
執筆者:辻 勝
会長税理士
療養担当規則の基本|保険診療で指導を防ぐ要点を税理士が解説

療養担当規則は、保険診療を行う医療機関が「何を、どのように提供し、どう請求するか」を定める基本ルールです。院長や事務長にとっての問題は、意図せず運用がズレた結果、個別指導で指摘され、返還や再発防止策まで求められる点ではないでしょうか。結論としては、「混合診療(保険外併用)の線引き」「掲示・説明・同意」「領収証・明細書等の交付」「記録と請求の整合」を日常運用に落とし込めば、指導リスクは大きく下げられます。
療養担当規則とは(定義と位置づけ)
療養担当規則(正式には「保険医療機関及び保険医療養担当規則」)は、健康保険法等に基づき、保険医療機関が療養の給付を担当する際の遵守事項を定めた省令です。診療内容そのものだけでなく、患者への説明、費用の受領、文書・帳票の交付、院内掲示など、運用面のルールが広く含まれます。
現場では「診療報酬点数表=算定ルール」「療養担当規則=運用のルール」と理解すると整理しやすいです。点数が合っていても、運用(説明・同意・掲示・帳票交付)が欠けると指摘されやすい一方、運用が整っていれば算定誤りの是正も“改善”として収束しやすくなります。
療養担当規則 クリニックの「違反」になりやすいポイント
クリニックで多いのは、医師の裁量というより「受付・会計・掲示・同意書・レセコン設定」の運用差によるズレです。特に次の論点は、個別指導で確認されやすい実務領域です。
混合診療(保険+自費)の線引きと、説明・同意
いわゆる混合診療は、原則として保険給付と保険外の併用に厳格な制約があります。実務上の典型例は、保険診療と同日に行う自費メニュー(検査・処置・物品)のセット化、保険対象外部分の“便宜的な一括請求”、同意の曖昧さです。
重要なのは「患者が自由意思で選択できる構造」になっていることです。院内掲示、事前説明、同意書、会計区分(領収証の内訳)まで一貫させる必要があります。
領収証・明細書の交付、掲示、プライバシー配慮
療養担当規則等の枠組みでは、領収証や明細書の交付、院内掲示、患者のプライバシーへの配慮が実務論点になります。近年は、明細書の無償交付や掲示・ウェブ掲載に関する通知・省令改正もあり、レセコンや自動精算機の事情を理由にする場合でも、届出や掲示が求められる場面があります。
例えば、明細書発行が難しい「正当な理由」の範囲、掲示文言、費用徴収の妥当性(実費相当)などは、事務運用で差が出やすい点です。
診療録等の記録と請求の整合(算定根拠の残し方)
療養担当規則の“守るべき姿勢”は、突き詰めると「適切な診療」「適切な記録」「適切な請求」の一体運用です。よくある指摘は、算定要件そのものよりも、診療録・同意書・検査結果・指導内容等が請求内容と結び付いていないことです。
院長側は「実施した」つもりでも、事務側は「記録が見えない」ため請求が揺れ、結果として指導時に説明できない、という構図が起きがちです。ここを日常の記録設計として標準化することが、実務的な再発防止になります。
指導(個別指導・監査)の流れと、見られる観点
厚生労働省は、保険診療における指導・監査の枠組み、集団指導資料、確認事項リスト等を公表しています。実務上、医科クリニックで遭遇しやすいのは、集団指導、個別指導(共同指導等を含む)で、ここでの指摘が重なると監査に移行する可能性があります。
指導で見られる観点は、大きく次の3つです。
- ルールの理解:院内掲示・説明・同意・帳票交付など、療養担当規則レベルの遵守
- 算定の妥当性:診療報酬点数の要件充足(算定根拠の提示)
- 運用の再現性:担当者が変わっても同じ運用ができる仕組み(手順書・チェックリスト)
ここで効くのが「仕組み」での担保です。属人的な注意喚起より、掲示テンプレ、同意書、会計区分、レセコン設定、監査ログ(誰がいつ修正したか)まで整えるほど、説明可能性が上がります。
指導で指摘されないための整備手順(ステップ)
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、30年以上にわたりクリニック顧問先の記帳・経営支援に加え、運用整備(資料整備・内部統制)の相談を多く受けてきました。療養担当規則対応は、次の順で整備すると短期間で効果が出ます。
Step 1: 自費・保険の「境界」を棚卸しする
- 自費メニュー、物品販売、文書料、予防接種等を一覧化
- 保険診療と同日に提供するケースの有無を確認
- 説明資料(価格表、同意書、Q&A)を整備
Step 2: 掲示・ウェブ掲載・同意のテンプレを統一する
- 院内掲示(患者向け)を「何を掲示するか」から定義
- 明細書交付やプライバシー配慮の掲示文面を整備
- 同意書は“いつ・誰が・どの書式で”取るか運用ルール化
Step 3: 記録と請求の突合ルールを作る
- 算定根拠が診療録のどこに残るか(定型文・チェック項目)を設計
- 受付〜会計〜請求までの修正フロー(再診料の扱い等)を明確化
- 変更履歴(レセプト修正ログ)を保存し、説明可能性を確保
Step 4: 月次で自己点検(ミニ監査)を回す
- 確認事項リストを院内版に落とし、月1回10分で点検
- 返戻・査定・疑義の傾向をモニタリング
- 指摘が出たら「原因(運用)」に紐づけて是正し、再発防止策を文書化
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クリニック運用の重要論点を比較表で整理
以下は、療養担当規則と関連通知の観点から、指導で“論点化しやすい”領域を、現場運用に落とした比較です。
| 論点(よくある場面) | 望ましい運用(実務の着地点) | 主なリスク(指導での見られ方) |
|---|---|---|
| 保険+自費メニューの同日提供 | 事前説明・選択の自由・同意書・会計区分を整備 | 混合診療として否認、返還、再発防止策 |
| 文書料・物品販売の請求 | 保険対象外の範囲を明確化し、価格表を掲示 | 不当な費用受領として指摘 |
| 明細書の交付・掲示 | 原則無償交付、掲示・ウェブ掲載、プライバシー配慮 | 説明義務・掲示義務の不備として指摘 |
| 記録と算定根拠の不一致 | 診療録の定型化、検査・指導内容の記録設計 | 算定要件未充足扱い、包括的な返還 |
| レセコン設定・会計運用の例外処理 | 例外条件を手順書化し、修正ログを残す | “運用管理不十分”として改善要求が拡大 |
税理士の立場から強調したいのは、これらが「会計・レセプト・院内ルール」の接点にある点です。つまり、経営管理(収益・返還リスク)と直結します。返還はキャッシュフローに直撃し、金融機関説明や役員報酬設計にも影響します。
税理士が関与できる範囲と、専門家連携の考え方
療養担当規則は医療保険制度の領域であり、最終的な算定解釈や医学的判断は、地方厚生(支)局の運用や医療事務・社労士・弁護士等の専門領域とも重なります。一方で税理士は、次のような“仕組み”の整備に強みがあります。
- 自費・保険の収益区分設計(会計科目・部門・レジ運用)
- 価格表、同意書、掲示物の整備プロジェクト管理(版管理・運用定着)
- 返還リスクを見込んだ資金繰り・納税・役員報酬の調整
- 月次での“自己点検”の仕組み化(チェックリスト、証憑管理)
特に、院内の標準化(誰がやっても同じ)を作ることが、指導対応のコストを最も下げます。個別の状況により最適解は異なるため、必要に応じて医療事務・法務と連携しながら進めるのが現実的です。
よくある質問
Q: 療養担当規則に違反すると、必ず監査になりますか?
A:
直ちに監査に進むとは限りません。多くは指導での是正・返還・再発防止策の提示から始まります。ただし、反復・継続や悪質性が疑われる場合、指摘に対する改善が不十分な場合は、監査に移行する可能性があります(個別の事案で判断されます)。Q: 個別指導に備えて、最低限そろえるべき書類は何ですか?
A:
少なくとも、院内掲示物(明細書交付等を含む)、自費メニューの価格表・説明書・同意書、診療録と算定根拠が結びつく記録設計(テンプレ)、会計区分(領収証・明細の整合)が重要です。加えて、レセプト修正の履歴や院内手順書があると説明が容易になります。Q: 明細書は必ず無償で交付しなければならないのですか?
A:
原則として無償交付が求められ、やむを得ない場合(「正当な理由」)でも、届出や掲示、料金が実費相当であることなど、追加の要件が問題になります。運用は通知・省令改正の影響を受けるため、最新の根拠に沿って整備してください。まとめ
- 療養担当規則は、保険診療の運用(説明・掲示・帳票・費用受領等)を定める基本ルール
- クリニックでは「混合診療の線引き」「掲示・同意」「明細書・領収証」「記録と請求の整合」が指摘されやすい
- 指導対策は、属人的注意ではなく、テンプレ・手順書・ログ・月次点検で仕組み化するのが有効
- 返還は資金繰りに直結するため、会計・運用・レセプトの接点を早期に整備する
- 本記事は一般情報であり、具体的な運用判断は個別事情により異なるため、必要に応じて専門家へ相談する
参照ソース
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 厚生労働省「保険医療機関及び保険医療養担当規則」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84035000&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省 保険局長通知(令和6年3月5日 保発0305第11号): https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001219498.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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