
執筆者:辻 勝
会長税理士
入院料引上げ2026一覧と経営影響|税理士が解説

入院料引上げ2026とは:結論(有床は「増収=黒字化」とは限らない)
2026年改定の入院料引上げは、点数上はプラスでも、稼働率・在院日数・人件費/食材費/光熱費次第で「利益が残るか」が決まります。特に有床診療所や中小病院は、病床稼働が読みにくく、増点分がそのまま増益になりにくい構造です。
本記事では、改定前後の点数差を一覧化したうえで、「自院の病床数・稼働率」を当てはめて増収額を試算し、物価上昇と相殺されないかを税理士視点で検証します。
入院料引上げ一覧(改定前後・増点・増加率ランキング)
以下は、厚労省公表資料(中医協資料)で示されている入院料の例です。まずは「最大の引上げがどれか」を把握し、次に「自院が算定している入院料がどれか」を確認してください。
| ランク | 入院料区分 | 改定前 | 改定後 | 増点 | 増加率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 急性期一般入院料1 | 1,688点 | 1,874点 | +186点 | +11.0% |
| 2 | 急性期一般入院料2 | 1,644点 | 1,779点 | +135点 | +8.2% |
| 3 | 地域一般入院料1 | 1,176点 | 1,290点 | +114点 | +9.7% |
| 4 | 特別入院基本料 | 612点 | 704点 | +92点 | +15.0% |
「最大186点アップ」は誰が恩恵を受けるのか(急性期一般入院料1の条件)
急性期一般入院料1の+186点はインパクトが大きい一方、重要なのは「自院がその区分を算定でき続けるか」です。急性期上位区分は、一般に看護配置や重症度等の要件が絡みます。
したがって、点数アップの恩恵を受けるためのチェックは次の順序が合理的です。
- 自院の入院料区分(1/2/地域一般/特別/有床診療所入院基本料 等)を特定
- 施設基準(看護要員、届出、実績要件)を満たしているか、改定後も満たせるかを確認
- 満たせない場合に「どの区分へ落ちるか」を先に見積もる(ここが損益分岐点の核心)
増収はどう計算する?(1点=10円で日次・月次に落とす)
入院料は「1日あたり点数×算定日数」で売上が決まります。増点分の増収は、次の式で機械的に出せます。
- 増収(円)= 増点(点)×10円×算定日数×(算定対象の患者数または稼働病床数)
有床診療所・中小病院向けに、現場で使える形に落とすと以下です。
ケース試算:19床の有床診療所(稼働率70%)で「+114点」だった場合
- 稼働病床数(平均)=19床×70%=13.3床
- 1日あたり増収=114点×10円×13.3床=約15,162円/日
- 月30日換算=約454,860円/月
- 年換算=約5,458,320円/年
同じ稼働率でも、増点が+186点なら増収は約1.63倍、+92点なら約0.81倍、と直感的に比較できます。ここで稼働率を保てない月が続くと、増点メリットは急速に薄れます。
重要:入院料アップは「医業利益」ではなく「粗利」アップ
増収がそのまま利益になるわけではありません。入院は外来よりも変動費(食材、リネン、委託費等)が出やすく、さらに人件費比率が高い場合、増収が賃上げ・採用コストに吸収されます。
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物価上昇で相殺されないか:比較のしかた(CPIをものさしにする)
「物件費が上がっているので入院料を引き上げる」という文脈の改定では、少なくとも物価上昇と比べて増点が足りるかを確認したいところです。
総務省統計局のCPI(全国、2025年12月公表)では、総合指数の前年同月比は2.1%、生鮮食品を除く総合は2.4%と示されています(物価は概ね2%台の上昇局面)。この水準を「最低限の比較軸」にします。
ただし医療機関は、電気・ガス、給食/食材、委託費など、CPIの平均より振れやすい費目が多い点に注意が必要です。
実務での比較手順(おすすめ)
Step 1: 入院部門の増収見込みを月次で出す
上の式で、入院料増点分の月次増収を算出(稼働率は直近6か月平均を推奨)。
Step 2: 入院部門の物件費増を月次で出す
光熱費・給食材料費・委託費などを「前年同月比」で比較し、増加額(円)を集計。
Step 3: 差し引きで黒字化しているかを見る
(入院料増収)-(物件費増)-(追加人件費)=プラスなら増点が効いている状態です。
税理士視点:損益分岐点の見方(「追加で何床・何日必要か」)
最後に、経営判断に直結する損益分岐点の置き方です。考え方はシンプルで、「増点で増えた粗利」で、増えたコストを回収できるかを見ます。
- 必要稼働日数(床日)=(増加コスト月額)÷(増点×10円)
たとえば、物件費+人件費で月40万円コスト増、増点が+114点の場合、
- 1床日あたりの増収=114×10=1,140円
- 必要床日=400,000÷1,140≒351床日
- 19床換算の稼働率に直すと、351÷30日≒11.7床 → 11.7/19≒61.6%
つまり「稼働率が6割を切ると増点効果が消えやすい」といった、現場に刺さるKPIに落とし込めます。ここまで落とせば、院内での意思決定(採用・委託見直し・病床運用)につながります。
よくある質問
Q: 入院料が上がれば、有床診療所は基本的に増益ですか?
Q: 急性期一般入院料1の+186点は最大ですが、注意点は?
Q: 物価上昇との対比は、どの指標を使うべきですか?
まとめ
- 入院料引上げは点数上プラスでも、稼働率とコスト増で増益にならないことがある
- 改定前後の点数差は「増点×10円×床日」で月次・年次の増収に落とし込む
- 急性期上位区分は施設基準維持が前提で、区分ダウンが最大の減収リスク
- 物価上昇の比較はCPIを軸にしつつ、光熱費・食材・委託費は院内実績で検証する
- 損益分岐点は「追加コスト÷(増点×10円)」で必要床日・必要稼働率に変換すると意思決定が早い
参照ソース
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(資料掲載ページ)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html
- 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)全国:最新の月次結果の概要・統計表」: https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html
- 経済産業省 資源エネルギー庁「電気料金の変化(エネルギーの今を知る)」: https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2024/03.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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