
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック現金管理の基本|レジ・日計表・未収金|税理士が解説

クリニックの現金管理とは
クリニックの現金管理とは、窓口で受け取った現金・カード等の入金を「レジ(受付)」と「会計(帳簿)」で一致させ、差額と未収を残さない運用です。問題になりやすいのは、受付交代・返金・保険請求の返戻(差戻し)により、現場の記録と入金実態がズレることです。院長にとっては、資金繰りと不正防止の観点で、レジ締めと日計表の標準化が重要になります。
税理士法人 辻総合会計でも、月次の試算表が整っていても「現金だけ合わない」「未収が消えない」という相談が繰り返し起こるケースを多く見ます。原因は、個人の頑張りではなく、ルール設計と照合ポイントが不足していることがほとんどです。
レジ・つり銭の整え方
つり銭準備金とは(定義と設計)
つり銭準備金とは、営業開始時点でレジ内に固定して置く「業務用の現金」です。ここが曖昧だと、レジ内の現金が「売上なのか、準備金なのか」不明になり、差額が恒常化します。
設計の基本は次のとおりです。
- つり銭準備金の金額を固定(例:30,000円など)
- 金種内訳を固定(例:1,000円×10、500円×10、100円×50…)
- つり銭補充は補充伝票で記録(誰が、いつ、いくら補充したか)
金額の目安は、午前中の窓口患者数と「高額紙幣での支払い比率」で決めます。自由診療がある場合は、5,000円・10,000円の比率が上がるため、準備金を増やすよりも「釣銭不足が起きた時の補充手順」を明確にした方が運用が安定します。
レジ内の現金を増減させる行為を例外にする
レジ差額の多くは、次の行為が黙認されて起きます。
- 受付が小口精算(切手・備品等)に現金を流用
- 返金をレジから直接出して記録が残らない
- 院長・スタッフが一時的に立替し、後で曖昧に精算
ルールとして「レジ現金は売上と返金のためだけ」「小口は別財布(小口現金)」「返金は返金伝票必須」を徹底します。
日計表の作り方と締め手順
日計表とは(何を一致させる表か)
日計表は「その日の売上を、現金・カード・振込・未収に分解し、レジ残高と入金実態を一致させる表」です。最低限、次の項目が必要です。
- 総売上(当日分)
- 決済別内訳(現金/カード/電子マネー/振込等)
- 返金・値引・取消
- 未収金(当日発生・当日回収)
- レジ現金の実査結果(数えた金額)
- つり銭準備金(固定額)
- 収入印紙・領収書番号(必要な運用の場合)
日次締めの標準手順(例)
Step 1: 当日の取引を締める(レセコン・POS)
レセコン(またはPOS)の当日締めを実行し、決済別集計を出力します。修正・取り消しがある場合は「誰が、何を、なぜ修正したか」をメモします。
Step 2: レジ現金を実査する(数える)
レジ内現金を金種別に数え、実査額を記録します。数える人と、記録する人を分けられると理想です。
Step 3: つり銭準備金を控除して本日の現金売上を確定
実査額 - つり銭準備金 = 当日現金売上(あるべき現金)
この計算がブレないことが最重要です。
Step 4: 差額が出たら、その日のうちに原因を潰す
差額は「翌日に持ち越すほど特定不能」になります。返金の記録漏れ、カードの二重計上、未収の付け替えなど、典型パターンをチェックリスト化します。
Step 5: 入金移動(銀行入金)ルールで固定化する
現金は「翌営業日までに入金」「一定額を超えたら都度入金」などルールを決め、入金記録(入金日・金額)を残します。売上計上日と入金日がずれても、日計表が整っていれば説明可能です。
未収金の整え方(保険・患者・返戻を一体で管理)
未収金とは(売上との違い)
未収金は「売上は立っているが、現金等の回収が終わっていない状態」です。クリニックで発生しやすい未収は、次の2系統です。
- 患者未収:窓口負担の不足、後日精算、分割、返金相殺など
- 保険請求関連:返戻・査定により、入金が遅れる/減額される
両者を同じ箱に入れてしまうと、追跡が破綻します。未収金台帳は「患者未収」と「保険未収(請求差異)」を分け、担当(受付/経理)と照合点を決めます。
返戻・再請求が未収管理を崩す
保険請求の返戻(差戻し)が起きると、当初見込みの入金が遅れ、未収が滞留します。オンライン請求の医療機関では返戻再請求もオンライン対応が原則であり、運用が紙中心のままだと処理が遅れやすい点に注意が必要です(厚労省の周知資料参照)。
運用上は、返戻を「作業」ではなく「未収回収プロセス」として管理します。
- 返戻一覧を週次で出す(件数・金額・理由)
- 再請求の期限(院内の締切日)を決める
- 再請求完了と入金確認までをワンセットにする
未収金の消込ルール(入金と請求の突合)
未収金が消えないクリニックは、ほぼ例外なく「消込が属人化」しています。消込の基本ルールは次のとおりです。
- 患者未収:患者ID単位で管理し、入金時に同一IDへ充当
- 保険未収:支払基金・国保連の入金明細と請求データを突合
- 過不足(査定・返戻):理由区分を付け、翌月以降へ持ち越す
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帳簿・証憑と税務上の注意点
現金管理は「帳簿の保存」まで含めて設計する
現金管理のルールは、最終的に帳簿・証憑として説明できる状態にする必要があります。国税庁の案内では、帳簿や取引関連書類は原則7年間の保存が必要で、欠損金がある年度などは保存期間が長くなる場合があります。日計表、現金出納帳、レジ集計、返金伝票、未収金台帳も「後から追える形」で保存しましょう。
長期滞留の未収は貸倒判断が必要になる
患者未収が長期化すると、会計上は「回収不能かどうか」の検討が必要になります。法人の場合、国税庁のタックスアンサーで、貸倒損失として処理できる典型要件(法的整理、回収不能が明らか、一定期間取引停止後の弁済なし等)が整理されています。実務では、督促履歴・連絡記録など「回収努力の証跡」がないと判断が難しくなるため、台帳に記録を残します。
現金管理の方法の違い(手書き・POS・キャッシュレス)
現金管理は、手段により「差額の発見速度」と「証跡の残り方」が変わります。現場の実態に合わせて選択します。
| 方式 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 手書き(日計表+手集計) | 導入コストが低い。小規模でも開始しやすい | 記入漏れ・転記ミスが起きやすい。属人化しやすい |
| POS連動(レセコン/決済端末と連携) | 決済別集計が安定。差額の原因追跡が速い | 運用を合わせないと「数字は出るが締めない」状態になる |
| キャッシュレス比率を上げる | 現金の差額リスクが減る。入金証跡が残る | 返金・取消運用が複雑化。手数料・入金サイクル管理が必要 |
重要なのはツールではなく、「締め」と「例外処理」のルールです。ツールは、ルールの徹底を助けるものとして位置付けます。
よくある質問
Q: つり銭準備金はいくらに設定すべきですか?
Q: レジ差額が出た場合、どう処理すべきですか?
Q: 未収金が長期化したら、いつ貸倒処理できますか?
まとめ
- クリニックの現金管理は、つり銭準備金の固定化とレジ締めの標準化が出発点
- 日計表は「決済別内訳」「返金」「未収」を分解し、レジ実査と一致させる表として設計する
- 未収金は「患者未収」と「保険請求差異」を分け、返戻再請求を未収回収プロセスとして管理する
- 差額は当日中に原因特定し、例外処理(返金・補充・小口)を必ず証憑化する
- 帳簿・証憑の保存を前提に運用を組み、長期滞留は貸倒判断も含めて税務整合を取る
参照ソース
- 国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm
- 国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_2.htm
- 国税庁「No.5320 貸倒損失として処理できる場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5320.htm
- 厚生労働省「オンラインによる返戻再請求の実施についてのご案内(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001281153.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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