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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニックM&A失敗5選と対策|税理士が解説

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クリニックM&A失敗5選と対策|税理士が解説

クリニックM&Aの失敗とは?後悔が起きる典型構造

クリニックM&Aの失敗は、多くが「買収価格が高い/安い」だけでなく、承継後に想定していないコスト・患者数の落ち込み・人材流出・契約不備が連鎖して起きます。特に医療は、設備・人・地域の信用が収益に直結するため、デューデリジェンス(DD)と承継後の運営設計が弱いと、黒字承継でも赤字転落が起こり得ます。

税理士法人 辻総合会計では、クリニックの承継(買い手・売り手双方)において、財務・税務だけでなく「現場が回るか」を含めて検討する支援を行っています。本記事では、よくある失敗事例を5つに分け、対策を具体化します。

失敗パターン1:患者数・診療圏の見誤り(売上が承継後に急落)

ありがちな事例(匿名)

駅前の内科を承継。直近決算は黒字で、レセ枚数も安定して見えたが、実態は「前院長の個人ブランド」依存が強く、承継後3か月で新患が減少。自由診療比率も想定より低く、資金繰りが逼迫。

主因

  • 月次推移ではなく「年平均」だけで判断した
  • 前院長の診療スタイル・紹介ルート・地域連携の引継ぎ計画がない
  • のれん(営業権)の根拠が弱い

対策

  • 月次の売上・患者数・自費比率を最低24か月で確認(季節性・外的要因も見る)
  • 紹介元・近隣薬局・施設等の「関係性の棚卸し」をDDに含める
  • 引継ぎ期間(併診・顔つなぎ)とKPI(新患数・再診率)を合意し、条件に落とす
ここがポイント
診療圏データは「正しい数字」よりも「意思決定の前提が一致しているか」が重要です。買い手・売り手で想定がズレたまま契約すると、承継後に不信が表面化しやすくなります。

失敗パターン2:人材流出(看護師・受付が辞めて診療が回らない)

ありがちな事例(匿名)

承継直後にベテラン受付が退職。予約運用が崩れてクレーム増。採用費と派遣費が膨らみ、想定利益が消失。院内オペレーションも属人化しており、マニュアルが存在しなかった。

主因

  • 給与体系・評価・シフト運用が「暗黙知」だった
  • キーマンの離職リスクを価格に織り込んでいない
  • 承継前に本人ヒアリングや引継ぎ計画が不足

対策

  • キーマンを特定し、職務・権限・代替可能性をDDで確認
  • 引継ぎ期間中に業務棚卸し(予約、会計、レセ、クレーム対応)を文書化
  • 退職が起きた場合の追加コストを想定し、運転資金を厚めに確保

失敗パターン3:契約スキームの選択ミス(事業譲渡 vs 持分/株式譲渡)

ありがちな事例(匿名)

医療法人の承継で「価格が安い」点に惹かれて契約したが、実は債務・未払・契約関係の整理が不十分。承継後に想定外の支出が発生し、買い手が追加資金を投入することに。

主因

  • スキームごとの引継ぎ範囲(資産・負債・契約)の理解不足
  • 許認可・届出・名義変更(賃貸借、リース、保守)の段取り漏れ
  • 税務(課税関係)と法務(責任範囲)が別々に検討されていた

比較(ざっくり)

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項目事業譲渡(クリニックの事業を移す)持分/株式譲渡(法人を引き継ぐ)
引継ぎ範囲原則、選別して引継ぎ原則、包括的に引継ぎ
リスク契約・許認可の移転漏れ簿外債務・偶発債務の引継ぎ
実務の肝資産・契約の特定と移転手続DDで負債・訴訟・税務を深掘り
ここがポイント
中小M&Aでは、支援機関の関与の仕方や説明義務が問題化した経緯があり、国の「中小M&Aガイドライン」でも手続・説明の重要性が整理されています。

失敗パターン4:簿外債務・偶発債務の見落とし(後から請求が出る)

ありがちな事例(匿名)

承継後に、未計上の修繕費・未払残業代・リース解約違約金が判明。さらに医療機器の保守契約が自動更新で高額化しており、想定利益が下振れ。

主因

  • DDが「決算書ベース」で止まり、契約書・現場ヒアリングが薄い
  • 税務調査リスク(過年度の処理)を織り込んでいない
  • 在庫(医薬品・材料)の評価と管理が曖昧

対策

  • 契約一覧(賃貸借、リース、保守、委託、清掃、IT、広告)を必ず収集し更新条件を確認
  • 未払・引当・翌期支払の棚卸し(賞与、残業、修繕、返金)を実査
  • 表明保証・補償条項(誰が負担するか)を契約で明確化する

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失敗パターン5:税務設計の不備(手取りが減る・資金繰りが崩れる)

ありがちな事例(匿名)

売り手が「譲渡益=そのまま手取り」と誤解し、納税資金を確保していなかった。買い手側も、のれん償却や資産計上の想定が甘く、キャッシュフロー計画が崩れた。

主因

  • 役員退職金、譲渡対価、個人の譲渡所得など、課税区分の整理不足
  • 分割払い・アーンアウト等の支払い条件が税務と整合していない
  • 資金繰り表に「税金の支払時期」を織り込んでいない

対策

  • 売り手は「受取額」「税額」「納税時期」を事前に試算し、手取りベースで交渉
  • 買い手は、のれん・設備更新・採用費を含めた3年CFで返済余力を確認
  • 価格だけでなく「支払い条件」と「補償」を合わせて設計する

失敗しないための進め方(実務の手順)

Step 1: 目的とスキームを先に決める
承継後に何を維持し、何を変えるのか(診療科、スタッフ、院内処方、訪問診療など)を言語化し、事業譲渡か持分/株式譲渡かの仮説を立てます。

Step 2: DD(調査)を現場×契約×数字で実施
決算書だけでなく、契約・人・オペレーションを確認します。特に「キーマン」「紹介ルート」「契約更新条件」は外せません。

Step 3: 価格と条件をパッケージで交渉
価格単体ではなく、表明保証、補償、引継ぎ期間、分割条件、競業避止などを一体で設計します。契約条件が弱いと、後から揉めやすくなります。

Step 4: 承継後100日プランを作る
予約導線、採用、教育、広告、地域連携の「最初の100日」を計画し、KPIで管理します。

よくある質問

Q: クリニックM&Aの失敗を防ぐため、まず何を確認すべきですか? ▼
最優先は「患者数の月次推移」「キーマンの特定」「契約一覧(更新条件含む)」です。決算書が良くても、ここが崩れると承継後に急速に不安定化します。
Q: 事業譲渡と持分/株式譲渡は、どちらが失敗しにくいですか? ▼
一概には言えません。事業譲渡は選別承継ができる一方で移転漏れが起こりやすく、持分/株式譲渡は包括承継の反面、簿外債務を拾うリスクがあります。DDと契約でのリスク配分が鍵です。
Q: M&A支援会社(仲介)に任せれば安全ですか? ▼
仲介の関与は有用ですが、買い手・売り手それぞれに利害があるため、説明・合意形成のプロセスが重要です。国の中小M&Aガイドライン等も参照しつつ、契約条件とDD範囲を自分の言葉で理解することが必要です。

まとめ

  • 失敗の多くは「数字」よりも、患者・人・契約の引継ぎ不全から起きる
  • 患者数は年平均ではなく月次で見て、前院長依存を評価する
  • キーマン離職は価格に織り込み、引継ぎとマニュアル化を先行する
  • スキーム(事業譲渡/持分・株式譲渡)でリスクが変わるため、DDを設計する
  • 税務は手取りと納税時期まで落とし込み、資金繰り計画に反映する

参照ソース

  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
  • 事業承継・引継ぎポータルサイト(支援センター案内): https://shoukei.smrj.go.jp/
  • 厚生労働省「医療法人・医業経営」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
  • 国税庁「株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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