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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.27
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

介護の社会保険適用拡大2026年|税理士が解説

9分で読めます
介護の社会保険適用拡大2026年|税理士が解説

介護の社会保険適用拡大2026年で何が変わる?

介護事業所の社会保険適用拡大(短時間労働者の加入拡大)で最も影響が大きいのは、2026年10月に賃金要件(いわゆる年収106万円の壁)が撤廃予定という点です。これにより、訪問介護ヘルパーなど短時間勤務の方でも「週20時間以上」働くケースでは、加入判定がシンプルになります。

一方で、事業所側は「保険料の事業主負担(原則、労使折半)」が増える可能性があり、特にパート比率が高い訪問介護は、人件費計画の見直しが重要になります。

本記事では、介護事業所(訪問介護)で起きやすい「短時間勤務の増加」「就業調整」「人件費上振れ」を前提に、制度のポイントと実務対応を整理します。

介護ヘルパーの社会保険加入要件(2026年10月予定を中心に)

現行(加入判定でよく使われる4要件)

短時間労働者が社会保険(健康保険・厚生年金)に加入するには、代表的には次の要件を満たすかが判断軸になります。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上(賃金要件)
  • 勤め先が一定規模以上(企業規模要件)
  • 学生ではない

訪問介護はシフトの組み方次第で「週20時間」を跨ぎやすく、また時給が上がるほど月額8.8万円(年収換算で約106万円)も超えやすいという特徴があります。

2026年10月予定:賃金要件(106万円の壁)が撤廃

厚生労働省の資料では、最低賃金の上昇を背景に、賃金要件(年収106万円の壁)は2026年10月に撤廃予定と整理されています。すると実務上、加入判定は「週20時間以上かどうか」がより中心になります。

企業規模要件はすぐにはゼロにならない(段階的に縮小)

企業規模要件は、今すぐ全面撤廃ではなく、段階的に縮小される方針です(従業員数の要件が段階的に下がる)。そのため、従業員規模が小さい訪問介護事業所では「2026年10月に全員が自動で加入対象になる」とは限りません。

ただし、企業規模要件を満たさない事業所でも、一定の同意等により任意で加入できる仕組みがあり、2026年10月以降は任意加入の場面で支援策(保険料調整)が使える整理もあります。

ここがポイント
介護事業所はパート比率が高く、1人あたりの加入判断が売上・人件費・採用に直結します。制度の「いつ」「誰が」対象になるかは、事業所規模とシフト(週20時間)で結論が変わるため、名簿作成とシミュレーションを先に行うのが安全です。

訪問介護パートの社保:短時間勤務への具体的な影響

影響1:週20時間ラインが「最重要の判定軸」になる

賃金要件が撤廃されると、現場感覚としては「時給を上げたら社保になる」というより、週20時間を超えるかどうかが最重要になります。訪問介護は利用者都合で繁閑差が出やすく、月単位で20時間を超える月が発生しやすい点に注意が必要です。

影響2:「就業調整」の論点が106万円から20時間へ移る

従来は「106万円を超えないように」という調整が多かった一方で、2026年10月以降は「週20時間を超えないように」に焦点が移る可能性があります。結果として、

  • 週19時間台に抑えたいスタッフが増える
  • 一部スタッフの稼働が抑制され、シフトの穴を埋めるために採用が必要になる
  • 逆に、加入前提で稼働を増やし、定着・人材確保を狙う

といった経営判断がより明確に求められます。

影響3:事業所の人件費は「事業主負担」が増える

社会保険は原則として労使折半です。加入者が増えるほど、事業所負担も増えます。訪問介護は人件費比率が高い業態のため、利益が出ていてもキャッシュフローが急に苦しくなるケースがあります。

介護事業所の人件費はどれくらい増える?(考え方と試算の枠組み)

増加額はスタッフの標準報酬月額(概ね月給)に左右されるため一律ではありませんが、経営管理上は次の2ステップで考えると整理しやすいです。

Step 1: 「加入者が増える人数」を確定する

  • 週20時間以上の短時間スタッフを抽出
  • 学生除外
  • 企業規模要件(現時点の要件)に該当するかを確認
  • 任意加入の適用を検討するか方針決定

Step 2: 1人あたりの追加負担を概算する

  • その方の月額賃金(標準報酬月額の目安)をもとに、
  • 健康保険・厚生年金の「事業主負担分(概ね半分)」を月額で概算
  • 加入人数分を積み上げる
ここがポイント
よくある失敗は「106万円が撤廃されるなら影響は小さいはず」と見込んでしまうことです。実際には、訪問介護はシフトの都合で週20時間超が起きやすく、加入者が想定以上に増えることで、人件費が上振れします。

2026年の改正ポイントを介護事業所向けに比較表で整理

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観点2026年9月まで(現行ベース)2026年10月以降(予定)
賃金要件(106万円の壁)月額8.8万円以上が判定に影響賃金要件を撤廃予定
判定の中心週20時間+賃金要件+企業規模など週20時間がより中心に
企業規模要件該当する事業所で加入対象が広がる段階的縮小の方針(すぐ全面撤廃ではない)
介護事業所の影響106万円を意識した就業調整が起きやすい20時間を意識した就業調整に移りやすい
経営インパクト加入者増は限定的なケースも加入者が増えると事業主負担が増えやすい

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訪問介護事業所が今からやるべき実務対応(チェックリスト)

Step 1: 対象者リストを作る(週20時間の見える化)

  • 直近3か月のシフト実績で、週20時間を超えた週があるスタッフを抽出
  • 2026年10月以降のサービス計画(利用者増減)も加味して想定稼働を置く

Step 2: 労働契約・就業規則・賃金体系を点検する

  • 所定労働時間の定義が曖昧になっていないか
  • 訪問・移動・研修の時間管理が実態と整合しているか
  • 時給改定(処遇改善)と社保加入の関係を説明できるか

Step 3: 社内説明と「手取りの誤解」を潰す

社保加入でスタッフ側は保険料負担が増える一方、将来の年金や傷病手当金などのメリットもあります。現場では「手取りが減る」だけが先行しがちなので、

  • どの条件で加入になるのか(週20時間等)
  • 何が増えて何が守られるのか(給付・年金)
  • 扶養(130万円ライン等)との関係

を、短い資料で説明できる状態にしておくことが重要です。

Step 4: 収益計画に「事業主負担増」を織り込む

  • 加入者数の増加パターン(保守・標準・強気)でシミュレーション
  • 人件費上振れ時の対応(単価見直し、稼働配分、採用)を用意

税理士の現場感:訪問介護で起きやすい相談例(ケーススタディ)

当法人(税理士法人 辻総合会計)では、医療・介護事業者の顧問として、制度改正のたびに「採用」「定着」「人件費」の相談が集中します。よくあるのは次のようなパターンです。

  • パートヘルパーが増え、週20時間超の人が想定より多かった
  • 手取り減への不満から、シフト希望が減りサービス提供が不安定に
  • 人件費は増えたが、加算・単価・稼働設計が追いつかず利益が圧迫

制度変更そのものは避けられませんが、早めに「誰が対象になりそうか」を可視化し、説明と設計でリスクを小さくすることは可能です。

よくある質問

Q: 2026年10月以降、週20時間以上なら必ず社会保険に入りますか? ▼
賃金要件(106万円の壁)は撤廃予定ですが、短時間労働者の加入は週20時間だけで決まるわけではなく、企業規模要件など他の要素も関係します。事業所規模や適用事業所の区分を踏まえて個別判定が必要です。
Q: 訪問介護のパートが社保加入になると、手取りは必ず減りますか? ▼
保険料負担が発生するため、短期的に手取りが下がるケースはあります。一方で、健康保険の給付(傷病手当金など)や将来の年金(基礎年金+厚生年金)が増えるなどのメリットもあります。手取りだけでなく「保障」を含めて説明するのが重要です。
Q: いわゆる130万円の壁はどう関係しますか? ▼
配偶者の扶養に入っている方は、年収130万円以上になると(週20時間未満でも)扶養から外れて国民年金・国民健康保険の保険料が発生する場合があります。週20時間の社保加入とは別軸のため、両方を並行して確認する必要があります。
Q: 事業所が小規模でも、社保加入を進めるべきですか? ▼
採用・定着や人材確保の観点では「加入を歓迎する層」もいますが、事業主負担増による収益圧迫リスクもあります。加算取得状況、稼働計画、賃金設計とセットで判断するのが現実的です。

まとめ

  • 介護事業所では、2026年10月予定の賃金要件(106万円の壁)撤廃が短時間勤務の加入判定に影響する
  • 訪問介護はシフトで週20時間を跨ぎやすく、週20時間がより重要な管理指標になる
  • 加入者増は事業所の社会保険料の事業主負担増につながり、人件費計画の再設計が必要
  • 実務対応は「対象者リスト化→規程点検→説明資料→収益シミュレーション」の順で進めると事故が少ない
  • 扶養(130万円ライン)も別軸で影響が出るため、スタッフ属性ごとに整理する

参照ソース

  • 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html
  • 厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001633788.pdf

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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