
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニックM&A仲介の選び方と手数料相場|税理士が解説

クリニックM&A仲介会社は「手数料の安さ」より「説明責任と医療特有の論点対応」で選びます
クリニックM&A仲介会社の選び方の核心は、手数料の算定根拠が明確で、医療法務・診療報酬・人事労務まで含む「論点整理」を契約前に提示できるかです。売り手・買い手ともに、仲介者の説明不足や利益相反でトラブルになりやすく、契約書と重要事項説明の質が成否を分けます。
税理士法人 辻総合会計では、医科・歯科の会計顧問を通じて「譲渡後に想定外の負担が残る」「DD(デューデリジェンス)不足で収益が崩れる」といった相談を継続的に受けています。仲介会社の選定は、価格交渉の前に地雷を踏まない設計から始めるのが実務です。
クリニックM&A仲介とは?FAとの違いと役割
クリニックM&Aの「仲介」は、譲渡側・譲受側の間に入り、案件探索、条件調整、契約締結までを進行管理する支援です。一方「FA(フィナンシャル・アドバイザー)」は、原則として一方当事者の代理として条件交渉・助言を行います。どちらが適切かは、当事者の交渉力とリスク許容度で変わります。
| 項目 | 仲介(両手型になりやすい) | FA(片手型が基本) |
|---|---|---|
| 立ち位置 | 譲渡側・譲受側の間に入り調整 | 依頼者の利益最大化を助言 |
| 報酬 | 成功報酬+最低手数料の設定が多い | 成功報酬+リテイナー(着手)等 |
| リスク | 利益相反の説明が重要 | 交渉コストは上がりやすい |
| 向くケース | 標準的な承継、スピード重視 | 条件交渉を強くしたい、複雑案件 |
クリニックM&A仲介の手数料相場:構造と「見積り比較」のコツ
手数料の典型パターン(相場感)
クリニックM&Aの手数料は、仲介・FAで多少異なるものの、実務では次の要素の組み合わせが一般的です(※各社の規定・案件規模で大きく変動します)。
- 相談料:無料〜数万円(初回無料が多い)
- 着手金:0〜数十万円(無料の会社もある)
- 月額報酬(リテイナー):0〜数十万円/月
- 中間金:基本合意時に発生する設定がある
- 成功報酬:レーマン方式等(下段参照)
- 最低手数料:数百万円の設定がある例が多い(小規模でも適用されやすい)
レーマン方式で必ず確認すべき「基準となる価額」
成功報酬は「レーマン方式(段階料率)」が多い一方で、基準となる価額の定義が会社により異なります。ここを曖昧にしたまま契約すると、同じ案件でも報酬が大きく変わり得ます。
- 株式価額ベース(エクイティ):譲渡対価(株式等)の金額を基準
- 企業価値ベース(EV):株式価額+有利子負債等を加算する考え方
- 移動総資産ベース:資産移動額を基準にする考え方
比較のコツは、「基準価額の定義」「最低手数料の適用条件」「相手方からも報酬を得るか(両手か片手か)」を必ず同一条件で並べることです。
クリニックM&A仲介会社の選び方:失敗しない7つのチェックポイント
1) 「登録制度」の有無で足切りする
まずは、M&A支援機関登録制度に登録されているかを確認します。登録の有無は万能ではありませんが、ガイドライン遵守宣言や情報提供窓口などの枠組みがあり、最低限の比較軸になります。
2) 重要事項説明(契約前)の資料が具体的か
口頭説明ではなく、書面で次を明示できるかが重要です。
- 業務範囲(案件探索、バリュエーション、DD支援、契約書レビューの範囲)
- 手数料(基準価額、料率、最低手数料、支払時期、返金条件)
- 利益相反(両手取引の場合の開示と対応策)
3) 医療特有のDD項目を提示できるか
一般企業M&AのDDだけでは不十分です。少なくとも以下を最初から論点化できる仲介が望ましいです。
- 診療報酬:算定構造、返戻・査定、施設基準の維持条件
- 自費収益:メニュー別粗利、広告規制リスク、返金ポリシー
- 人員:医師・コメディカルの継続雇用、就業規則、未払残業
- 賃貸借:原状回復、更新条件、院内改装の承諾
- 許認可・届出:開設関連手続、医療法人の場合の都道府県対応
4) クロージング後の実務支援に強いか
引継ぎは契約締結で終わりません。買い手側は運営統合(PMI)、売り手側は退職金・譲渡所得・役員退任等の税務が残ります。税理士・社労士・行政書士等との連携体制を確認しましょう。
5) 候補先の「買い手の質」を見極める仕組みがあるか
不適切な買い手(契約不履行、保証引継ぎ不調、資金力不足)を避けるため、買い手の資金計画・運営体制の審査プロセスを質問します。
6) 価格の根拠が「診療実態」と整合しているか
クリニックでは、直近の数字が一時的要因でブレることが多いです。例えば「院長稼働」「非常勤比率」「特定自費依存」「施設基準の変更」などを調整せずに評価すると、買い手側の期待値が崩れてトラブルになりがちです。
7) 専門性の証拠を出せるか(実績の出し方)
「医療に強い」だけでは判断できません。匿名化した実績例、支援プロセス、関与専門家(法務・税務・労務)の役割分担を具体的に説明できるかを確認します。
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
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仲介会社を比較して決める手順(売り手・買い手共通)
Step 1: 登録制度データベースで候補を抽出する
所在地・専従者数・手数料体系で絞り、3〜5社に面談を設定します。
Step 2: 重要事項説明書と見積りを同一条件で取得する
基準価額、最低手数料、支払タイミング(基本合意・最終契約)を揃えて比較します。
Step 3: 医療DDの論点リストを出してもらう
診療報酬・人員・賃貸借・届出の論点が最初から入っているかを確認します。
Step 4: 契約条項を精査してから締結する
専任条項、契約期間、自動更新、途中解約、情報開示範囲、秘密保持、違約金の有無を確認します。必要に応じて顧問税理士・弁護士のレビューを入れます。
よくある失敗パターンと回避策(税理士の現場感)
当法人で多い相談は、「最低手数料の適用で想定より高額になった」「基準価額がEVで計算され成功報酬が膨らんだ」「両手仲介で条件調整が弱く、引継ぎ条件が曖昧なまま契約した」といった類型です。回避策はシンプルで、契約前に数字と言葉の定義を揃えることです。
- 成功報酬の基準価額(株式価額かEVか等)を契約書に明記
- 最低手数料が「いつ」「どの範囲」で適用されるか明記
- 引継ぎ条件(スタッフ、患者対応、賃貸借、施設基準)を基本合意の段階で文章化
よくある質問
Q: クリニックM&Aの仲介手数料は、結局いくらが多いですか?
Q: 仲介(両手)だと不利になりますか?
Q: 医療法人のクリニックM&Aは手続が増えますか?
まとめ
- クリニックM&Aの仲介選定は「安さ」より手数料の算定根拠と説明責任が重要
- 成功報酬はレーマン方式が多いが、基準価額(株式価額/EV等)で金額が変わる
- 利益相反、最低手数料、支払タイミングを契約書で明確化する
- 医療特有のDD(診療報酬・施設基準・人員・賃貸借・届出)を最初から論点化できる会社を選ぶ
- 登録制度データベースで候補を絞り、同一条件で見積り比較する
参照ソース
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
- M&A支援機関登録制度「登録支援機関データベース」: https://ma-shienkikan.go.jp/search
- 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
- 公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」: https://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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