
執筆者:辻 勝
会長税理士
院内処方の逆ざや問題2026|税理士が解説

院内処方の逆ざや問題2026とは
院内処方の「逆ざや」とは、医薬品の仕入価格が、保険請求できる薬剤料(薬価ベース)を上回り、処方すればするほど粗利が削られる状態です。とくに2026年は、例年どおり薬価が4月に改定され、診療報酬本体(技術料・各種算定要件)が6月施行となる運用が続く場合、4〜5月に経営上のひずみが出やすくなります(本体の施行月は公表資料・告示で最終確認が必要です)。
開業準備中の先生や、院内処方を継続している先生にとっての問題は明確で、「在庫を厚く持つほど、改定直後に損失が表面化しやすい」点です。逆ざやは医療の質とは別軸で起きるため、事前の設計と運用ルールで被害額を抑えることができます。
逆ざやが起きる仕組み(薬価改定4月×本体改定6月のズレ)
薬価改定で「請求単価」が先に下がる
院内処方の薬剤料は、原則として薬価(公定価格)を基礎に算定します。薬価が改定されると、改定後は請求側の単価が下がります。一方で現場では、改定前に仕入れた在庫(高い仕入単価)が残っていたり、卸の条件改定・値引き反映が遅れたりすると、仕入>薬価の局面が出やすくなります。
4〜5月に「在庫評価差」と「現金流出」が集中する
逆ざやは会計的には粗利低下ですが、資金繰りでは「現金の出入り」で痛みが先に出ます。
- 改定前:在庫を多く持つほど、改定後に高単価在庫を消化する期間が長くなる
- 改定後:請求単価が下がるのに、仕入支払は従来条件のまま、または値引き交渉が未決着
- その結果:4〜5月の月次利益が落ち、資金繰りが読みにくくなる
診療報酬本体改定で「技術料・要件」が後から変わる
本体改定では、外来の評価体系(管理料、加算、算定要件、生活習慣病管理の枠組み等)や、医療DX関連の要件・届出・施設基準などが見直されます。ここで収益構造が変化しても、薬価改定で落ちた薬剤粗利を必ず補填できるとは限りません。したがって、院内処方の逆ざや対策は「本体改定の内容待ち」ではなく、薬価改定前に打つのが基本です。
院内処方と院外処方の比較(経営リスクの見える化)
院内処方か院外処方かは、収益だけでなく、業務負荷・患者導線・在庫リスクを含めた意思決定になります。最低限、次の比較軸で整理しておくとブレません。
| 項目 | 院内処方 | 院外処方 |
|---|---|---|
| 収益構造 | 薬剤料の粗利+処方関連の点数 | 処方箋料中心(薬剤粗利なし) |
| 逆ざやリスク | 高い(薬価改定・卸条件・在庫で発生) | 低い(在庫を持たない) |
| キャッシュフロー | 仕入支払が先行しやすい | 仕入がない分、安定しやすい |
| 運用負荷 | 発注・棚卸・欠品対応・期限管理 | 薬局連携・疑義照会対応 |
| 患者利便性 | ワンストップだが待ち時間が延びる場合 | 薬局移動が発生する |
院内処方は「便利さ」を武器にできますが、在庫を持つこと自体が経営リスクになります。特に開業初期は患者数のブレが大きく、在庫回転が読みにくいため、逆ざや対策の優先度は上がります。
損をしないための実務対策(開業医向け)
ここからは「何を、いつ、どの粒度で」やるかを、実務の順番で整理します。
対策の全体像(時期別)
Step 1: 2〜3月(改定前)に在庫を絞り、品目を棚卸しする
- 回転が遅い薬、単価が高い薬、規格が多い薬は「持たない」方針を検討
- 院内で本当に必要な品目だけに絞り、品目数そのものを減らす
- まとめ買いは原則禁止(例外は、改定影響が軽微で回転が速い品目のみ)
Step 2: 4〜5月(改定直後)は「日次〜週次」で粗利を監視する
- 主要品目(上位20〜30)だけでも、薬価・仕入単価・処方数量を突合
- 逆ざやが出た品目は、代替(後発品・規格変更・院外化)を即時検討
- 卸と条件交渉(値引き・リベート・返品可否・納入頻度)を早期に行う
Step 3: 6月以降(本体改定後)は院内処方の「継続可否」を再評価する
- 技術料や加算の変化、スタッフ配置、DX要件の負荷を踏まえ、院内の優先度を再設計
- 患者満足(待ち時間・導線)と収益性のバランスを再確認
逆ざやを減らす「在庫・発注」ルール
- 発注頻度を上げ、在庫日数を短くする(目標:2〜4週間程度から検討)
- 高額薬・特殊包装は原則「必要時取り寄せ」に寄せる
- 期限切れ・不動在庫は、会計上も損失化しやすいので、月次で除却判断を行う
「品目設計」で逆ざやを起こしにくくする
院内処方で利益が残りやすいのは、「回転が速い」「規格が少ない」「代替が利く」領域です。逆に、以下は逆ざやを起こしやすい典型です。
- 高額で患者数が読めない薬
- 包装単位が大きく、残薬・不動在庫が出やすい薬
- 規格が多く、在庫が分散しやすい薬
この領域は、院外化(処方箋発行)を混ぜるだけでも、損失の上限を下げられます。
卸との交渉ポイント(仕入>薬価を放置しない)
院内処方の逆ざやは、「薬価差が縮む」局面で顕在化しやすい一方、卸条件で改善できる余地もあります。
- 改定直後の値引き再設定(主要品目の実勢単価の確認)
- 返品・交換の取り扱い(未開封・期限・ロット条件)
- 納入頻度・小口対応(在庫圧縮と引き換え)
- 代替品提案(同効薬・後発品の供給安定性も含む)
税理士の実務:月次で「品目別粗利」を作ると判断が速い
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、クリニックの月次支援で「薬剤の粗利が落ちているのに、全体PLでは気づきにくい」ケースを頻繁に見ます。院内処方は、診療収入全体の中で薬剤比率がそれほど大きくない場合でも、4〜5月だけ利益が急落することがあります。
最低限、次の3点を月次で押さえると、逆ざやの早期発見につながります。
- 薬剤売上(薬剤料相当)の推移
- 医薬品仕入の推移
- 主要品目の「仕入単価>薬価」有無(赤字品目リスト)
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
ケースで理解する:4〜5月に損が出るパターン
たとえば、改定前に高単価で仕入れた薬が棚に残り、改定後に薬価が下がると、同じ処方量でも粗利が圧縮されます。さらに、卸の値引きが追いつかないと、数週間〜数か月にわたり逆ざやが継続します。
このときの打ち手は「処方を増やす」ではなく、(1)在庫圧縮、(2)赤字品目の代替、(3)院外化の部分導入、(4)卸条件の見直しです。逆ざやは放置すると自然に解消することもありますが、その間の損失は回収できません。
よくある質問
Q: 2026年の診療報酬本体改定が6月施行か、4月施行かで対策は変わりますか?
Q: 院内処方を続けたいのですが、最低限どこまでやれば安全ですか?
Q: 逆ざやで出た損失は税務上どう扱われますか?
まとめ
- 院内処方の逆ざやは、仕入価格が薬価を上回ることで発生し、4〜5月に損失が出やすい
- 薬価改定前(2〜3月)に在庫圧縮と品目削減を行うと、損失の上限を小さくできる
- 改定直後(4〜5月)は主要品目の粗利を週次で監視し、赤字品目は代替・院外化を即判断する
- 卸条件(値引き・返品・納入頻度)を早期に再交渉し、仕入>薬価の状態を放置しない
- 本体改定の内容を待つより、在庫と品目設計で先に守るのが実務的
参照ソース
- 厚生労働省「診療報酬関連情報(診療報酬改定・薬価改定)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_21053.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省(中医協資料)「令和8年度薬価改定(資料)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001603463.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。