
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック税理士が提案しない原因と対処法|税理士が解説

クリニックの税理士が提案してくれないとは
クリニックの院長にとって「税理士が提案してくれない」とは、多くの場合、月次の試算表や決算・申告は進む一方で、資金繰り・節税・人件費設計・分院展開などの打ち手が出てこない状態を指します。特に開業直後や人員増の局面では、意思決定のスピードに対して会計・税務のフィードバックが遅く感じやすいのではないでしょうか。
結論から言うと、提案が出ない原因は「能力不足」だけではなく、契約範囲と期待値のズレ、情報不足、業務設計(面談設計)の欠如で説明できるケースが大半です。適切に手当てすれば、同じ税理士でも提案が増えることがあります。
税理士が提案しない理由
税理士の業務は「提案」より前に守備範囲がある
国税庁は、税理士業務を「税務代理・税務書類の作成・税務相談」と説明しています。つまり、申告や税務相談は中心領域でも、経営提案(投資判断、KPI設計、採用計画など)は契約や体制次第で濃淡が出ます。
料金体系が「工数連動」だと提案が出にくい
記帳代行と決算申告の報酬が中心の場合、税理士側の時間は「処理」に優先配分されます。提案は、現状分析・仮説検証・シミュレーションが必要で、どうしても追加工数になります。提案は無料サービスでは継続しにくい、という構造を押さえておくと交渉が進みます。
そもそも提案に必要な情報が揃っていない
提案が出るためには、最低限次の材料が必要です。
- レセプト件数・単価・自費比率・新患再来構成
- 人件費内訳(職種別・残業・賞与見込)
- 設備投資の候補、リース・借入条件、院内導線の制約
- 院長の方針(守りか攻めか、分院か専門特化か)
これらが共有されていないと、税理士は「言い切れない」ため、無難に数字説明で終わりがちです。
得意分野が「医療経営」ではない
医療業界は、診療報酬・レセプト・医療法人化・職種別人件費など、一般業種と論点が異なります。厚生労働省も医療法人・医業経営に関する情報を整理しており、医療経営には固有の前提があります。
税理士が医療に明るくない場合、提案は出にくくなります。
提案を引き出す相談方法と面談設計
「提案してください」と言うだけでは、提案は増えません。提案は会議体で設計します。税理士法人 辻総合会計では、提案が止まっている顧問先に対し、次の手順でコミュニケーションを再設計することが多いです。
Step 1: 期待する提案テーマを3つに絞る
例:
- 節税(役員報酬、退職金、消費税、設備投資)
- 資金繰り(借入、リース、キャッシュ予測)
- 経営管理(部門別・自費の見える化、採用判断)
テーマを絞ることで、税理士側も準備ができます。
Step 2: 月次報告を「説明」から「意思決定」へ変える
月次面談のゴールを「先月の数字説明」から「今月決めること」に置き換えます。
事前に「議題」と「判断したい項目」を送るだけで、提案が出やすくなります。
- 例:次の設備投資(◯月導入予定)の資金手当案を3案出してほしい
- 例:スタッフ1名増員の損益分岐点を概算してほしい
Step 3: 必要データを院内で揃える(税理士に丸投げしない)
提案の材料は院内にあります。院長が把握している「現場の変化」を数字に紐づけるだけで提案の精度は上がります。税理士に渡すべきは帳簿だけではない、という点が重要です。
Step 4: 3か月だけ「提案トライアル」を契約に明記する
改善が見えない場合は、3か月限定で「提案テーマ」「提出物」「面談頻度」を合意し、成果を評価します。曖昧な依頼ではなく、成果物の定義が鍵です。
ケーススタディ(匿名)
ある内科クリニックでは「税理士が何も言ってくれない」との不満がありました。しかし、実態は「月次は郵送で試算表が届くだけ」「面談なし」「採用計画や投資計画の共有なし」でした。
月1回のオンライン面談に切替え、議題を「人件費率の許容範囲」と「自費メニュー導入時の損益分岐点」に固定したところ、2か月目から具体策(シフト設計、価格設計、支出タイミング調整)が出るようになりました。提案は会議体で増える典型例です。
記帳代行と経営顧問の違い
提案が欲しいなら、契約の中身を「処理中心」から「意思決定支援」へ寄せる必要があります。
| 項目 | 記帳・申告中心の顧問 | 提案型(経営顧問) |
|---|---|---|
| 目的 | 適正申告・処理の安定 | 収益性・資金繰り改善 |
| 面談 | 必須でないことが多い | 月次または四半期で実施 |
| インプット | 会計資料が中心 | KPI・投資計画・人員計画も共有 |
| アウトプット | 試算表、申告書 | 予実管理、資金繰り表、シミュレーション |
| 費用感 | 比較的低い | 工数増のため上がりやすい |
「提案を増やす」=「作業範囲を増やす」ため、報酬が変わるのは自然です。反対に言えば、報酬を変えずに提案だけ増やす交渉は、長期的には破綻しやすいです。
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どうしても改善しないときの税理士変更手順と注意点
提案が増えない理由が「相性」や「専門性不足」であれば、変更も合理的です。国税庁は、税理士業務(税務代理・書類作成・税務相談)が税理士等の資格者に限られることを注意喚起しています。変更時は、資格者であることの確認も含め、実務的に進めましょう。
Step 1: まずは現税理士に改善要求を文書化する
- 期待する支援(例:四半期の節税提案、資金繰り表作成)
- 面談頻度
- 追加報酬の扱い(必要なら見積依頼)
Step 2: 変更の「タイミング」を決める
- 決算直後〜次の期首は引継ぎが比較的スムーズ
- 消費税の課税判定・簡易課税の届出など、期中判断が多い場合は早めが安全
Step 3: 引継ぎ資料を揃える(トラブル予防)
- 会計データ(仕訳、科目体系、補助科目)
- 申告書控え、届出書控え、税務署からの通知
- 借入契約書、リース一覧、固定資産台帳
よくある質問
Q: 税理士に「もっと提案して」と言うのは失礼ですか?
Q: 提案型の税理士に変えると、費用はどれくらい上がりますか?
Q: 税理士変更で税務調査リスクは上がりますか?
まとめ
- 提案が出ない原因は、能力よりも契約範囲と会議体の設計にあることが多い
- 提案を増やすには、議題の事前提示と院内データ共有が不可欠
- 記帳代行型と経営顧問型は目的・アウトプットが異なり、費用体系も変わりやすい
- 改善しない場合は、期首タイミングでの変更と引継ぎ資料の整備が安全
- 医療業界の論点に強い専門家を選ぶと、意思決定の質が上がりやすい
参照ソース
- 国税庁「税理士制度について(No.9203)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9203.htm
- 国税庁「にせ税理士にご注意(No.9204)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9204.htm
- 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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