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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.14
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

ベースアップ評価料対象拡大|全職員対応を税理士解説

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ベースアップ評価料対象拡大|全職員対応を税理士解説

ベースアップ評価料の「対象拡大」とは

結論から言うと、2026年改定ではベースアップ評価料の文言が「主として医療に従事する職員(医師・歯科医師除く)」から、より広い概念である「保険医療機関において勤務する職員」へ整理され、事務職・清掃スタッフ等も賃上げの計画対象に含めやすくなりました。

これまで「医療従事者の処遇改善」と言いながら、院内では医療職と非医療職が混在して給与改定を決めるのが実態です。対象定義が広がることで、賃上げ計画を院内全体の人件費設計として作りやすくなる一方、給与規程・台帳・届出書類の整合性がより重要になります。

本記事では、改定前後の定義の違い、賃上げ原資の考え方、税理士視点の実務チェックポイントをまとめます。

改定前後で何が変わったのか

1) 対象職員の定義が「全職員」に近づいた

改定のポイントは、算定要件・施設基準に登場する「賃金改善の対象」の文言です。医療機関側の実務としては、「誰の賃金を、どの範囲で改善した計画として説明できるか」が変わります。

2) 医師・歯科医師は別建てのまま

対象が拡大されたとはいえ、医師・歯科医師は制度設計上、引き続き除外の整理が残ります。ここを曖昧にすると、賃金改善計画の説明が崩れ、内部統制(給与決裁・役員報酬の扱い)も混乱します。

ここがポイント
「対象が全職員になった=医師の賃上げ原資にも自由に回せる」という理解は危険です。医師・歯科医師は、役員報酬・勤務医給与・診療報酬上の整理が絡むため、賃上げ設計は別の論点として切り分けるのが安全です。

事務職・清掃スタッフも含めた賃上げ原資の考え方

原資の基本ロジック:評価料=「賃上げのための財源」

ベースアップ評価料は、届け出た区分に応じて算定され、原則として賃金改善に充当することが求められます。ここで重要なのは、「原資が増えたから賃上げする」ではなく「賃上げ計画を示し、評価料で裏づける」という発想です。

特に対象が拡大すると、次のような設計が可能になります。

  • 看護師・医療事務・受付を同率で上げる
  • 清掃・滅菌補助などを最低賃金上昇に合わせて底上げする
  • 職種間の賃金テーブルの歪み(同一労働同一賃金の観点)を調整する

具体例:全職員を含めた賃上げ配分の作り方

ここでは説明用に、月額給与(賞与は別)で単純化します。

  • 対象職員:看護師5名、医療事務4名、受付2名、清掃1名(計12名)
  • 月の賃上げ原資(評価料相当):120,000円(便宜上の金額)
  • 配分案A(フラット配分):全員10,000円/月
  • 配分案B(厚め配分):看護師15,000円、医療事務10,000円、受付5,000円、清掃5,000円

このとき実務で問われるのは、「配分の合理性」と「説明可能性」です。たとえば案Bなら、

  • 人材確保が厳しい職種へ厚めに配分
  • 清掃・受付は時給市場の上昇分を優先的に反映
  • 給与台帳・賃金規程の改定履歴で裏づける

といった説明にすると、院内合意も作りやすくなります。

実務で必ず押さえる3つのポイント(税理士視点)

1) 「対象職員」の名簿を給与台帳と一致させる

対象が広がるほど、名簿管理が甘いと破綻します。

  • 雇用形態(正職員・パート・派遣・委託)ごとの整理
  • 兼務者(医療事務+クラークなど)の所属・役割の整理
  • 期中入退職者の扱い(いつから賃上げ対象に入れるか)

給与台帳(賃金台帳)と人事マスタの突合を一度やっておくと、届出後の説明コストが下がります。

2) 「委託」スタッフは原則賃金改善の直接対象にならない

院内清掃が外部委託の場合、委託先の従業員を医療機関が直接賃上げすることはできません。実務上は、

  • 委託契約単価の改定(結果として委託先の賃上げ余地が生まれる)
  • ただし、それを「当院の賃金改善」として扱えるかは整理が必要

という論点になります。院内雇用か外部委託かで、設計は大きく変わります。

ここがポイント
「清掃スタッフを対象に入れたい」場合は、まず雇用形態の確認が先です。院内雇用なら設計しやすい一方、外部委託なら委託費の見直しという別の実務になります。

3) 医師・歯科医師の扱いを賃上げ計画に混ぜない

勤務医がいる医療機関では、職員賃金改善と医師給与改定を同じ資料で語りたくなります。しかし、評価料の趣旨・施設基準上の整理と、医師給与(場合によっては役員報酬)の整理は、税務・労務ともに論点が違います。

  • 医師:役員報酬の期中改定制限、勤務医給与の市場水準、診療科別採算
  • その他職員:賃金規程・同一労働同一賃金、最低賃金、採用難易度

ここは資料も意思決定も分けた方が、監査・指導の場面でも説明が通ります。

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届出・運用の進め方(院内フローの型)

Step 1: 対象範囲の確定(人事・経理)

  • 「当院に勤務する職員」を棚卸し(雇用形態別に一覧化)
  • 医師・歯科医師を除外する運用ルールを明文化
  • 外部委託は別枠で整理

Step 2: 賃上げ設計(院長・事務長・税理士)

  • 月額いくらを、誰に、どの根拠で配分するかを決める
  • 賃金テーブル・手当設計の見直し(基本給/手当/時給)

Step 3: 書類・台帳の整備(経理・社労士)

  • 賃金台帳、雇用契約書、就業規則(賃金規程)の整合
  • 改定日・適用対象・計算方法を記録

Step 4: 届出と算定開始(施設基準担当)

  • 地方厚生局への届出
  • 算定開始後は、原資と賃上げのトレース(説明できる状態)を維持

改定前後の比較(実務で見るべき差分)

←横にスクロールできます→
観点改定前の考え方改定後の考え方
対象職員の範囲主として医療に従事する職員(医師・歯科医師除く)を中心に設計「保険医療機関に勤務する職員」を起点に設計しやすい
院内調整の難易度医療職と非医療職で対象外感が出やすい事務・清掃等も含めた賃金設計として説明しやすい
必要な管理対象職員の線引きが主戦場全職員棚卸し+雇用形態の整理が主戦場
典型的な落とし穴対象外職種の不満、賃金台帳の説明不足外部委託を混同、医師給与を混ぜて説明が崩れる

よくある質問

Q: パートの受付や清掃スタッフも対象に入れられますか? ▼
院内で雇用しており「当院に勤務する職員」と整理できるなら、賃上げ計画の対象として設計しやすくなります。一方、外部委託の場合は直接賃金を上げられないため、委託契約の見直しとして別途整理が必要です。
Q: 医師(院長や勤務医)の賃上げにも評価料の原資を使えますか? ▼
医師・歯科医師は取り扱いが別論点になりやすく、職員賃金改善の計画に混在させると説明が難しくなります。特に役員報酬は税務上の制約もあるため、職員の賃金改善計画とは切り分けて設計するのが安全です。
Q: いつから算定開始でき、何から手をつければよいですか? ▼
基本は届出の翌月から算定という運用が多く、実務は「対象職員の棚卸し」と「賃上げ配分の根拠作り」から始めると進めやすいです。最初に人事・経理データを整えると、届出後の説明負担が大きく下がります。

まとめ

  • 2026年改定でベースアップ評価料の対象概念が広がり、事務職・清掃等も賃上げ設計に入れやすくなった
  • ただし医師・歯科医師は別論点として切り分け、職員賃金改善計画に混ぜない方が安全
  • まず「当院に勤務する職員」の棚卸しを行い、給与台帳と一致させることが実務の起点
  • 外部委託スタッフは直接賃金改善できないため、委託費見直しとして別整理が必要
  • 届出後は、原資(評価料)と賃上げのトレースができる資料・台帳整備が重要

参照ソース

  • 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第647回)資料「総-1 個別改定項目について」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
  • 厚生労働省「ベースアップ評価料等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

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