
執筆者:辻 勝
会長税理士
在宅医療改定2026要件厳格化と損益分岐点|税理士が解説

要点:軽症中心モデルは「要件次第」で採算が崩れます
在宅医療の2026改定(議論資料ベース)では、在宅時医学総合管理料等の算定に「重症等(別表8の2・8の3)患者割合が一定程度以上」等の要件が追加され、さらに在宅療養支援診療所等の24時間連絡・往診体制について第三者(株式会社等)利用時の要件明確化が示されています。結果として、軽症患者を多数抱えて回転させるモデルは、加算・上位区分の算定可否次第で収益構造が変わり、損益分岐点(必要患者数・必要訪問数)が上振れしやすくなります。まずは「要件を満たせる患者構成か」「24時間体制を実装できるか」を前提に、損益分岐点を再計算しましょう。
在宅医療の要件厳格化とは:論点を2つに分ける
1) 重症患者割合要件:在宅時医学総合管理料等の入口が変わる
資料では、在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料の一部区分(「月2回以上訪問診療を行っている場合(難病等を除く。)」等)について、月2回以上訪問診療を行う患者のうち「別表第8の2」「別表第8の3」に該当する患者割合が一定程度以上であることを要件とする、という方向性が示されています。つまり、軽症患者が増えるほど要件未達リスクが上がる設計です(最終的な割合・人数基準は告示・通知で確定)。
2) 24時間対応の明確化:体制の実装コストが顕在化する
在宅療養支援診療所等の施設基準では、24時間連絡体制・24時間往診体制の確保に加え、往診担当医の氏名・担当日等を文書で患家へ提供する等の対応が規定され、第三者(株式会社等)を利用して24時間連絡体制・往診体制を確保する場合の要件を明確化する、という整理が示されています。
ここは「形式要件」ではなく、人員配置・オンコール設計・連携先との契約に直結するため、固定費の上昇要因になります。
「軽症中心モデル」が通用しにくくなる理由
軽症中心モデルの強みは、(1) 訪問の標準化、(2) オンコール頻度の低さ、(3) スタッフ少人数での回転、にあります。
一方で要件厳格化が進むと、次の3点で構造が逆風になります。
- 患者構成:重症等患者割合要件により、軽症比率が高いほど上位区分や加算の算定が難しくなる(=単価が下がりやすい)
- 体制:24時間対応の実装がコストとして見える化され、外部委託・連携でも要件適合の設計が必要になる
- リスク:要件未達で区分が下がると、売上は逓減するのにオンコールや採用は止められず、利益が急減しやすい
損益分岐点の再計算:税理士が使う実務フレーム
ここでは、点数の細目に依存しない形で、損益分岐点を「患者数」と「訪問数」で再計算する枠組みを提示します。
まず押さえるべき収益ドライバー
在宅の収益は大きく以下の掛け算で整理できます(概念式)。
- 月次売上 =(医学管理の月額報酬)+(訪問診療の出来高)+(加算・看取り等)-(算定不可・区分ダウン影響)
要件厳格化の影響は、主に「医学管理の月額報酬(区分)」「加算」に出ます。ここが崩れると、軽症多数でも売上が伸びません。
再計算の手順(院内で回せる形)
Step 1: 患者を3区分で棚卸しする
- A:別表8の2・8の3に該当(重症等)
- B:難病等(除外対象になり得る群)
- C:上記以外(軽症中心になりやすい群)
Step 2: 要件判定の母数を作る
- 「月2回以上訪問診療を行う患者数」を抽出
- そのうちA(重症等)の割合を算出
- 要件未達の場合に起きる区分ダウン・算定変更をシナリオ化する(確定通知で数値を当てはめる)
Step 3: 24時間対応のコストを固定費として見積もる
- オンコール手当、夜間往診の稼働見込み、連携先への支払い
- 第三者利用(会社等)を使うなら、要件適合の運用(連絡先提示、担当医・担当日文書化等)の事務コストも含める
Step 4: 損益分岐点を2つ出す
- (a) 要件達成シナリオ(上位区分・加算が維持できる前提)
- (b) 要件未達シナリオ(区分ダウン・加算減の前提)
Step 5: 患者構成を逆算して必要な重症等患者数を決める
- 目標利益から逆算して、A(重症等)の最低人数・比率を定める
- 不足する場合は、紹介元設計・病院連携・看取り体制の強化で埋める
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要件別の経営インパクト比較(チェック用)
| 論点 | 何が変わる(方向性) | 軽症中心モデルへの影響 | 対応の打ち手 |
|---|---|---|---|
| 重症患者割合要件 | 医学管理料等の一部区分で、重症等患者割合が一定以上を要件化 | 軽症比率が高いほど区分ダウン・算定変更のリスク | 重症等の獲得導線(病院・訪看・ケアマネ)を設計 |
| 24時間対応の明確化 | 24時間連絡・往診体制と文書提供等、第三者利用時の要件明確化 | 固定費(オンコール・連携費)が増えやすい | 当番設計、連携契約、ICT活用、手当体系の整備 |
| BCP要件等の追加 | 在支診・在支病の要件に業務継続計画の策定・見直し追加 | 事務負荷増(ただし直接売上は増えない) | ひな形整備、年次点検の定型化、監査対応 |
実務の落とし穴:よくある失敗パターン
- 患者数だけ増やしてしまい、重症等患者割合が下がって要件未達になる(売上が増えない/下がるのに現場負荷だけ増える)
- 24時間体制を外注で見た目だけ整え、要件適合の運用(文書提供、担当日管理等)が追いつかない
- 収益シミュレーションが「要件達成前提」しかなく、未達時の損益分岐点を把握していない
ここは税務というより管理会計の論点ですが、税理士としては「未達時でも資金繰りが回る設計」まで含めて助言することが多い領域です。
よくある質問
Q: 重症患者割合要件は、具体的に何%ですか?
Q: 24時間対応を第三者(会社等)に委託すれば要件は満たせますか?
Q: 軽症中心から重症中心に寄せると、現場が回りません。どう設計しますか?
まとめ
- 2026改定の方向性では、在宅時医学総合管理料等に重症等患者割合要件が入り、軽症中心モデルは区分ダウンリスクが上がる
- 在支診等の24時間体制は、第三者利用時の要件明確化も含め、固定費上昇として損益分岐点を押し上げやすい
- 損益分岐点は「要件達成」と「要件未達」の2シナリオで出し、必要な重症等患者数を逆算する
- 経営判断は、確定版(告示・通知)に点数・経過措置を当てて最終化する
参照ソース
- 別紙1-1 医科診療報酬点数表(傍線部分は改正部分): https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655178.pdf
- 総-1 個別改定項目について(改定案の考え方・要件等): https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70414.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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