
執筆者:辻 勝
会長税理士
【2026年改定】歯科巡回診療加算100点新設!収益とコストを解説

歯科巡回診療の地域歯科医療加算100点が新設|へき地・訪問歯科の新たな収益源と開設コスト
メタディスクリプション
2026年改定で「歯科巡回診療車」を用いた巡回診療に地域歯科医療加算100点が新設。算定要件、対象地域、30%上乗せの仕組み、巡回診療の開設コストと投資回収の考え方を税務・経営目線で整理します。
へき地・離島、あるいは「近くに専門歯科がない」地域で歯科医療をどう確保するか――。2026年改定では、歯科巡回診療車(歯科ユニット等を搭載した車両)で巡回診療を実施した場合に地域歯科医療加算100点を評価する枠組みが示されました。
結論から言うと、これは「訪問歯科(居宅・施設)を延伸する」発想ではなく、地域の歯科医療空白を埋める移動診療所モデルを診療報酬で後押しする制度です。参入可否は、点数よりも「対象地域の定義」「自治体連携」「運用コスト(車両・人員・稼働設計)」で決まります。
本記事では、制度の骨子と、開設コスト・投資対効果(ROI)の見立て方を整理します。
地域歯科医療加算100点とは(2026年改定のポイント)
「歯科巡回診療車」での巡回診療を新評価
改定資料では、歯科医療が十分提供されていない地域等で、地方自治体等と連携して歯科巡回診療車を用いた巡回診療を行う場合に、地域歯科医療加算として100点を所定点数に加算するとされています(初診・再診いずれも同様の扱い)。
さらに処置等は30%上乗せの考え方
同じ資料では、巡回診療時に処置を行った場合に、対象となる処置点数に対して**「所定点数の100分の30(=30%)」相当を加算**する枠組みも示されています。
つまり、入口(初再診)で100点、出口(処置)で30%上乗せという二段構えになり得ます。ここが、単なるへき地加算ではなく、稼働設計(診療内容の組み方)で収益が変わる制度になっている理由です。
算定要件の要点:勝負は「自治体連携」と「計画提出」
資料上の読み取りでは、算定のキーワードは次の3つです。
-
対象が歯科医療の確保が困難な地域等
いわゆるへき地・離島だけでなく、住民の歯科医療確保が難しい、または専門歯科医療機関が身近にない地域の患者を想定しています。 -
地方自治体等と連携していること
連携の具体例として、自治体が設置している保険医療機関が巡回診療車を保有しているケース、都道府県の医療計画等に基づく巡回診療であるケース等が示されています。
ここは実務上、**「誰が主体で、誰の計画に乗るのか」**が重要です。 -
巡回診療実施計画の提出(保険医療機関側)
計画を出した保険医療機関が、歯科医療確保を目的として行う巡回診療を評価するという建付けです。
つまり、開業医が単独で始めるよりも、自治体・地域医療計画・関係機関と一体で制度設計する方が通りやすいタイプの評価です。
参入判断のチェックリスト(失敗しやすい論点)
① 対象地域・対象患者の定義が曖昧なまま動く
「へき地で需要がありそう」だけで車両投資すると、算定できない/稼働日数が確保できないリスクがあります。
まずは、自治体側が把握している「歯科医療アクセス課題(通院困難、専門歯科不在、受診率低下など)」に紐づけて、対象地域・対象者の条件を言語化するのが先です。
② 既存の訪問歯科と混同して収益設計が崩れる
訪問歯科(居宅・施設)と、巡回診療車での移動診療所は、導線もコストも別物です。
巡回は「拠点(車両・電源・滅菌・材料管理)」を持ち歩くため、1日あたりの固定費が重い一方、うまく組めれば初再診100点+処置30%上乗せで単価が上がりやすい面があります。
③ 車両・設備の投資額だけ見て、運転資金(人件費)を軽視する
実務では、車両費よりも「歯科医師・DH・運転/補助・事務」などの稼働人件費がボディブローになります。
特にへき地は移動時間が長く、1日あたりの診療コマが減りやすいので、稼働日数×診療密度×単価の設計が必須です。
開設コストの全体像(ざっくりの費目整理)
歯科巡回診療は、開設時に「設備投資(CAPEX)」と「運用費(OPEX)」が同時に立ち上がります。
初期投資(CAPEX)
- 歯科巡回診療車(車両+内装+歯科ユニット等搭載)
- 発電・電源設備、吸引・コンプレッサー等
- 滅菌・感染対策設備(運用設計により変動)
- IT(レセコン運用、通信、モバイル端末等)
- 保管拠点(車庫、資材置場)が必要ならその整備
月次運用(OPEX)
- 人件費:歯科医師、DH、助手、運転/補助、事務
- 車両維持:燃料、保険、車検、修理、消耗品
- 医療材料費(処置内容に応じて増減)
- 移動コスト(高速、フェリー等)
- 連携コスト:調整会議、地域連携の事務負担
投資対効果(ROI)の考え方:まずは「損益分岐点」を出す
ここからは試算の型です(自院の単価・人件費で置き換えてください)。
ステップ1:1日あたりの提供可能コマを現実的に置く
へき地は移動時間が読めないので、都会の訪問歯科の感覚で「1日20名」は危険です。
まずは保守的に、例として「1日8〜12名」などで設計します。
ステップ2:1人あたり平均点数を「初再診100点+処置30%」込みで組む
巡回診療は、初再診の100点が効きます。さらに処置が乗れば上振れします。
ただし、処置を増やすほど材料費・時間も増えるため、点数が高い=利益が高いではありません。
ステップ3:1稼働日あたり固定費(人件費+車両)を割り戻す
- 月間稼働日:たとえば8日(週2回)なのか、16日(週4回)なのかで全く違います。
- 重要なのは「稼働日が少ないのに車両を買う」パターンを避けること。
車両は稼働しない日もコストを生みます。
ステップ4:自治体連携で稼働の安定を取りに行く
ROIは単価より、実は**稼働の安定(予約・集患・会場確保・広報)**で決まります。
巡回診療は「やれば患者が来る」ではなく、自治体の広報・住民導線・会場(公民館等)・送迎等の設計が成果に直結します。
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
収益機会は「へき地」だけではない:専門歯科不在地域のニーズ
資料上は、住民の歯科医療確保が困難/専門歯科が身近にない地域を想定しています。
これは、離島・山間部だけでなく、都市部でも「特定の専門歯科が不足している」「移動制約が強い」地域課題があれば、自治体・地域計画の枠組みに乗せられる可能性があります。
したがって、参入の第一歩は市場調査よりも、自治体(保健・福祉・地域医療)との政策接続です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 地域歯科医療加算100点は誰でも取れますか?
いいえ。資料上は、歯科医療確保が困難な地域等で、自治体等と連携し、巡回診療実施計画を提出した保険医療機関が、歯科巡回診療車で巡回診療を行う場合を想定しています。まずは地域・連携スキームの設計が必要です。
Q2. 訪問歯科(居宅・施設)と同じ発想で参入して大丈夫?
同じではありません。巡回診療は移動する診療所で、設備・感染対策・材料管理・移動が重くなります。稼働設計を誤ると、単価が上がっても利益が残りません。
Q3. 車両を買わずに始められますか?
制度上は「歯科巡回診療車を用いる」ことが前提に置かれています。自治体が車両を保有するケース等も示されているため、単独購入だけが解ではありません。自治体・関係機関との役割分担で検討してください。
Q4. 30%上乗せは何にかかるの?
資料では、巡回診療時に処置を行った場合に、当該処置の所定点数の一定割合(100分の30)を加算する考え方が示されています。対象となる処置や例外は、最終的には告示・点数表・通知で確認が必要です。
まとめ:成功条件は「点数」ではなく「地域設計×稼働設計」
地域歯科医療加算100点の新設は、歯科巡回診療を地域のインフラとして位置づける強いメッセージです。
ただし、車両投資は固定費が重く、参入判断は「算定要件を満たせるか」だけでなく、自治体連携による稼働の安定、そして1日あたりの診療密度設計で決まります。
もし検討を進めるなら、次の順番がおすすめです。
- 自治体・地域医療計画との接続(対象地域・対象者の定義)
- 稼働モデル(週何日、何会場、予約導線)
- 車両の保有形態(自院購入/自治体保有/共同運用)
- 損益分岐点(保守的な患者数で黒字化できるか)
参考文献(一次情報)
- 厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第647回)議事次第(資料:総-1 個別改定項目について)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70414.html - 厚生労働省:総-1 個別改定項目について(PDF)
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。