
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニックのカスハラ対策|受付スタッフを守る労務管理

クリニック経営・労務の個別相談
この記事の内容を、自院の人件費・労務設計に落とし込む相談をする
給与設計、社会保険、採用コスト、月次損益への影響を、税務・経営面から整理します。
カスハラ対策は受付スタッフを守る経営ルール
クリニックのカスタマーハラスメント対策とは、患者や家族からの著しい迷惑行為に対し、スタッフを守りながら適切な医療提供を続けるための院内ルールです。2026年5月11日時点で、厚生労働省は職場のハラスメント対策やカスタマーハラスメント対策に関する資料を公表しています。
医療機関では、痛み、不安、待ち時間、会計、予約、診断書、薬の希望などをきっかけに強い言動が起こることがあります。もちろん患者対応は丁寧であるべきですが、暴言、長時間拘束、威圧、過度な要求をスタッフ個人に背負わせる運用は危険です。
税理士法人 辻総合会計グループでは、カスハラ対策を単なる掲示物ではなく、離職防止、採用コスト、残業、診療単価、月次損益に関わる経営課題として整理します。受付スタッフを守れない職場は、採用しても定着しにくいという視点が必要です。

クリニックで起きやすいカスハラ場面
クリニックのカスハラは、受付窓口に集中しやすいのが特徴です。待ち時間への苦情、予約外受診、診断書の即日発行、薬の希望、電話での長時間クレーム、会計金額への不満など、日常業務の中で発生します。
問題は、スタッフが「自分の対応が悪かった」と抱え込んでしまうことです。院長や事務長が判断基準を示していないと、受付が謝り続け、診療が止まり、他の患者にも影響します。
| 場面 | リスク | 院内で決めること |
|---|---|---|
| 長時間の電話 | 業務停止、精神的負担 | 対応時間、折返し、記録方法 |
| 受付での威圧 | 離職、他患者への影響 | 複数対応、院長呼出基準 |
| 過度な要求 | 不公平、診療妨害 | できること・できないことの線引き |
| SNS投稿示唆 | 評判不安、萎縮 | 事実記録、相談先、対応窓口 |
患者対応ルールを作るときの基本
カスハラ対策で最初に決めるべきなのは、スタッフが1人で判断しなくてよい線引きです。たとえば、暴言が出たら事務長に交代する、同じ説明を3回以上求められたら院長判断にする、電話が一定時間を超えたら折返しにする、などです。
患者対応を機械的に切るのではなく、医療安全とスタッフ保護の両方を守るルールにします。掲示だけで終わらせず、受付、看護師、医師が同じ基準で動けるようにすることが重要です。
カスハラ対策は患者を排除する仕組みではなく、通常の患者対応を守るための仕組みです。この説明を院内で共有しておくと、スタッフも安心して報告しやすくなります。
記録と相談体制を整える手順
Step 1: 事案記録シートを作る
日時、相手、内容、対応者、同席者、診療への影響、次回対応方針を簡潔に残します。感情的な表現ではなく、事実を記録します。
Step 2: 受付が交代できる基準を決める
暴言、威圧、長時間拘束、繰り返し要求など、交代や中断の基準を決めます。受付が「院長に代わります」と言える状態を作ります。
Step 3: 院内共有の範囲を決める
全スタッフに共有する内容、院長・事務長だけで管理する内容、弁護士や社労士に相談する内容を分けます。
Step 4: 離職コストとして数字を見る
カスハラで受付が退職すると、採用費、教育時間、紹介料、残業代が発生します。辻総合会計グループでは、離職防止策を人件費と採用コストの観点から整理します。
就業規則・院内掲示・研修を連動させる
カスハラ対策は、受付に掲示を貼るだけでは不十分です。スタッフ向けには相談窓口、報告方法、対応交代のルールを示し、患者向けには診療を円滑に行うためのお願いを分かりやすく掲示します。
就業規則や服務規律では、スタッフ同士のハラスメントだけでなく、外部からの著しい迷惑行為を受けた場合の相談体制を整理しておくと実務で使いやすくなります。社労士、弁護士、警察相談の線引きも、あらかじめ確認しておくと対応が遅れません。
また、院長が「現場で何とかして」と言うだけでは、スタッフは報告しなくなります。報告したスタッフを責めない文化を作ることが、カスハラ対策の出発点です。
よくある質問
Q: 患者対応の苦情とカスハラはどう分けますか?
Q: 受付スタッフだけで対応してもらってよいですか?
Q: カスハラ対策は採用にも関係しますか?
まとめ
- カスハラ対策は、受付スタッフを守り、通常の患者対応を維持するための経営ルールです。
- 長時間電話、威圧、過度な要求、SNS投稿示唆などは、記録と交代基準を決めます。
- 院内掲示、就業規則、相談体制、研修を連動させると実務で使いやすくなります。
- 税理士法人 辻総合会計グループでは、離職防止、採用コスト、人件費、月次損益の観点から労務体制を整理します。
カスハラ対策を数字で見る理由
カスハラ対応は、感情的な問題に見えますが、経営数字にも影響します。受付スタッフが疲弊して退職すれば、求人広告費、紹介料、教育時間、残業代が発生します。新人が定着するまで患者対応の品質が不安定になり、院長や看護師が受付を補助する時間も増えます。
そのため、カスハラ事案は「大変だった」で終わらせず、発生件数、対応時間、関与したスタッフ、診療遅延、残業、退職リスクを記録します。数字にすると、院長が掲示、予約ルール、電話対応、相談体制に投資すべき理由が明確になります。
| 見る数字 | 意味 | 改善策の例 |
|---|---|---|
| 事案件数 | 発生頻度 | 受付掲示、説明テンプレート |
| 対応時間 | 業務停止の規模 | 電話時間ルール、交代基準 |
| 残業時間 | 人件費への影響 | 当日記録、終業後対応の制限 |
| 離職・欠勤 | 定着への影響 | 面談、相談窓口、外部専門家連携 |
辻総合会計グループでは、こうした労務対応を月次損益や採用コストと結びつけて整理します。受付体制の改善に費用をかけるべきか、採用予算をどう組むか、院長が判断できる形にします。
医療機関らしい表現でルールを伝える
カスハラ対策の掲示や説明文は、強すぎる表現にすると患者との関係を悪化させることがあります。一方で、曖昧すぎるとスタッフを守れません。医療機関では、すべての患者が安心して受診できる環境を守るため、暴言、威圧、長時間拘束、過度な要求には組織として対応する、という伝え方が実務的です。
院内掲示、予約時の案内、電話対応の台本、事案記録シートを同じ方針でそろえると、受付が迷いにくくなります。患者対応を受付任せにせず、院長・事務長が後ろにいることを明確にすることが大切です。
カスハラ対策の目的は、強い言葉で拒否することではなく、通常の診療とスタッフの安全を守ることです。この目的を共有できると、スタッフは安心して報告できます。
公開前に院長が確認したいチェックリスト
カスハラ対策の記事を読んだあとに、院長が確認したいのは掲示文だけではありません。受付が困ったときに誰へ交代できるか、何分以上なら折返しにするか、どの言動を記録するか、外部専門家へいつ相談するかを決める必要があります。
また、事案が起きた日の残業や欠勤、スタッフ面談の有無も確認します。カスハラ対応が続くと、表面上の給与は変わらなくても、集中力低下、欠勤、離職、採用費増加として表れます。労務管理と会計数字を分けずに見ることが大切です。
- 長時間電話や威圧時の交代基準
- 事案記録シートの項目
- 院長・事務長・社労士・弁護士への相談線引き
- 発生後のスタッフ面談
- 離職時に発生する採用費・教育費・残業代
この確認を行うことで、受付スタッフを守るだけでなく、通常診療の安定と採用コストの抑制につながります。
専門家へ相談する前に準備する資料
カスハラ対策を相談する前には、発生日時、相手方の言動、対応者、同席者、対応時間、診療遅延、残業、スタッフ面談の有無を記録した事案シートを用意します。受付で交代する基準、電話を折り返しにする基準、院長・事務長へ報告する基準も整理します。
税理士へは、離職時の採用費、教育時間、紹介料、欠勤や残業による人件費増を相談します。辻総合会計グループでは、社労士や弁護士の判断領域を尊重しつつ、受付体制を守る投資判断を月次損益と採用コストから整理します。
参照ソース
- 厚生労働省「あかるい職場応援団 ハラスメント対策」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000165756.html
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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