
執筆者:辻 勝
会長税理士
【必見】美容クリニック税務調査で狙われる理由と対策を税理士が解説

美容クリニックの税務調査リスクとは
美容クリニックの税務調査リスクは、「自費診療(保険外)」を中心に売上・経費の実態把握が難しく、申告内容と実態のズレが生じやすい点にあります。特に院長が経営と現場の両方を担う体制では、現金管理や外注費の証憑、私的支出の混在が論点になりがちです。
本記事では、美容クリニックが税務調査で狙われやすい代表的な3つの理由と、調査で見られるポイント、実務での備え方を整理します(対象:院長・事務長・経理担当)。
美容クリニックが税務調査で注目されやすい背景
「自費中心=価格設計の自由度」が裏目になりやすい
美容医療は自費診療が中心で、メニュー構成・価格・割引設計の自由度が高い一方、売上計上のルール(値引・キャンセル・返金・前受/未収の扱い)が院内運用に依存しやすい領域です。運用が属人的だと、後から証明できる資料が不足し、調査官が「売上の網羅性」を疑いやすくなります。
「広告・集客の比重」が高く、経費科目の論点が多い
美容クリニックは広告、SNS、紹介料、コンサル、業務委託などの支出が相対的に大きく、経費性(必要性・相当性)の説明が求められやすい構造です。契約書や成果物がない、単価の根拠が曖昧、といった弱点があると否認リスクが上がります。
行政ルール(表示・広告等)と「実態」の整合性も見られる
美容医療は行政通知等で取扱いの整理が継続的に行われています。税務調査は税だけを見ますが、院内の実態把握の過程で、広告・同意書・説明資料などの運用が確認されることがあります。結果として、売上・返金・クレーム対応の記録の整合性が論点になりやすい点は理解しておくべきです。
理由1:現金・自費診療が多く「売上除外」を疑われやすい
現金管理は「網羅性」と「改ざん耐性」が問われる
現金売上がある場合、調査では次の突合が典型です。
- 予約台帳・カルテ・施術同意書と、日計表/レジ締め
- 現金出納帳と、銀行入金(タイミング差を含む)
- 返金・キャンセル・値引の根拠資料と、会計処理
ここで弱いのが「日々の締め資料がない」「担当者ごとに運用が違う」「返金が口頭運用」などです。特に自費では、都度課金・コース・物販・紹介割引など多様なパターンがあり、売上計上の基準が曖昧だと“抜け”と見なされやすくなります。
ありがちな指摘パターン(実務で多い順)
- 予約枠は埋まっているのに売上が薄い(稼働と売上の乖離)
- コースの前受/未消化の管理がなく、期ズレが大きい
- 返金や値引が「根拠メモのみ」で、証憑が不足
- 物販の在庫管理が弱く、棚卸差異が説明できない
対策の方向性
- レジ締め(Zレポート等)+日計表+現金実査のセット運用
- 返金・値引は「承認者」「理由」「患者ID」「金額」「支払手段」を必ず記録
- コースは「前受」「役務提供」「残高」を一覧で持つ(Excelでも可)
理由2:広告費・外注費が大きく「経費否認」になりやすい
“広告費”でも中身が違うと税務上の見え方が変わる
美容クリニックの広告・外注は、名称が同じでも中身が多様です。税務調査では「誰に」「何を」「いくらで」「どんな成果物があるか」が問われます。
| 支出の例 | よくある弱点 | 整備したい証憑 |
|---|---|---|
| SNS運用代行 | 投稿内容・頻度が不明 | 契約書、投稿一覧、レポート |
| インフルエンサー施策 | 対価の根拠が曖昧 | 契約/依頼書、投稿URL、支払記録 |
| コンサル費 | 成果物がない | 提案書、議事録、改善レポート |
| 紹介料・送客料 | 実態が説明できない | 紹介ルール、対象患者、算定根拠 |
広告費は“ゼロにできる”論点ではありませんが、証憑が弱いと「私的支出」「過大」「架空」などの疑義が生じます。特に現金支払や、個人宛の振込が混じると説明難度が上がります。
「交際費」「福利厚生」「研修費」にも波及する
美容領域では、学会・研修・技術講習、接待、スタッフ施策など、科目境界が曖昧になりがちです。経費性の説明は「業務関連性」と「記録」で決まります。領収書だけでなく、参加目的、参加者、内容、成果(院内共有資料など)まで残すのが実務上の最適解です。
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理由3:院長個人と法人(事業)の混同が起きやすい
“よくある混同”は少額でも積み上がる
美容クリニックはオーナー色が強く、次のような混同が起きやすい傾向があります。
- プライベートの美容・衣服・飲食・旅行が「会議」「交際」として計上
- 自宅家賃・車両費・通信費の按分根拠がない
- 役員貸付金(法人のお金の立替・流用)が慢性化
これらは単発なら調整で済むこともありますが、継続すると“経費の全体像”が疑われ、調査が深掘りされる要因になります。法人と個人の線引きは、税務調査で最も説明コストが高い領域の一つです。
対策の方向性
- 個人カード決済と法人決済を分ける(混在は説明コスト増)
- 按分は「ルール化」して毎期同じ基準で運用(面積・走行距離・通話明細など)
- 役員貸付は月次でゼロクリアを目標にし、発生したら理由と精算計画を記録
税務調査で見られるポイントと、今からできる準備方法
調査の前提:帳簿・証憑は「保存義務」がある
法人の場合、帳簿や取引関係書類は原則7年(状況により10年)保存が求められます。現金出納帳、売上帳、領収書、契約書などが対象です。日々の運用が整っていても、保存ができていないと説明が成立しません。
準備は「現場運用」から逆算する
実務で効果が出やすい準備を、優先順位順にまとめます。
Step 1: 売上の“入口”を一元化する
予約・会計・返金の導線を整理し、「誰が」「どの画面/帳票で」確定させるかを決めます。現金がある場合は、締め資料の発行と保管を必須にします。
Step 2: 返金・値引・キャンセルをルール化する
口頭承認をやめ、理由・承認者・患者ID・金額・支払方法を残します。調査ではここが売上除外の論点になりやすいため、例外処理ほど強い記録が必要です。
Step 3: 広告・外注費は“成果物フォルダ”を作る
契約書、発注書、請求書、レポート、投稿一覧、議事録を案件単位でまとめます。支払先の実在性(法人/個人、住所、連絡先)も確認しておくと安心です。
Step 4: 個人混同を減らす仕組みに変える
法人カード・法人スマホ・業務用アカウントに寄せ、按分ルールを明文化します。役員貸付が出たら月次で原因をつぶします。
よくある質問
Q: 美容クリニックは現金をやめれば税務調査のリスクは下がりますか?
A:
現金比率が下がることで「突合が難しい領域」は減りますが、リスクがゼロになるわけではありません。自費中心である以上、返金・値引・前受の管理、広告・外注費の証憑、個人混同の有無が引き続き重要です。Q: 税務調査の連絡が来たら、まず何から着手すべきですか?
A:
まずは調査対象期間の「売上関連資料(予約・日計・レジ締め・返金記録)」と「主要経費(広告・外注・家賃・車両・旅費)」の束を作り、説明できる形に整えます。同時に、保存漏れがないか(契約書、領収書、通帳、クレカ明細)を確認し、顧問税理士と役割分担を決めるのが現実的です。Q: 広告代理店やコンサル費用は、どこまで資料が必要ですか?
A:
最低限「契約(発注)」「請求」「支払」に加え、業務内容と成果が分かる資料(レポート、提案書、議事録、運用ログ)が必要です。成果が数値化できない場合でも、実施内容が説明できる状態にすることが重要です。まとめ
- 美容クリニックは自費中心のため、売上計上(返金・値引・前受)を証明できるかが税務調査の焦点になりやすい
- 現金がある場合は、レジ締め・日計表・現金実査の運用で“網羅性”を担保する
- 広告費・外注費は契約と成果物で経費性を説明し、科目境界(交際・研修等)も整える
- 院長個人と法人の混同は深掘り要因。按分ルール化と決済分離で説明コストを下げる
- 帳簿・証憑は保存義務があるため、運用だけでなく保管設計までセットで整える
参照ソース
- 国税庁「税務調査手続について(国税通則法第7章の2等関係)」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/sozokuchosatetsuzuki/index.htm
- 国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm
- 厚生労働省「美容医療に関する取扱いについて」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_65283.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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