
執筆者:辻 勝
会長税理士
事業計画書の数値設計:売上・原価・人件費の作り方|税理士が解説

事業計画書で見られる数値は「根拠の筋」です
事業計画書で重視されるのは、売上・原価・人件費という主要数値の「大きさ」よりも、根拠が一貫しているかです。金融機関や投資家は、数字そのもの以上に「その数字がどう作られ、月次で再現できるか」を見ます。特に創業期は実績がないため、単価×数量、原価率、人員計画というロジックで、説明可能な形に落とし込みましょう。
売上計画の作り方とは:単価×数量×稼働で分解する
売上は「目標」ではなく「計算結果」にします。基本は、単価×数量を、現場の制約(営業時間・席数・スタッフ数・設備能力)で上限チェックする流れです。
売上の型(収益モデル別)を先に決める
| 収益モデル | 売上の基本式 | 数量の根拠例 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| 物販(小売) | 客数×客単価 | 通行量、来店率、購買率 | 在庫・欠品で機会損失 |
| サービス(予約制) | 枠数×稼働率×単価 | 1日枠、キャンセル率 | 立上りの稼働率が過大 |
| サブスク | 会員数×月額 | 獲得数、解約率 | 解約・継続率の甘さ |
| クリニック等 | 来院数×単価(点数) | 診療枠、再診率 | 季節変動と初診比率 |
ポイントは、数量側を「市場」だけで作らず、運用上の上限(枠・席・回転・人員)と突き合わせることです。
月次へ落とすと、説得力が一段上がる
年商だけだと、根拠が薄く見えがちです。以下のように月次に落としてから年次へ積み上げると、説明が通りやすくなります。
- 立上り(1〜3か月):稼働率20〜40%
- 安定期(半年以降):稼働率50〜70%
- 繁忙期:上振れ、閑散期:下振れ(季節性を反映)
原価の作り方とは:原価率の相場ではなく「構造」で決める
原価は業種により定義が異なりますが、共通する考え方は「売上に連動する変動費」を中心に、原価率=売上原価÷売上高で整合させることです。相場率の丸写しではなく、仕入・外注・材料・物流など、構成要素に分解して根拠を示します。
売上原価に入れるもの/入れないもの(基本整理)
| 区分 | 売上原価に入れやすい例 | 経費(販管費)にしやすい例 |
|---|---|---|
| 物販 | 仕入、輸送、関税、検品 | 広告、家賃、通信費 |
| サービス | 外注費、材料費、消耗品(施術材料など) | 研修費、採用費、システム利用料 |
| 製造 | 材料費、外注加工費、製造経費(要整理) | 営業交通費、事務所家賃 |
会計・税務上の扱いは事業実態により異なりますが、事業計画では「変動費(売上連動)」と「固定費(売上非連動)」を分けると、採算ライン(損益分岐点)が読みやすくなります。
原価率を「仕入単価×数量」で作る
- 仕入単価:見積書、仕入予定先の提示価格、過去の同業平均(裏付けを残す)
- 数量:売上数量と連動(販売数、提供回数に比例)
- ロス率:廃棄・不良・返品を一定割合で見込む
金融機関向けには、「売上高、売上原価(仕入高)、経費の計算根拠」を記載する設計が基本です。
人件費の作り方とは:採用計画×給与×社会保険で積み上げる
人件費は「人×月額」で終わらせず、役割、採用時期、稼働、法定費用まで含めて設計します。特に創業期は、固定費の中で最もインパクトが大きく、資金繰りを左右する数値です。
人件費の内訳を3層に分ける
- 給与(基本給・手当・賞与見込み)
- 法定福利費(社会保険料・労働保険料の事業主負担)
- 採用・教育(求人広告、紹介料、研修コスト)
「給与だけ」を人件費として置くと、資金繰りがズレます。月次でのキャッシュアウト(現金支出)も意識し、支払時期(締日・支払日)まで決めると計画が締まります。
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売上・原価・人件費を1枚の収支計画に落とす手順
ここまでの素材を、金融機関が読みやすい「月次の収支」に整形します。創業計画書や事業計画の様式でも、収入(売上)と支出(仕入・人件費・経費)を並べ、差額で採算を示す構造が採用されています。
Step 1: 売上を月次で作る(単価×数量×稼働)
営業時間、提供枠、人員・設備の上限を置き、立上り期は稼働率を低めに設定します。根拠資料(周辺市場、既存店観察、予約枠設計)をセットにします。
Step 2: 原価を売上に連動させる(変動費化)
提供1回あたりの材料費・外注費を出し、数量(提供回数)に掛けます。ロス率や値上げリスクも少しだけ織り込みます。
Step 3: 人件費を採用時期で段階化する
初月からフルメンバーにしない設計も現実的です。採用月、研修期間、稼働開始月を分け、法定福利費を含めて月次に置きます。
Step 4: 粗利と固定費の関係で「耐久性」を見る
粗利(売上−原価)で、人件費・家賃・リース料など固定費を賄えるか確認します。固定費が重い業態は、損益分岐点売上を必ず出します。
Step 5: 3パターンで感度分析する
- 保守:売上−20%、原価+2pt、人件費据置
- 基準:想定どおり
- 強気:売上+10%(ただし稼働上限内)
当法人(税理士法人 辻総合会計)では30年以上にわたり、開業支援と月次管理の現場で「計画と実績がズレるポイント」を見てきました。ズレの大半は、売上の稼働制約、原価のロス、そして人件費の法定費用見落としに集中します。数字はきれいさより、ズレても破綻しない設計が評価されます。
よくある質問
Q: 売上は「市場規模×シェア」で作ってもよいですか?
Q: 原価率の相場が分からない場合はどうしますか?
Q: 人件費で見落としがちな項目は何ですか?
まとめ
- 事業計画書の売上は「単価×数量×稼働」で分解し、月次で積み上げる
- 原価は相場率の丸写しではなく、変動費の構造(単価×数量)で根拠を示す
- 人件費は給与に加え、法定福利費と採用・教育まで含めて月次で置く
- 粗利と固定費から損益分岐点を確認し、保守・基準・強気の3パターンで耐久性を見る
- 数字の見栄えより、根拠の一貫性とズレた時の破綻しにくさが評価される
参照ソース
- 日本政策金融公庫「創業計画の書き方」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/business-plan/
- 日本政策金融公庫「創業計画書(記入例PDF)」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyourei03_250401e.pdf
- 中小企業庁「事業計画書(様式・PDF)」: https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/download/04/02_souki_3year.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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