
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定2026在宅医療の減収対策|税理士が解説

2026改定で在宅クリニックが「減収」になりやすい理由
結論として、2026診療報酬改定では在宅医療の中でも、特に「同一建物に患者が集まる運用」と「軽症中心の患者構成」のクリニックが、減収になりやすい設計です。加算の点数構造が単純に下がるだけでなく、施設基準・算定要件が整理され、算定できる前提条件が厳密化されるためです。
在宅医療の収益は大きく分けて、(1) 訪問した都度の評価(訪問診療・往診等)、(2) 月単位の管理評価(在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料等)、(3) 看取り・緩和ケア等の加算、の組み合わせで構成されます。厚労省資料でも、在宅医療の評価がこの3要素の組み合わせである点が整理されています。
今回の記事では、院長・経営担当者が「うちのクリニックは、どの程度の減収が起こり得るか」を把握できるよう、影響の出やすい論点を試算フレームに落とし込み、経営・税務の打ち手まで具体化します。
ホスピス型住宅の「包括型」化で何が起きるか
まず押さえるべき用語:出来高と包括(ここで言う包括)
在宅領域で「包括」と言われる場合、実務上は次の2つが混同されがちです。
- 診療行為ごとに積み上がる評価(いわゆる出来高の感覚)
- 月単位で管理・体制を評価する点数(管理料・総合診療料等)を軸に、加算の取り方が制約される状態
ホスピス型住宅(住宅型有料老人ホーム・サ高住等に近い運用で、同一建物に終末期患者が集中する形)では、患者密度が高いがゆえに「効率的訪問」と見なされやすく、点数が段階評価(人数が増えるほど1人当たりが下がる)になりやすいのが特徴です。2026改定の資料でも、単一建物診療患者数に応じた加算点数が示され、改定案で点数が引き下げられている箇所があります(在宅緩和ケア充実診療所・病院加算の段階点数)。
ここで言う「包括型」化の本質は、ホスピス型住宅のような集約型モデルほど、1件追加したときの増分が小さくなり、さらに算定要件の未達で段階が下がると一気に単価が落ちる、という収益構造へのシフトです。
影響額の試算(モデルケース)
前提(例。実際は届出状況・算定項目の組合せで変動します)
- 同一建物に終末期患者が20名
- 施設入居時等医学総合管理料(または在宅時医学総合管理料相当)を算定
- 併せて在宅緩和ケア充実診療所・病院加算の対象(届出あり)を想定
- 1点=10円換算(保険請求の概算把握のための便宜)
厚労省資料(個別改定項目)では、「単一建物診療患者が10人以上19人以下」等の区分で、改定案の点数が現行より下がっています。例えば、単一建物診療患者数に応じた区分のうち、上位区分(1人、2〜9人、10〜19人)で点数が引下げられていることが読み取れます。
試算の考え方
- 同一建物の患者数が20名だと、区分上は「20人以上49人以下」等の区分に該当することが多く、上位区分ほどの点数は期待できません。
- また、患者数の変動(例:19→20、9→10)で区分が変わると、月次の収益が段差で動きます。
以下は「差分の見える化」のため、上位区分(10〜19人)と比較して、患者数増で区分が下がる場合の影響も含めた表です(例)。
| 論点 | 収益の動き方 | 減収が起きる典型 |
|---|---|---|
| 単一建物患者数による段階評価 | 患者が増えるほど1人当たりが下がる | 9→10、19→20など「区分跨ぎ」で月次が段差下落 |
| 緩和ケア系加算の点数引下げ | 同じ患者数でも加算単価が下がる | ホスピス型住宅など終末期患者比率が高い運用 |
| 算定要件の未達による区分引下げ | 要件を満たさないと低位区分へ | 人員・連携・実績の要件が曖昧なまま運用している |
往診代行禁止で変わる患者紹介ルートと収益構造
争点は「禁止」よりも、委託要件の明確化と説明責任の増加
SNSでは「往診代行が禁止になる」といった受け止めが広がりやすい一方、厚労省資料(個別改定項目)では、在宅療養支援診療所・病院が第三者(株式会社等)を利用して24時間連絡体制・往診体制を確保する場合の要件を明確化する、という方向性が示されています。
つまり実務的には、次が起こります。
- 外部委託のスキームは残り得るが、「誰が・いつ・どの範囲を担うか」を文書化・体制化していないと施設基準リスクになる
- 当直・オンコールを丸投げに近い形で「実質的に代行」していると、監査耐性が落ちる
- 施設基準が崩れると、管理料・加算の連鎖的な減収が起こり得る(1項目の否認で月全体に波及する可能性)
紹介ルートへの波及(経営目線)
外部委託への依存度が高い在宅クリニックほど、病院・ケアマネ・施設側からの紹介における「24時間対応の実効性」が問われます。結果として、紹介元が次のように動く可能性があります。
- 連携の安定性が高い法人・機能強化型へ紹介が寄る
- 夜間対応が不透明なクリニックは、軽症・単発往診中心へ寄り、単価が下がる
- 施設側が「別の主治医」へ切替を提案するケースが増える
この局面では、収益を守るには「委託の可否」よりも、紹介元が安心できる運用に整えることが重要です。
Step 1: 24時間体制の棚卸し
- 患者・家族へ交付している連絡先文書
- 当番表(医師・看護職・連携先)
- 記録(夜間コール→対応→結果)
Step 2: 委託部分の切り分け
- 医師行為(診断・処方・指示)と、一次受け(コールセンター等)を分離
- 連携医療機関・訪問看護との役割分担を契約・覚書で明確化
Step 3: 紹介元向けの説明資料を作る
- 24時間対応フロー(平日夜間・休日の2パターン)
- 緊急搬送の判断基準と連携病院
- 看取りの対応可否(薬剤・麻薬・緩和ケア)
軽症患者中心クリニックの減算ルールをどう読むか
「患者構成」で管理料の区分が落ちるリスク
厚労省資料(個別改定項目)では、在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料の算定にあたり、「月2回以上訪問診療を行う患者数」に占める別表(別表第8の2・別表第8の3)該当患者の割合が一定程度以上であること等を要件とする方向が示されています。要件を満たさない場合に、低位の区分を算定する(実質的な減算)という構造です。
実務に落とすと、次のようなクリニックは注意が必要です。
- 施設中心で、ADLが比較的高い・医療依存度が低い患者が多い
- 新規紹介を増やすために「軽症歓迎」の導線を作っている
- 訪問回数は多いが、別表該当(医療必要度が高い)比率が低い
ここは「個々の患者が軽症か重症か」ではなく、月次の患者ポートフォリオで判定されるのが厳しい点です。割合要件は1人の入替で崩れることがあり、月末に算定区分が落ちると、翌月以降の資金繰りに直撃します。
現場で起きやすい失敗
- 別表該当の判定をカルテ側で管理しておらず、レセ直前に判明する
- 訪問看護・居宅介護支援との情報連携が弱く、状態変化が反映されない
- 看取り・緩和ケアの実績があるのに、算定要件の「記載要件」で落ちる
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減収リスクに対応する経営改善の3つの方向性
1. 患者層転換:別表該当比率と看取り体制を「設計」する
改定が患者構成の健全化(医療必要度に応じた評価)へ寄るほど、経営側は「紹介を断らない」ではなく「ポートフォリオを設計する」必要があります。
- 連携病院の退院調整部門と、対象疾患・状態の合意を作る
- 訪問看護・薬局と、終末期の標準パス(疼痛・呼吸困難・せん妄等)を用意する
- 施設中心なら、建物内の「患者密度」と区分段階の最適点を把握する(19→20で段差があるなら、別棟運用・提携先分散も選択肢)
2. コスト削減:オンコールと移動を「標準化」して粗利を守る
往診・訪問診療は、売上の割に変動費(人件費・移動・夜間負担)が膨らみやすい領域です。点数が引き下げられる局面では、粗利の源泉を「運用」に取りにいくべきです。
- 夜間一次受けの標準化(コール分類・エスカレーション基準)
- 診療補助(看護師・MA)で医師稼働をボトルネックにしない
- ルート最適化と、曜日別の訪問設計(同一建物偏重のリスクも踏まえる)
3. 法人化:役員報酬・退職金・分院展開を含めた中期最適
減収局面であっても、一定規模以上の在宅クリニックは、医療法人化で手取り最適化とガバナンス強化を両立できる余地があります。厚労省は医療法人設立手続を整理して公開しており、設立実務は都道府県の運用に沿って進めることになります。
ただし、法人化は「節税」だけで判断すると失敗します。次の3点をセットで検討してください。
- 役員報酬設計(社会保険・所得税・資金繰り)
- 退職金(出口設計)と、将来の承継
- 分院・訪問看護ST等のグループ化
在宅医療の税務メリット:小規模企業共済と医療法人化のタイミング
小規模企業共済は「院長個人の防衛力」を上げる
個人開業(医科の個人事業)であれば、小規模企業共済は実務上のインパクトが大きい制度です。国税庁も、小規模企業共済等掛金控除として「その年に支払った掛金の全額が所得控除になる」旨を示しています。
減収局面では、次のように効きます。
- 税負担を平準化でき、キャッシュアウトを抑えやすい
- 退職金的な原資を積み上げられる
- 事業資金の貸付制度も含め、資金繰りの選択肢が増える
医療法人化のタイミングは「利益の安定」と「人件費構造」で決める
在宅は診療報酬改定の影響を受けやすい一方、運用改善で利益が戻ると、個人の累進課税が重くなりやすいのも事実です。法人化の判断は、概ね次の順に整理するとブレにくくなります。
- 改定後の利益水準が、12か月連続で読めるか(スポット要因を除く)
- オンコール負担・採用計画を踏まえ、院長の稼働をどう最適化するか
- 2拠点目(分院、訪問看護、居宅介護支援)を見据えるか
Step 1: 改定後の「月次KPI」を固定化する
- 患者数(居宅/施設、単一建物人数)
- 別表該当比率
- 看取り件数、夜間対応件数
- 加算の算定率(落ちた理由の分類)
Step 2: 役員報酬・採用・外注の設計を同時に行う
- 院長報酬だけ上げても、現場が回らなければ紹介が減ります
- 外注(委託)を使うなら施設基準リスクも同時に点検します
Step 3: 法人化の「出口」を先に決める
- 将来の承継(子・第三者)
- 退職金の原資
- 資産(不動産・車両・設備)の持たせ方
よくある質問
Q: ホスピス型住宅は、2026改定で必ず減収になりますか?
Q: 往診代行(外部委託)は完全に禁止されるのですか?
Q: 軽症患者が多いと、どこが一番痛いですか?
Q: 税務でできる対策はありますか?
まとめ
- 2026改定は、在宅の中でも「同一建物の集約型」と「軽症中心」のクリニックが減収になりやすい
- ホスピス型住宅では、単一建物患者数による段階評価と加算点数の見直しが収益に直撃しやすい
- 往診代行は「禁止」より、外部委託で24時間体制を組む場合の要件明確化により監査耐性が重要になる
- 軽症偏重は、別表該当比率等の要件未達で管理料区分が落ちるリスクがある
- 対策は、患者層転換・運用標準化による粗利改善・法人化/共済等の税務施策を同時に設計する
参照ソース
- 厚生労働省「個別改定項目について(診療報酬)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001639439.pdf
- 厚生労働省「医療法人設立等の手続等について」: https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/tetuduki.html
- 国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「小規模企業共済とは」: https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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