
執筆者:辻 勝
会長税理士
出産費用の医療費控除|確定申告2026年版ガイド

出産費用は、一定の条件を満たせば医療費控除の対象になります。ポイントは「出産に関係する支払いのうち、治療・療養に必要な部分」を拾い上げ、出産育児一時金(原則50万円)などの補てん分を差し引いて計算することです。
子育て世代や共働き夫婦は、忙しさから領収書整理や申告を後回しにしがちで、結果として「控除できたのに申告していない」ケースが出ます。本記事では、2026年の確定申告に向けて、対象範囲・計算式・還付額の目安・e-Tax入力までを一気に整理します。
出産費用の医療費控除とは(2026年の前提)
医療費控除は、本人または生計を一にする家族のために支払った医療費が一定額を超えると、所得控除を受けられる制度です。出産は病気ではありませんが、妊娠・出産に伴う検診や分娩費用などは医療費控除の対象となり得ます。
医療費控除額の基本式は次のとおりです(上限は200万円)。
- 医療費控除額 =(その年に支払った医療費 - 保険金等で補てんされる金額)- 10万円
※総所得金額等が200万円未満の場合は「10万円」ではなく「総所得金額等の5%」
ここで重要なのが、出産に関しては出産育児一時金など「医療費を補てんする性格の給付」がある点です。これらは控除計算上、医療費から差し引きます(一方で、出産手当金は性格が異なるため差し引き不要です)。
出産育児一時金(原則50万円)を差し引く計算式
出産育児一時金は、公的医療保険から「子ども1人につき原則50万円」が支給される制度です。直接支払制度を使うと、病院の請求額から差し引かれた残額を窓口で支払う形になります。
医療費控除の計算では、直接支払制度の有無にかかわらず、次のイメージで整理するとミスが減ります。
- その年に支払った出産関連医療費(妊婦健診、分娩費、入院費・食事代など)を集計
- そこから、出産育児一時金など「医療費を補てんする給付」を差し引き
- さらに、医療費控除の自己負担ライン(原則10万円または所得の5%)を差し引き
よくある勘違いは次の2つです。
- 「窓口で払った金額=医療費控除の対象額」と思い込む
実務では、医療費控除は支払った医療費ベースですが、給付で補てんされた部分は差し引くため、最終的に同じ方向へ収れんします。ただし、妊婦健診の助成や高額療養費、民間医療保険給付などが混在すると、窓口金額だけでは整理できません。 - 「出産手当金も差し引く」と誤る
出産手当金は休業補償に近く、医療費の補てんではないため、医療費控除の計算上は差し引きません。
出産費用で医療費控除の対象になるもの・ならないもの
国税庁の整理に沿って、実務で迷いやすい項目をまとめます。
| 区分 | 対象になりやすいもの(例) | 対象にならないもの(例) |
|---|---|---|
| 妊娠〜出産 | 妊婦健診・検査費用、分娩費、入院費 | いわゆる「出産祝い」目的の支出 |
| 交通費 | 通院の公共交通機関、通常手段が困難でタクシー利用が合理的な場合のタクシー代 | 実家に里帰り出産するための帰省費用 |
| 入院中の食事 | 病院に支払う入院中の食事代(入院費用の一部として) | 出前・外食など私的な飲食 |
| 物品購入 | 医師の指示が明確な治療目的の医薬品等(状況による) | 入院用の寝巻き・洗面具など身の回り品の購入費 |
判断のコツは、次の問いで切り分けることです。
- 「治療・療養に直接必要か」
- 「医師の関与(指示・処方)があるか」
- 「日常生活費や便宜の範囲ではないか」
出産費用はいくら戻る?還付額シミュレーション(年収別の目安)
医療費控除は「税額控除」ではなく「所得控除」なので、戻る金額は医療費控除額 ×(所得税の限界税率+住民税率など)で概算します。ここでは、住民税10%(標準)を加味した「ざっくり見積り」を示します。
前提(モデルケース)
- 出産・妊婦健診などの支払い総額:90万円
- 出産育児一時金:50万円(補てん)
- 他の医療費・補てんなし
- 自己負担ライン:10万円(所得が200万円以上の想定)
Step 1: 補てん分を差し引く
90万円 - 50万円 = 40万円
Step 2: 自己負担ラインを差し引く
40万円 - 10万円 = 30万円
→ 医療費控除額:30万円
Step 3: 還付額を概算する(目安)
下表は「医療費控除30万円」を前提に、所得税の限界税率(目安)+住民税10%で概算したものです。実際の税率は課税所得や各種控除で変わります。
| 想定年収イメージ | 所得税の限界税率(目安) | 住民税(標準) | 合計税率(目安) | 還付・減税の概算 |
|---|---|---|---|---|
| 年収300万円前後 | 10% | 10% | 20% | 30万円 × 20% = 約6万円 |
| 年収500万円前後 | 20% | 10% | 30% | 30万円 × 30% = 約9万円 |
| 年収800〜900万円前後 | 23% | 10% | 33% | 30万円 × 33% = 約9.9万円 |
「数十万円戻る」ケースが出るのは、次のような状況です。
- 帝王切開などで医療費総額が大きい(出産関連以外の家族医療費も合算できる)
- 民間医療保険の給付が少ない、または対象外費用が多い
- 夫婦のうち所得が高い側で申告し、限界税率が高い
夫婦共働きの場合、医療費控除は「支払った人」ではなく、原則として「その年に医療費を負担した世帯のうち、所得が高い人がまとめて申告したほうが有利」になりやすいです(ただし、誰の名義で支払ったか・家計の実態の整理は必要です)。
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e-Taxでの入力方法(医療費控除)ステップ解説
医療費控除は、確定申告書等作成コーナーから入力します。医療費が多い家庭は、集計フォームやマイナポータル連携を使うと作業が軽くなります。
Step 1: 事前準備(集計の型を決める)
- 医療機関ごと、または「妊婦健診」「分娩・入院」「薬局」「交通費」など用途ごとに集計
- 出産育児一時金、民間保険給付、高額療養費など「補てん分」をリスト化
- 交通費は、日付・区間・金額をメモ(家計簿でも可)
Step 2: 確定申告書等作成コーナーで医療費控除の入口へ
- 「控除の入力」画面から「医療費控除」を選択して入力画面へ進む
Step 3: 入力方法を選ぶ(おすすめ順)
- 医療費集計フォームを使って取り込み(領収書が多い場合に有効)
- 医療費通知(お知らせ)を入力(利用できる場合)
- 領収書等を手入力(件数が少なければ現実的)
Step 4: 補てんされる金額を正しく入力する
- 出産育児一時金は医療費を補てんするため、医療費控除計算上は差し引き対象
- 出産手当金は性格が異なるため、差し引き不要(混同しない)
よくある質問
Q: 出産育児一時金は「窓口で払ってない」けど差し引きが必要ですか?
Q: 里帰り出産のための交通費は医療費控除になりますか?
Q: 夫婦どちらが医療費控除を出すのが得ですか?
Q: 領収書は提出が必要ですか?
まとめ
- 出産費用は、妊婦健診・分娩費・入院費などが医療費控除の対象になり得る
- 計算では出産育児一時金(原則50万円)など補てん分を差し引く
- 通院交通費は対象になり得るが、里帰り出産の帰省費は対象外
- 還付額は「控除額 ×(所得税の限界税率+住民税)」で概算し、所得が高いほど効果が出やすい
- e-Taxは医療費控除の入力画面から、集計フォームや連携機能を使うと効率的
参照ソース
- 国税庁「No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1124.htm
- 国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 厚生労働省「出産育児一時金等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shussan/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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