
執筆者:辻 勝
会長税理士
呼吸器内科開業ガイド2026|費用・収益・CPAP戦略を税理士が解説

呼吸器内科開業ガイド2026|費用・収益・CPAP戦略を税理士が解説
呼吸器内科の開業をお考えの先生方へ。本記事では、医療専門の税理士として多数のクリニック開業を支援してきた経験をもとに、呼吸器内科開業に必要な初期費用、設備投資のポイント、診療報酬の特徴、そしてCPAP療法を軸にした安定収益モデルまで、経営視点で徹底解説します。
COPD・喘息・睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者数が増加を続ける2026年は、呼吸器内科クリニックにとって大きなビジネスチャンスがある時期です。開業を成功に導く具体的な数字と戦略を、ぜひこの記事で把握してください。
呼吸器内科クリニックの市場環境
呼吸器疾患の患者数は増加傾向
呼吸器内科を取り巻く市場環境は、以下の理由から中長期的に拡大基調にあります。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の潜在患者 日本呼吸器学会によると、日本のCOPD患者は推定約530万人とされていますが、実際に診断・治療を受けているのはそのうちわずか約26万人にすぎません。潜在患者の掘り起こしは今後も大きな成長余地を残しています。
喘息・アレルギー性疾患の増加 厚生労働省の患者調査によると、喘息患者数は成人を中心に増加傾向にあり、全国で約100万人以上が継続的な治療を必要としています。大気汚染やアレルゲン増加の影響により、今後も患者数の増加が予想されます。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の認知度向上 SASの潜在患者は国内で約500万人と推定されており、CPAP療法の対象となる中等症以上の患者も多数存在します。近年のメディア報道や企業の健康経営推進により、受診率は年々上昇しています。
コロナ後遺症(Long COVID)への対応 新型コロナウイルス感染後の呼吸器症状(遷延する咳嗽、息切れ、呼吸機能低下など)を訴える患者が一定数存在し、呼吸器内科への新たな受診ニーズとなっています。
開業の優位性
呼吸器内科には、他の診療科にはない経営上の優位性があります。
- 慢性疾患中心でリピート率が高い:COPD・喘息・SASはいずれも長期的な通院管理が必要で、患者の定着率が極めて高い
- CPAP療法による安定的な継続収入:月1回の再診で安定した診療報酬が得られるストック型ビジネスモデル
- 在宅酸素療法(HOT)の管理料:重症患者の在宅管理で高い診療報酬を得られる
- 季節変動が比較的穏やか:冬季の感染症シーズンにピークはあるものの、慢性疾患管理で年間を通じた安定した収入基盤がある
必要な設備と初期投資
必須の医療機器一覧
呼吸器内科クリニックでは、他の内科系診療科と比較して専門性の高い検査機器が必要となります。設備構成により初期投資額は大きく異なりますので、開業コンセプトに合わせた機器選定が重要です。
| 機器名 | 価格目安 | 用途・備考 |
|---|---|---|
| スパイロメーター | 100万〜200万円 | 呼吸機能検査の基本機器。COPD・喘息の診断に必須 |
| デジタルX線撮影装置 | 800万〜1,500万円 | 胸部レントゲン。肺炎・結核・肺がんのスクリーニング |
| CT装置 | 3,000万〜6,000万円 | 導入するかが初期投資の分岐点。低線量CTで肺がん検診も可能 |
| パルスオキシメーター | 5万〜30万円 | SpO2測定。日常診療の基本 |
| 呼気NO測定器 | 200万〜400万円 | 気道炎症の評価。喘息の診断・管理に有用 |
| 睡眠ポリグラフィー(簡易型) | 50万〜150万円(1台あたり) | SAS診断用。複数台を貸出運用するケースが多い |
| ネブライザー | 20万〜50万円 | 吸入療法。喘息・COPD急性増悪時に使用 |
| 血液ガス分析装置 | 200万〜400万円 | 重症度評価に有用。導入はオプション |
| 電子カルテ・レセコン | 200万〜400万円 | クラウド型で初期費用を抑制可能 |
CT導入の判断
CT装置の導入は初期投資を3,000万〜6,000万円押し上げるため、慎重な判断が求められます。
CT導入のメリット
- 肺がんの早期発見が可能になり、紹介元としての信頼性が向上
- 低線量CT肺がん検診を自費診療で提供できる
- 他院からのCT検査依頼を受託できる
CT非導入の選択肢
- 近隣の画像診断センターや病院との連携で対応
- 初期投資を大幅に抑制し、早期の投資回収を目指す
- 開業後に収益が安定してから導入を検討する「段階的投資」も有効
税理士からのアドバイス:CT導入の場合、リース契約を活用することで初期費用の負担を軽減できます。5〜7年のリースを組めば、月額50万〜80万円程度の支払いに分散できます。ただし、リース総額は購入よりも割高になる点には注意が必要です。
開業費用と資金計画
開業費用の全体像
呼吸器内科クリニックの開業費用は、CT導入の有無により大きく異なります。
パターンA:CT非導入(標準型)
| 項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 内装工事費 | 1,500万〜2,500万円 |
| 医療機器(CT除く) | 1,500万〜2,500万円 |
| 什器備品・電子カルテ | 300万〜600万円 |
| 保証金・敷金 | 200万〜500万円 |
| 広告宣伝費 | 100万〜300万円 |
| 運転資金(6ヶ月分) | 1,500万〜2,000万円 |
| その他諸経費 | 100万〜200万円 |
| 合計 | 5,200万〜8,600万円 |
パターンB:CT導入型
| 項目 | 金額目安 |
|---|---|
| 内装工事費(CT室含む) | 2,000万〜3,500万円 |
| 医療機器(CT含む) | 5,000万〜8,000万円 |
| 什器備品・電子カルテ | 300万〜600万円 |
| 保証金・敷金 | 200万〜500万円 |
| 広告宣伝費 | 100万〜300万円 |
| 運転資金(6ヶ月分) | 1,500万〜2,000万円 |
| その他諸経費 | 100万〜200万円 |
| 合計 | 9,200万〜1億5,100万円 |
資金調達のポイント
1. 日本政策金融公庫
- 新規開業資金として最大7,200万円の融資枠
- 自己資金は総事業費の10%以上が条件ですが、**20〜30%**あると審査が有利に
2. 民間金融機関との協調融資
- 公庫単独では不足する場合、メガバンクや地方銀行との協調融資を検討
- 医師向け開業ローンを用意している金融機関も多い
3. 医療機器リースの活用
- 特にCT・レントゲンなど高額機器はリースが一般的
- 月々の経費として損金算入できるため、節税効果も期待できる
収益シミュレーション
診療報酬の特徴
呼吸器内科は、検査点数と管理料が収益の柱となる診療科です。主な診療報酬項目を押さえておきましょう。
呼吸機能検査
- フローボリュームカーブ(スパイロメトリー):200点
- 機能的残気量測定:140点
- 呼気ガス分析:100点
睡眠時無呼吸症候群(SAS)関連
- 終夜睡眠ポリグラフィー(1及び2以外):720点
- CPAP療法(在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料):250点/月
- CPAP装置加算:1,100点/月
- ※CPAP患者1人あたり月額:合計約1,350点(約13,500円)
在宅酸素療法(HOT)関連
- 在宅酸素療法指導管理料:2,400点/月
- 酸素濃縮装置加算:4,000点/月
- ※HOT患者1人あたり月額:合計約6,400点(約64,000円)
その他
- 初診料:288点
- 再診料:73点
- 外来管理加算:52点
- 特定疾患療養管理料(225点/月2回まで)
一般外来型の収益モデル
前提条件
- 1日平均患者数:40人
- 診療日数:月22日
- 平均診療単価:5,500円
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 医業収入 | 約484万円 | 約5,808万円 |
| 人件費(スタッフ3〜4名) | ▲120万円 | ▲1,440万円 |
| 家賃 | ▲60万円 | ▲720万円 |
| 医薬品・材料費 | ▲50万円 | ▲600万円 |
| リース料 | ▲40万円 | ▲480万円 |
| その他経費 | ▲50万円 | ▲600万円 |
| 院長手取り(税引前) | 約164万円 | 約1,968万円 |
SAS/CPAP特化型の収益モデル
CPAP療法は呼吸器内科クリニックにとって最大の収益安定化要因です。以下にCPAP患者を積極的に獲得するモデルをシミュレーションします。
前提条件
- 一般外来患者:1日30人(月22日)
- CPAP管理患者:300人(月1回再診)
- HOT管理患者:20人(月1回再診)
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 一般外来収入(30人×22日×5,500円) | 約363万円 | 約4,356万円 |
| CPAP管理収入(300人×13,500円) | 約405万円 | 約4,860万円 |
| HOT管理収入(20人×64,000円) | 約128万円 | 約1,536万円 |
| 医業収入合計 | 約896万円 | 約10,752万円 |
| 人件費(スタッフ5〜6名) | ▲180万円 | ▲2,160万円 |
| 家賃 | ▲70万円 | ▲840万円 |
| CPAP装置レンタル費用 | ▲150万円 | ▲1,800万円 |
| 医薬品・材料費 | ▲60万円 | ▲720万円 |
| リース料 | ▲50万円 | ▲600万円 |
| その他経費 | ▲60万円 | ▲720万円 |
| 院長手取り(税引前) | 約326万円 | 約3,912万円 |
CPAP療法のストック型収益の魅力
CPAP療法が経営面で優れている理由は以下のとおりです。
- 月1回の短時間再診で継続収入:1人あたりの診察時間は5〜10分程度
- 患者離脱率が低い:SASは治療を中止すると症状が再発するため、長期継続が見込める
- 固定費の予測が容易:CPAP装置のレンタル費用は月額一定のため、損益管理がしやすい
- スケーラブルなモデル:患者数が増えるほど利益率が向上する
CPAP管理患者を開業3年目で300人まで積み上げることができれば、一般外来の変動に左右されにくい安定経営が実現できます。
開業立地と集患戦略
立地選定のポイント
呼吸器内科クリニックの診療圏は、一般的に半径2〜3kmです。以下のポイントを重視して立地を選定しましょう。
重視すべき条件
- 高齢者人口が多いエリア:COPD・HOTの対象患者は高齢者が中心。65歳以上の人口比率が高い地域は有利
- 交通アクセスの良さ:CPAP患者は月1回通院するため、駅近・バス停近くが望ましい。車社会のエリアでは駐車場の確保が重要
- 呼吸器内科の競合が少ないエリア:呼吸器内科専門のクリニックは他の内科系に比べて少なく、1〜2駅ずらすだけで競合を回避できるケースも
- 近隣に大規模事業所があるエリア:企業健診経由でSASの紹介を受けやすい
避けるべき条件
- 呼吸器内科標榜の病院が至近にあるエリア
- 人口減少が著しい過疎地域(ただしHOT需要が見込めるケースもある)
集患戦略
開業初期の集患施策
- ホームページのSEO対策:「地域名+呼吸器内科」「地域名+いびき 治療」「地域名+CPAP」などのキーワードで上位表示を目指す
- Google ビジネスプロフィールの最適化:診療内容・診療時間・設備情報を詳細に記載
- 近隣医療機関への挨拶回り:内科・耳鼻咽喉科・歯科などからSAS疑い患者の紹介を受ける連携体制を構築
CPAP患者獲得の重点施策
- 企業向けSAS検診の提案:運輸業・タクシー会社・バス会社など、ドライバーの健康管理が義務化されつつある業界へのアプローチ
- 簡易検査キットの貸出体制整備:来院なしで自宅検査が可能な体制を構築し、受診ハードルを下げる
- 病院からの逆紹介獲得:大病院のSAS外来は混雑傾向にあるため、CPAP管理のみクリニックで引き受ける「逆紹介型」の連携を構築
医療機関専門の税理士にご相談ください
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平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
開業時の注意点
診療報酬改定リスクへの対応
2024年度の診療報酬改定では、CPAP療法の管理料に大きな変更はありませんでしたが、オンライン診療によるCPAP管理の要件が整備されるなど、制度面での変化は常にあります。
CPAP管理収入に依存しすぎるリスクを回避するため、以下を心がけましょう。
- CPAP管理と一般外来のバランスを意識した経営計画
- 呼吸リハビリテーション、禁煙外来など収益源の多角化
- 診療報酬改定の動向を常にウォッチし、早期に対応策を検討
人員体制の構築
呼吸器内科クリニックに必要なスタッフ構成は以下が目安です。
- 看護師:2〜3名(呼吸機能検査の実施補助、CPAP指導)
- 医療事務:1〜2名(レセプト業務、CPAP患者の予約管理)
- 臨床検査技師(任意):呼吸機能検査を専任で行う場合
CPAP管理患者が増えると予約管理の効率化が重要になります。CPAP再診は短時間で終わるため、一般外来と時間帯を分けるなど、効率的な診療体制を構築しましょう。
医療法人化のタイミング
呼吸器内科クリニックは、CPAP患者の積み上げにより開業2〜3年目で収益が急激に伸びるケースが多くあります。個人の所得税率が法人税率を上回る段階(課税所得が約900万円を超える目安)で、医療法人化を検討することをお勧めします。
法人化のメリットは以下のとおりです。
- 節税効果:役員報酬の設定により所得分散が可能
- 社会保険診療報酬の特例(概算経費率)の活用:社会保険診療報酬が5,000万円以下の場合、概算経費率を適用できる
- 退職金制度の活用:将来の退職金を損金算入可能
- 事業承継の容易性:クリニックの承継がスムーズに
まとめ
呼吸器内科は、COPD・喘息・SASなどの慢性疾患を中心とした安定需要と、CPAP療法によるストック型の継続収入が見込める、経営的に魅力の高い診療科です。
開業成功のポイントを改めて整理します。
- 初期投資はCT導入の有無がカギ:CT非導入なら5,000万〜8,600万円、CT導入なら9,200万〜1億5,000万円が目安
- CPAP療法を収益の柱に据える:300人規模のCPAP管理患者を獲得すれば、年間4,000万円超の安定収入が見込める
- 立地は高齢者比率と交通利便性を重視:CPAP患者の月1回通院を考慮した立地選定を
- 企業向けSAS検診でCPAP患者を開拓:運輸業界など安全管理ニーズの高い企業への営業が効果的
- 収益が伸びたら医療法人化を検討:税理士と相談し、最適なタイミングで法人化を進める
開業に関する資金計画や法人化のご相談は、医療経営に精通した税理士へお気軽にお問い合わせください。
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参考リンク
- 一般社団法人日本呼吸器学会 – COPD・喘息の診療ガイドラインや呼吸器専門医制度の情報
- 厚生労働省「医療施設調査」 – 診療所数の推移や地域別データの確認に
- 厚生労働省「診療報酬情報提供サービス」 – 最新の診療報酬点数の確認に
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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