
執筆者:辻 勝
会長税理士
定額減税終了後の2026年確定申告|税理士が解説

定額減税は令和6年分所得税で実施された「定額による税額控除」で、本人3万円・同一生計配偶者/扶養親族1人につき3万円(住民税は本人1万円・同一生計配偶者/扶養親族1人につき1万円)という設計でした。ところが、2026年に行う確定申告(一般に「令和7年分=2025年分」の申告)では、この定額減税が前提に入らないため、税額計算と資金繰りの「感覚」が変わります。特に開業医は、事業所得・給与支払・電子取引が絡むため、帳簿の整合と申告入力のズレが起きやすい点に注意が必要です。
定額減税終了とは何か(2026年申告にどう影響するか)
定額減税は、国税庁が案内する特設サイトのとおり「令和6年分所得税」に適用される税額控除として整理されています。2026年の申告実務では、前年(令和6年分)のクセで「控除がある前提」で納税見込みを立てると、納付資金が足りなくなる典型パターンが出ます。税額控除がなくなる=課税所得が増えるわけではありませんが、「最終税額」が増えるので、予定納税や納付見込みの再設計が必要です。
開業医が見落としやすい変更点1:予定納税・納付資金の見積りがズレる
開業医(事業所得者)は、確定申告で年間税額を精算し、状況により予定納税も発生します。定額減税があった年は、申告・予定納税の計算に「特別税額控除」が入り、年間の納税見込みが相対的に小さく見えるケースがありました。終了後はその分、同じ所得水準でも納付額が増えやすく、次の点が実務の盲点になります。
- 納付資金を「前年並み」で見積もる(結果、3月の納付で資金繰りが詰まる)
- 賞与・役員報酬(医療法人の場合)や設備投資のタイミングを誤る
- 予定納税の資金を確保しておらず、分割納付や延滞税リスクに発展
開業医が見落としやすい変更点2:給与計算・源泉徴収の“定額減税対応”が消える
スタッフを雇用しているクリニックは、源泉徴収事務の運用が「定額減税あり年」と「なし年」で変わります。定額減税の年は、月次での控除処理や管理(各人別管理など)を行った事業者も多いはずです。終了後は、定額減税関連の運用が不要になる一方で、次の“撤去漏れ”が起きがちです。
- 給与計算ソフトの設定が定額減税モードのまま
- 社内チェックリストに「定額減税」項目が残り、確認工数だけが増える
- 年末調整・源泉徴収票の見方を前年のまま説明して混乱する
開業医が見落としやすい変更点3:申告書作成(前年データ引継ぎ)で入力ズレが起きる
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」や各種様式・手引きは年分ごとに更新されます。前年データの引継ぎを使う場合、定額減税があった年の入力・計算の癖が残り、税額の見込みが合わない原因になります。
- 「前年はここに入力したはず」という思い込みで、今年の画面遷移を飛ばす
- 還付期待で進めたが、最終的に納付となり納付期限直前に慌てる
- 税額の増減理由を説明できず、資金計画が後手に回る
開業医が見落としやすい変更点4:給付金・住民税との関係を“確定申告で完結”と誤解する
定額減税は所得税だけでなく住民税側にも措置があり、控除しきれない場合の給付(調整給付金等)は自治体対応が絡みます。所得税の確定申告だけで話が終わると誤解し、「自治体からの案内」「住民税の申告要否」「家族情報の反映」を見落とすと、想定と手取りがズレます。特に、家族構成が変わった年(扶養の増減、配偶者の就労形態変更)は要注意です。
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開業医が見落としやすい変更点5:電子取引データ保存(請求書・領収書)の監査耐性が問われる
定額減税とは別軸ですが、2026年確定申告の実務で差が出るのが電子取引データの保存です。クリニックは、医薬品・医療材料・外注検査・リース・サブスクなど、メールやWebで請求書を受け取る比率が高く、保存要件を満たさないと「経費はあるのに証憑が弱い」状態になります。国税庁の電子帳簿保存制度の特設サイトで、電子取引の保存義務・保存方法が整理されています。
| 論点 | 定額減税があった年(令和6年分) | 定額減税終了後(2026年の申告対象:令和7年分) |
|---|---|---|
| 所得税の税額控除 | 本人3万円+扶養等1人3万円(上限は所得税額) | なし(税額控除の前提が消える) |
| 住民税側 | 本人1万円+扶養等1人1万円 | なし(自治体の課税で反映なし) |
| 資金繰りの感覚 | 還付/納付が読みにくい(控除・給付が絡む) | 税額が増えやすく納付資金の確保が重要 |
| 源泉徴収事務 | 月次控除など“定額減税対応”が発生 | 定額減税対応が撤去される(設定残りに注意) |
| 証憑管理 | 定額減税とは独立に電子取引保存が重要 | 同左。電子取引の保存不備が顕在化しやすい |
2026年確定申告での実務チェック手順(開業医向け)
Step 1: 前年(令和6年分)の申告書・納付状況を棚卸しする
前年が「還付/納付」どちらだったか、理由(定額減税・医療費控除・寄附金控除・予定納税など)を1枚で整理します。
Step 2: 令和7年分の納税見込みを“定額減税なし”で試算する
月次試算でもよいので、税理士(または会計ソフト)で所得税・住民税・予定納税を概算し、納付資金の確保ラインを決めます。
Step 3: 給与計算の年度設定を確認する(スタッフがいる場合)
給与計算ソフトと社内手順書から、定額減税関連の設定・項目が残っていないか点検します。
Step 4: 電子取引の証憑フローを整備する
メール添付PDF、サイトダウンロード請求書、クラウド請求の保存場所と検索性(取引年月日・金額・取引先など)を統一します。
Step 5: 作成コーナー/様式で“令和7年分”を使っているか確認する
年分違いは単純ですが致命傷です。国税庁の「令和7年分様式・手引き」ページから入る運用に固定すると事故が減ります。
よくある質問
Q: 定額減税が終わると、医療費控除やふるさと納税の効果も変わりますか?
A:
控除そのものの仕組みが直ちに変わるわけではありませんが、定額減税という税額控除がなくなるため、最終税額(納付/還付)が前年と変わります。前年との差分は「控除が減った」のではなく「定額減税がない」ことが原因の場合があります。Q: 前年のデータを引き継いで申告すれば、入力はほぼ同じですか?
A:
大枠は同じでも、年分ごとの様式・入力導線は更新されます。前年の思い込みで飛ばすと、税額の増減理由が分からなくなりやすいので、年分(令和7年分)と数字の整合(売上・経費・専従者給与・保険料など)を優先してください。Q: 電子取引の保存は、紙で印刷して綴れば足りますか?
A:
原則として、電子で授受した取引情報は電子データでの保存が求められ、保存方法の要件があります。クリニックは電子請求が多いので、年内から保存フローを固めるのが安全です(国税庁の電子帳簿等保存制度特設サイトを参照)。まとめ
- 定額減税は令和6年分の措置で、2026年の確定申告(令和7年分)では前提に入らない
- 開業医は予定納税・納付資金の見積りがズレやすく、早期試算が有効
- スタッフがいる場合、給与計算ソフトの「定額減税設定の撤去漏れ」が事故の原因になる
- 申告書作成は前年引継ぎの思い込みが危険。年分の取り違えも含めて点検
- 電子取引データ保存は別軸の重要論点。証憑フロー整備で監査耐性が上がる
参照ソース
- 国税庁「定額減税 特設サイト」: https://www.nta.go.jp/users/gensen/teigakugenzei/index.htm
- 国税庁「定額減税と確定申告」: https://www.nta.go.jp/users/gensen/teigakugenzei/kakutei.htm
- 国税庁「所得税の確定申告(令和7年分 確定申告特集)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kakutei.htm
- 国税庁「確定申告書等の様式・手引き等(令和7年分)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/syotoku/r07.htm
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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