
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定2026の経営指標3つ|税理士が解説

診療報酬改定2026で「月次KPI」が勝敗を分ける理由
診療報酬改定の本質は、単純な点数の増減ではなく「どの行為・どの患者層・どの体制」に収益原資が寄るかの再配分です。改定後に黒字を維持する院は、年1回の決算ではなく、月次でズレを検知して手当てしています。
特に2026年改定の議論では、物価・人件費・医療DX・かかりつけ機能といった横断テーマが強く、診療行為だけでなく運営体制(加算・施設基準・業務設計)が収益に直結しやすい構造です。そこで重要になるのが、月次試算表で「先に崩れる指標」を先に見ることです。
税理士法人 辻総合会計では、クリニックの月次を売上の数字合わせで終わらせず、改定影響をKPIに分解して管理する運用を支援してきました。結論として、改定後に強い院のKPIは次の3つに集約できます。
- 診療単価(患者1人あたりの点数・収入)
- 人件費率(ベースアップ等を含む総人件費/医業収益)
- 慢性疾患の継続管理の質(算定構造と再来の安定性)
経営指標1:診療単価(患者1人あたり点数)を「ミックス」で管理する
改定で点数が動くと、患者数が同じでも売上が変わります。ここで大事なのは、単価を「全体平均」だけで見ないことです。平均単価はブレの原因が見えにくく、対策が後手になります。
KPIの定義(まずはこれだけで十分)
- 診療単価(円)= 医業収益 ÷ 延べ患者数
- 診療単価(点)= レセプト総点数 ÷ 延べ患者数
- ミックス差分 =(初診比率、再診比率、検査・処置の構成、加算算定率)の変化
月次試算表しか見えない場合でも、最低限「延べ患者数」と「医業収益」があれば単価の異常を検知できます。レセプト集計がある場合は点数ベースで管理すると改定の影響を直に追えます。
月次でチェックする崩れ方のパターン
- 患者数が横ばいでも単価が下がる:算定構成が変わった、算定漏れ、検査・処置の減少
- 患者数が減って単価が上がる:重い患者に偏る一方で回転数が落ち、スタッフ負荷が上がる
- 単価も患者数も上がる:一見良いが、残業・外注・クレーム増で利益が残らないことがある
経営指標2:人件費率(ベースアップ含む)を「固定費化リスク」として見る
改定局面で最も危険なのは、人件費が固定費として先に増え、売上側の手当てが遅れることです。特に処遇改善やベースアップ評価に関連する論点は、制度上の評価と現場の支払いがズレやすく、月次管理が必須です。
KPIの定義(税理士と共有しやすい形)
- 人件費率 =(給与+賞与+法定福利費+採用・教育費の一部)÷ 医業収益
- 1人当たり生産性 = 医業収益 ÷ 職員数(または常勤換算)
- シフト効率 = 延べ患者数 ÷ 総勤務時間(把握できる場合)
「人件費率だけ」だと結論が荒くなります。月次では、人件費率と同時に生産性(分母)を見て、増員・賃上げの回収可否を判断します。
月次の見方(赤信号の基準を先に決める)
以下は一例です。院の診療科・規模・自費比率で適正水準は変わるため、顧問税理士と「許容レンジ」を合意しておくと運用が回ります。
| 指標 | 目安の考え方 | 悪化したときの典型原因 |
|---|---|---|
| 人件費率 | 前年同月比で上振れ幅を監視 | 賃上げ先行、採用費増、残業増 |
| 1人当たり生産性 | 月次で下落トレンドを警戒 | 予約枠不足、受付・会計詰まり |
| シフト効率 | 予約実績と連動で確認 | 当日キャンセル増、稼働平準化失敗 |
経営指標3:慢性疾患の「継続管理」をKPI化して再来を安定させる
改定の方向性として、生活習慣病をはじめとする慢性疾患の継続的・計画的な管理、多職種連携、医療DXの活用が評価と結びつきやすい流れがあります。慢性疾患は来院間隔が伸びると患者数が落ちやすく、逆に来院を増やすだけでは現場が回りません。だからこそ「継続管理の質」をKPIとして持ちます。
KPIの例(レセプト集計があれば実装しやすい)
- 継続管理率 =(対象管理料等を算定した患者数)÷(慢性疾患患者数)
- 計画書・指導実施率 =(計画書作成・説明の実施件数)÷(対象患者数)
- 再来安定度 = 当月再来患者数 ÷ 前月再来患者数(単純でも傾向が見える)
「算定できるから算定する」ではなく、院内導線(予約・検査・栄養指導・フォロー)を整えた結果として算定が安定する、という順番が重要です。ここが整うと、患者の離脱が減り、季節変動にも強くなります。
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月次試算表で「ここを見る」チェック手順
月次の目的は、原因追及を翌月に持ち越さないことです。以下の順に見ると、税理士との打合せが短時間で本質に寄ります。
Step 1: 売上の量と単価を分けて確認する
- 医業収益(保険・自費)
- 延べ患者数(可能なら初診/再診)
- 診療単価(医業収益÷延べ患者数)
Step 2: 固定費化しやすいコストを先に押さえる
- 人件費(給与・賞与・法定福利)
- 外注費(検査委託、清掃、事務委託)
- システム費(レセコン、予約、電子処方箋等の運用費)
Step 3: 改定テーマに直結する算定の土台を点検する
- 算定率(加算・管理料等)
- 施設基準や体制整備の進捗(DX関連など)
- 慢性疾患の継続管理KPI(対象患者の推移、離脱)
Step 4: 翌月の打ち手を数式で置く
- 例:単価を+X円上げるのか、患者数を+Y人増やすのか
- 例:人件費率をZ%以内に戻すために、シフトと予約枠をどう調整するか
よくある落とし穴:KPIを見ているのに利益が残らない理由
KPI運用でつまずく原因はだいたい決まっています。
- 平均単価だけを見て、算定構成(ミックス)の変化を見ていない
- 人件費を「増やす/減らす」の議論に寄り、分母(生産性)を上げる設計がない
- DXや加算の導入を機器やシステム導入で終わらせ、現場運用(受付〜診察〜会計)に落ちていない
改定対応は「院内プロセス改善」と一体です。税理士に相談するときは、試算表の数字だけでなく、予約導線・人員配置・算定手順の現場の実態を合わせて共有すると、改善スピードが上がります。
よくある質問
Q: 月次試算表だけでKPI管理は可能ですか?
Q: KPIは3つだけで足りますか?
Q: 医療DX関連の加算は、導入すれば自動的に収益が増えますか?
まとめ
- 改定後に強い院は、月次で「単価・人件費率・慢性疾患の継続管理」を見てズレを即修正する
- 診療単価は平均だけでなく、初再診や加算などのミックス変化で原因を特定する
- 人件費率は固定費化リスク。生産性KPIとセットで、採用・賃上げの回収可否を判断する
- 継続管理のKPIは再来の安定と質の向上を両立させ、季節変動に強い収益構造を作る
- 月次試算表は「分解(量×単価)→固定費→算定の土台→翌月の数式」の順で見ると、税理士との議論が早い
参照ソース
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70414.html
- 厚生労働省「医療DXについて」: https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html
- 厚生労働省「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001521280.pdf
- 厚生労働省「生活習慣病に係る疾病管理のイメージ(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001514797.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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