
執筆者:辻 勝
会長税理士
医院開業の立地選びで失敗しない方法|税理士が解説

医院開業の立地選びは「どこなら患者が来るか」だけではなく、「診療圏に合う患者層がいて、競合と賃料のバランスが取れ、継続運営しやすいか」を総合判断する作業です。開業後に集患が伸び悩むケースの多くは、診療コンセプトと立地特性のミスマッチ、または見落とし(競合・動線・法規制・契約条件)が原因になりがちです。本記事では、医院開業で失敗しないために押さえるべき立地選びのポイントを、現場目線で体系的に整理します。
医院開業の立地選びとは
立地選びとは、単に「人通りが多い場所」を選ぶことではありません。医院は、患者さんの生活導線の中で“通いやすい”と評価されて初めて選ばれます。したがって、立地評価の中心は次の4点に集約されます。
- 患者動線(徒歩・自転車・車・公共交通の来院しやすさ)
- 競合密度(同科目・近接医療機関の数と強み)
- 需要(年齢構成・世帯構成・昼夜人口の差)
- 収支耐性(賃料・内装費・広告費を吸収できる売上ポテンシャル)
税理士法人 辻総合会計でも、開業支援の相談で最初に確認するのは「売上予測」よりも、上記4点が診療方針と噛み合っているかです。売上は努力で伸ばせても、立地の構造的な不利は後から取り返しにくいからです。
立地選びで見落としやすい“ズレ”
よくあるズレは、例えば次のようなものです。
- 小児科・皮膚科なのに、昼間人口中心のオフィス街を選んでしまう
- 駅前で認知は取れるが、駐輪・駐車が弱くリピートが伸びない
- 競合が強いのに、差別化要素(診療時間・専門性・導線設計)が未整備
この“ズレ”を最小化することが、立地選びの本質です。
立地タイプの違いとは
立地は大きく「駅前型」「住宅地型」「ロードサイド型」「商業施設・複合施設型」に分けて考えると整理しやすくなります。重要なのは、立地ごとに強い診療科目・運営モデルが変わる点です。
| 立地タイプ | 向きやすい診療科・運営 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 駅前・繁華街型 | 内科、耳鼻科、心療内科、美容皮膚科など(回転型) | 認知が速い、紹介導線が作りやすい | 賃料高、競合強、待合の混雑設計が必須 |
| 住宅地型 | 小児科、皮膚科、整形外科など(かかりつけ型) | リピートが伸びやすい、口コミが効く | 目立ちにくい、看板・導線設計が重要 |
| ロードサイド型 | 整形外科、眼科、内科(車来院型) | 駐車で集患しやすい、面積を取りやすい | 駐車場台数の確保、出入口の安全性が鍵 |
| 商業施設・複合施設型 | 皮膚科、眼科、内科など(買い物動線型) | 目的来訪が多い、雨天影響が小さい | テナント規約が厳しい、診療時間の自由度が下がる |
「視認性」より「通院継続性」で評価する
開業初期は視認性(見つけてもらえるか)を重視しがちですが、医院経営で強いのは「再来が自然に起きる場所」です。特に慢性疾患や継続治療が中心の診療科では、アクセスと駐輪・駐車、バリアフリーが長期の来院継続を左右します。
立地選びの方法・手順
立地選びは「候補を出す→数字と現地で潰す→契約条件で最終判断」という順番が最も再現性があります。以下は、実務で使える手順です。
Step 1: 診療コンセプトを“商圏条件”に翻訳する
- 対象患者(年齢層、性別、家族構成)
- 来院手段(徒歩・車・公共交通)
- 受診頻度(継続通院か、スポット受診か)
- 必要面積(待合・導線・検査室・リハ等)
ここが曖昧だと、どの立地も「良さそう」に見えて決め切れません。
Step 2: データで需要と供給を把握する(机上調査)
- 市区町村の年齢階級別人口、昼夜人口差、世帯構成(自治体統計・e-Stat等)
- 周辺の医療機関数、標榜科目、開業年、診療時間(医療施設関連統計や公開情報)
- 競合の強み(専門外来、予約導線、口コミ、駐車場)
特に開業前は「競合が多い=ダメ」と短絡しがちですが、需要が強いエリアは競合も集まりやすい点に注意が必要です。
Step 3: 現地で“患者の目線”に落とす(現地調査)
- 平日昼・夕方・土曜午前など、来院が起きる時間帯に観察
- 交差点の渡りやすさ、歩道の幅、雨の日の動線
- 駐輪場の置きやすさ、車の出入り、送迎の停車余地
- 施設の視認性(看板位置、夜間照明、段差)
机上で強く見えても、現地で「通いにくい」が見つかれば撤退判断が賢明です。
Step 4: 収支の“安全域”を作って契約判断する
立地の最終判断は、収支の安全域(下振れ耐性)で決めます。目安としては、固定費の中で賃料が過度に重くならないよう、賃料比率(売上に対する賃料の割合)をシミュレーションし、開業初期の患者数が想定より少ないケースでも資金繰りが回るかを確認します。
立地調査で見るべき指標とチェックポイント
立地調査は、感覚ではなく「指標→仮説→検証」で精度が上がります。最低限、次の指標は押さえてください。
人口構成と“診療科目適合”
- 小児科:0〜14歳人口、子育て世帯の分布、保育園・小学校の位置
- 整形外科:高齢者人口、バス停や送迎動線、駐車場
- 心療内科:駅近・通勤導線、プライバシー性、予約導線
人口は絶対数だけでなく、増減傾向(新築供給、再開発、転入超過)も確認すると、5年後の強さが変わります。
競合の“質”を見る
競合調査は「件数」より「質」です。次の観点でスコア化すると判断しやすくなります。
- 診療時間(夜間・土日)
- 予約の取りやすさ(Web予約・待ち時間の見える化)
- 強み(専門外来、検査機器、リハ設備、医師の経歴)
- 駐車・駐輪、バリアフリー
競合が強い場合は、差別化を「医療の質」だけでなく、受付導線・待合設計・予約運用といった体験価値で組み立てるのが現実的です。
建物・法規制の観点
立地評価で意外に見落とされるのが、建物側の制約です。用途や改修規模によっては、建築確認や追加図書が必要となる場合があります。特に2025年4月以降は建築確認手続きの見直し等が進んでおり、テナント改修でも影響が出る可能性があります。
また、地域によっては用途地域や条例で看板・駐車場・出入口に条件が付くこともあります。自治体の都市計画図、建築指導課・保健所への事前相談は、遠回りに見えて最短ルートです。
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
立地選びの注意点・リスク
最後に、失敗に直結しやすいリスクを整理します。
賃貸借契約での落とし穴
- 原状回復範囲が広すぎる(退去時に多額になる)
- 内装工事の承認フローが長い(着工が遅れる)
- 看板・外装の制限が強い(視認性が確保できない)
- 更新条件で賃料が急上昇する条項がある
契約書は「家賃」だけでなく、工事・看板・解約時の条件が重要です。
“駐車場が足りない”は後から解決しにくい
ロードサイドや住宅地型では、駐車・駐輪が弱いと再来が伸びません。開業後に追加で確保しようとしても、近隣に空きがない、賃料が高い、動線が悪いなどで詰みやすいポイントです。
事前に保健所・関係者とスケジュールを揃える
設備・レイアウトは、保健所手続きや消防・建築の検査と連動します。立地が決まった後に設計を詰めるのではなく、立地選定の段階で「開業予定日から逆算して間に合うか」を確認してください。
よくある質問
Q: 人通りが多い場所なら、どの診療科でも有利ですか?
A:
一概には言えません。人通りが多い場所は初期認知には有利ですが、継続通院が中心の診療科では「通いやすさ(徒歩・車・雨天動線)」の方が長期的な来院を左右します。駅前で駐車・駐輪が弱い場合、再来が伸びにくいことがあります。Q: 競合が多いエリアは避けるべきですか?
A:
競合が多い=需要が強い可能性もあります。重要なのは件数ではなく、競合の質(診療時間、予約導線、強み)と、自院が提供できる差別化が噛み合うかです。差別化が難しい場合は、立地をずらして“同じ患者層に届く別動線”を探すのが有効です。Q: 立地調査はどこまでやれば十分ですか?
A:
最低限、(1)人口構成と増減、(2)競合の質、(3)現地動線(平日・休日・時間帯別)、(4)賃料と収支耐性、(5)改修・手続きの難易度、の5点を押さえると失敗確率が下がります。特に現地調査は、机上で見えない弱点が出やすいので省かないことをお勧めします。まとめ
- 立地選びは「患者動線・競合密度・需要・収支耐性」を総合判断する
- 立地タイプごとに向く診療科・運営モデルが異なるため、コンセプトを先に固定する
- 調査は「机上→現地→収支安全域→契約条件」の順で精度が上がる
- 契約書は家賃だけでなく、工事・看板・退去条件が重要
- 2025年以降の建築手続き見直し等も踏まえ、改修難易度を契約前に確認する
参照ソース
- 厚生労働省「令和6(2024)年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/24/
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「市区町村データ(社会・人口統計体系)」: https://www.e-stat.go.jp/regional-statistics/ssdsview/municipality
- 国土交通省「改正建築物省エネ法・建築基準法等に関する解説資料とQ&A」: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/r4kaisei_document.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
