
執筆者:辻 勝
会長税理士
院内処方・院外処方の選択2026|収益比較を税理士が解説

院内処方と院外処方のどちらが収益上有利かは、「薬剤差益(仕入と保険請求の差)を取りに行くか」かつ「そのための人員・設備・在庫リスクを許容できるか」で決まります。2026年は薬価が2026年4月、診療報酬本体が2026年6月施行のため、開業初年度は薬価→本体の順で採算が動く点を前提に判断する必要があります(薬価は4月、診療報酬は6月施行)。
本稿は、開業準備中の先生が「どちらが得か」を短時間で判定できるよう、収益ドライバーを分解し、実務上の落とし穴まで含めて税理士目線で整理します(税理士法人 辻総合会計/医科30年以上の支援実務を前提に一般化して解説します)。
2026改定(薬価4月・本体6月)が院内/院外に与える影響
2026年は「2段階施行」が前提
2026年改定では、薬価は2026年4月施行、診療報酬(本体)は2026年6月施行という段差が生じます。したがって、4〜5月は「薬価改定後の薬剤点数」で動き、6月以降は「改定後の診療報酬体系(処方・投薬・外来の評価)」も反映される設計になります。
院内処方の収益は、薬価(薬剤点数)と仕入価格のギャップに強く依存します。一方、院外処方は薬剤差益を取らない代わりに、処方箋料(院外処方の対価)と診療の回転・診療単価の設計で勝負します。
改定方針として「調剤報酬の適正化」が明示
2026改定の資料では、後発医薬品への置換え、調剤報酬の適正化、長期処方・リフィル処方の取組強化などが掲げられています。院外処方は薬局側の報酬最適化の影響(門前集中の評価、後発品、長期処方対応など)を受けますが、診療所側は主に「処方箋料・外来運用」として影響が出ます。
院内処方と院外処方の収益構造の違い
院内処方の収益=薬剤差益 −(人件費+ロス+設備/運用)
院内処方は、薬剤を診療所が仕入れて患者に交付し、保険請求(投薬・調剤に関する点数)を行います。ここで重要なのは、収益の源泉が薬剤差益(請求単価と仕入単価の差)になりやすい点です。
一方で、薬剤師・事務のオペレーション、監査対応、棚卸、期限切れ、薬剤の欠品対応、分包機等の設備、保管スペースなど、固定費と運用負荷が発生します。規模が小さいと固定費比率が上がり、差益が吸収されやすいのが典型です。
院外処方の収益=処方箋料+診療効率(回転)+患者体験
院外処方は、診療所が処方箋を交付し、薬局が調剤・服薬指導を行います。診療所側は薬剤差益を得ませんが、在庫・ロス・薬剤管理の固定費を持ちません。
経営上の武器は、(1)処方箋料等、(2)患者導線の改善による診療効率、(3)薬局との連携(疑義照会・処方提案・後発品)による医療の質、に移ります。特に開業直後は、スタッフが少ない体制で回すケースが多いため、院外はオペレーションを軽くしやすい利点があります。
【比較表】開業時の判断軸(収益・リスク・運用)一覧
| 比較項目 | 院内処方(院内調剤) | 院外処方(処方箋) |
|---|---|---|
| 主な収益ドライバー | 薬剤差益+投薬/調剤の点数 | 処方箋料+外来運用(回転・単価) |
| 2026年2段階施行の影響 | 4月の薬価改定で薬剤点数が先に動く。在庫の持ち方で粗利がブレる | 6月の本体改定の影響が主(処方箋料等)。薬価は薬局側に影響 |
| 固定費 | 薬剤師/補助、設備、保管、在庫資金 | 相対的に軽い(薬剤在庫なし) |
| 業務負荷 | 高い(在庫・監査・欠品・期限管理) | 中(疑義照会、薬局連携、説明) |
| 患者利便性 | 院内完結で強い(高齢者・小児で支持) | 薬局待ちが発生。ただし連携で改善可能 |
| リスク | 期限切れ・廃棄、薬価改定差損、欠品 | 薬局混雑・門前依存・患者離脱リスク |
| 向きやすい診療科/患者層(一般論) | 慢性疾患・定期処方が多い、近隣薬局が少ない地域 | 生活導線に薬局が多い都市部、スタッフ少人数で運営したい |
収益比較の考え方(院内処方 収益/院外処方 どちらが得)
ここからは「どちらが得か」を、数字の作り方として示します。点数や薬価は改定で動くため、個別の点数を断定せず、開業計画に落とし込める式として説明します。
院内処方の採算ライン(粗利)を式で把握する
院内処方の月次粗利は概ね次で評価します。
- 院内処方粗利 =(薬剤・投薬関連の保険請求額)−(薬剤仕入額)−(廃棄・棚卸差異)
- 院内処方営業利益 = 院内処方粗利 −(薬剤師/補助人件費+設備費+監査/事務コスト)
ここで最もブレるのが「請求額と仕入額のタイミング」です。2026年は4月に薬価が先に変わるため、3月以前に仕入れた在庫を4月以降に請求すると、差益が縮む(または差損)可能性があります。
院外処方は「処方箋料+回転」で勝つ設計
院外処方の収益は次の考え方です。
- 院外処方の上乗せ =(処方箋料等)
- 追加利益の源泉 =(薬局業務が外出しされることで診療オペレーションが軽くなり、診療回転や予約枠が増える効果)
院外は薬剤差益がないため、処方日数が長期化しても診療所の収益が比例して伸びるわけではありません。その代わり、スタッフ配置が軽くなり、受付〜会計の詰まりが減るなら、外来の受入を増やしやすい利点があります。
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開業時の最適判断ステップ(薬価改定・診療報酬を織り込む)
Step 1: 患者像と処方構成を仮置きする
開業予定地・診療科・想定患者層から、「慢性定期処方の割合」「急性期(少量処方)の割合」「小児/高齢者比率」を仮置きします。処方日数が長いほど院内は在庫が重くなりやすく、欠品・期限管理も難化します。
Step 2: 院内で出す薬の範囲を決める(ハイブリッドも可)
全品目を院内にせず、頻出薬・少品目に絞る運用も現実的です。よくある設計は「急性期は院内(当日完結)、慢性は院外(長期・リフィル含む)」の分け方です。これにより患者満足と在庫リスクのバランスを取りやすくなります。
Step 3: 2026年の2段階施行を月次で試算する
4〜5月(薬価改定のみ反映)と、6月以降(本体改定も反映)で、収支表を分けます。とくに院内は「期首在庫の評価」と「改定後の請求単価」を切り分けて粗利を確認します。
Step 4: 人員・設備の固定費に対する損益分岐点を出す
院内処方は薬剤師配置の有無で固定費が段違いです。月間処方件数・薬剤点数の分布を前提に、固定費を吸収できるかを確認します。
Step 5: 地域の薬局環境(待ち・連携)を確認する
院外を選ぶなら、患者導線上の薬局(徒歩圏・駐車場)と混雑状況、疑義照会の対応速度、後発品の供給状況を確認します。院外は連携品質が患者体験と再来率に直結します。
よくある質問
Q: 院内処方は2026年の薬価改定で不利になりますか?
Q: 院外処方だと患者が離れませんか?(どちらが得か以前に心配です)
Q: 院内処方にする場合、薬剤師は必須ですか?
Q: 収益比較の試算は、どのデータがあれば精度が上がりますか?
まとめ
- 収益の本質は、院内は薬剤差益、院外は処方箋料+診療生産性の設計にある
- 2026年は薬価が4月、診療報酬本体が6月施行のため、開業初年度は月次で収支がブレやすい
- 院内は在庫・期限・欠品・監査対応が固定費化しやすく、小規模ほど不利になりがち
- 院外は薬局連携と患者導線が品質の要で、都市部・少人数運営と相性が良い
- 「急性期は院内、慢性は院外」などハイブリッド設計で、利便性とリスクの両立が可能
参照ソース
- 厚生労働省「診療報酬改定について(令和8年度/令和7年12月24日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001620952.pdf
- 厚生労働省「診療報酬関連情報」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_21053.html
- 厚生労働省「(令和6年8月審査分)II 薬剤の使用状況(院内処方・院外処方別の分析)」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa24/dl/yakuzai.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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