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クリニック向けコラム
作成日:2026.01.04
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

事業計画書の数値設計:売上・原価・人件費の作り方|税理士が解説

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事業計画書の数値設計:売上・原価・人件費の作り方|税理士が解説

事業計画書で見られる数値は「根拠の筋」です

事業計画書で重視されるのは、売上・原価・人件費という主要数値の「大きさ」よりも、根拠が一貫しているかです。金融機関や投資家は、数字そのもの以上に「その数字がどう作られ、月次で再現できるか」を見ます。特に創業期は実績がないため、単価×数量、原価率、人員計画というロジックで、説明可能な形に落とし込みましょう。

売上計画の作り方とは:単価×数量×稼働で分解する

売上は「目標」ではなく「計算結果」にします。基本は、単価×数量を、現場の制約(営業時間・席数・スタッフ数・設備能力)で上限チェックする流れです。

売上の型(収益モデル別)を先に決める

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収益モデル売上の基本式数量の根拠例つまずきやすい点
物販(小売)客数×客単価通行量、来店率、購買率在庫・欠品で機会損失
サービス(予約制)枠数×稼働率×単価1日枠、キャンセル率立上りの稼働率が過大
サブスク会員数×月額獲得数、解約率解約・継続率の甘さ
クリニック等来院数×単価(点数)診療枠、再診率季節変動と初診比率

ポイントは、数量側を「市場」だけで作らず、運用上の上限(枠・席・回転・人員)と突き合わせることです。

月次へ落とすと、説得力が一段上がる

年商だけだと、根拠が薄く見えがちです。以下のように月次に落としてから年次へ積み上げると、説明が通りやすくなります。

  • 立上り(1〜3か月):稼働率20〜40%
  • 安定期(半年以降):稼働率50〜70%
  • 繁忙期:上振れ、閑散期:下振れ(季節性を反映)
ここがポイント
売上は「平均」で置くほど危険です。創業期は上振れより下振れの影響が大きいため、月次で谷を作り、資金繰り(手元資金)に耐える設計にします。

原価の作り方とは:原価率の相場ではなく「構造」で決める

原価は業種により定義が異なりますが、共通する考え方は「売上に連動する変動費」を中心に、原価率=売上原価÷売上高で整合させることです。相場率の丸写しではなく、仕入・外注・材料・物流など、構成要素に分解して根拠を示します。

売上原価に入れるもの/入れないもの(基本整理)

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区分売上原価に入れやすい例経費(販管費)にしやすい例
物販仕入、輸送、関税、検品広告、家賃、通信費
サービス外注費、材料費、消耗品(施術材料など)研修費、採用費、システム利用料
製造材料費、外注加工費、製造経費(要整理)営業交通費、事務所家賃

会計・税務上の扱いは事業実態により異なりますが、事業計画では「変動費(売上連動)」と「固定費(売上非連動)」を分けると、採算ライン(損益分岐点)が読みやすくなります。

原価率を「仕入単価×数量」で作る

  • 仕入単価:見積書、仕入予定先の提示価格、過去の同業平均(裏付けを残す)
  • 数量:売上数量と連動(販売数、提供回数に比例)
  • ロス率:廃棄・不良・返品を一定割合で見込む

金融機関向けには、「売上高、売上原価(仕入高)、経費の計算根拠」を記載する設計が基本です。

人件費の作り方とは:採用計画×給与×社会保険で積み上げる

人件費は「人×月額」で終わらせず、役割、採用時期、稼働、法定費用まで含めて設計します。特に創業期は、固定費の中で最もインパクトが大きく、資金繰りを左右する数値です。

人件費の内訳を3層に分ける

  • 給与(基本給・手当・賞与見込み)
  • 法定福利費(社会保険料・労働保険料の事業主負担)
  • 採用・教育(求人広告、紹介料、研修コスト)

「給与だけ」を人件費として置くと、資金繰りがズレます。月次でのキャッシュアウト(現金支出)も意識し、支払時期(締日・支払日)まで決めると計画が締まります。

ここがポイント
賃金水準や社会保険の適用、賞与・退職金の扱いは個別条件で大きく変わります。人件費は相場ではなく、雇用形態と労務設計に合わせて見積もるのが安全です。

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売上・原価・人件費を1枚の収支計画に落とす手順

ここまでの素材を、金融機関が読みやすい「月次の収支」に整形します。創業計画書や事業計画の様式でも、収入(売上)と支出(仕入・人件費・経費)を並べ、差額で採算を示す構造が採用されています。

Step 1: 売上を月次で作る(単価×数量×稼働)
営業時間、提供枠、人員・設備の上限を置き、立上り期は稼働率を低めに設定します。根拠資料(周辺市場、既存店観察、予約枠設計)をセットにします。

Step 2: 原価を売上に連動させる(変動費化)
提供1回あたりの材料費・外注費を出し、数量(提供回数)に掛けます。ロス率や値上げリスクも少しだけ織り込みます。

Step 3: 人件費を採用時期で段階化する
初月からフルメンバーにしない設計も現実的です。採用月、研修期間、稼働開始月を分け、法定福利費を含めて月次に置きます。

Step 4: 粗利と固定費の関係で「耐久性」を見る
粗利(売上−原価)で、人件費・家賃・リース料など固定費を賄えるか確認します。固定費が重い業態は、損益分岐点売上を必ず出します。

Step 5: 3パターンで感度分析する

  • 保守:売上−20%、原価+2pt、人件費据置
  • 基準:想定どおり
  • 強気:売上+10%(ただし稼働上限内)

当法人(税理士法人 辻総合会計)では30年以上にわたり、開業支援と月次管理の現場で「計画と実績がズレるポイント」を見てきました。ズレの大半は、売上の稼働制約、原価のロス、そして人件費の法定費用見落としに集中します。数字はきれいさより、ズレても破綻しない設計が評価されます。

よくある質問

Q: 売上は「市場規模×シェア」で作ってもよいですか? ▼
可能ですが、それだけだと弱く見えます。市場規模は上限の参考にしつつ、最終的には「単価×数量×稼働(席数・枠数・人員)」で月次に落とし、運用上の上限チェックまで入れると説得力が上がります。
Q: 原価率の相場が分からない場合はどうしますか? ▼
相場率を出発点にしてもよいですが、提出用は「仕入単価×数量」「外注単価×回数」のように構造で説明できる形にします。見積書や取引予定先の条件を添付できると、さらに強い根拠になります。
Q: 人件費で見落としがちな項目は何ですか? ▼
法定福利費(社会保険・労働保険の事業主負担)と、採用・教育コストです。給与だけで計上すると資金繰りが崩れやすいため、月次で支払タイミングも含めて設計するのが安全です。

まとめ

  • 事業計画書の売上は「単価×数量×稼働」で分解し、月次で積み上げる
  • 原価は相場率の丸写しではなく、変動費の構造(単価×数量)で根拠を示す
  • 人件費は給与に加え、法定福利費と採用・教育まで含めて月次で置く
  • 粗利と固定費から損益分岐点を確認し、保守・基準・強気の3パターンで耐久性を見る
  • 数字の見栄えより、根拠の一貫性とズレた時の破綻しにくさが評価される

参照ソース

  • 日本政策金融公庫「創業計画の書き方」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/business-plan/
  • 日本政策金融公庫「創業計画書(記入例PDF)」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyourei03_250401e.pdf
  • 中小企業庁「事業計画書(様式・PDF)」: https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/download/04/02_souki_3year.pdf

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

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