Step 4: 前払(翌年分)になっている支出を抽出する
- 家賃、保険料、サブスク、保守契約、セミナー参加費など
この4ステップを回すだけで、「年またぎ由来のズレ」はかなりの確率で潰せます。
よくある質問
Q: 12月に請求書が届いたけど、サービス提供は1月でした。12月の経費ですか?
Q: 12月に納品したのに入金が翌年です。売上はどちらの年ですか?
Q: クレカ決済は利用日と引落日のどちらで経費計上しますか?
Q: 現金主義の特例は誰でも使えますか?
まとめ
- 年またぎの基本は発生主義(権利・義務の確定)で判定する
- 12月の経費は「12/31までに役務提供・納品が完了し、債務が確定したか」で決める
- 売上は「入金日」ではなく「収入すべき権利が確定した年」で計上する
- クレカは引落月で集計するとズレやすい。まず利用日で年を切る
- 現金主義の特例は要件と届出が必要。申告直前の拙速な切替は注意
参照ソース
- 国税庁「No.2200 収入金額とその計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2200.htm
- 国税庁「No.2210 必要経費の知識」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 国税庁「A1-13 現金主義による所得計算の特例を受けるための手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/23200010.htm
- 国税庁「No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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