
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック開業タイミング2026|診療報酬改定直後の戦略を税理士が解説

結論:2026年6月改定は「開業前倒し」より「算定設計」を優先すべき
2026年6月施行の診療報酬改定を前に「5月開業が得か、6月以降が得か」と悩む方は多いですが、判断の軸はシンプルです。開業日そのものより、改定後に狙う点数(算定項目)を確実に取れる体制・届出を整えているかが損益を左右します。特に、施設基準の届出は「出せばすぐ算定」ではなく、受理・算定開始のルールや地域厚生局の運用に左右されます。改定直後は届出が集中しやすく、開業準備が薄いまま前倒しすると、想定より点数が取れず資金繰りが苦しくなるのが現場の典型です。
本記事では、2026年6月改定(令和8年度改定)の流れを前提に、改定前後どちらで開業すべきか、施設基準届出のタイミング設計を中心に実務的に整理します。
2026年6月施行の「診療報酬改定」と開業への影響
診療報酬改定は「点数表」だけでなく「届出要件」が変わる
診療報酬改定は、点数(単価)や算定ルールが変わるだけでなく、施設基準(算定の前提条件)が新設・変更・経過措置付きで改定されるのが実務上のインパクトです。つまり、同じ診療メニューでも、改定後は「スタッフ要件」「研修要件」「実績要件」「院内掲示・同意書」などが増え、算定開始までに追加タスクが発生しやすくなります。
厚労省は令和8年度(2026年度)改定の検討経緯や基本方針等を公開していますが、開業に直結する届出様式・通知類は、改定直前〜施行後にかけて順次整備されるのが一般的です(公開タイミングは毎回揺れます)。そのため、「いつ開業するか」より「いつまでに改定後の要件を満たすか」を先に決めるのが合理的です。
「改定直後に開業」が有利になるケース・不利になるケース
改定直後(6月以降)に開業すると、最初から改定後ルールでの運用に統一でき、二重対応(旧ルール→新ルールへの切替)が不要です。一方で、改定直後は届出が集中し、受理まで時間がかかったり、差し戻しが増えたりしやすい点がリスクです。
逆に改定前(〜5月)に開業すると、早く売上が立ちますが、すぐに改定対応(掲示物、同意書、運用手順、算定ロジック、場合によっては機器・人員配置)をやり直す可能性があります。特にスタッフが少ない立ち上げ期に「改定対応の追加工数」が乗ると、オペレーションが崩れがちです。
クリニック開業は改定前後どっち?判断フレーム(税理士の実務目線)
判断の軸は3つ:収益モデル/届出難易度/資金繰り
開業タイミングを決める際は、次の3軸で評価するとブレません。
- 収益モデル:外来中心か、在宅・訪問診療を強くやるか、検査・処置の比率は高いか
- 届出難易度:施設基準が多いか(例:在宅、リハ、データ提出、加算系など)、要件が重いか
- 資金繰り:手元資金・融資条件・レセプト入金までの耐久月数(立ち上げ時はブレやすい)
特に「開業初月から取りたい加算が施設基準を要するか」が分水嶺です。施設基準が少ない外来型であれば、改定前倒しのメリット(早期売上)を取りやすい一方、施設基準が多いモデルでは、改定直後に合わせて“最初から改定後の届出パッケージ”で揃えた方が再作業が減ります。
改定前開業/改定後開業の比較表(実務上の違い)
| 観点 | 改定前(〜5月)に開業 | 改定直後(6月以降)に開業 |
|---|---|---|
| 売上立ち上がり | 早い(早期に請求開始) | 立ち上げは同様だが準備が長引くと遅れる |
| ルール変更対応 | すぐ改定対応が必要(掲示・同意書・算定ロジック更新) | 最初から改定後ルールで統一しやすい |
| 施設基準届出 | 旧要件で出しても改定で届出直しが発生し得る | 改定後要件で一括設計しやすい |
| 事務負担 | 立ち上げ+改定対応でピークが二回来る | 改定対応を織り込んだ立ち上げが可能 |
| リスク | “取りたい点数が取れない月”が出やすい | 届出集中で受理遅延・差し戻しが増えやすい |
この表のとおり、「点数の取り逃しリスク」をどう制御するかが勝負です。税理士法人 辻総合会計の開業支援の現場でも、改定年は「開業日よりも、算定開始の設計と届出管理の精度」で差が出るケースが多いです。
クリニック開業の「施設基準 届出 タイミング」2026の考え方
施設基準は“提出して終わり”ではなく「受理・算定開始」まで管理する
施設基準は、地域の厚生(支)局への届出が必要で、内容確認・受理を経て算定に至ります。加えて、改定直後は「届出開始日が設定される」「期限が通常と異なる」など、年によって実務運用が変わります。過去の改定時にも、届出開始日が明示され、施行月に合わせた締切が案内されています。
また近年は、受理通知の運用が変わり、受理状況をホームページで確認する方式に移行している地域もあります。これにより、「受理通知を待っていたら算定が遅れた」という事故は減る一方、確認を怠ると逆に気づきにくいリスクがあります。
届出が集中する「改定直後」にハマりやすい落とし穴
改定直後(6月施行の直後)は、次の理由で遅延・差し戻しが起きやすいです。
- 新様式への記入ミス(旧様式で出してしまう、添付書類不足)
- 要件解釈の揺れ(疑義照会が必要、局ごとに確認ポイントが違う)
- 医療機関側の体制未整備(研修未受講、掲示未作成、実績不足)
- 届出件数の増加(審査側の処理が逼迫)
ここで重要なのは、「開業日=算定開始日」ではないという前提を持つことです。開業しても、狙っていた施設基準が算定できない期間が出ると、売上計画と資金繰り計画が崩れます。
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改定直後の開業戦略:届出・体制・資金繰りを同時に設計する
ここからは、実務的に再現性の高い進め方を、ステップ形式で整理します。
Step 1: 2026年6月以降に「取りたい点数」を先にリスト化する
- 初月から必ず取りたい算定(基本料・加算・管理料)を列挙
- 施設基準が必要なもの/不要なものに分ける
- 経過措置がつく可能性がある項目は“暫定運用”も想定する
Step 2: 施設基準ごとに「要件→準備物→担当→締切」を分解する
- 人員要件(職種・配置・勤務形態、兼務可否)
- 研修要件(受講証明、計画、更新)
- 書式・掲示・同意書(院内掲示、説明文書)
- 設備要件(機器仕様、保守契約、校正記録など)
この段階で、“開業前に満たせる要件”と“開業後に実績が必要な要件”が分かれます。後者を初月から狙う計画は、原則として再設計が必要です。
Step 3: 届出の提出順序を決める(早期に出せるものから分割提出)
改定直後は「まとめて一括提出」よりも、「揃ったものから順に提出」した方が受理が早いことが多いです(局からも早期提出を促す案内が出ることがあります)。特に書類が多い場合、どれか1つの不備で全体が止まるのが最悪パターンです。
Step 4: “算定できない月”が出た場合の資金繰りバッファを確保する
- レセプト入金までのタイムラグを保守的に見積もる
- 初月・2か月目は想定売上の下振れを織り込む
- 運転資金(人件費・家賃・リース・外注費)を固定費として先に積む
税理士の立場では、改定年の開業は「制度対応コストが読みにくい」ため、資金繰りに余裕を持たせるほど成功確率が上がります。設備投資を厚くしすぎて運転資金が薄いのは典型的な失敗パターンです。
よくある質問
Q: 2026年6月改定の前(5月)に開業すると不利ですか?
A:
一概に不利ではありません。外来中心で施設基準が少なく、改定対応(掲示物や算定ロジック更新)を短期間で回せる体制なら、早期に売上を立てるメリットがあります。ただし、改定後に狙う加算が多い場合は、届出直しや要件変更で“取りたい点数が取れない月”が出ないよう、事前に算定設計を行うことが重要です。Q: 施設基準の届出は、開業前に出せますか?
A:
届出可否は届出区分や運用によって異なり、改定時は「届出開始日」が設定されることがあります。過去の改定でも、届出開始日より前は提出できない旨が明示されています。改定直後は特に、地域厚生局の案内(届出開始日・提出期限・提出方法)を確認したうえで、逆算設計が必要です。Q: 改定直後は届出が遅れますか?対策はありますか?
A:
遅れる可能性は上がります。新様式・添付不足・疑義照会などで差し戻しが増えやすいため、(1) 取りたい施設基準を絞る、(2) 早期に出せるものから分割提出する、(3) 受理状況を定期的に確認する、の3点が有効です。近年は受理通知の郵送を廃止し、ホームページでの確認に移行している地域もあるため、確認フローを院内で決めておくと事故が減ります。まとめ
- 2026年6月改定は「開業月」より算定設計と届出管理で損益が決まる
- 改定前開業は早期売上のメリットがある一方、改定対応の再作業リスクがある
- 改定直後開業はルール統一がしやすいが、届出集中による受理遅延・差し戻しに注意
- 施設基準は「提出」ではなく「受理・算定開始」までを管理する
- 運転資金を厚めにし、点数の取り逃しが出ても耐えられる資金繰り設計が重要
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省 東海北陸厚生局「令和6年度診療報酬改定に伴う施設基準の届出等について(PDF)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/000335499.pdf
- 厚生労働省 近畿厚生局「施設基準届出の受理状況の確認(受理通知の運用変更を含む)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/gyomu/gyomu/hoken_kikan/shitei_jokyo_00004.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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