
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療DX加算は元が取れる?導入費と収入を税理士が試算

結論:加算収入だけで「投資回収」を狙うのは難しい。回収軸は補助+業務効率+リスク低減
医療DX加算(医療DX推進体制整備加算等)は、電子処方箋やオンライン資格確認(マイナ保険証)を前提に、情報取得・活用体制を評価する仕組みです。一方で、加算は「点数×患者数」で上限が決まり、設備投資(端末・改修・保守)を加算収入だけで回収する設計ではないケースが多いのが実態です。
税理士法人 辻総合会計でも、導入判断の相談は「加算で何年で回収?」より、補助金を含めた実質負担と、受付・請求・処方周りの工数削減、返戻・算定漏れリスクの低減まで含めて評価することがほとんどです。
医療DX加算とは:何が評価され、いつ・いくら増えるのか
医療DX推進体制整備加算のポイント(例:初診時の月1回加算)
中医協資料では、オンライン資格確認で取得した情報の閲覧・活用体制に加え、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスへの対応などを含む体制を評価する加算が示されています(医科の例:月1回・初診時に8点)。
施設基準(例)として、オンライン請求、オンライン資格確認、診療情報の閲覧・活用体制、電子処方箋体制、電子カルテ情報共有サービス体制、掲示・Web掲載等が挙げられています。
出典:中医協資料「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて」より(点数・要件の例示)。
- 医療DX推進体制整備加算(医科):(新)8点(初診、月1回)
- ほかに歯科・調剤向けの点数も示されています
※点数・要件は告示・通知で最終確定します。直近の中医協資料ベースで把握し、最終版で再確認してください。
電子処方箋・マイナ保険証対応が「要件」になりやすい理由
電子処方箋は、複数医療機関・薬局の直近の処方・調剤情報の参照や、重複投薬等チェックの基盤になります。制度側は、こうした情報連携の使える状態を広げる目的で導入を後押ししています。
またオンライン資格確認は、薬剤情報や健診情報等の取得を通じ、診療の質向上を評価する流れと一体です。
導入コストの内訳:何にいくらかかるのか(見積もりでブレるポイント)
ここでは、院内でよく発生するコスト項目を「初期」「月額」に分けて整理します。金額はベンダー・既存システム構成・回線・院内端末数で大きく変動します。
- 初期(例)
- オンライン資格確認対応(回線・ルータ・端末周りの整備、設定作業等)
- 顔認証付きカードリーダー(調達は支援策の対象になることがあります)
- レセコン/電子カルテの改修(電子処方箋連携、運用設定)
- 電子処方箋の導入作業(申請・設定・テスト)
- 月額(例)
- 保守・サポート費、クラウド利用料、回線費
- 電子処方箋関連の運用費(契約形態による)
オンライン資格確認の導入は医療情報化支援基金による支援が用意され、厚労省サイトから導入ステップや支援の案内にアクセスできます。電子処方箋も総合ポータルで申請や補助の案内がされています。
加算収入で回収できるか:計算式と患者数別シミュレーション
まず計算式:点数×10円×算定回数(概算)
診療報酬は1点=10円(医療機関の収入は請求・負担割合等で実務上の差はありますが、ここでは概算として10円換算)として、回収計算の骨格は次の通りです。
- 月間加算収入(概算)= 点数 × 10円 × 月間算定回数
- 年間加算収入(概算)= 月間加算収入 × 12
医療DX推進体制整備加算(医科の例:8点、初診・月1回)を、月間の初診数に当てはめると次のイメージです。
患者数別:医療DX推進体制整備加算(8点)だけで見た年間収入
| 月間初診数(人) | 月間算定回数(回) | 月間収入(8点×10円) | 年間収入 |
|---|---|---|---|
| 100 | 100 | 8,000円 | 96,000円 |
| 300 | 300 | 24,000円 | 288,000円 |
| 600 | 600 | 48,000円 | 576,000円 |
| 1,000 | 1,000 | 80,000円 | 960,000円 |
この表の通り、8点の加算は「患者数が多いほど効く」ものの、設備投資・保守を単独で回収するには弱い設計になりやすいです。つまり、回収の主戦場は加算以外(補助・工数削減・返戻減・患者体験)に置く必要があります。
「採算が合う」ラインの考え方:3つの回収ドライバーで組み立てる
加算収入だけで不足する部分を、次の3つで埋めます。
| 回収ドライバー | 具体例 | お金の出方 |
|---|---|---|
| 補助(実質負担の圧縮) | オンライン資格確認・電子処方箋の支援策活用 | 初期費用が下がる |
| 工数削減(人件費の間接回収) | 受付確認、薬剤情報確認、問合せ対応の短縮 | 月次で効く |
| リスク低減(返戻・監査・クレーム) | 資格確認ミス減、重複投薬チェック強化 | 不定期だが大きい |
税務・会計の現場感では、「月額保守が増えた分を、受付・請求の手戻り削減で相殺できるか」を最初に見ます。次に、補助で初期投資がどこまで下がるか、最後に患者数(初診数)に応じて加算がどこまで上乗せできるか、という順番です。
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電子処方箋の導入コストをどう見積もるべきか:落とし穴と実務チェック
電子処方箋は導入自体より、院内の運用設計(誰が、いつ、何を確認するか)でコストが決まります。厚労省は電子処方箋の意義として、直近の薬剤情報参照や重複投薬等チェックを挙げていますが、現場で「見られるが見ない」運用だと投資効果が出ません。
- 受付:マイナ保険証の利用案内、同意取得フロー
- 診察:薬剤情報・健診情報等の確認タイミング
- 処方:重複投薬・相互作用の確認プロセス
- 会計:加算算定の条件充足と算定漏れ防止
導入したのに使っていない状態が最も高コストです。ROIはシステム費より、運用の定着で決まります。
導入判断の手順:税理士が使う「採算検証」テンプレ
Step 1: まず要件を満たすための追加投資を棚卸しする
既にオンライン資格確認・レセコン改修が終わっているかで、追加投資は大きく変わります。新規に必要なものだけをリスト化します。
Step 2: 3年累計の支出を出す(初期+月額×36)
初期費用が小さく見えても、月額保守が上がると3年で逆転します。見積は必ず36か月で比較します。
Step 3: 3年累計の収入・効果を3本立てで置く
- 加算:点数×10円×算定回数×36
- 補助:採択見込み(要件・期限)を確認して控えめに
- 工数削減:受付・請求の削減時間×人件費単価×月回数
Step 4: 最悪ケースでも赤字が許容できるかを確認
補助が間に合わない、算定が想定より少ない、運用が定着しない。こうしたケースでも資金繰りに耐えるかが最後の判断軸です。
よくある質問
Q: 医療DX加算は2026年改定で大きく増える可能性はありますか?
Q: 電子処方箋は導入しただけで医療DX加算が取れますか?
Q: 患者数が少ない小規模クリニックは導入しない方がいいですか?
Q: 導入後に注意すべき税務・会計処理はありますか?
まとめ
- 医療DX加算は、オンライン資格確認・電子処方箋等を「活用できる体制」を評価する設計で、運用要件まで含む
- 8点(初診・月1回)のような加算は、患者数次第ではあるが、加算単独で投資回収するのは難しいことが多い
- 回収は「補助+業務効率+返戻等のリスク低減」の3本立てで組み立てるのが現実的
- 見積比較は初期だけでなく、3年累計(初期+月額×36)で判断する
- 最終点数・要件は告示・通知で確定するため、導入判断は最新資料でアップデートする
参照ソース
- 厚生労働省(中医協資料)「医療DX推進体制整備加算等の要件の見直しについて(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001521280.pdf
- 厚生労働省「電子処方箋」: https://www.mhlw.go.jp/stf/denshishohousen.html
- 厚生労働省「オンライン資格確認について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08280.html
- デジタル庁「電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード」: https://www.digital.go.jp/resources/govdashboard/electronic-prescription
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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