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クリニック向けコラム
作成日:2026.01.10
更新日:2025.12.15
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニック承継のメリットと新規開業比較の判断基準|税理士が解説

9分で読めます
クリニック承継のメリットと新規開業比較の判断基準|税理士が解説

クリニック承継とは(定義と代表的な形)

クリニック承継とは、既存の診療所(医院)の事業を引き継ぎ、診療体制・患者基盤・スタッフ・設備などを活用して開業する方法です。新規開業が「ゼロから立ち上げ」だとすると、クリニック承継は「稼働中の仕組みを引き継ぐ」点が本質的に異なります。

承継の形は大きく次の3つです。

  • 親族内承継:家族(子など)に引き継ぐ
  • 従業員承継:勤務医・スタッフ側に引き継ぐ
  • 第三者承継(M&A):外部の医師・法人が引き継ぐ(近年増加傾向)

また、承継対象が「個人の診療所」か「医療法人」かで、契約の組み立て(資産譲渡・事業譲渡・持分/基金など)や税務論点が大きく変わります。入口での整理が重要です。

新規開業との違い(比較表で整理)

比較検討では、費用総額だけでなく「立ち上がりの時間」「見えないリスク」「行政・保険の手続き負荷」を同じ物差しで見ることがポイントです。

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項目クリニック承継新規開業
収益化までの時間既存患者・スタッフを活用でき、早期に立ち上がりやすい集患・採用・運用構築に時間がかかりやすい
投資の中身既存設備・内装を活かせる一方、更新費が後から出やすい初期投資は大きいが、設備は新しく計画しやすい
診療圏・評判診療圏と評判を引き継げる(良くも悪くも)立地・ブランドを一から作る
手続き開設者・管理者変更等に加え、保険指定の申請/届出が論点開設許可・保険指定の新規手続きが中心
リスク見えない負債(未払・契約・労務・施設基準)を抱えやすい需要予測・資金繰り・採用が主リスク
融資・審査実績データが武器になる一方、承継スキーム説明が必要事業計画の説得力が最重要
ここがポイント
承継は「買えばそのまま保険診療が継続できる」と誤解されがちですが、実務では保険医療機関の指定に関する申請・届出(指定申請、届出事項変更等)が論点になります。手続き要否はスキームと地域運用で異なるため、早期に確認してください。

クリニック承継のメリット(なぜ選ばれるのか)

承継の魅力は「既存の稼働資産」を使えることです。特に、次のメリットが意思決定に直結します。

1. 早期の売上・キャッシュフローが見込みやすい

新規開業は集患・運用安定までの赤字期間を織り込みます。一方、承継は患者導線・診療オペレーション・スタッフ体制が整っていれば、黒字化までの距離が短くなります。

2. 立地・診療圏データが意思決定に使える

新規では推計になりやすい診療圏も、承継なら既存の来院動線・患者属性・曜日別来院数などを検証できます。買い手側にとっては、投資判断の精度が上がります。

3. 人材・運用ノウハウの引継ぎで立ち上げ負荷が軽い

採用難の中、スタッフが残る承継は実務上の価値が高いです。受付・会計・レセプト運用など、短期間で再現が難しい業務が「そのまま動く」効果は大きいでしょう。

クリニック承継のデメリットと注意点(失敗パターン)

承継は万能ではありません。むしろ「見えない論点」を放置すると、買った後に痛みが出ます。

1. 契約・未払・クレームなどの“見えない負債”

リース、保守契約、賃貸借、広告、予約システム等は名義・条件の確認が必須です。未払金・返金対応・係争(未顕在の苦情対応)も含め、デューデリジェンス(実態調査)で棚卸しします。

2. 施設基準・算定実務の継続性

診療報酬は、算定要件(施設基準、届出、運用実態)が崩れると返戻・査定の原因になります。承継直後は「人が変わったことで運用が変わる」リスクがあるため、マニュアル化と引継ぎ期間の設計が重要です。

3. 労務(雇用継続・処遇・就業規則)の設計

スタッフが残ることはメリットですが、同時に最大のリスク要因にもなります。雇用契約の承継方法、処遇変更のタイミング、院内文化の摩擦は、収益以上に経営を揺らします。

ここがポイント
承継スキームが「資産(事業)譲渡」か「法人(持分・基金等)の引継ぎ」かで、引き継ぐ範囲(債務・契約・税務)と手続きが変わります。契約書はテンプレ流用せず、医療特有の論点(診療録、個人情報、レセプト、スタッフ)を織り込んでください。

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医院承継の相場はどう決まる?(価格の考え方)

「医院 承継 相場」は最も多い相談ですが、全国一律の定価があるわけではありません。相場観は、次の要素の掛け合わせで形成されます。

相場を左右する主な要因

  • 収益力:売上よりも、実態の営業利益・キャッシュフロー
  • 医師依存度:院長個人の人気に依存していないか(引継ぎ後に落ちるリスク)
  • 患者基盤の質:慢性疾患中心か、季節変動が大きいか
  • 設備・内装の状態:更新投資の必要額(見積もりを取る)
  • 人材:主要スタッフの継続意向、賃金体系の妥当性
  • 契約条件:家賃、更新条件、駐車場、テナント制限
  • 診療報酬の運用:施設基準・算定の安定性

実務で使う価格アプローチ(考え方)

  • 純資産アプローチ:設備等の時価-引継ぐ負債
  • 収益アプローチ:将来利益(キャッシュフロー)を基に評価
  • マーケットアプローチ:近似条件の取引事例を参照

たとえば、年商や患者数だけで判断すると危険です。承継後に利益が残る構造か、そして更新投資を差し引いても成り立つかが核心です。税理士法人 辻総合会計では、会計データだけでなく、設備更新計画・人員計画を織り込んだ「承継後3年の資金繰り」で妥当性を検証することが多いです。

クリニック承継の進め方(手順と届出のポイント)

承継は「契約締結」よりも、その前後の実務設計が成否を分けます。中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、早期着手とステップ型の進め方が重視されています(医療に置き換えて運用するのが有効です)。

Step 1: 承継方針の確定(理想像と条件)

診療科、診療時間、スタッフ体制、希望エリア、想定投資額、引継ぎ期間を言語化します。新規開業との比較軸(時間・投資・リスク)を先に固定します。

Step 2: 情報開示とデューデリジェンス

月次推移、レセプト状況、主要契約、設備台帳、スタッフ構成を受領し、デューデリジェンスで「利益の再現性」と「将来コスト」を確認します。

Step 3: スキーム設計と契約(価格・引継ぎ範囲)

資産譲渡・事業譲渡・法人承継のどれにするかで、税務・法務・労務が変わります。譲渡後のクレーム対応や競業避止、引継ぎ期間中の役割分担まで契約に落とします。

Step 4: 行政・保険の手続き(開設・指定・届出)

地域の運用により必要手続きは異なりますが、少なくとも「開設者・管理者の変更」や「保険医療機関等の指定に関する申請・届出」は早期にスケジュールへ組み込みます。地方厚生(支)局の案内では、名称・開設者・管理者等の変更が生じた場合の届出手続きや、指定申請の締切・指定日(原則翌月1日)等が整理されています。また、2025年3月時点でも申請・届出様式の一部変更が案内されているため、最新様式で準備してください。

Step 5: 統合作業(スタッフ・患者向け告知、運用安定化)

引継ぎ直後の混乱は、患者離れとスタッフ離職に直結します。診療方針の変更は段階的に行い、予約枠・導線・会計・レセプトを優先的に安定化させます。

よくある質問

Q: クリニック承継と新規開業は、結局どちらが有利ですか? ▼

A:

一概には決まりません。早期に売上を立てたい場合は承継が有利になりやすい一方、診療コンセプトを一から設計したい場合や設備投資の自由度を重視する場合は新規開業が適します。比較表の軸(時間・投資・リスク)で優先順位を付けるのが現実的です。
Q: 医院承継の相場は年商で決まりますか? ▼

A:

年商だけでは危険です。実務では、営業利益・キャッシュフローの再現性、更新投資、医師依存度、主要スタッフの継続性などを加味して総合判断します。相場は「数字」より「条件」で動く、と捉えるのが適切です。
Q: 承継したら保険診療は自動的に継続できますか? ▼

A:

自動と決めつけるのは避けてください。スキームと地域運用により、指定申請や届出事項変更等の手続きが必要になります。地方厚生(支)局の案内ページで、指定・変更・廃止等の手続きや様式が整理されていますので、早期に確認し、逆算でスケジュールを組むことが重要です。

まとめ

  • クリニック承継は「稼働中の仕組み」を引き継ぐ開業手段で、新規開業とリスク構造が異なる
  • メリットは早期収益化・診療圏データ・人材/運用の活用、デメリットは見えない負債と運用継続リスク
  • 医院承継の相場は一律ではなく、収益力・医師依存度・更新投資・人材等の条件で大きく変動する
  • 成否は契約前のデューデリジェンスと、行政・保険手続きの段取りで決まる
  • 個別事情で最適解は変わるため、税務・法務・労務を横断して設計する

免責事項 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件に対する税務・法務判断を示すものではありません。必要な手続きや取扱いは地域運用・契約形態・事実関係により異なります。具体的な実行にあたっては、所轄官庁および専門家へご相談ください。


参照ソース

  • 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
  • 厚生労働省(地方厚生局)「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
  • 厚生労働省(地方厚生局)「保険医療機関・保険薬局の届出事項変更の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_todoke_henko.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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