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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニック売却の税金を整理|個人・医療法人別に税理士が解説

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クリニック売却の税金を整理|個人・医療法人別に税理士が解説

クリニック売却の税金は「何を売るか」で決まる

クリニック売却の税金は、売却代金の大きさよりも「何を売ったか(資産か、持分・株式か、事業そのものか)」で決まります。個人の開業医は主に事業用資産の譲渡(事業譲渡)として譲渡所得等が問題になり、医療法人は出資持分(持分あり)や事業譲渡の形で課税関係が分岐します。

税負担を事前に把握するには、まず「スキーム(売却方法)」を確定させ、次に「売却代金の内訳(価格配分)」を固めるのが鉄則です。

クリニック売却の譲渡所得とは(個人)|計算と税率の基本

個人クリニックの売却は「資産ごと」に所得区分が分かれる

個人(開業医)が第三者へクリニックを引き継ぐ場合、多くは診療所の「事業譲渡」です。ここでいう譲渡対象は、内装・医療機器・車両・什器備品・(場合により)借家権や営業権(のれん)などの事業用資産です。資産の種類によって課税方法が異なる点が重要です(譲渡所得の対象資産の考え方は国税庁の整理に沿います)。

譲渡所得の計算式(総合課税の譲渡所得)

土地建物や株式等「以外」の資産の譲渡は、原則として総合課税の譲渡所得として整理するのが基本です。計算式の骨格は次のとおりです。

  • 譲渡所得 = 譲渡価額 -(取得費+譲渡費用)-特別控除(年50万円)

さらに、所有期間が5年超なら長期・5年以内なら短期に分かれ、長期は(一定の範囲で)課税対象が2分の1になる取り扱いがあります。売却直前に設備更新をしている場合、帳簿価額(未償却残高)と売却価額の差が想定以上に出ることがあるため、設備一覧と固定資産台帳の整合が欠かせません。

ここがポイント
個人の売却では「売却代金=全部が譲渡所得」ではありません。医療機器・什器の売却益、借家権の有無、営業権(のれん)の扱いなど、内訳によって所得区分や税率が変わります。売買契約書の内訳が、そのまま税務の出発点になります。

医療法人の売却は2ルート|持分ありの譲渡・事業譲渡(持分なしも含む)

医療法人(持分あり)の「出資持分譲渡(実質:株式譲渡に近い)」という考え方

持分の定めのある医療法人(いわゆる持分あり医療法人)は、出資者が法人財産に対する権利を持つため、第三者へ「持分」を譲渡するスキームが検討されます。実務上は、譲渡側(売り手)に譲渡所得が発生し得る、という整理を起点に、譲渡価額と取得費(出資額等)をどう押さえるかが論点になります。

一方で、持分あり医療法人は制度上の制約(行政手続や定款・社員同意、許認可の引継ぎ等)も絡むため、税金だけでなく法務・行政の論点とセットで設計が必要です。

医療法人(持分なし)の売却は「事業譲渡」中心になりやすい

持分の定めのない医療法人(持分なし医療法人)は、出資持分の概念がないため、第三者へ持分を売る発想が取りにくく、実務では事業譲渡(資産・契約・スタッフ等の引継ぎ)や、役員交代・分割等の手法を組み合わせます。持分なしへの移行制度(認定医療法人制度等)も含め、法人の「出口」をどう作るかが重要になります。

ここがポイント
医療法人の売却は、税務だけで完結しません。都道府県等への届出・認可、定款や社員総会決議、診療所の開設者変更手続などが同時進行になります。税務設計は、行政・法務のスケジュールに合わせて逆算するのが安全です。

【比較】個人・医療法人別の課税ポイント早見表

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売却主体/方法売るもの(典型)主な課税の見え方実務の注意点
個人(事業譲渡)医療機器、内装、什器、借家権、のれん等譲渡所得(総合課税)中心。資産ごとに所得区分が割れる価格配分、固定資産台帳、減価償却後残高の確認が核心
医療法人(持分あり:持分譲渡)出資持分(対価は持分価値)売り手は譲渡所得の検討(取得費の整理が重要)評価、社員同意、買い手の資金調達と回収設計
医療法人(持分なし:事業譲渡等)法人の事業(資産・契約等)法人側で譲渡益→法人税等。個人側は役員報酬/退職金等のれん・契約承継、消費税、退職金設計が論点

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節税は「スキーム」と「価格配分」と「出口設計」で決まる

税負担を下げる発想は、単に税率をいじるのではなく、(1)スキーム、(2)価格配分、(3)法人なら出口(報酬・退職金・賃料等)を整えることです。税理士法人 辻総合会計では、クリニック顧問を中心に、承継・売却の相談を長年受けてきましたが、税負担が想定より重くなる原因の多くは「初期の設計不足」にあります。

1) 価格配分(内訳)がそのまま課税の内訳になる

売却対価を「医療機器いくら、内装いくら、のれんいくら」と分けるかで、譲渡所得の計算・消費税の論点・買い手の減価償却(費用化)まで変わります。買い手は償却しやすい資産へ寄せたがり、売り手は税負担が軽い形に寄せたがるため、第三者評価や合理的根拠(台帳・見積・収益力)を用意して交渉するのが現実的です。

2) 医療法人は「退職金」をどう設計するかが効く

医療法人のオーナー院長が売却・承継で退任する場合、役員退職金の設計が出口の要になります。退職金は法人側で損金となり得る一方、個人側は給与とは異なる課税枠組みになり得るため、最終的な手取りに影響が出ます。ただし、金額の妥当性(在任年数、功績倍率、類似法人比較等)と、支給決議・規程整備が必須です。

3) 「持分あり→なし」の整理は早めに検討する

持分あり医療法人は、承継時の評価や出口のねじれが起きやすく、持分の定めのない医療法人への移行制度が論点になることがあります。売却を見据えるなら、移行の可否やメリット・デメリットを、資産規模・後継者有無・売却予定時期から逆算して検討します。

クリニック売却前にやること(税金の見積もり手順)

Step 1: 売却スキームを仮決めする(個人/法人、持分譲渡/事業譲渡)

まず「何を売るか」を決めます。個人なら事業譲渡が中心、医療法人(持分あり)なら持分譲渡の可能性、持分なしなら事業譲渡等が中心、という当たりを付けます。

Step 2: 資産リストと台帳を整える(帳簿価額を確定)

固定資産台帳、減価償却の状況、リース契約、敷金・保証金、借家権の論点、スタッフ雇用契約など、譲渡対象になり得る項目を棚卸しします。ここが曖昧だと譲渡所得の概算すらブレます。

Step 3: 売却対価の「内訳案」を作って税額を試算する

医療機器・内装・什器・のれん・権利金等の配分案を作り、譲渡所得(または法人税等)と消費税の論点を同時に見積もります。買い手の会計処理も踏まえて、合意できる落とし所を探ります。

Step 4: 退職・役員交代・届出のスケジュールを組む

医療法人は行政手続を含めた工程管理が必要です。税務の最適化は「提出期限」より「実行日・決議日」に左右されるため、売却クロージングから逆算して準備します。

よくある質問

Q: クリニック売却益はすべて譲渡所得になりますか? ▼
いいえ。個人の事業譲渡では、売却対象が医療機器・内装・借家権・のれん等に分かれ、資産ごとに所得区分や計算が変わります。売買契約書の内訳(価格配分)を先に作ると、税額の見通しが立ちやすくなります。
Q: 医療法人(持分なし)は「売却できない」と聞きました。本当ですか? ▼
「持分(株式のようなもの)を売る」発想は取りにくい一方、事業譲渡や役員交代等を組み合わせて実質的な承継を行うケースはあります。行政手続・契約承継・税務(法人税/消費税/退職金)をセットで設計する必要があります。
Q: 節税のために、のれん(営業権)を大きくすれば有利ですか? ▼
一概に有利とは言えません。のれんの計上は買い手側の償却メリットになる一方、売り手側の課税や消費税の論点が生じ得ます。合理的根拠のない配分は否認リスクもあるため、収益力や契約関係から説明できる配分が重要です。

まとめ

  • クリニック売却の税金は「何を売るか(資産/持分/事業)」で決まる
  • 個人は事業譲渡が中心で、資産ごとに課税が分かれるため価格配分が核心
  • 医療法人は持分あり・なしで出口が分岐し、持分譲渡か事業譲渡かで税負担が変わる
  • 節税はスキーム選定、内訳作成、退職金・役員交代など出口設計の組合せで行う
  • 早い段階で台帳整備と概算試算を行い、行政・法務スケジュールに合わせて実行する

参照ソース

  • 国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
  • 国税庁「No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3152.htm
  • 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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