
執筆者:辻 勝
会長税理士
ミニマム税 医師2026強化|対象基準と対策を税理士が解説

2026年の超富裕層ミニマム税強化とは
2026年(令和8年度税制改正)では、超富裕層ミニマム税(正式には「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」)が強化され、「基準所得から控除する特別控除額」が3.3億円から1.65億円へ引き下げられ、併せて税率が22.5%から30%へ引き上げられる方針です。
結論として、開業医であっても「事業所得中心」だけなら直ちに対象になりにくい一方、株式譲渡・配当・不動産譲渡など分離課税の資産所得が大きい年は対象化しやすくなります。
リスクは「所得が高い」こと自体よりも、実効税率(一定の計算上の税負担率)が制度で求める最低水準を下回ったときに追加納税が発生する点です。クリニックの決算・個人の資産運用が同じ年に重なると、想定外の追加税負担になりやすいので早めの確認が重要です。
超富裕層ミニマム税の仕組み(医師でも分かる要点)
ミニマム税の対象になりやすい所得の特徴
ミニマム税は、給与・事業のような総合課税(累進)だけでなく、株式の譲渡所得など分離課税を含めた「一定の基準所得金額」をもとに、最低限の負担水準に達しているかをチェックする設計です。
所得税率(総合課税)は5%〜45%の累進である一方、株式等の譲渡は原則として申告分離課税となり、所得の性質で税率が異なります。これが「実効税率が下がる」要因になります。
- 事業所得(開業医の診療収入など):総合課税で累進(一般に高所得ほど税率上昇)
- 株式等の譲渡所得:申告分離課税(総合課税と分離して計算)
- 土地・建物の長期譲渡所得:一定の計算方法で税額を算定(分離課税の枠組み)
制度の趣旨は「分離課税の比率が高く、全体として税負担率が一定水準を下回る超高所得」に最低限の負担を求める点にあります。
2026年の強化点(3.3億→1.65億円、22.5%→30%)
令和8年度税制改正の大綱では、追加税負担を計算する基礎となる「基準所得金額から控除する特別控除額」を1億6,500万円(現行:3億3,000万円)へ引き下げ、税率を30%(現行:22.5%)へ引き上げるとされています。
つまり、これまでより「より広い層が対象になり得る」うえ、追加税額も重くなる方向です。
超富裕層ミニマム税1億6500万円の基準と「対象になるか」判定の考え方
開業医が対象になりやすい典型パターン
高収入開業医の多くは、診療収入=事業所得が大部分で、総合課税の累進により税負担率が高くなりやすい傾向があります。よって「診療収入だけ」で対象化するケースは相対的に多くありません。
一方で、次のような年は対象化リスクが上がります。
- 株式売却益が大きい(持株の一括売却、相場上昇局面での利確など)
- 不動産の売却益が大きい(長期譲渡を含む)
- 配当・分配金が大きい(確定申告不要の配当等も含めた調整に留意)
- 退職金・保険満期・一時所得等が重なり、制度上の「基準所得」が膨らむ
ポイントは、事業所得が高いかどうかより、資産所得が大きい年に「基準所得が1.65億円超」になっていないか、そして税負担率が制度の最低水準に達しているかです。
旧制度との比較(2025以前と2026)
| 項目 | 現行(〜2025想定) | 2026(令和8年度改正方針) |
|---|---|---|
| 特別控除額(基準所得から控除) | 3億3,000万円 | 1億6,500万円 |
| 税率 | 22.5% | 30% |
| 影響 | 「超」高所得の一部が中心 | 対象レンジが広がり、追加税額も増えやすい |
改正により「対象判定のハードルが下がり、最低負担率の要求が上がる」ため、2026年以降は高収入層の資産取引のタイミング管理がより重要になります。
開業医が取り得る実務的対策(課税2026を見据えて)
対策は「制度を回避する」よりも、追加納税を含めた税負担の予測可能性を上げ、キャッシュフロー事故を防ぐ設計が中心になります。
対策の基本方針
- 資産所得の発生年をコントロールする(売却・分配・組換え)
- 事業側(クリニック)の利益計画と、個人資産側の利確計画を連動させる
- 納税資金を先に確保し、確定申告時の資金繰りを崩さない
具体的な進め方(チェック手順)
Step 1: 2026年のイベント洗い出し
株式売却・不動産売却・配当増・保険満期など、基準所得を押し上げる要因を年初に一覧化します。
Step 2: 「基準所得が1.65億円を超える可能性」を概算
医業の利益見込み(所得)に、資産所得イベントを合算し、閾値超えの可能性を早期に把握します。
Step 3: 売却・利確の分散(年をまたぐ、回数を分ける等)
一括の譲渡益を複数年に分散できないかを検討します。特に上場株式の利確は分割売却が取りやすい領域です。
Step 4: 納税資金の確保と着地点の合意
追加税負担が起こり得る前提で、納税資金(現預金)を先に厚めに確保し、投資・設備投資・借入返済との優先順位を決めます。
Step 5: 確定申告前にシミュレーションを確定
当法人では、資産所得の見込みが読める段階(年末〜1月)で試算を行い、追加納税の可能性と資金手当をセットで提案することが多いです。
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「高収入開業医」目線の注意点(落とし穴)
クリニックの利益と個人資産の利確が同じ年に重なる
医業の利益が例年より高い年(患者数増、自由診療の伸長、費用減少)に、株式・不動産の売却益が重なると、基準所得が跳ね上がります。
「今年は医業が好調だから、投資も利確しよう」という判断が、ミニマム税強化後は逆風になる場面が増えます。
税率だけで判断しない(実効税率の罠)
所得税率は総合課税で累進(5%〜45%)ですが、株式等の譲渡は申告分離課税です。所得の構成比により、全体の実効負担が制度水準を下回ると追加税負担が出るため、税率表の「一番上の45%」だけ見て安全と判断しないことが重要です。
よくある質問
Q: 診療収入(事業所得)が中心なら、ミニマム税は関係ないですか?
A:
一般に事業所得中心だと累進課税で税負担率が上がりやすく、対象化しにくい傾向はあります。ただし、同じ年に株式譲渡・不動産譲渡・配当等が重なると、基準所得が閾値(1.65億円)を超え、追加税負担が生じる可能性があります。制度上の「基準所得」の集計は通常の課税所得と異なるため、年次の試算が有効です。Q: 「1億6500万円」は年収(売上)ですか、それとも所得ですか?
A:
売上ではなく、制度で定義される「基準所得金額」に関する基準です。給与・事業所得だけでなく、分離課税の所得や確定申告不要の配当所得等も含めた調整が入り得ます。売上規模で判断せず、所得ベースでシミュレーションしてください。Q: 2026年に株を大きく売りたいのですが、対策はありますか?
A:
代表的には、(1)利確を年で分散する、(2)医業の利益が高い年を避ける、(3)納税資金を先に確保する、(4)年末〜申告前に追加税負担を織り込んだ試算を確定する、の順で検討します。実行可能性は保有銘柄・含み益・生活資金・運用方針で変わるため個別設計が必要です。Q: 2026年改正はもう確定ですか?
A:
記事執筆時点では、令和8年度税制改正の大綱(閣議決定)において見直し方針が示されています。最終的な適用関係は法令・通達・国税庁の解説等で運用が明確化されるため、施行時期や細部は必ず最新情報で確認してください。まとめ
- 2026年は超富裕層ミニマム税が強化され、特別控除額が3.3億円から1.65億円へ引き下げ、税率は22.5%から30%へ引上げ方針
- 開業医でも、株式譲渡・配当・不動産譲渡など資産所得が大きい年は対象化しやすい
- 判定は「所得の大きさ」だけでなく、所得の構成により実効税率が制度水準を下回るかが核心
- 実務対策は、資産所得イベントの年次分散と、納税資金の先行確保、年末〜申告前の試算確定が中心
- 個別事情で結果が変わるため、医業の利益計画と資産運用計画を一体で点検することが重要
参照ソース
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_gaiyou.htm
- 国税庁「No.2260 所得税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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